小西遼生 インタビュー|ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』

毎年夏に上演されているミュージカル『ピーターパン』が、日本上演40周年を迎える。大人にならない永遠の少年ピーターパンの、夢と冒険に満ち溢れた物語だ。美しい音楽、感動のストーリー、ビッグフライング……たくさんのワクワクが詰まっている特別なミュージカルに、子供たちは心躍らせ、大人たちは子供に帰る。2020年の中止を経て、2021年は、森新太郎の新演出で大リニューアルする。ピーターパンは4回目の出演となる吉柳咲良が、フック船長とダーリング氏は新たに小西遼生が演じる。

稽古が進むなか、小西に話を聞いた。ミュージカル、ストレートプレイを問わず、さまざまな舞台作品に出演してきた小西は、「日本中の演劇で最も楽しくて、幸せな作品なんじゃないかとさえ思う」という。この作品が持つそもそもの魅力や、森が描く今回の演出ならではの新しさ、そして、間抜けでチャーミングなフック船長をどんな思いで演じようとしているのかなど、終始楽しそうに話してくれた。

 

――出演したいと思った理由をお聞かせください。

以前から子供も観ることができる舞台に、ある種の憧れがあったんです。子供が喜ぶことって、この世の中で一番尊いことなんじゃないかと思う。もちろん大人に非日常を楽しんでもらうのがことも、このお仕事の役目ですが、子供たちって瞬間に得たものから大きな影響を受けるじゃないですか。舞台芸術の感動を、小さい子に観てもらいたいなと思うことがよくあるんですが、『ピーターパン』は日本で上演している演劇のなかでも、子供も観ることができる舞台という意味では、最高の作品のひとつだと思います。ディズニー作品のイメージが強いと思いますが、サー・ジェームズ・M・バリさんが書いている戯曲は素晴らしくよく書かれた作品なので、ディズニーで観たものとはまた違った、いろんな感動を与えられる作品を、ちゃんと子供にも味わってもらいたいということが大きな理由の一つです。

 

――オファーを受けた時に、ご自身では驚きはありましたか?

やる!やる!やったぁ!という感じでした(笑)。どんな作品でもそうですが、自分にこれが来るの?と思うことはなくて、こういう役もやれるんだ、こういう作品ができるんだ、という喜びのほうが大きいですね。

 

――いま取り組んでいるなかで、気持ちの変化などはありますか?

取り組みはじめてから、もちろん役や作品について勉強していますが、その中で原作者のバリさん自身のことにかなり興味を持ちました。この作品をどういう思いで作られたのか、どういうきっかけでこの作品が生まれたのかを見ていくと、そもそもは1900年頭のクリスマスシーズンに定番の児童劇に初めて挑戦した作品だったそうです。でも実際にその時代に劇場に観に来る人たちは、裕福な大人や批評家たちがほとんど。日本では子供も観ることができるミュージカルのイメージが強いですが、実際は大人たちが子供に帰ることができた作品だと思うんです。子供は純粋に、劇の上で起こることにワクワクしたり、ハラハラドキドキしたり、無条件で楽しめますが、一番驚いたのは実は大人なんですよね。バリさんは、その時点で間違いのない戯曲を書くと認知されていた人で、劇場にはたくさんの人が足を運ぶ有名な方でしたが、普段の出資者の人たちに戯曲を見せた時に、みんな引いてしまったんですよ。これはちょっと無理だろう、無茶苦茶すぎるだろうと。けれど、バリの親友的な出資者が、彼の書くものに対しては何の疑いもなく資金を出すと。実際に幕が開いてみたら、疑いを持っていた人たちもみんな、口が開いてしまうくらいに驚いたそうです。子供が楽しめることを前面に押し出していますが、正確には大人も子供も驚ける作品で、作品としての完成度がめちゃくちゃ高い、奇跡のような戯曲なんだと知りました。

 

――それは稽古してわかったことなんですか?

