堀内敬子 インタビュー|ミュージカル「パレード」

20世紀初頭のアメリカで実際にあった冤罪事件をもとに、苦境に追い込まれた夫婦の愛を描いたミュージカル「パレード」。ピューリッツァー賞受賞作家のアルフレッド・ウーリーが脚本を、「マディソン郡の橋」などで知られるジェイソン・ロバート・ブラウンが作詞・作曲を手掛ており、1999年のトニー賞では2部門を受賞した秀作だ。日本では2017年に森新太郎の演出で初演され、ミュージカル初演出ながら大胆な解釈で観客に衝撃を与え、大きな話題となっている。

待望の再演となる今回、演出の森をはじめ、石丸幹二、堀内敬子ら初演キャストが再集結。新キャストも加え、新たに重厚かつドラマティックな物語を積み上げていく。冤罪をかけられてしまった夫を孤独に信じ続けた妻ルシールを演じる堀内は、再演を前にどのような心境なのだろうか。話を聞いた。

 

――「パレード」が再演されることが決まって、どんなお気持ちになられましたか?

再演というのは、いい作品じゃないとなかなかできないことですので、本当に嬉しかったですね。初演の時は、森新太郎さんがミュージカルを演出したことがなくて、初めてのことでしたから、みんなも手探りで森さんについていくような感じでしたね。お芝居に関して森さんはすごく厳しくて、でも、その深い演出があったおかげでいい作品になったとみんなが思っていました。そういう部分にまた磨きをかけて再演は、さらにいい作品になったらいいなと思います。


――手探りというのは、具体的にどういう感じでしたか?

やはりミュージカルを演出されてきた方とは少し違って、歌詞をいきなり歌わずにセリフとして言ってみるなど、お芝居からのアプローチがすごく多かったように思います。お芝居を基本にすることで、ミュージカルにも深みが出るというか…今までの作品とは違った感じになったんじゃないかと思いますね。作品としても実際にあった話なので、そのあたりにリアルさを求めるにはとてもよかったんじゃないでしょうか。


――堀内さんからみて、森さんってどんな方ですか?

本当にベテランから若手のような人まで、関係なくダメ出しする人ですね。忖度しない(笑)。ベテランだからと怖気づくようなことは、まったくないです。そういう意味で、すごく気持ちのいい方ですし、みんなが信じていける演出家さんなんじゃないかと思います。それに、作品の時代背景とかにもすごくお詳しいんですよ。そういうお勉強のような時間も最初に取りましたし、そういったところもいつもと違っていたように思います。ミュージカルのレジェンドのような方がたくさん出ていますが、誰もがみんな森さんについていく。誰もマイナスなものを出すことなく、前向きに森さんについていく、何の疑いもなくチャレンジしていけるような雰囲気で、それが作品にも反映されるんだな、と初演の時にみんなが実感したと思います。


――お稽古の甲斐あって、初演の「パレード」は評判でしたよね。

初演が開幕したときは、チケットがまだ余っているところもあったんですけど、口コミが広がって、最終的には立見でも取れないくらいになって、すごく話題にもしていただきました。初演を観ることができなかった、っていう声もたくさん聞きましたので、そういう方にぜひ、再演を観に来ていただきたいですね。でも、こんな時代になってしまって…私たちも来ていただきたい気持ちはありますが、それとは別に複雑な気持ちもあります。それでも演劇の灯を消さないためには、何かしらの対策を取って進んでいくしかない。演劇は生ものだから、生で観ていただきたいんですけれど…。


――コロナ禍の影響は、他の業界でもそうですが演劇にもとても大きなものでした。やはり、思うところは大きかったんでしょうか。

前よりもお客様の前に立てることの貴重さをより感じています。私自身、出演していた舞台「アナスタシア」が公演途中で中止になってしまって、そういう経験をすると、本当にお客様の目の前で演じられることが、とても重要で、ありがたいことなんだと思いました。お仕事をいただけて、演じることができる。その大切さ、基本的なところに立ち返ったような気がします。皆さん、きっとそうだと思うんですけれど。私たちの仕事は、無ければ無くてもいい。でも、こういう仕事を選んでいる以上は、いい作品を作って、観ていただいて心の栄養にしていただく。それが私の仕事だなと思っていますし、前よりもシビアに一作一作を考えるようになったと思います。


――自粛などを経て、舞台へ立ちたいという思いはより強くなった?

