ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』2019 吉柳咲良 インタビュー

今年も『ピーターパン』の夏がやってくる!1981年の日本初演以来、世代を超えて愛され続けているミュージカルの名作。海外でも注目を浴びる気鋭演出家・藤田俊太郎のもと、3度目となるタイトルロールに挑むのは、10代目ピーターパンの吉柳咲良だ。少年らしい躍動感と圧倒的な存在感で観客を魅了する吉柳に、本作にかける意気込みを聞いた。


――歴代最年少タイ13歳でピーターパン役に抜擢された吉柳さん。初回、前回を経てどんなことを感じていますか。

吉柳「1年目は初めてのことばかりで緊張も不安も大きかったのですが、2年目はピーターパンを演じること、座長であることの重さをより感じるようになりました。長い歴史のある作品だけに、その魅力をちゃんと伝えなければいけないなと思っています。ピーターパンの存在自体が舞台を動かしていくので、今回は私自身がカンパニーの皆さんにもっと安心感を持ってもらえるよう、周りを引っ張っていけるようになれたらと思っています」


――吉柳さんが思う、ピーターパンはどんな男の子でしょうか。

吉柳「最初は無邪気な子どもだなと思っていたのですが、2年目に演じた時、実は大人っぽいところがあったり、私が考えていた以上に複雑な子、たんなる子どもではない気がしたんです。そういうキャラクターの深さをもっと理解したいですね。それによって台詞の言い方も変わってくるはずなので」


――初めてピーターを演じてから現在14歳になって、自分が大人になったなと感じるところもあるのでは?

吉柳「精神的に前より強くなったかなとは思います。1年目は何かができないと嫌になってしまって、泣いてしまったこともありましたが今はこの台詞はこうしてみようとか欲が出てきて、自分の考えを出せるようにもなりました。でもまだ子どもの部分が多いですし、負けず嫌いなのはずっと変わらないですね(笑)」――ピーターパンのように子供のままでいたいと思うことは?

吉柳「どうなんでしょう……そう感じる時もあれば、大人になりたいと思うこともあって。ただ1年目はピーターパンの視点でしか物語を捉えていなかったのが、去年はウェンディの考え方がわかるようになった自分がいました。ピーターパンは子どものまま成長し続けるけれど、ウェンディは成長して大人になっていくんですよね。さらに成長しきれないフック船長がいるという関係性がすごく深いなと。それぞれの成長の仕方、どうやって育てられたかがきっと関係していると思いますし。そういえばこの間『ピーターパン』の話をしていた時に、母が「子育てってなんだろう」と言い出して、正解はないよねという話になったんです。そんな風に母と話ができたり、いろいろな角度から作品を見て、考えたりするようになったところは、ちょっと成長したからかもしれません」


――演出の藤田俊太郎さんから言われたことで、心に残っていることがあれば教えてください。

吉柳「舞台上に立っている間はほんの一瞬でも役から心が離れると、お客さんも離れていってしまうから、ピーターパンでいることを絶対に忘れないで、という言葉をいつも心に留めています。フライング中は位置を確かめないと危なかったり、ドライアイスで下が見えにくかったりするので、我に返ってしまいがちなのですが、そこは感覚で覚えようと心がけています」


――一方でフライングのシーンで客席で子どもたちが目を輝かせている姿を見ると、気持ちが開放されるところもあるのでは?

吉柳「それはもちろん。ピーターパンに対する憧れの視線が嬉しくて、エネルギーをもらいますし、戦っているシーンで“がんばれー!”と声が聞こえてくると、負けちゃいけないという気持ちになります。でも毒を飲んで死にそうになったティンカーベルを助けるために、客席に呼びかけて拍手をもらうシーンはいつも難しいです。“拍手で妖精が生き返るの?”と思っている子もいるだろうし、“がんばれ!”という気持ちを出せずにぐっと堪えている子もいて。その日の空気を察知して、どんなふうに伝えたら、みんなの気持ちが前に出るかなと考えます。でもそうやって客席の空気も、声も直に感じられるのが舞台の良さだと思うんです。涙を流している親御さんがいたり、毎回発見があります」


――ちなみに素顔の吉良さんは、どんな女の子なのでしょう?

吉柳「結構ピーターぽいかもしれないです。舞台を観に来てくれた友達に、普段とあまり変わりないんじゃない、と言われたりするので(笑)。私、女の子らしさ、というのがよくわからないんですよ。ピーターパンと出会ってから私服にスカートがなくなりましたし。、常にピーターパンのことをどこかで考えている感じなんです。何よりお芝居している間は、弾けることができるのが楽しくて。ピーターパン役も3度目になり、少しは自信がついた気がします。物事をはっきり言えるところとか、こうなりたいと思う、自分にとっても憧れの存在であるピーターパンをもっと深めて演じられるように頑張ります!」

 

取材・文/宇田夏苗
撮影/渡部孝弘