ミュージカル『ヘアスプレー』で、渡辺直美がオシャレで元気な女子高生に!
1988年のジョン・ウォーターズ監督の映画をもとに、2002年にブロードウェイで開幕したミュージカル版『ヘアスプレー』。トニー賞では13部門ノミネート、8部門で受賞を果たし、その後2007年にはこのミュージカル版をベースにしてアダム・シャンクマン監督により再映画化も実現。広く世界中から愛される作品となった、この大人気ミュージカルがいよいよ待望の日本人キャスト版として上演される。
舞台は1960年代のアメリカ、ボルティモア。常に明るくポジティブな、ビッグサイズの女の子、トレイシー。テレビの人気ダンス番組へ出演を夢見る彼女の大奮闘とともに、人種、体型、性別など現代にもつながるさまざまな差別問題も絡めつつ、カラフルに、パワフルに描かれていく。
キャストの個性も、実にカラフル。主人公のトレイシー役に扮するのは、もはや国境を越えて人気を集めるエンターテイナーと言える、渡辺直美。ミュージカル映画版ではジョン・トラボルタが演じたトレイシーの母親役にはなんとミュージカル界の帝王・山口祐一郎が扮するほか、クリスタル・ケイ、三浦宏規、平間壮一、清水くるみ、田村芽実、上口耕平、石川禅、瀬奈じゅん、といった華やかな面々がこの物語を彩る。
まだ全体稽古の開始前とはいえ、歌稽古など着々と準備を進めている様子の渡辺直美に、作品への想いや意気込みを語ってもらった。
――『ヘアスプレー』への出演に関して、今はどんな心境ですか。
もう、ドキドキです! 開幕までまだ時間があると思って日々を過ごしていたら、もう始まるやん!って感じになってきました(笑)。今はまだ稽古も始まっていないので、具体的にはわからないことも多いのですが、とにかくすごく楽しみです。
――出演を決めたポイントは?
実は、もともとすごく好きな作品だったんです。10代の終わり頃に映画で観てから、もしこれを日本でやる機会があったら出てみたいなと、ずっと思っていて。それこそNSCという吉本の養成所で、後輩たちの卒業公演の最後にジャングルポケットの斉藤(慎二)さんと一緒に『ヘアスプレー』の曲を歌ったことがあったんですよ。口パクでしたけど(笑)。同期のみんなで『You Can’t Stop the Beat』を踊ったりもして。だから同期たちには「あの時の曲が現実になるなんて!」と言われていますし、私もこうして夢が叶ってとてもうれしいです。だけどトレイシーって16,7歳くらいでしょう、高校生ですからね。私、大丈夫かなー(笑)。あのキャピキャピさと、ハッピーさと、純粋さを身体いっぱいで表現するというところは、ちょっとがんばってやらないと。なので、ジムに通って走りながら歌う練習をやろうかなと考えています。まだやってないですけど(笑)。
――息切れしないように鍛えないと、ですね。
走っている時にインスタライブをやって、みんなに見届けてもらうようにしようかな。お尻を叩いてもらえれば続けられそうな気もするので、そういうことも計画しようかなと思っています。
――特に、思い入れのあるシーンはどこですか。
私が好きなのは、トレイシーがお母さんを洋服屋さんに連れて行ってキラキラな服を着せてあげるところかな。あと、黒人の子たちが教室やパーティーで踊っているところにトレイシーが入って行って一緒に踊るところも好きです。
――今、トレイシーを演じるために何かされていることはありますか。
あの可愛らしさとか、キャピキャピ感みたいなものが、たぶん私の中にはもともとなくて。逆にクールを演じたい、カッコつけな部分のほうが大きいんです。人前ではっちゃけるというか、ぶりっ子とまではいかないけど、ウフフー!って感じになることがないので。今、NYにいる時にはちょっと練習しているんですけど。
――どうやって?
