ミュージカル「ラ・マンチャの男」瀬奈じゅんインタビュー

『ラ・マンチャの男』は、「ドン・キホーテ」を原作としたミュージカルで1965年にブロードウェイ初演。 翌年のトニー賞ではミュージカル作品賞を含む計5部門を受賞。
日本では1969年の初演より松本白鸚が主演し、翌70年にはブロードウェイからの招待を受けて、マーチンベック劇場にて全編英語で現地の役者と渡り合い、計60ステージに立ちました。
今回の『ラ・マンチャの男』では、白鸚演じるドン・キホーテが想い姫と慕うアルドンザ役に、元宝塚歌劇団月組トップスター、退団後も数々の大作ミュージカルに出演している瀬奈じゅんが挑みます。公演を前に大阪で取材会が行われた。

―『ラ・マンチャの男』の舞台をご覧になられた印象をお聞かせください。

瀬奈「初めて観たのが、前回の霧矢大夢さん(元宝塚歌劇団月組トップスター)がアルドンザを演じられていた公演でした。冒頭、ギターの音色と、フラメンコの踊りのシルエットが浮かび上がってきた時に、演者の皆さんの気迫に鳥肌が立った印象があります。
アルドンザの霧矢さんにパワーを頂き、とても感動しましたので、私もパワーを与えられるように演じたいです。大変な役ではありますが、役としての大変さは表現しても、演者としての大変さは出さないようにしたいです。」

―役としての大変さとはどういった点でしょうか?

瀬奈「短い時間に、様々な出来事が凝縮されていて、瞬発力が必要なので、体力的にも精神的にも力のいる役です。アクロバティックな振りもあるので、お稽古をしていて、気付いたら「いつの間にアザが?!」ということがあります。」

―アルドンザ役に決まった時はどう思われましたか?

瀬奈「オーディションで、アルドンザの楽曲を歌わせていただきました。受かる・受からないに関係なく、白鸚さんとのやりとりがすごく充実していたんです。落ちても悔いがないと思う程、良い時間を過ごさせていただきました。なので、受かったときは、白鸚さんや共演者の皆様と、役として心を通わせることが出来る、という喜びでいっぱいになりました。」

―瀬奈さんが考えるアルドンザの1番の魅力的な部分とは?

瀬奈「ドン・キホーテに対して、頑なに心を閉ざしていたところから、少しずつ心を開いていく素直さなど、その変化や背負ってきた生き様みたいなものがとても魅力的な女性だと思います。
今の時代では経験出来ないような感情じゃないかと思います。」

―霧矢さんからのアドバイスはなにかありましたか?

瀬奈「大変な役だというのは聞きましたけど、内容のところは聞いていないです。」

―アルドンザを演じると決まってから、改めて作品と向き合って感じたことはありますか?

瀬奈「ドン・キホーテのセリフ1つ1つがすごく深くて、その時の自分自身の心情とか状況によって捉え方が全然違うんですよね。初めて観劇した時と今では違う捉え方が出来たり、アルドンザのセリフもその日の体調とか、環境によって捉え方が変わります。1度ではなく2度3度観ても印象が異なるのではないのかなと。だから何度でも見に来てください(笑)」

―白鸚さんが演じるドン・キホーテの魅力とはどういうところでしょうか?

瀬奈「ドン・キホーテは、開拓者で、夢をもっていて、でも自分自身の夢を追うだけでなく、人に夢を与えている、というところが素晴らしいなと。白鸚さんご自身も、歌舞伎界からミュージカル界に新しい風を吹き込んで開拓され、日本人として、ブロードウェイで活躍された第一人者。白鸚さんが演じられるドン・キホーテを見ると、夢は叶えられるのかな、頑張ろうと思うことが出来るんです。」

―アルドンザを演じる上で大切にしたいことは?

瀬奈「再演作品への出演やダブルキャストで演じさせて頂くことが、宝塚時代から多かったのですが、同じように演じても演者によって、全然個性は違うのだな、と感じました。ですから今回、再演ということは意識せずに、役として生きようと思っています。台本と演出家さんがすべてだと思っているので、本に忠実に、と思っています。あとは、演出家の方ありき、というのが、私が目指しているところです。」

―歌はいかがでしょうか?

瀬奈「地声と裏声の使い分けがとても大変ですね。乱暴されたあと、絶望の中でドン・キホーテに向けて歌う曲があるのですが、歌い終わったあとに目の前に白い何かがチカチカするほどパワーがいる曲で。でもその後、綺麗な裏声で歌わないといけなかったりするので、声を大切に頑張りたいと思います。」

―大阪からスタートですね

瀬奈「フェスティバルホールは、学生時代に、毎年バレエの発表会で訪れていたので、とても想い出のある劇場で嬉しいです。大阪始まりの公演も、あまりないので嬉しいです。」

―今の夢はありますか?

瀬奈「小さいときから宝塚に入りたくて。入団後は、「トップスターになりたい」という夢があり、それも叶えることが出来ました。つい最近までは、頑張って努力すれば、いつかなりたい自分になれて、夢は叶うものだ、と信じていたんです。
でも、頑張っても頑張ってもどうしようもないこともあると経験しました。
だから、具体的な夢はないけれど、自分の、今を精一杯生きて、今を楽しんで、今を充実させること、それがいつか大きな夢をかなえることになるんじゃないかと思って、生活しています。」

文・写真:ローソンチケット