ミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』浦井健治 インタビュー

韓国発の大ヒットミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』が、この夏、日本人キャスト版として初上陸を果たす。舞台は近未来。人間よりも人間らしい“ヘルパーロボット”たちが繰り広げる、いとしくも切なく、笑えて泣ける物語となる。翻訳と訳詞、演出を手がけるのは上田一豪。主人公の旧型ヘルパーロボット・オリバーに扮するのは、ここ数年幅広い役柄に果敢に取り組み、その演技力にさらに磨きがかかっている浦井健治だ。そしてオリバーと共に旅に出ることで心を通わせる、女性型のロボット・クレアには中川翔子、花澤香菜が、オリバーの元主人・ジェームズには坂元健児とジャングルポケットの斉藤慎二が、ダブルキャストで扮する。8/11(火)の開幕に向けて粛々と準備が進行中の稽古場を訪ね、浦井にこの作品やカンパニーへの想いなどを語ってもらった。


――現時点での、稽古の手応えはいかがですか。

全体的には、まず稽古ができるという喜びにとても溢れている現場です。坂元健児さんなんて、あれだけ百戦錬磨の先輩なのに「歌っている途中で感極まって声が震えてしまった」とおっしゃっていましたから。楽曲も戯曲も本当に素敵で、この作品の魅力自体がとても大きくて、感動できる物語であることはもちろんですが、今このコロナ禍の時期だからこそ学べることもすごく多い。しかもそれが押し付けではなく、穏やかな時間を共有させてもらいながら「人間が生きる上で一番大切なものってこういうことだよね」と感じられる理想が描かれていて。まさに尊い物語なんです(笑)。


――このご時世だからこそ、響くことも多い。

生きるのにちょっと苦しい状態が続いていますが、そんな中でも前に進もうという気持ちは大事ですしね。この作品からぜひとも元気や勇気を!みたいな、そういう強い提示ではなくて、そっと「お茶どうぞ」みたいな感じなんです(笑)。ちょっとほっこり、できる。でも実はその休憩こそが、前に進む力になるんじゃないかなという思いがメッセージとして含まれている気がするんですよ。こういう不思議な魅力を持った、感動の仕方ができる作品って、なかなかないと思います。


――浦井さんが今回演じるのは旧型のヘルパーロボット、オリバーです。ロボットの役なんて初体験だと思いますが、どういう風に演じようと思われていますか。

稽古場に“ロボット先生”と呼んでいる方に来ていただいていて。プレイヤーであり演出家でもある方なんですけど、その方が戯曲から読み取って、トゥーマッチではなく最小限の動きでロボットの動き方、歩き方をつけてくださっているんです。たとえば心の機微をより強く見せるシーンでは、そういった動きはゼロにして人間らしく身体で表現すれば心と心が向き合うシーンにできるんじゃないか、とか。さらにそのバックボーンとして、ロボットの持ち主であった人物の苦悩やそこでの環境のことを、お客様が想像できる余白を作ってみよう、とか。そういうトライアル的な稽古もやっているので、すごく楽しいですね。


――今回、浦井さん以外はダブルキャストなので、稽古場には5人のキャストがいるわけですが。どんな雰囲気の稽古場ですか。

みなさんとても大人で、しかも異種格闘技戦という感じですね(笑)。笑いも絶えませんし、いい意味で肩の力が抜けていて、お互いをしっかりと支え合い、気を遣い合っている。少人数だからこそ、それぞれのキャラクターを尊重し合っていて。そういったお互いへの想いもしっかりと各キャラクターにのせている。ですからこの舞台はきっと、組み合わせを変えて観ていただけると、違う感触が味わえて二度三度美味しいから、より面白いかもしれません。