アメリカではUber※配車サービス をよく利用しているんですけど、あれってお互いに評価の星がつけられるじゃないですか。今、私の星はMAXの5なんですよ。その評価を下げたくないという狙いもあって、乗車中はずっと運転手に媚を売っているんです。「ハーイ、ワーオ、すっごいきれいな車だねっ!」とか(笑)。星ももらえるし、トレイシーの練習にもなって一石二鳥。この間、友達と一緒の時も「星を5から下げたくないんでめちゃめちゃ媚売るけど引かないでね」って言ってから乗ったのに、私のぶりっ子を見てドン引きされちゃいました(笑)。
――今回はキャストもとても豪華ですね。お母さん役は山口祐一郎さんですし。
ミュージカル界の大ベテランですよね! 山崎育三郎さんや城田優さんと一緒にバラエティ番組でお仕事をしている時に「メンバーの顔触れがすごいし、山口さんは本当にすごくいい人だよ」って、みなさんおっしゃるので安心はしているんですけど。だけど、そんな優しい人が私で初めて怒っちゃったりしたらどうしよう(苦笑)。
――ほかにも共演者で気になる方はいらっしゃいますか。昨年末のFNS歌謡祭で『You Can’t Stop the Beat』をカンパニーのみなさんで歌っていらしたから、あれで顔合わせはもう済んでいるわけですよね。
はい、でもあの時がまさに初めまして、という方ばかりでした。
――でも既に完璧に歌って踊って、息もピッタリで。
やっぱり、みなさんプロですごいなと思います。時間がない中でも、今持っている限りの完璧をみんなで目指そうとしていて。誰も、そんな言葉を口には出していなかったですけどね。短時間の稽古の最中にも、みんなの士気が高まっていっている感じがすごく伝わってきましたから。一応、私が主演と言われてはいますけど、ミュージカルの座長の立ち居振る舞いなんてどうしたらいいかまったくわからなくて。これからちょっとずつでも、みんなをひとつにできるようになりたいです。リンク役の三浦くんは、可愛くてなんだか子供みたいでしたね。私、人見知りなんですけど三浦くんのほうから話しかけてくれて。なんだか弟のようで、お兄ちゃんみたいな存在です(笑)。みなさん、自分のことだけじゃなくて私のことを支えようとしてくださって、ダンスの振付とかも私がわからないでいると教えてくれるんですよ。早くも愛を感じました。平間(壮一)さんは面白くてすごく明るい方だし、清水くるみちゃんもすごく可愛いし。私、女の子なら清水くるみちゃんみたいな顔がタイプなんですよね。さらに年長組のクリスタル・ケイさんは私と1歳しか違わないのに、役の年齢が全然違って。そのクリスタル先生とは二人でしゃべっている時に「ここ、わかんないー」とか言われるんですけど、クリスタル先生がわからないことを私がわかるわけもなく(笑)。
――先生なんですか(笑)。
だって、すごいストイックですしね。さっき聞いたばかりの曲で、まだ本気で歌わなくていいですって言われていても「え、これ、本番ですよね?」って思うくらいに、ピッチも歌詞も全部入ってて声量もヤバくて。そういうことも全部勉強になるので、クリスタル先生についていきながら、歌もがんばっていきたいなと思っています。
――『ヘアスプレー』という作品には、さまざまな差別と闘うというテーマがありますが。
歴史のある作品でもあって、だけど上演当時と今の時代ともではかなり変化がありますよね。ここ5年、10年だけでもいろいろな感覚がすごく変わってきていて。たとえば10年前だったら良しとされていたことも、今の時代だとナシでしょってこともあるけど、だからといって10年前にそれをやってた人についてそれを掘り起こして最低だと言うのは、私はたぶん違うと思うんですよね。この『ヘアスプレー』にはさらにもっと昔の、差別がひどかった時代のことが描かれているわけです。日本やアジアでの差別の概念ともちょっと違う、黒人と白人の差別のことがこの作品を観るとわかってくるというか。「ああ、こんな時代だったんだ」って。私自身もNYでたくさん、生活の中で勉強しました。宗教が違ったり、人種が違ったりする中で、それによって相手にかけていい言葉とかけちゃいけない言葉がある。『ヘアスプレー』は「こういうのはダメなこと、だけどみんなで成長していこう」とか、「人を否定したり復讐したりするのではなく、みんなで変えていこうよ」というメッセージのある作品だとも思うんです。私もそういう想いは、日々すごく感じていて。だからたとえば差別的な発言をした人を有無を言わさず否定するのではなくて、私たちはこうなんだよ、こういう想いで傷つくんだよ、あ、そうなんだごめん、じゃあもう今後はしないねって。それで一緒に手を取り合っていこう、というのが人間の本来の形なのかなと思うんです。みんなで一緒に前に進もうという想いは、アメリカでも学んだし、私が『ヘアスプレー』から学んだことなので、そういったことも伝えられたらいいなと思います。
――トレイシーという役を演じるにあたって、ご自分と共通する部分はありますか。どんな女の子で、どう演じてみたいですか。
