ミュージカル「サンセット大通り」稽古場レポート

数々の大ヒットを世に送り出し、現代のモーツァルトとも呼ばれるアンドリュー・ロイド=ウェバーによるミュージカル「サンセット大通り」。1993年にロンドンで初演、翌年ブロードウェイにて上演され、1995年トニー賞最優秀ミュージカル作品賞など7部門を受賞し大きな話題となった傑作ミュージカルだ。

2012年の日本初演では主人公の大女優ノーマを安蘭けい、2015年の再演では安蘭とともに濱田めぐみがWキャストで好演し、多くのミュージカルファンを魅了。そして2020年、安蘭と濱田がふたたびノーマ役に挑むことになった。ノーマに依頼されて住み込みでシナリオを書くことになる脚本家ジョーには、松下優也と平方元基がWキャストでキャスティングされている。

 

 

2月某日、稽古場が公開され、歌唱披露などが行われた。

最初に公開されたシーンは、ノーマの屋敷に迷い込んだジョーの言葉に刺激され、ノーマがその胸中を激しく歌い上げる「With One Look」。ノーマが“私は今でも大スター”とジョーに言い含め、時代や世間への苛立ちを露わにする楽曲だが、同じ楽曲でありながら安蘭と濱田のアプローチは大きく違っているような印象を受けた。

安蘭は大女優として凛とした自分をどこまでも崩さず、心の叫びをどこまでも飛ばすようなイメージ。視線の先に観客を捉えているように思えるような振る舞いが、やや悲しくも滑稽に映った。一方の濱田は時代や世の中を見つめてやや憂いを帯びているような印象。自身の内面と向き合い、絞り出すような力で自らを奮い立たせているように感じられた。両者とも、「スクリーンの方が小さくなったのよ!」と憤るノーマの心情が確かな歌唱力で伝わってくるのだが、右から見るか左から見るかで印象が変わってしまう彫像のように2人の印象には大きな違いがあった。キャストによって作品の印象も変わるということを、この1曲だけでも実感させられてしまった。

2人の歌唱披露の後は、冒頭部分の稽古も公開された。売れない脚本家のジョーは脚本の売り込みに行き、映画会社のオフィスには売り出し中の女優などが忙しく行き交っていた。幾人もの人々がジョーを見かけて声をかけるも、深い話にはならず“今度ランチでも”と去っていく…。

松下優也と平方元基もまた、ジョーを違ったアプローチで演じていた。松下はちょっと軽薄だけれども、フットワークが軽やかな感覚でやんちゃな印象だ。平方はややストイック。決まった焦点に向けてスピード感をもって進むようなイメージを感じた。公演では、安蘭×松下、濱田×平方の2パターンの組み合わせで上演されるが、それぞれのペアがどのような物語をくみ上げていくのか、実に楽しみだ。

 

稽古はアンサンブルも含めて冒頭の流れを何度も繰り返され、繊細な変更や確認を積み重ねていく。また、車で走る場面や大がかりなセットの移動もあるため、安全面もしっかりと考慮して動きを調整していた。場位置の確認やセリフはもちろんのこと、ブレスのタイミングまで、理由や心情描写をすり合わせながら細かく確認。呼吸を揃えるだけのわずかな違いで、全体がグッと洗練されたものになっていくさまを見せつけられてしまうと、その仕上がりに期待せざるを得ない。どれほどの完成度で幕開けを迎え、組み合わせの違いでどれほどの変化を見せてくれるのか。ぜひ劇場で体感していただきたい。

 

撮影/宮川舞子

取材・文/宮崎新之