20周年記念を歴代トップスターたちと華々しくお祝い
1992年にウィーンで初上演されて以来、世界中で愛され続ける空前の大ヒットミュージカル『エリザベート』。宝塚歌劇団では1996年に雪組で初演。以降、星組(96年)、宙組(98年)、花組(02年)、月組(05年)、雪組(07年)、月組(09年)、花組(12年)、そして今年2016年の宙組千秋楽で公演数はなんと1001回を記録。もはやスタンダードというべき上質の本作に思い入れが強いのは、ファンのみならず宝塚の歴代出演者たちも同じだ。日本上演20周年を記念し、三井住友VISAカードpresents『エリザベート TAKARAZUKA20周年 スペシャル・ガラ・コンサート』の開催が決定した。ガラ・コンサートとしても1997年に第一回を催してから19年目と歴史は深い。いま望み得る最高の豪華メンバーが集結し、1996年雪組初演メンバーによる〈モニュメントバージョン〉、役の扮装でのコンサート形式〈フルコスチュームバージョン〉、歴代出演者が競演する〈アニヴァーサリーバージョン〉と、異なる3バージョンが用意され、オーケストラの生演奏で珠玉のナンバーを綴る。
記者会見も実に華やか!一路真輝、麻路さき、姿月あさと、彩輝なお、春野寿美礼、水 夏希、大鳥れい、白羽ゆり、龍 真咲、凪七瑠海(宝塚歌劇団)、演出の小池修一郎と中村一徳が堂々の登壇。歴代のトート役たちは黒、エリザベート役たちは白を基調としたそれぞれのファッションにも目を奪われる。挨拶の前には20年分の『エリザベート』を凝縮した10分のVTRも披露され、懐かしさと愛しさのため息がマスコミ席・登壇席の区別なく漏れてきた。
この人がいなければ宝塚の『エリザベート』はここまでにはならなかった。20年と言わず、30年50年と長生きしてください、という言葉と共に紹介されたのは、演出の小池。集まったマスコミだけでなく登壇の出演者からも温かな笑いと拍手が起きる。また、キャストには「役作りの一番の苦労は?」という質問もされた。意気込みと共にレポートする。
■小池修一郎
ガラ・コンサートは、96年『エリザベート』初演の翌年97年、当時すでに退団されていた一路さんらOGと現役生で開催し、大変熱気あるものになりました。その後、06年、12年と上演のたびに盛り上がりましたのも、時を経ることで層が厚くなり、公演そのもののボリュームアップにつながったのだと思います。今回は雪組初演メンバーが集まったり、全員が揃わないところは互いに補てんし合ったり、また、公演最終の何日間はシャッフル公演も企画されています。先ほどのVTRを見て、みんなが青春のすべてを燃焼して一生懸命だったから、ここまで重ねられたのだと感じました。今回は、その後の演技経験や人生経験をさらに加えた厚みのある『エリザベート』となり、より円熟味を増した、新しい発見を持って歌ってくださることを期待しています。
――ここまで続いた『エリザベート』の魅力とは?
