ブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』浦井健治・アヴちゃん インタビュー

1997年よりオフブロードウェイで上演され、2001年の映画化も含め一大ブームを巻き起こしたロックミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。その4度目となる日本公演が決定! ミュージカル、ストレートプレイと幅広く活躍する浦井健治が主人公のヘドウィグを、超個性派バンド・女王蜂のフロントマンであるアヴちゃんがそのパートナーで元ドラァグクイーンのイツァークを演じることでも注目を集めている本作。2人は初共演となるが、すでにお互いの舞台やライブを行き来しているそうで、取材でも息の合った様子が目を引いた。


浦井
「三上博史さん、山本耕史さん、森山未來くんに続いて僕が日本で4人目にヘドウィグを演じます。どの公演もそれぞれ個性が強かったけれど、このチームは最強のアヴちゃんがいますから心強いです。アヴちゃんはミュージシャンでありモデルとしても活躍されているので、一緒に撮影していてもポーズや表情のプロデュースが的確ですし、最高のタッグだと思います。『ゴースト』や『メタルマクベス』も見にきてくれて」

アヴちゃん「実は浦井さんを初めて観たのは映像なのですが、“セラミュ”(2001~2002年上演の舞台『美少女戦士セーラームーン』)なんです。セラミュが大好きだから、ご一緒するまでは、あの作品で演じた役(タキシード仮面/地場衛)のイメージが強かったです。王子様的なイメージの浦井さんがヘドウィグを演じるということでみなさん驚かれているのかもしれないけど、さらに私を連れてきてるっていうのが“鬼に金棒”感ありますよね(笑)」

浦井「アヴちゃんは一つひとつの発言がカッコいいんです。アヴちゃんと僕、そして演出の福山桜子さんとでどんな化学反応を起こせるのか、今からすごく楽しみなんです」


性転換手術の失敗によって股間に〝アングリーインチ(怒りの1インチ)〟が残ってしまったロックシンガー・ヘドウィグが、さまざまな出会いと別れを通して自らの存在意義を問い続ける同作。それぞれに同作との出会いを聞いてみた。

浦井「僕は(井上芳雄、山崎育三郎と)StarSというユニットを組んでいて、コンサートの時にスタッフの方の勧めで、この作品の「Midnight Radio」を歌わせていただいたんです。『ヘドウィグ~』の中でも一番メッセージ性が強いもので、知れば知るほど、その世界観に僕はとても刺激を受けたんです。今回その歌を作品で歌わせていただけることになったのが、すごく嬉しいんですよね。オリジナルのジョン・キャメロン・ミッチェル出演の『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』SPECIAL SHOW(2017年)も拝見しました。このキャラクターがもつ強烈な個性を自分なりに理解して、オリジナルへのリスペクトは忘れず、演じていけたらと思っています」

アヴちゃん「実は女王蜂でデビューしたころ「日本にもヘドウィグが現れた」みたいにいわれていたんですけど、当時は10代で若かったこともあってピンとこなかったんです。森山未來さんの公演(2012年)で初めてこの作品に触れて、すごくいろんなことを考えさせられたのと同時に、私もヘドウィグをやってみたい!という気持ちが芽生えたんです。だから今回イツァーク役でお呼ばれしたことで、やっとこの作品に関われるという嬉しさもあります。この作品には、「Midnight Radio」のほかにもいろんな楽曲があるんですけど、バンドでいうと1stアルバムや2ndアルバムのような、純粋にそのバンドのメッセージがギュッと凝縮されたような楽曲がそろっていて、だから胸に刺さるのかなと思います」


ミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』(2017年)には女王蜂のメンバーと共に出演したアヴちゃんだが、普段はアーティストとして活動している中で役者として活動することについてはどう感じているのだろうか。この質問から、2人の演劇論、役者論にまで話が飛び火して…!?

アヴちゃん「ちょっと感覚が違うかも。普段のライブではお客さんに横顔を見せたり背中を向けていてもそれはそれで私を表現しているということになるんですけど、舞台では客席から自分がどう見えているのか角度まで意識しなくちゃいけないようなところがあるじゃないですか。スマホにたとえるならライブは外カメラだけど舞台はインカメラ、だから自撮りしているみたいな感じ。両方の感覚がわかった今は、ステージの自分をドローンで見られる感じに進化してるかもしれない」

