©西村淳
韓国発のミュージカル『最後の事件』が2月・3月に東京・大阪にて上演される。アーサー・コナン・ドイルが1893年に発表した短編集『シャーロック・ホームズの回想』収録の「最後の事件」をモチーフに、アーサー・コナン・ドイルと、彼が生み出した名探偵シャーロック・ホームズが織りなす2人きりのミュージカル作品だ。
アーサー・コナン・ドイル役には加藤和樹、矢崎 広、高橋 颯、シャーロック・ホームズ役には渡辺大輔、太田基裕、糸川耀士郎が名を連ね、2人きりのミュージカルに挑む。脚本・作詞・演出を手掛けるソン・ジェジュンが、日本版でも引き続き演出を担当する。初日まで3週間を切った1月某日、通し稽古に向けて最終調整を行う稽古場を取材。全3ペアがワンシーンを披露した稽古の様子をお届けする。
稽古場レポート



ソン・ジェジュンが演出卓から見守る中、まずはドイル役の加藤和樹、ホームズ役の渡辺大輔のペアから公開稽古がスタート。休憩中から小道具を手に持ってセリフを確認していた加藤と、リラックスしながらホームズのコートを羽織り、ゆっくりと役に入っていた渡辺の対比が面白い。
2人が演じるのは、物語の序盤。ドイルが世界的名探偵、シャーロック・ホームズを生み出す瞬間だ。ドイルが思い描くホームズ像が完成すると、ひとりきりで歌っていた加藤の歌声に、渡辺の歌声も重なっていく。現実と小説の世界が交錯するファンタジックな設定だが、加藤と渡辺の空間を支配する力強い歌声が、その光景をどこか現実味のあるものとして立ち上げていく。
このシーンでの2人は、まるで親子のようで微笑ましい。加藤の全身からは最高の探偵を生み出せたことへの高揚感があふれ、そのワクワクしている様子に思わず頬が緩む。対するホームズは、生まれながらにして気難しく、高慢なところが見え隠れする。渡辺の風格も手伝って、このホームズはすでにいくつもの難事件を解いてきたような佇まいだ。
ここから続くホームズのキャラクター像をめぐるやりとりでは、名だたるミュージカル作品に名を連ねてきた2人の巧さが光り、その応酬に引き込まれる。見学開始数分にして、はやくも2人ミュージカルの魅力を全身で浴びることになった。



続くペアはドイル役の矢崎 広と、ホームズ役の太田基裕。準備中に軽く言葉を交わして談笑する様子からも、ここまで稽古がいい雰囲気で進んできたことがうかがえた。2人が披露したのは、ホームズが読者の人気者となり、ドイルが次々とヒット作を生み出すシーン。
今回見学した中で、一番、テンションの高さと勢いを求められるのがこのシーンだろう。矢崎と太田は、知的好奇心に駆り立てられるドイル像とホームズ像を立ち上げる。この2人なら次々と新たな物語を生み出していけそう、という勢いが観ていて心地よい。
瞬発力がものをいうコミカルなシーンでは、果敢に攻める2人の勇姿に、この日一番の笑いが起こった。見学していたキャスト陣はもちろん、ソン・ジェジュンも文字通り腹を抱えて笑っていたほど。シーン終わり、手応えを感じてニヤリと目を合わせた矢崎と太田の姿に、本番への期待が高まった。
ドイルとホームズの出会いから決別までを描く物語だと聞くとシリアスな印象を受けるが、この場面では思わず笑みがこぼれる瞬間も多い。演じるペアが変われば、このシーンもまったく異なる温度になるのだろう。その振れ幅の大きさこそが、本作の大きな見どころになりそうだ。



ラストはドイル役・高橋 颯とホームズ役・糸川耀士郎のペア。2人が披露したのは、ここまでの賑やかな展開とは打って変わり、ドイルとホームズが決別するシリアスなシーン。フレッシュかつエネルギッシュな2人によるセリフと歌の応酬は、年上組とはまた違った生々しさに溢れていた。
創造主であるドイルと、自身が生み出したホームズとの対立という構図が、鮮明に浮かび上がる一幕。戸惑いを内包した鬼気迫る感情の昂りを表現する高橋と、自らの存在を懸けて歌い上げる糸川の、火花を散らすようなハーモニーに、稽古場の空気が一気に張り詰める。しかし「ここまで」の声がかかると、2人の表情はふっと緩み、張りつめていた緊張が解けていった。見学していた先輩キャスト陣からも拍手が起こり、稽古場には再び温かな空気に包まれる。この場面からも、同じ役を演じるキャスト同士、互いの芝居に刺激を受け合いながら、日々、切磋琢磨していることが垣間見えた。
見学開始時、プロデューサーは「ミュージカル史に残る作品になる予感がしている」と語っていた。見学時間は短く、わずか3シーンを観たのみであるが、2人ミュージカルの可能性を肌で感じるには十分であった。限られた人数だからこそ、役者自身が持つ無数の表現の引き出しが掛け合わさり、ペアごとに全く違った色を見せてくれる。物語全編を通して観たときには、どんな印象の違いが受け取れるのか、よりいっそう楽しみになった。
ドイル役とホームズ役の組み合わせは全9パターン。6人の組み合わせによって生まれる変化、そしてドイルとホームズが迎える結末の答えは、劇場で確かめてみてほしい。
※高橋 颯の「高」は「はしごだか」が正式表記
取材・文/双海しお
撮影/西村淳
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