――相手役が変われば、浦井さんご自身がそれに影響を受けてオリバーとしてのお芝居が微妙に変化するかもしれないですね。

そうですね。たとえば坂元健児さんとジャンポケの斉藤さんとでは、これまでやってきた経験がまったく違いますし、中川さんと花澤さんとでも、歌の音色やセリフの強弱が全然違いますから、まったく飽きないというか。僕自身もそのおかげでオリバーという役を深めていけるので、とても贅沢なお稽古になっているように思います。――この作品自体には、浦井さんはどういう感想を持たれていますか。

一幕ものなんですが、上演時間を全然感じないといいますか。目標では1時間45分くらいを目指していますが、体感的には今、30分くらいの作品という感覚です(笑)。演じている側からしても、次から次へと起こる展開が面白くて。曲も素敵だから心が動いてしまうんですね。特に後半戦はリフレインや伏線も含めて畳みかけるようにデュエットが続くんですが、日本人だったら少し恥ずかしいからちょっと引きで見せたりするようなところも、「こう愛している」、「このくらい愛してる」って、どんどん重ねていくからものすごくドラマティックなんです。演じていて感情が動くのがとても心地良いし、そこで自然と涙が溢れてきちゃうんだけど、ぐっとこらえる、みたいな状態が起きていて。それって、すごくいい傾向だなと思うんです。自分としても、この時期にしっかりと物語を背負ったミュージカルに挑めているのはすごく意味のあることだし、それがこの作品だったということは最高にハッピーだなと思っています。


――出演者が三人しかいない、というのもこの作品の特長ですが。そういう少人数のミュージカルならではの面白さ、難しさはどういったところに感じますか。

僕の場合はほとんど出ずっぱりなので、稽古場で休む時間がなくて……(笑)。


――みなさんはダブルキャストだから交代できるけど(笑)。

そうそう(笑)。でもクレアの二人も、早々にセリフを完璧に入れてきていて。とはいえ、膨大なセリフなのでプレッシャーを最初は感じていた様子でしたけど、とにかく演出家も含め、みんながこの作品をとても気に入っているので、稽古場では本当に素敵な時間を過ごせていますね。そしてやはり少人数だからこそ、ディスタンスのことも含めてきっと上演に踏み切れるということもあると思いますし。さまざまな問題があっても、それを表現として見せ方でかわせるところはうまくかわしていこうと、この人数だからいろいろ試せている気がします。


――しかも、この作品はラブストーリーでもありますし。

そう、その点も人間と人間ではなく、ロボットとロボットというフィルターだから、より良かったなという気持ちもあります。


――人間同士のラブシーンじゃないから、ディスタンスの違和感が消えるかもしれない?

それもあります。心を持たないというか、もしくは持ち主の優しさや悲しみや孤独から、心をインプットされていたかもしれないロボットたちが魅かれ合ったり、学び合うことが描かれていくんです。そこで愛とか恋とか、そういった人間の大切な心に触れた時の姿は、ちょっと甘酸っぱい思い出みたいに我々の世代の場合は見えるかもしれないんですが、ここでは子供のように純真でピュアに見えるのは、ロボットだからこそなんじないかなと思うんですよね。小学生や中学生の頃に初めて感じたような気持ちを、お客様と一緒に学んでいける。だからこそ素直に感動できて、これって大事だよねって改めて思えるし、この気持ちを忘れちゃいけないなとか、周りの人を大切にしようとか、日々を元気に笑顔で過ごそうという気持ちになれて、幸せを感じられる。そんなきっかけを作ってくれるのが、このロボットというフィルターなんですよね。


――人外(じんがい)のキャラクターが登場すると、変なツボを押されるというか、すごく素直な気持ちで世界観に没頭できる気がします。

はい、動物ものにすごく感動するみたいな、そういうことってありますよね。本当に、まっすぐ信じたものを信じ続けていけるところがすごく尊い存在なので、オリバーもクレアもいとおしくてたまらなくなるキャラクターなんだと思います。――キャストそれぞれへの浦井さんの想いも伺いたいのですが。まずはクレア役の中川さん、花澤さんについてはいかがですか。

