世代を超えて今僕らがやる意味を『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2 プレスコール&会見レポート

客席が360度回転する没入型エンターテインメント劇場・IHIステージアラウンド東京にて、2月1日に開幕するブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2のプレスコール&囲み取材が行われた。

 

1957年の初演以来、世界各国で上演されてきたミュージカルの金字塔といわれる同作。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に着想を得たストーリーは主人公のトニーとマリアの恋模様を中心に据えつつも、人種問題や移民同士の対立といった当時のアメリカの抱えるさまざまな問題を浮き彫りにしていく。すでに海外キャスト版やSeason1をご覧になった方はご存じかと思うが、客席をぐるりと囲むように1950年代のNY・マンハッタンの街角を再現したセットは、かなり大掛かり、かつリアルな作りになっている。その空気感にまず圧倒されている間に、オープニングの「Prologue」がスタート。

リフ(上口耕平)率いるポーランド系移民のチーム・Jetsと、ベルナルド(渡辺大輔)率いるプエルトリコ系移民のチーム・Sharksが、一触即発の雰囲気を醸し出すこのシーン。どちらのチームも脚を高く上げるなど、同作ならではの特徴的なダンスを踊るのだが、その難易度の高さについてはキャストたちが「一見クールに見えるのに運動量が大きく、踊るのが大変」と口をそろえたほど。煙草をくゆらせる上口リフ、車の上から相手チームを挑発する渡辺ベルナルドのワイルドな男っぽさにも注目だ。

続けて公開されたのは、マリア(宮澤エマ)とアニータ(May J.)による「A Boy Like That」。愛する人をトニーに殺されたアニータの、怒りに震えるような“強い”歌声に圧倒されてしまいそうだが、ここでトニーへの変わらぬ想いを打ち明けるマリアの気持ちは平行線をたどる。2人がストレートに思いをぶつけ合い、悲しみを共有し、いつしか邂逅するこのシーンは、2人の歌のすばらしさはもちろん、物語と音楽の融合が実に見事な作品であることを感じさせる。

続けて、同作の主人公であるトニー(森崎ウィン)とマリア(田村芽実)が愛を誓い合う「One Hand One Heart」へ。ベールをかぶった“めいめい(田村)”マリアをまぶしそうに見守り、階段を上がるときには手を差し伸べる森崎トニーはTHEフェミニストといった趣き。ともにアーティストとしてのキャリアも持つ2人だが、田村のビブラートを多用したハイトーン、森崎のやわらかく繊細な歌声の相性は抜群だ。初々しいムードの漂うキスシーン、そして手をつないでのデュエットと、同作の中でもハイライトの一つといえる甘い夢のようなシーンを見事に演じてみせた。

最後に披露されたのは、トニー(村上虹郎)、マリア(宮澤エマ)、アニータ(宮澤佐江)、リフ(小野賢章)率いるJets、ベルナルド(廣瀬友祐)率いるSharksが登場する「Quintet」。対立を深めるJets&Sharks、自室で物思いにふけるアニータ(宮澤佐江)、それぞれが別々の場所で一途に相手を思いながら「Tonight」を口ずさむトニーとマリア。さまざまに交錯する登場人物たちの思いを1曲の中で表現していく同曲は、見どころ&聴きどころがとにかく多く圧巻の一言だ。同作でミュージカル初挑戦となる村上が聴かせていた、落ち着きのある歌声も印象的だった。

プレスコール後の囲み取材には、村上虹郎、森崎ウィン、宮澤エマ、田村芽実、May J.、宮澤佐江、上口耕平、小野賢章、渡辺大輔、廣瀬友祐というWキャストの10名が登壇。

開幕直前を迎えた心境を、トニー役の村上は「通し稽古などに初日のような勢いで挑んだので、これ以上緊張することはないと思います(笑)」、森崎は「稽古期間の2カ月は長いのかな?と思っていましたが、もう初日が目の前で。カンパニーが1つになっているのを感じているので、このまま初日を迎えたい」と語った。そして同作の魅力について、マリア役の宮澤エマが「原作の戯曲のすばらしさもありますが、歌、芝居、踊り、どれをとってもこれ以上の作品はないんじゃないかと思うくらい。1人ひとりが輝く瞬間があって、どこを切り取ってもドラマがある。古典だと思わずに、ショッキングで前衛的な作品だと思って観ていただきたいです」とその完成度の高さについて解説。さらに田村が「360°回転する会場だからこそ、セットも緻密に作り込まれているんです。皆さんに“豊洲のマンハッタン”に来てほしいなと思います」とPRした。

懸案のダンスシーンについては渡辺が「ダンス=台詞のような形で表現されているので、そういう部分もくみ取りながら観ていただきたい」と語れば、上口も「全部の振付に意味があって、しかもそれがすごく高度。運動量的には激しいのにクールに見えるので、そこはみなさんにもわかっていただきたい(笑)」と説明。アニータ役で女優デビューを果たすMay J.も「小さいころからダンスが好きで踊ってきましたが、バレエとジャズダンスをミックスさせたような特殊な動きが多く、初めての動きばかりで……」と苦戦したと明かし、それには宮澤佐江も「2カ月の稽古期間中、毎日筋肉痛でどこかしら痛かった!」と同意。

先ごろ上演された海外キャスト版を観たという小野は「ダンスを含めてあまりのレベルの高さに絶望しました」と振り返っていたが、廣瀬も「究極に無駄をそぎ落としたシンプルな物語を紡いでいるので、この劇場で上演するということも含め、役者としてものすごくエネルギーが必要な“怪物”的作品」と感じているという。

劇中で好きな曲は「I Feel Pretty」(宮澤エマ)、「Tonight」(田村)、「One Hand One Heart」(森崎)、「Quintet」(村上)と語ったメインキャストの4人。村上はその理由を「大勢で歌う『Quintet』はミュージカル初挑戦なので心強くて……ソロで歌う『Something’s Coming』ではマリアも誰も助けてくれないし!?」とぶっちゃけた。田村は「『Tonight』を歌うバルコニーは結構高いところにあって、私は高いところが苦手なのですが、トニーと2人で歌うとなると吊り橋効果で“この世界中に私たち2人しかいない!”みたいな気持ちになれるんです」と名シーンの裏側について語り、これにはキャストも取材陣も爆笑していた。

最後にトニー役の2人が「この舞台に立たせていただけるのは本当に光栄なこと。これまでこの舞台にかかわってきた方々全員の想いを背負っているという実感はまだ湧かないですが、自分が与えられた役目をまっとうしたい」(村上)、「お客様には単純に作品を楽しんでもらいたいですが、その中にあるメッセージを何か1つでも持って帰っていただけたら。1950年代のマンハッタンの物語を、世代を超えて今僕らがやる意味を伝えられたら」(森崎)と意気込みを語った。

本格的なミュージカルには初挑戦となる村上&森崎、今作で女優デビューするMay J.らはもちろん、Wキャストの組み合わせによってもどのような化学反応を見せてくれるのか楽しみなSeason2。Season3にバトンを渡すまでの1か月弱、ぜひこの不朽の名作を楽しみ尽くしてほしい。

文/古知屋ジュン
撮影/ローソンチケット