『キレイー神様と待ち合わせした女ー』観劇レポート

「苦しいのなら、やり直すのよ!」
松尾スズキが奏でる泥だらけの人間讃歌

 

それでもきっと、私はあなたが好きよ―――。ラストに待ち受ける鮮烈な光景。ふいに胸打たれるセンチメンタルな言葉の数々。「自分はこの一瞬を味わうために、今日ここにきた」。そう確信できる、最強で最高に尊い瞬間に出合えるかもしれない。松尾スズキ作・演出のミュージカル『キレイー神様と待ち合わせした女―」が12月4日、東京で開幕した。

100年の長きにわたり民族紛争が絶えない日本を舞台に、10年もの間、地下室で監禁されていた少女ケガレの成長と再生を描いた物語。初演から19年、5年ぶり4度目の上演に、大人計画メンバーは思い入れたっぷりに、初参戦の生田絵梨花、神木隆之介は初々しく軽やかに。ともに新たな息吹をまとい、名作を脈打たせている。

瓦礫でできた継ぎはぎだらけの世界は、まるで人生のごった煮、人種のるつぼ。神々が気まぐれに作った雑多な遊び場のようでいて、ごく個人的な内なる宇宙にも観てとれる。過去と未来、現実と幻想が共存するそこは、確かに「日本」と呼ばれ、相も変わらず人間たちは戦争に興じてる。悪意や偽善、エゴイズムや純粋性。何かしらに突出した人々はビジュアルからして一目瞭然。混ぜるな危険の個性を放ちつつ、しかし組んず解れつ一塊になると、不思議と同じに見えてくる。人種も性別も善悪だって、大差ない? 彼らは私で私も彼らの一部を担ってる。それが人間。そうと分かれば「生き恥こそが人生の醍醐味さ」と、心のエンジンが加速する。ユーモア満載の歌詞と楽曲、パロディに満ちた群舞と合唱。泥だらけの応援歌に高まるエナジー! なんて呑気に駆け出した瞬間、一発の銃声に時が止まった。

 

■生田絵梨花、神木隆之介が花丸の活躍

陽の光が無惨にもネオン街の実態を晒すように、オルゴールのバレリーナは動きを止め、シンデレラの馬車はかぼちゃに戻る。神との交信が途絶えた現実世界で、ケガレはついに核心へと歩みを進める。忘れがたいフレーズが何度も耳にこだまする。<ケガレてケガレて私はキレイ>。キラキラと世界を反射する、ケガレの澄んだ瞳がまぶしい。

本編に付随して散りばめられた小ネタの数々。珍プレー好プレーの応酬に、笑いと拍手が追い付かない。阿部サダヲら劇団員は再演の難しさを楽しみつつ、役柄を丁寧に深めて刷新する。鈴木杏の誠実さは役柄をチャーミングに際立たせ、近年ミュージカル界で大役を担う小池徹平は、堂々たる存在感で場を埋める。成長したケガレ役には麻生久美子の可憐さとユーモアが好相性。初舞台の神木隆之介は、体当たりの演技で愛すべきキャラクターを実体化、最後は花丸の活躍で魅了する。そして、生田絵梨花だ。ケガレという大役を生きてこその境地だろう。最後に彼女が見せた表情に、心底嬉しさが込み上げた。

 

取材・文/石橋法子