ドラマ化、映画化、共に大ヒットを記録した浅田次郎のベストセラー小説を原作とした『壬生義士伝』、そして、「音楽」の起源から今日に至るまでの発展をテーマに、「音楽」の持つ美しさと素晴らしさをダイナミックにお届けするショー作品『Music Revolution!』の制作発表会の模様をお届けします!
制作発表会ではまず、望海風斗、真彩希帆、彩風咲奈によるパフォーマンスが披露された。
『壬生義士伝』は近藤勇、土方歳三、斎藤一、沖田総司といった新選組の名だたる隊士が一目おいた田舎侍・吉村貫一郎を主人公に、新たな視点で描かれた新選組の物語。
朴訥な人柄でありながらも北辰一刀流免許皆伝の腕前を持つ南部藩の下級武士・吉村貫一郎(望海風斗)は、貧困にあえぐ家族を救う為、妻・しづ(真彩希帆)を残して脱藩。新選組隊士となり、金の為、ひいては盛岡に残る妻子の為に、危険な任務も厭わず、人を斬り続ける。
鳥羽伏見の戦いで敗走し、隊士達が散り散りとなる中、深手を負った貫一郎は故郷への帰藩を請うべく大坂の南部藩蔵屋敷へと向かう。しかし、そこにいたのは、出世し蔵屋敷差配役となった竹馬の友・大野次郎右衛門(彩風咲奈)だった…。
武士の義、家族愛、男同士の友情という数々の人間ドラマが凝縮された傑作の舞台化に、望海率いる雪組が挑む。
■浅田次郎
『壬生義士伝』は今から20年前に週刊文春で連載を始めた小説でございます。こんなに長くする予定はなかったんですが、思いがけず好評だったものですから、もうちょっと長く書こうと。自分でもそう思いましたし、要望もありまして、一年半という長期に渡る連載をした結果、400字詰め原稿用紙で1,200枚という上下巻の長い長い話になってしまいました。この長さに今回は石田先生が一番お困りなのではと思います。映像化や舞台化をする時には制限時間というものが間違いなくありますので、どこを削ってどこを脚色したらこの物語になるのか、それは相当な高等技術であろうと思います。以前、『壬生義士伝』が映画化されました時にメガホンをお取りになった滝田洋二郎監督も同じように「『鉄道員(ぽっぽや)』は50枚の小説で2時間だけれども、自分は1,200枚の小説を2時間で撮らなければならない。」と仰っていました。書く時にはそこまで考えていないので、大変ご迷惑をおかけしてしまったのですが、一方で舞台化を大変楽しみにしております。私はこの小説に「日本人の魂」を込めたつもりでおります。出来ればまた、より多くの、世代を超えた方々に読んで頂き、何か感じて頂くところがあれば、と思っております。
―以前、宙組公演として上演された『王妃の館』と『壬生義士伝』には意外な繋がりが。
『王妃の館』に引き続き、宝塚で舞台化して頂くのは二度目になるんですけれども、『王妃の館』は『壬生義士伝』とは全然味の違うコミカルな喜劇なんです。『壬生義士伝』は時代劇ですし、大変シリアスな作品なんですけれども、確か私の記憶に間違いがなければこの2作品は同時期に書いてるんですよ。片方が週刊誌連載、片方が月刊誌連載で連載時期がかぶっているわけです。大概私は、三つか四つは連載をずっと続けておりますので、どれとどれがかぶっている、というのは、そんなに記憶が定かではないのですが、この2作品に関しては多分間違いないです。というのは『壬生義士伝』の一部をパリで書いていた記憶があるんですよ。『王妃の館』の取材に行っている間に、週刊誌の〆切が来ちゃうんです。だから書かざるを得なくなる。『王妃の館』の舞台になったホテル「パヴィヨン・ドゥ・ラ・レーヌ」にずっと泊まっていたんですけれども、そこに『壬生義士伝』の資料を持ち込んで原稿を書いていたという記憶があります。無理なようなんですけれども、実は同時連載するときは、違うパターンの小説の方が絶対書きやすいんですよ。今、同じテイストの時代劇を二つやっちゃってるんですけれども、これは難しいんです。かぶっちゃうんですよ。書いていて文章もかぶるし気持ちもかぶる。それだったら『壬生義士伝』を書き終わった後、知らん顔して『王妃の館』を書くっていう方が切り替えられるんですよね。まあそのような記憶がありまして、同時に書いた形の違う小説を、不思議なことに20年後、宝塚で上演して頂くというのは…あの頃の自分、良かったのかなぁ…というような気もしますけれども。そんなエピソードがございます。
■石田昌也(『壬生義士伝』脚本・演出)