稽古でやってみたことと、勉強したこと、両方ですね。今回、森さんはすごくシンプルな演劇を作ろうとしていて、映像なども使わずに、役者とスタッフの力と想像力に任される舞台になっています。その中で僕らみんなに対して求められるエネルギー量がものすごく高いんです。これが上手くいったときには、日本中の演劇で最も楽しくて、幸せな作品なんじゃないかと思いながら取り組んでいます。

 

――稽古していて、ご自身の手応えはいかがですか?

日本で上演された『ピーターパン』を僕は一度しか拝見していないのですが、フック船長は毎回格好良いキャラクター性が多かったそうですね。格好良すぎて滑稽だったりしたのかな?今回のフックはまったくそういった要素はないかも(笑)。

 

――格好いい要素ゼロですか?

基本的に、間抜けでお馬鹿で、ある意味チャーミングなフック船長ですね。それは森さんの要望でもありましたし、僕自身も本を読んだ時点で、このキャラクターはそっちだろうなと感じたので、それを楽しみながら思いっきり真剣にふざけていますね。

 

――小西さんは、普段の役では格好いい要素を求められることが多いと思いますが、新しいですか?

そうかもですね。やる方としては、これくらいエネルギッシュな役はやっていて面白いです。もちろん、僕だけではなく、ピーターパンも、ネバーランドに出てくる登場人物は皆子供らしくエネルギッシュで、全力で“ごっこ遊び”をしている感じです。マスクをして、全力でアクションシーンの稽古を何度もしていたら、気を失いそうな時もありました(笑)。

 

――ピーターパン役の吉柳さんとのお芝居はいかがですか?

バッチリ噛み合っていると思います。咲良は4回目のピーターパンですが、今の咲良が一番輝いているんじゃないかと思うほどキラキラしていて。とにかく、ピーターパンを演じているときも、普段も、とても魅力的。ピーターパンは、すごくやんちゃな少年ですが、咲良自身もすごくエネルギッシュでやんちゃな部分もあれば、考え込んで、悩んで、噛み砕いてやるタイプでもあって。パーンと弾けた明るい部分と、ふとしたときに目の奥が深めな部分と、その陰影が彼女のピーターパンに魅力を与えているんじゃないかなと。今まで「吉柳咲良が演じていたピーターパン」というものがあったとしたら、今回は「本物のピーターパンだ」と思ってもらえると思います。

 

――他の共演者の方で、注目の方はいらっしゃいますか?

皆素敵だけど、ウェンディ役の(美山)加恋ちゃんもすごく面白いです。舞台に出てきた瞬間から「子供だな!」という感じですね。子役の子もいるなかで、加恋ちゃんが飛び抜けてぶっ飛んでいるときがあります(笑)。子供と大人というのは、ある種すごく大事な要素で、僕が演じるお父さんのダーリング氏が大人代表だとすると、子供のエネルギーと残酷性みたいな部分など、いろんな要素をピーターを始めとした子供たちが見せてくれます。これまでは迷子たちを大人の俳優が演じることが多かったそうですが、今回は等身大の若い子たちが多い。咲良もまだ17歳だし、エネルギーにリアリティを感じます。そして、我らが海賊も皆魅力的ですね。それぞれのキャラクターに具体的な個性があるので、それを演じている俳優たちも個性的で、海賊が出てくるシーンはきっとワクワクすると思いますよ。僕がそのリーダーですが、後ろにみんながいてくれると、シーンが華やぐというか。とても頼もしいメンバーです。

 

――チーム戦のような感じでしょうか?

そうですね。スミーを演じている駒ちゃん(駒井健介)も面白い!フックとスミーは、ニコイチの漫才師みたいな関係性で、お互いにアイデアを出し合いながら、一緒に楽しんでつくっています。

 

――森さんの演出を初めて受けてみていかがですか?