初演のお客様の反響は大変大きなものでしたが、当時の最たるポイントは一路さんの退団公演であること。毛色の違った演目に挑戦したことへのエールだと受け止めていました。でも、初演の幕が開いて一週間も経たないうちに、小林公平プロデューサーから、星組ですぐ再演しなさいとお達しがあった。非常に驚き面食らいましたが、思えば、素晴らしいプロデューサーだったのです。また、今年発売された本で、脚本のミヒャエル・クンツェさんのインタビューを読みましたが、『エリザベート』は暗いエピソードばかりだが、“死”を登場させることによってラブストーリーとなり、逆説的なハッピーエンドをひらめいた、とのこと。このひらめきが、宝塚のベクトルとピタッと合ったのだと気づきました。宝塚の三大柱である『虞美人』『ベルサイユのばら』『エリザベート』に共通するのは、ある王朝が滅びる時、女性が絡むという点。まさに宝塚だからこその作品だと思います。
■中村一徳
初演で演出助手として参加してから02年花組まで携わり、キャストの熱意と情熱を肌で感じられたのは私の誇りです。その後10年以上は遠ざかっていましたが、このたび小池先生からお声をいただいき光栄の一言に尽きます。ガラ・コンサート自体も歴史があるので大変身が引き締まります。10月中旬からアンサンブルのお稽古が始まっていますが、大変華やかで魅力的なキャストが揃いました。20周年の記念にふさわしいものを作ってまいります。
~トート役~
■一路真輝
いま、この場でVTRを拝見し、96年の主演時の記者会見を思い出しておりました。トートの扮装をして出ましたら、宝塚のトップスターが死神をやるのか!と、マスコミの皆様から恐ろしいほどの殺気を感じました(笑)。なんとしてもいいものを作らねばと、記者会見の日から始まったような気がします。おかげで、雪組とスタッフの全員、命がけで作りましたことを、しみじみ思い出します。20年経ち、いま、こうして皆様の前に立てることに感謝しております。愛される『エリザベート』になったことをうれしく思い、これからもずっと愛されるように願っております。
――役作りのポイント、難しい点とは?
トート役は、宝塚の男役の中でも非常にハードルが高く、同時に、宝塚の男役で一番魅力が出る役ではないかと思います。男性が演じるのをウィーンで観ましたが、これは宝塚の男役がやれば魅力がアップすると直感しました。ただ、私は初代なので、“死”というものをどう表現すればよいかがわからなかった。小池先生とお話し、『愛と死の輪舞(ロンド)』の歌詞の“青い血”を元に、氷のような冷たいトートを作りました。
■麻路さき
二代目トートをやるのが、正直、嫌で(笑)。雪組バージョンがあまりに素晴らしく、次に自分がやるプレッシャーに耐えられず、辛かった記憶がよみがえります。でも、一生懸命に力を振り絞り、いま思えば、あの時トートをやらせていただいたから、いまここにいられるんだなと。06年のガラ・コンサートに出していただいた際、なんて素晴らしい作品だったのかと改めて気づき、10年経って違うトートになれる喜びでいっぱいでした。そこからまた10年。生きてトートを演じられて本当に良かった。大好きなトートをがんばります。
――役作りのポイント、難しい点とは?
セリフが少なくほとんど歌のみのミュージカル、という点が一番の苦労。どちらかというと私は動くのが得意で、ガッチリしたタイプの男役と言われましたから、青い血の線の細いトートはできないと思いました。そこで、もし人間じゃない人が人間ぽくなっちゃったら? という迷いのようなものを作りたいと私は考えました。エリザベートを好きになり、いつもの冷静な自分じゃない自分になってしまう…、それを全体的に表現しました。とにかく楽曲が多く、ダンスなどで魅せられない分、前奏、間奏、ほかの人が歌っている時の自分の居場所を作りたいと模索しました。
■姿月あさと
一路さん、麻路さんと拝見し大好きな作品で、まさか自分がトートになるとは思いもよりませんでした。大変難しい役ですが懸命に演じ、千秋楽でカツラを取り衣装を脱いだ時、二度とこの役はやらないのだろうと感極まりました。トートとお別れし、退団しましたが、退団後にこんなにもトートに、この作品に出会えるとは。先日、衣装合わせをしましたが、当時の衣装がそのまま残っており、残っていること自体に、宝塚の素晴らしい歴史を感じました。観ると、やるとでは、大違いのこの作品。私にとって新たな試練がまたやって来ました。稽古も、公演も、一つずつを大切に、二度と戻らない時間を大事に過ごしたいと思います。
――役作りのポイント、難しい点とは?