浅田先生にご心配頂きましたが、心配事は沢山ありまして。今回は宝塚のトップスターが比較的名もない下級武士ということで、真ん中にはどうしても土方歳三や近藤勇、沖田総司が来てしまうので、舞台のセンターにも中々来られないし、ダンスをすると3列目の一番端にトップスターが来てしまうという難しい所がございます。望海が演じる吉村貫一郎という役は浅田先生の小説では盛岡で家族と別れた後、実は一度も会わずに死んでしまう役でございます。なので、トップコンビのラブシーンは一回逃してしまうと、後はフィナーレの天国でしかありえない状況なんですけれども、今回は宝塚で上演するところもございますので、回想の中や夢の中に登場することで、東北にいる奥さん(真彩希帆)と、京都・大坂にいる旦那さん(望海風斗)が同じカメラの中に収まるという形になっております。浅田先生は『鉄道員(ぽっぽや)』が映画化された時、ご自身の作品でストーリーが分かっているはずなのに、高倉健さんや大竹しのぶさんの演技を観てぼろぼろ泣いてしまったと仰っていましたので、今回の宝塚版『壬生義士伝』も、歌と踊り、生徒達の熱い演技で、結末が分かっていてもぼろぼろと泣いて頂けるような作品を作れたらと思っております。
―これまでの新選組作品と『壬生義士伝』の違いとは
宝塚の時代劇は、天草四郎や織田信長といった割とスッとした二枚目をトップスターが演じることが多いのですが、今回はちょっと汗の匂いがする「市井の人」と言いますか、宝塚のトップスターとしては非常に珍しく「スーパーウルトラヒーロー」ではありません。本当だったら宝塚では、信長や天草四郎、沖田総司といった2.5次元に近い人物の方が、お客様は喜ばれるのかなとは思うんですけれども、浅田先生の作品の人物は、生身の汗の匂いがする、筋肉の匂いのする人間。しかも殿様でもなく、キングでもクイーンでもなく、市井の人。そこに、浅田先生らしい新選組の見方があると思います。新選組は会津藩の「お預かり」で「お抱え」ではありませんでした。「お預かり」というのは今で言う「派遣社員」、「お抱え」というのは「正社員」に近いものです。ちょっと言葉は良くないですけれども、新選組は当時の警察機構と言いながらも、キャリア組ではない、ノンキャリアの人々が集まった集団でした。歴史的に見ると新選組には様々な捉え方がありますが、宝塚は歴史の教科書云々ではなく、ラブロマンスの世界で、あくまでもエンターテイメントなので、チラリとそういう面を見せながら、男同士の友情と男女の愛を描けたらと思っております。
■中村一徳(『Music Revolution!』作・演出)
前回の大劇場公演『ファントム』に続き、雪組さんにご縁を頂きました。今日出席している望海さん・真彩さん・彩風さんはもちろん、雪組はお芝居も歌も踊りも、全てが充実しておりまして、直近の東急シアターオーブ公演(『20世紀号に乗って』)や宝塚バウホール公演(『PR×PRince』)でも、また新たな雪組の魅力・充実感を拝見致しました。今回のショーのタイトルは『Music Revolution!』ですけれども、歴史に出て来るような重い革命、重いテーマではありません。革命のように新しい時代を切り開いていくことと、今の雪組が新たに進化していく姿を上手くリンクさせていきたいなと思っております。それぞれの音楽の成り立ち自体に、革命の苦しさであったり、革命が成功した時の喜びであったり、反対に文化の融合であったり、色んな喜びや葛藤、エネルギーがあると思いますので、そのあたりも絡めて、雪組の魅力を発揮できる作品にしたいと思っております。残念ながらまだショーのお稽古は始まっておりませんが、今日の制作発表の三人の芝居や歌を聴いていると、明日からでも舞台に立てそうな勢いなので、ショーの方もそれに負けずにお稽古を重ねていきたいと思います。
■望海風斗
お芝居『壬生義士伝』では吉村貫一郎を演じさせて頂きます。浅田先生のお書きになられた、涙なしでは読めない小説。この作品の上演が発表された際、皆様から大変大きな反響を頂き、小説のファンの方が沢山いらっしゃることを実感しました。この素晴らしい作品に今の雪組が挑戦させて頂けるということを大変嬉しく思っております。演出の石田先生とは、昨年春に『誠の群像』という、これもまた新選組を題材とした作品でご一緒させて頂いておりましたが、今回はその時とはまた違った角度で見る新選組の姿、武士として、そして人としての生き様、命の大切さ、そういったものを皆様にお届け出来たらいいなと思っております。また、お芝居を作っていくのともう一つ、先程、パフォーマンスでも少し喋らせて頂きましたが、南部弁をいかに自然に喋るか、そしてそれが全てお客様にきちんと届くか、ということも考えながら、お稽古していきたいと思っております。