浦井「おお、それは的確な表現だね!(笑)」

アヴちゃん「『ロッキー・ホラー・ショー』に出たときは“毎日同じことをしないといけない”ことにも衝撃を受けたんです。ライブは毎公演100%を超えるというか、枠をはみ出してなんぼだし、最悪、最低といわれてもそれはそれで逆に面白い、みたいなところもある。『ジョジョ』にたとえるなら、ライブではいつも自分の体からスタンド(守護霊的な存在)がはみ出てる!くらいのテンションでやってきたんです。でもそういうマジックは、たくさんの公演がある舞台ではかけちゃいけないものなんだなと気づいて」

浦井「僕は基本的に舞台で演じることが多いので、同じことを繰り返していくことの方に慣れているんですよね。その中でよりよいものを目指して、キャスト、スタッフ一丸となって作っていく。お客様はその1回の公演を楽しみに待っていてくださるわけだから、初日から結果を出さなきゃいけないというのは当たり前として、初日から千秋楽に向けてだんだん変化したり深化していくところも、演劇の一つの醍醐味だと思います。そう考えるとアヴちゃんの視点は僕にとっては目から鱗の感覚ですね。一回ごとの公演にすべてをかけているからこその攻撃性と、そんな刹那の中で生きているんだなって感じました。時間の流れが違うのかもしれませんね」

アヴちゃん「ホントに! 昔は毎回のライブで物騒な言い方ですけど焼身自殺するみたいな、すべてを燃やしきる熱量でやってきたんです。そんな自分からすると、この『ヘドウィグ~』はその感覚で向き合っていきたいものの一つではあると思います」

浦井「(演出の)福山さんは海外でも活躍されている方なので、今までにない、違う風を運んでくれそうですし、自分の役者人生の中でもこの作品の取り合わせは本当に異色なんです。でもこの物語のテーマ自体が枠に捉われていない内容の話ですから。ミュージカルとかストレートプレイ、アーティストも役者も関係なく、ちゃんとお客様に対して向き合い、魂を燃やして板の上に立てているかどうかというのが大切なんだと思います。そういう部分では、この『ヘドウィグ~』がこれからの自分の突破口になる作品になるんじゃないかという期待はあります」

アヴちゃん「『ロッキー~』でコロンビアを演じたときに思ったんですけど、演じる=playって感覚は一生わかんないかもって。どんなキャラクターにも感情移入できる部分があるし、気持ちがわかってしまったら、それはそれで私になる、みたいなところがあるので。役に取り憑かれてしまうし、公演が終わっても抜けてくれなかったんですよ。だから浦井さんに聞きたいんですけど、演じた役をどう“お焚き上げ”してるんですか?」

浦井「演じた役の“お焚き上げ”はできなくて、結局、残るんだと思う。これまでにいろんな役をやらせていただいたけど、どの役も自分の中に残っているし、だから再演になるとすぐ、役の心情、仕草やクセ、見ていた景色も蘇ってくる。演出家の方からの言葉も振り返ることができるんですよね。だから、お焚き上げは絶対無理。台詞はなぜかどんどん忘れるんだけど(笑)」

アヴちゃん「良かった。私一人じゃなかった! 音楽と舞台で違うところといえば“世界観”ですよね。音楽は私にとっては生活だから、何かコンセプトを考えて作るような世界観というのは自分にはないものですね。いろんな意味で舞台は新鮮。でも一番びっくりするのは、舞台は終わりがあるってことですよね。あんなに仲良かったのに、もう集まらないの?って思っちゃう。バンドはずっと終わらない千秋楽みたいなものだから」


そんな話で盛り上がる中、気になるのは福山の演出。『ヘドウィグ~』日本公演では毎回演出家も異なり、さまざまな切り口でこの物語が上演されている。『ミュージカル黒執事 – 千の魂と堕ちた死神 -』(2010年)といった舞台や映像の仕事もこなす福山についても少し聞いてみた。

アヴちゃん「こないだ『Fate/ Grand Order THE STAGE~絶対魔獣戦線バビロニア』を観せていただいたんですけど、登場キャストの皆さんが誰も置き去りにされていなくて、全員の瞳の中にちゃんと“星”が入っていたんですよ。桜子さんの作品ではアンサンブルの方々にも1人ずつ役名があって、みんな目がキラキラしてたのがすごくよくて」

浦井「それは素晴らしいね。僕もワークショップは受けましたが、演出を付けていただくのは今作がはじめましてなんです。その時の第一印象は、優しくて、気配りのある方だなと感じました。それは実はアヴちゃんにも同じものを感じるんです。人を大切にする、だから人にも厳しい。さらに自分に厳しい、というイメージかな」