楽譜を読みこめば読み込むほど大変難しい。作曲家のシルヴェスター・リーヴァイさんは5年ほどかけて作られたとのことで、一音一音を大切に読み込んでいく難しさと楽しさがあります。役作りでは、私は、黄泉の帝王感、クラッシックの中にあるロックのテイストを感じながら、男でも女でもない中性的なトートを作りました。
■彩輝なお
二代目トートの際には革命家の一人として参加し、新人公演でトートを演じました。そして、再演5組目となる07年雪組退団公演で再びトートに。退団公演でエリザベートという大作をやることになり、最後まで試練なんだな、と深く心に感じたことを思い出します。私の中では非常に大切な思い入れの強い役です。トートに向き合うと、いつも、自分自身を思い知らされる、成長を感じさせられる機会にもなっております。一役者として、宝塚を、『エリザベート』を愛する者として、まだまだ課題はありますが、しっかり向き合い掘り下げていきたいと思います。
――役作りのポイント、難しい点とは?
歌のみの表現、という限られた表現に、芝居で歌うだけでは済まされない大きさを感じて大変苦労しました。楽曲の大きさ、繊細さには、いまも課題が残っています。役作りでは、脚本や音楽から自分が素直に感じるものを大切にした結果、自分で演じておかしいですが、繊細な部分、冷たい部分、人間じゃない表現を大切に心がけられたと思います。
■春野寿美礼
02年花組でトートを演じさせていただきました。雪組の初演から6年目。一公演ごとに人気と魅力を増し、知名度も上がっていく中でのトート役はとても大変なことで、毎日圧し潰されていました。当時は、なんでこんなに圧し潰されているのだろう?とわからないくらい、必死に舞台に立っておりました。やはり、作品の魅力が大きすぎ、その魅力に圧し潰されていたのかと思い返します。このたびは20周年の一コマになれることが幸せです。先輩や先生方が苦労して作られた土台を大切にしながら、いま自分が表現できることを歌に注ぎ込んでお聞かせできればと思います。
――役作りのポイント、難しい点とは?
お客様がイメージすること、先輩方がやってこられたものを見て自分が描く理想。そうしたものと、自分の本当の気持ちに、当時はギャップがありましたので、高い理想のイメージにとらわれてしまい、なかなか本当の気持ちが出せないことが苦労点でした。黄泉の国の帝王に“気持ち”があるとはどうなんだ?と思ったのです。そうした迷いや自分の気持ちを大切に演じたことを思い出します。
■水 夏希
07年はお披露目公演でしたので、当時は無我夢中でした。まわりの方に助けられてできたことなのだと、いま、お稽古をしながら改めて感じ、難しさと魅力をしみじみ思います。そもそも私が宝塚に入ろうと思ったきっかけが、濃いメイクで自分じゃない自分になれる変身願望でしたので、当時、人間ではない死神は、私としては特殊メイクがとても楽しかった。退団後は特殊メイクの機会がなかなかないので、今回、退団7年目にまた特殊メイクができる、衣装が着られると、とてもうれしいです。ガラ・コンサートは初参加。目下、苦戦しておりますが、宝塚20年間と、退団により性転換した6年間のすべてを注ぎ込んでがんばります。
――役作りのポイント、難しい点とは?
トートを演じる前に、白羽ゆりさんと彩吹真央さんと三人でウィーンに行かせていただきました。ふたりは実在人物なので何を見ても役作りが膨らむのですが、私は架空の人物なので……(笑)。でも、プライベートでイタリア旅行をした際に多くの宗教画に出会い、天と地、人の命、天使や神々といったものからイメージが湧きました。
~エリザベート役~
■大鳥れい
02年の春野さんのお披露目公演で退団させていただきました。エリザベートという大きな役、宝塚にはあまりない女性の生涯を演じることができるので、これで退団しようと決めたのです。先ほど春野さんは圧し潰されてと言いましたが、私は逆で、体力も気力も充実している時にこの役をいただき、幸せで楽しくて仕方がなかった。ガラ・コンサートは3回目ですが、そのたびに役の大きさを感じ、当時はなんと怖いもの知らずだったのかと思います。今回は退団されたばかりの龍さんがエリザベート役。彼女の若さとキラキラに敵わない!と、そればかりいま思っています(笑)。これに適うのは、経験と哀愁としかない。思いきり演じきりたいと思います。
――役作りのポイント、難しい点とは?