そしてショー『Music Revolution!』。演出の中村先生には、前回公演の『ファントム』でお世話になっておりますので、今の雪組の生徒のことは中村先生が一番知り尽くして下さっているんではないか、ということで、安心して先生にお任せしまして、音楽の力を借りて、今の雪組の勢いを皆様にお届けできるように、お芝居・ショー共に、これから雪組一丸となってお稽古に励んでまいりたいと思います。
―吉村貫一郎を演じるにあたって
主人公の吉村貫一郎という人物は、宝塚でよくある、皆を率いるリーダーでもなく、その人の思想に人々が集まってくるわけでもありません。新選組のメンバーを並べたら土方・近藤・沖田・斎藤の方に目が行きがちな所に、あえてこの吉村貫一郎という人物を中心とすることで、人としての在り方や、この時代に存在した、人間として大切なものを持っている人々のことを感じられるように思います。そういった作品に、今、雪組で挑戦出来るということは、凄く楽しみでもありますし、同時に、とても大きな挑戦でもあると感じています。今、お芝居の稽古をしていても、並んだ時に、近藤先生、土方先生が真ん中にいらっしゃるので、私は端っこの方に並んでいるんです。でも、吉村貫一郎が真ん中に来てしまうと、やはりおかしい図になってしまう。そんな中でも、この吉村貫一郎という人物が、周囲の人々の心を動かし、後世に残していった物というのは、大きかったのではないかと思います。人としての在り方をきちんと出していけたら、と思っておりますが、またいつもとは違った感じ方になるのではないかなと思っています。出てきた瞬間に「望海はどこだ…?」という感じがあるかもしれませんが、それもまた一つの作品として、きちんとまとまるように、今から皆で作り上げていきたいと思います。
■真彩希帆
お芝居『壬生義士伝』では「しづ」と「みよ」の二役をさせて頂きます。「しづ」は貫一郎さんの妻の役ですが、子供を持つ母としての強さや、夫を待つ妻としての強さが、皆様に届けばいいなと思っております。また、南部弁についても、南部弁を教えて下さる先生が、お稽古場でとても優しい口調・お心で教えて下さるので、南部弁でお話しする柔らかさが、お客様に伝わるようにお稽古に励みたいと思います。
そして『Music Revolution!』、演出の中村先生とは『ファントム』や『Dramatic “S”!』『“D”ramatic S!』でもご一緒させて頂き、大変お世話になっているのですが、いつも新たな気持ちにさせて頂けるショー、といいますか、作っていく段階で凄くワクワクして、皆で頑張るぞ!という気持ちが溢れるショーをさせて頂いております。今回まだショーのお稽古は始まっておりませんが“音楽の革命”ということで、雪組の皆さんとお稽古に励んで、皆様に“革命”をお届け出来たらと思います。両作品ともに初日まで精一杯お稽古を重ねてまいりたいと思います。
■彩風咲奈
お芝居『壬生義士伝』では大野次郎右衛門を演じさせて頂きます。浅田先生の小説は何冊か読ませて頂いているんですけれども、特に、別の作品で斎藤一役を演じました際に『一刀斎夢録』を読ませて頂き、人の人生の熱さや生き様を感じさせて頂きました。先生の作品には本当に人間の生きる力が込められていると思いますので、これからお稽古を重ねて行く中で、先生の作品を紐解いて行って、この大野という人物を拡げていけたらと思います。また、望海さんとは友人役を何度かさせて頂いておりますし、『ファントム』では父親役をさせて頂きました。今回は一筋縄ではいかない友人関係ではございますが、竹馬の友をさせて頂くということで、二人にしか出来ない関係性を作り上げられるよう、心と心のぶつかり合いでお稽古に励んでいけたらと思います。また、真彩に関しても、私は真彩を“想う”役が多く、今回も真彩を最初に想っていながらもフラれてしまう役なのですが、親友と、親友の愛した女性、そして何よりも南部を愛している、この大野という人物を心を込めて演じたいと思います。
そして『Music Revolution!』。私は中村先生には、ショーや『ファントム』で、何度もお世話になっておりまして、先生の作品には「色とりどりで色んなパワーが爆発している」というイメージがあります。まだお稽古には入っておりませんが、今回も自分の持っているパワーを存分に爆発させて、望海さんを中心に頑張りたいと思います。
公演は、兵庫県・宝塚大劇場で5/31(金)~7/8(月)、東京宝塚劇場で7/26(金)~9/1(日)上演される。
撮影・文/ローチケ演劇部(ミ)