中川翔子さんは、誰もが知るスターさんですし「しょこたんって、彼女のこういう趣味で、こんな声で、こんな言葉遣いでっていうところまで、明確にキャラクターとして立っていて。それが、このクレアという役にすごく合っていると思いますね。でもお稽古場で演出家の一豪さんと一緒にクレアの見え方やセリフまわしなどを作ろうと取り組まれている姿からは、また新しい、中川さんが見られそうな気もしています。そして花澤さんは、声優さんとしてもトップランナーの方ですが、舞台も子役の時から何度もやられていて。すごくピュアで真面目な方で、今回はミュージカルだから、といろいろとトライをされたりもしているようですが、でももう声がそもそも武器なので。まさに、その声を活かしたクレアになっていますね。セリフをかわしていると、お芝居の瞬発力が高いことにも僕はビックリしました。演出家もふたりに高いハードルをどんどん出しているので、それぞれのクレアの面白さがますます出て来ているなと思います。


――ジェームズ役の坂元さん、斉藤さんに関してはいかがでしょう。

坂元健児さんは僕が尊敬する先輩で“いい声選手権”(笑)で上位に入るミュージカル界のトップランナーで。そのサカケンさんが、ジェームズとその他の役を演じてくださるというのは、この作品のスパイス的には必要不可欠であり、さらに深みを与えてくれる存在にもなっていると思います。出番的は多くないかもしれませんが、すごく贅沢な出演となってます。サカケンさんがこの作品を気に入っていらっしゃるので、その気持ちが芝居にも出ているのか、こちらも触発されるし、学ばせていただくことが多いです。あと、慎ちゃん、ジャンポケの斉藤慎二さんは、初ミュージカルということで最初は緊張していた様子でしたが、もともと演劇を志していた時期もあったそうで、今では本当に舞台を楽しんでいるなというのがすごく伝わります。またとにかく声が、ものすごく良い(笑)。そしていつも言ってくれるのが、この現場は自然体でいられるし心地がいい、と。これでミュージカルを気に入ってもらえたら、次はもっとたくさんセリフをかわせる役でもご一緒できたら嬉しいなと思っているんですよ。


――このご時世で、いろいろ思うこともあったと思いますが。改めて演劇へ対する想いに、変化などありましたか。

そうですね。この期間、海外の方やさまざまなカンパニーが舞台作品を配信してくださったりしていたので、いろいろと見させていただいてすごく勉強になったし、同時に課題や懸念も多くあることを知りました。エンターテイナーとして自分の中で今、出来ることはなんだろうとか、僕だけじゃなく、みんな自問自答の時間がこの時期はあったと思うんです。そんな中で改めて、自分と向き合える時間が得られたことは今後のためにも大きかったと思います。


――これまでになく、自問自答しますよね。

しますね! あと、お客様がいることで成り立っているんだということとか。では無観客だったらどう感じるのかとか、それでも届けられる幸せはあるように思うけれど、でも何が一番良いかはまだわからない状態なので。その中でプロデューサーさんたちもよりお客様に楽しんでいただき、みんなが幸せになれるような道を模索することに力を注いでいらっしゃる。とにかく今は出来ることを、前向きに、みんなで一緒にやっていきたいと思っています。


――初日は、いつも以上に深い感慨が生まれそうですね。

今の時期だからこそ、より感動が共有できる演劇空間になるだろうと思える作品です。僕ら5人の気持ち、そしてスタッフさんやバンドさんたちも含めて、カンパニー全員の気持ちをぜひ受け取っていただけたら嬉しいです。幸せを感じられる、プラスの時間にきっとできると思いますので、しっかりと感染予防を徹底しつつも、思い切り楽しんでいただけたらなと思います。

 

取材・文 田中里津子
ヘアメイク 花村枝美
スタイリング 壽村太一