アヴちゃん「キャラクター的な印象でいえば、不良ともめっちゃ仲のいい先生みたいな。図書館で勉強してるような子とも仲がいいし、屋上でタバコ吸ってる子と一緒にタバコ吸っちゃうような、この人は裏切らないなというイメージです。ワークショップが役者さんにもすごく人気があって、内容は企業秘密だとおっしゃっていたので言えないんですけど、とにかく楽しいんですよね。「役を生きる」ということをよくおっしゃるんですけど、まずは役で遊んでみよう、みたいな感じでね」


『ヘドウィグ~』といえば奇抜なビジュアルやグラマラスな楽曲のイメージが先行してしまいがちだが、登場人物たちが自らの居場所を求めてもがく姿が幾多の観客に勇気を与えたハートフルな物語でもある。2人はどのように同作の世界を受け止めているのだろうか。

浦井「ヘドウィグが〝心の旅〟を通して人として成長していく姿に、僕自身学ぶものが多かったと思います。ヘドウィグが傷つき続けた先に何を思うのか。すごく切ないけれど、希望が見えるような作品だと思います」

アヴちゃん「登場人物みんな失恋するしね。 だから『ヘドウィグ~』が好きな人は “心の旅”をしていたい、年齢関係なく人生の思春期を生きている人が多いのかなって。すごくセンシティブな世界だと思うんです。たまたまかもしれないけど、女王蜂としても(テーマ曲を提供したアニメ)『東京喰種:re』や『どろろ』とか、主人公が自らの半身を探して“心の旅”をするような作品に関わる機会が多いんです」

浦井「女王蜂はすごくかっこいいので、僕もいちファンとして好きです。歌詞の世界観が素晴らしい。それこそさっき出てきた「HALF」(アニメ『東京喰種:re』エンディングテーマ)の持つメッセージ性とかは、この『ヘドウィグ~』とリンクする感じもあります」

アヴちゃん「ありがとうございます。手術に失敗したヘドウィグが、自分の本当に愛した人から精神的な面を含めてすべてを身ぐるみはがされて、それでもその人を追いかけて…みたいな流れですけど、想像するだけでもう地獄ですよね。気持ちが痛いほどわかる部分があるのと同時に、今の時代においてこういう手術の話だったりジェンダー観は、異色のフィクションじゃなくなってきたとも思うんです。ある種のクラシックであるこの作品を2019年の今、私たちが桜子さんの演出でやることで、観てくれる方にどう響くのかな?というのが気になっているんですよね。10代、20代の子が観て「なんかいいじゃん!」と思うのか、それとも前時代的に感じるのか。今の時代にやることはハイリスクであり、ハイリターンな試みでもあるのかもと。だからこそ、10代や20代の子たちにも観てもらいたいな。もちろん長く愛されている作品ですし、ずっと応援してくれている方々に観に来ていただけることもすごくありがたいです」

浦井「そうだね。僕もたとえばシェイクスピア作品を演じるにしても、今の日本で公演される意味を考え、更にお客さまには何を提示できるのか?ということを、いつも意識しながら演じています。今回の公演に関しては、10代の人たちに近い目線でメッセージを伝えることができるアヴちゃんのパワーは大きいと思います。ミュージカルやライブといったカテゴリを超えて、この作品の持つ世界を表現していける力があると思うので。」

アヴちゃん「いつもと違うお互いになれたら面白いですよね」

浦井「そうだね。今僕らがこの作品を演じる意味を、楽しみながら掴んでいきたいと思います」

 

取材・文/古知屋ジュン
Photo/廣田美緒

 

◎PROFILE

■浦井健治
1981年8月6日、東京都出身。2000年『仮面ライダークウガ』で俳優デビュー。2004年 にミュージカル『エリザベート』ルドルフ皇太子役に抜擢される。以降、ミュージカル、ストレートプレイ、映像作品と幅広いジャンルの作品に出演。第22回読売演劇大賞最優秀男優賞(2015年)、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞(2017年)など数々の受賞歴を持つ。 2016年には1stアルバム「Wonderland」を発売し、ソロとして初コンサートを東京国際フォーラム・ホールAで行うなど、多彩な活動を展開している。 4月9日より開幕のミュージカル『笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-』(グウィンプレン役)など出演作も多数控えている。


■アヴちゃん(女王蜂)
2009年にバンド・女王蜂を結成。ボーカルや作詞作曲を担当する。2011年にメジャーデビューし、独創的かつ衝撃的なパフォーマンスが多方面で話題に。2017年にはバンドメンバーとともにミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』にも出演。アニメ『東京喰種:re』(2018年)エンディング曲「HALF」など、さまざまな映像作品に楽曲が起用されており、最近ではアニメ『どろろ』のオープニングで最新シングル「火炎」がオンエアされた。