“I can draw a circle. You lived your life inside.”
ここが私たちの家、そしてここがあなたが死んだ場所。
地図の中、丸で囲える範囲での生活。あなたの人生はこの円の中にあったんだね。
この曲には、大アリソンの父に対する哀れみ、同情、そんなものが隠されているように感じます。小さな世界で生きた、父の人生に思いをはせる、瀬奈じゅん演じる大アリソンのソロナンバーです。
この曲の前には、こんなシーンがあります。
ある日、小アリソンは、クラスで発表する、地図のような絵の課題を父に見せ相談します。父は小アリソンの絵の上手さに感心し、「君には本当のアーティストになれる才能がある!」と喜びます。美しいもの、文化的なものをこよなく愛する父は、アリソンに芸術家になってほしかったのでしょう。
しかし、小アリソンは漫画が好きでした。そのため、才能はあるのに漫画のような小アリソンの絵の描き方は好きになれず、父は言うことを聞かない小アリソンに次第に癇癪をぶつけていきます。
どんな少人数でも、人前で発表することは父にとってなによりも恐ろしいことだったに違いありません。それは人前に出るのが嫌なのでなく、人にどう思われるかを常に考えていたからです。そのため、人に見せるものなら、小学生の課題だろうが何だろうが、完璧でなくてはなりませんでした。
それはきっと、父が、ゲイであることによって、周囲の人々にどのように思われているかを常に気にしながら生きてきたからだと思います。父は人一倍怖がりで、人一倍強がりだったからこそ、母と結婚し、子を持ったのではないでしょうか。
このシーンの後、父とのごく短い暖かな瞬間を象徴する優しいハミングから曲は始まります。父に教わったものを思い出し、同じように口ずさむ大アリソン。まるで地図をなぞるように、絵に描かれた故郷の風景を歌っていきます。客観的な歌詞でありながらも、その歌声は強く、優しく、大人になったからこその温かさに満ちています。
43歳、レズビアン、漫画家。そんな大アリソンを今回演じるのは元宝塚トップスターの瀬奈じゅん。非常に優れたダンサーとして知られる彼女ですが、今回はそのダンスを封じ、歌声を武器に、この複雑な役に挑みます。
※子供時代のアリソン=小アリソン、大学時代のアリソン=中アリソン、大人のアリソン=大アリソン
文/ローチケ演劇部員(有)