バイエルンの田舎の少女が、なぜ、こんなにも数奇な運命をたどってしまったのか。実在人物である点が難しかったです。資料を読み、シェールブルク宮殿も見に行きました。日々エリザベートの気持ちに寄り添うことが難しかったです。
■白羽ゆり
宙組の姿月さんのトートの際に、入団一年目の下級生でしたから後ろで司祭の男役をやっておりました。稽古場ではナイフの小道具を花總さんにお渡しもして。数年後、自分がエリザベートを演じるとは夢にも思っていませんでした。いま、改めて、この作品と役にめぐり遭えたことを、人生の財産であると実感しています。本当に宝塚が大好きで、まさに青春でした。懐かしさと新鮮さはそのまま大切に、卒業したからこその重みが出ればいいなと思います。
――役作りのポイント、難しい点とは?
実在人物を演じるのが夢でもあったので、まずは資料を見て近づくように。ウィーン版ミュージカルがちょうど日本上演をした時で、そのスタッフの方に、エリザベートは決してシンデレラのような悲劇のヒロインとしていてほしくない、と言われたのが印象に残っています。野生的な部分や強さを自分の中で意識して演じました。そして、いま、少し年齢を重ねて深みも増しているので、そこに新たな発見をしながら挑戦したいです。
■龍 真咲
大阪ではエリザベートを、東京ではルイジ・ルキーニをさせていただきます。初めてエリザベートに挑戦しますが、麻路さんの大きな愛と包容力と、彩輝さんの繊細な愛と妖艶な光、おふたりの胸を借りて、波乱万丈な人生を歩んでいきたいと思います。また、ルキーニ役ですが、卒業して女性に戻ろうと覚悟したのに、一歩踏み出し一歩戻る感じです。でも、ここでルキーニにめぐり遭えたご縁を感じ、両役とも、楽曲のエネルギーに負けないよう演じたく思います。
――役作りのポイント、難しい点とは?
ただいま絶賛、お稽古で楽曲と奮闘中です。いまのところ言えるのは、余計なものをつけず、メロディが流してくれる歌詞や感情をしっかりつかんでいくこと。そこが一番の課題です。
■凪七瑠海(宝塚歌劇団)
まさかもう一度この役にめぐり遭えると思っていなかったので光栄です。現役生の立場でありながら、大先輩とご一緒できる幸せ。少しでも勉強して宝塚に持って帰りたいと思います。宙組の際は子ども役で、そして、特別出演として09年月組に出していただきましたが、あの初日は衝撃的でした。皆さんも、この子は大丈夫?と衝撃的だったと思います。演技のみならず精神面で鍛えていただきました。エリザベートを乗り越えられたから、いまなんでも乗り越えられると思うほどです。約8年経ちましたが、新たな気持ちで挑戦します。
――役作りのポイント、難しい点とは?
初めてのエリザベート役は、女役として舞台にどう立てばいいのか、大劇場で一人で歌うのも初めてで、技術的なものにとらわれました。歴代の大先輩を拝見してイメージはあるのに、辿りつけないもどかしさ…。まずはそのイメージを取り払い、エリザベートという女性の根本に立ち返って考ました。今回、役の繊細な部分や内面を深く追及したいと思います。
意気込みを聞くほどに、いかに大変な苦労と努力が実を結んで素晴らしい大作になったかがよくわかる。熱い思いをすべて注ぎ込む『エリザベート TAKARAZUKA20周年 スペシャル・ガラ・コンサート』。どのバージョンに行くか悩んでしまいそう!?