彼女は芯がある女の子だけど、「私、芯があるんで」というタイプではないですよね。まあ、「私、芯があるって気づいてた?」なんて自分から言う人はいないと思いますが(笑)。自分の想いを伝えすぎると理解されないことってありますけど、でも相手のことを理解してあげながら自分の想いを伝えるのが、トレイシーはすごく上手。人間力が強い女性だなと思います。中身がしっかりしていて、自分の想いを持っている。それと感受性が豊かなところも、トレイシーの魅力ですね。
――そういったところは、ご自分に近い部分でもありますか。
今、なんだか自分を超ホメているみたいになってましたね、スミマセン(笑)。自分に近いところは……すぐ人を信用しちゃうところは似ているかもしれないです。でも、私ってわりと二面性があって。どんな占いをやっても結果が二つ出てくるんですよ。てんびん座なんだけど最終日だからさそり座の要素もあるらしく、だから淋しがり屋なんだけど、ひとりの時間も大事にしたいタイプで、人見知りなんだけど心は開くほうなんです。そう考えると、トレイシーは半分の自分とすごく似ているように思います。キャピキャピしていて、心は開いて、みんなを受け入れて。歌もダンスも大好きで、わーい!みたいな。半分は私にもそういうところがあるんですけど、もう半分はひとりでいたいし、ネガティブだし、人見知りする時もあって。だから、オンの時の自分とは似ていますね。身近な人、仲がいい友達の前だとトレイシーに近いのかもしれない。
――楽曲に関しても、魅力的な歌ばかりですよね。
昔のファンクとかソウルの部分もあったり、ザ・アメリカンな昔の曲調でもイケてる、みたいな。バラードもあったりするので、まったく飽きずに最初から最後まで盛り上がれると思います。でも私が歌う、一曲目の『Good Morning Baltimore』の場面を、たまに夢で見るんですよ。稽古をまったくしていないのに本番が来てしまってどうしよう?みたいな(笑)。舞台の一発目の場面って、特に大事じゃないですか。私も舞台を観に行きますけど、一発目にすべてが隠されていると思いながら観ているので。あの歌、実際に歌ってみてもやっぱり難しかったですね、よくあんな、くるくる回りながら歌えるなと思いますよ。だけど、本格的な稽古が始まるまでに、歌は完璧にしておきたいんです。その上で演出の先生の意見を聞いて、みんなの演技と合わせつつ新しいトレイシーを作っていきたいので、あそこは一番力を入れてがんばりたいなと思います。
――ダンスは得意ジャンルでしょうし、もう準備ばっちりですか。
でも、いつもはひとりで踊っているので、今回みたいにみんなと揃えるダンスというのはなかなか難しくて。また私が性格的に、部長とか、先頭に立つとか、センターになることが意外と苦手なんです。副部長的な立場で、人と人の間に入るほうが好きなんですよ。中学の時、バレー部の部長をやったことがありましたけど、それは私だけが塾に行っていないという理由からでしたしね(笑)。だから先頭に立って、行くわよー!みたいなのが苦手なんです。だけど今回はそういう性格も克服して、みんなついてこい、私がいるから大丈夫だよと言えるような、大きな船みたいな存在になりたいんです。私、まさに今ここが人生の山場で、ここでリーダーになることが大事だと思っていて。だって私がアタフタしていたら、みんなもどうしていいかわからなくなっちゃいますもんね。
――人生の山場、なんですね。
最強の山場ですよ。いろいろなエンタメがありますけど、私、その中でもミュージカルは昔から大好きで。しかも世界的に愛されている作品の日本人キャスト版初演ですからね。いろいろなプレッシャーが同時に来ています。これに出ることによってどうなるのか、私の人生にもかかっているし、この作品の行く先もかかっているし、観に来る人たちの人生にもかかってくるかもしれない。史上最低だったとは言われないように、史上最高だったって言われるようにがんばります。でもこういうプレッシャーを感じることもちょっと悪くない、とも思うんです。めったに感じられるものではないと思うので、これをなんとかポジティブに変えていきたい。NYの友達も、台湾の友達も、わざわざみんな日本に観に来てくれるみたいなんですよ。
――タイトルを言うだけで、みなさん知っていそうな作品ですよね。
そう、NYでも名刺代わりになっているくらいです。今、日本でどういう仕事をしているかを聞かれて、TVに出ていて、歌もやって映画にも出ている、それだけでもすごいねって言ってもらえるのに「この先は何をするの」と言われて「『ヘアスプレー』のトレイシー役をやるよ」と言った瞬間から「好きな飲みもの買ってこようか?」みたいに、わかりやすくガラッと変わりますから(笑)。でもそのくらい広く愛されていて、年代問わず、性別問わず、みんなが知っている作品だと思うので。
――生、使える名刺になりそうですね。
でもその名刺が堂々と出せるか出せないかは、自分の努力次第ですよね。最後まで、がんばりぬきたいと思っています。
取材・文/田中里津子