大好きな演出家ですね!僕は戯曲を大切にされる方が好きです。まあ演出家はみんなそうだと思いますが、森さんは、この上演台本を、この言葉を、どうやったらお客さんに楽しんでもらえるか、届けられるか、かなり細かく追求してくれる方です。ここのセリフ回しをもっとこうしたいという話になると、正解が出るまで諦めないで繰り返し稽古するし。誰かの何かの台詞だったり、エネルギーだったり、それが全体のなかで何か違っていたりすると、見逃さずに修正してくれるというか。導いてくれる感じがすごいです。

 

――森さんの反応など、何か印象的なことはありますか?

森さんの中での正解が出た時に、すごく嬉しそうな顔をするんです。最近はもうその顔が見たくてやっていますね(笑)。見たかったものが見れた瞬間に誰よりも笑っているし、誰よりもテンションが上がっていて、本当に心がある演出家だなと思います。

 

――森さんから小西さんの印象について何か伺っていますか?

これまで二枚目系の役が多かったからか、スッとしているイメージかと思っていたそうですが、合った瞬間に全然違ったそうで(笑)。ある程度任せてくれるところが多いです。

 

――森さんにとっていい方向に違ったんでしょうね。

初めてお会いした時からフック船長という役は、お馬鹿でチャーミングな役にしたいとおっしゃっていました。とにかく格好良くはしたくないんだと、僕に会う前から衣裳さんやメイクさんにも伝えていたようで。先日驚いたことがあったのですが、前任者が使っていた “カギ手”をあるシーンで小道具として使っていて、それがものすごく立派だったんですよ。僕のは黒い筒にカギがついてるだけなのに。「これ何ですか!?」って聞いてみたら、「小西には立派なものは用意しないで」と森さんが言っていたらしく(笑)。

 

――製作発表で、「衣装の飾りがどんどん無くなっていった」という話をされていましたが、“カギ手”にもレベルがあるんですね!?

僕が演じるとどうしても格好良くなってしまうからと言っていたそうですが、実際に稽古をしてみたらそうでもなかったようで(笑)。勿論、今回演じるキャラクター像としては、今用意してもらっているものがとてもやりやすいんですけど、あの立派なカギも一度でいいからつけてみたい!!(笑)。

 

――作品的にも、小西さんご自身としても、新しいものが見れるということですね。

そうですね。カンパニー一同、森さんに対して絶大な信頼を持っていますし、森さんの先導で作っているこの作品が間違いなくいいものになっている確信があります。

 

――音楽についても伺いたいのですが、楽曲の魅力をどう感じていますか?

まず、ピーターパンが歌う曲は、どの曲も聴いていてワクワクするし、キャラクターの心情を感じやすい楽曲です。フックが歌う曲は、七つの海を股に掛ける海賊といった感じで色々な国の音楽が使われています。タンゴ、ワルツ、タランテラと、バリエーション豊かな楽曲で、音楽を愛する海賊なんだなと感じられることが出来ます。さらに今回は東京公演のみ生のオーケストラでの上演になるので、それも今回の大きな見所の一つですね。

 

――歌っていていかがですか?

歌うというよりは、喋りの延長線上のものが多いですね。とてもクラシックであり、耳馴染みの良い曲が多いので、スッと入って来やすいと思います。リズムに乗りやすいというか、誰でもすぐに心が踊るような感じがして、万人が楽しめると思います。

 

――最後にメッセージをお願いします。

40周年にして、また新たな『ピーターパン』が誕生します。空を飛ぶという夢や、ネバーランドという子供しか覗くことの出来ない世界が、舞台上に広がっていくワクワク感は、子供が観ても大人が観ても面白いものになるに違いありません。そしてご家族で観て頂ける作品はなかなか日本にはないので、たくさんの方に観ていただき、特別な思い出を持ち帰って頂きたいです。是非劇場にお越しくださいませ。

 

インタビュー・文/岩村美佳