ええと…どうでしょう。そこまで私って貪欲じゃないかもしれません(笑)。でも、前回の「パレード」は、ブランクがあった中でまた舞台に立ち始めるきっかけになった作品でもあるんです。この作品があったから、1~2年に1回は舞台やミュージカルをやっていきたいと思えたんですね。また舞台に立つには、やっぱり1作1作をしっかりやらないと先のお仕事もない。そのために、頑張っていかないとな、とは思っています。

――堀内さんが演じられるルシールという役は、冤罪がかけられた夫の無実を信じ続ける妻ですが、やはり誰に何を言われようと頑なに信念を持ち続けるのは大変なのではないかと思います。役についてはどのように捉えていますか?

やっぱり孤独だったと思います。初演の時は特に。役柄的には、最後にしっかりと生きていく役なので、孤独の中でも力強さを持っている役でもあります。やりがいはありましたね。とはいえ、出てくる場面がすごく多いという訳でもないので、出てきたときに時間の経過を見せていくという点では、少し苦労した面もありました。彼女は自分のことじゃないから、強くいられたんだと思うんですよね。自分のことよりも、人のことのほうが頑張れたりする。私自身も、自分が有名になりたいからやる、っていうよりも、家族が喜んでくれるとか、そういうことをモチベーションにすることが多いんです。だから、彼女がここまで強くいられたことに、すごく共感する部分はありますね。自分のことじゃなく、家族のことだから闘えるんだと思いますし、すごい力を発揮できるんじゃないでしょうか。味方になれる人が私しかいなかったら、どんなことがあっても戦うし、どんな人にも会いに行く。そういう強さに変えられるんだと思います。


――作中で取り上げられている冤罪は、黒人差別とユダヤ差別が複雑に絡まり合ったゆえに起こったものとなっています。こういった差別問題の歴史背景については、どのように感じられましたか。

本当に…どうしたらいいんでしょうね。日本人には理解が難しい差別かも知れません。でも、昔よりは身近にアメリカでの差別の問題を感じられるようになってきたように思いますし、たとえば性差別などについても、昔よりも多くの人が理解できるようになってきた時代じゃないですか。そういう意味で、差別を無くしていく、という同じテーマはこれからもずっと続くと思うんです。特に今は初演の時よりも、差別について理解が深まりやすい時代なのかな、と思いますね。最近でも、コロナウイルスに関する差別がありましたよね。差別というものは残念ながら身近にあるので、物語を通して考えるきっかけになるのであれば…初演からたった3年ですけど、これだけ価値観も変わって、いろいろなことがあったのに、差別はまだ無くなっていないわけですから。永遠のテーマを扱えるという意味では、この作品がずっとやり続けられる意味になると思います。


――今回も初演に引き続き石丸幹二さんとの共演になります。堀内さんから見て、石丸さんってどんな方でしょうか。

本当に劇団四季時代も、つらいときも、いいときも、一緒に見てきました。同期なので、もう本当に、大事な仲間です。でも「パレード」の初演のときまで、劇団を離れてからは一度も共演が無かったんです。本当に久しぶりの共演で、そこで夫婦役。舞台上にいても、お稽古でも、彼の考えていることはすごく良く分かるんですね。それはきっと、向こうもそうだったと思います。微妙な変化もお互い手に取るようにわかるのは、劇団にいたからこその良さですね。そこは役柄にも反映できているんじゃないかと思います。本当に大切な仲間です。


――石丸さんの凄いところって、どんなところでしょう?

お稽古場でも、恐れずに恥をかくんですよ。お稽古場は恥をかくところ、なんてよく言いますけど、本当に恥をかける人って意外と少ない。みんなやっぱり、どこか取り繕ってお稽古しているんですね。私も特にそうなんですけど…。ダメなところやできないところを見せたくないから、準備していくんです。彼ももちろん準備してると思うんですけど、本当に稽古場で“お稽古”しているんですね。周りに笑われるようなこともありますし、恥ずかしい思いもすごくしているんです。主役なのにな、と思う時もあるんですけど(笑)。でもだからこそ、逆に周りが彼を応援したい気持ちにもなりますし、そこが良さかも知れないですね。あれだけ技術も、容姿も、いろいろなものを備えながらも、恥をかけるというのが彼の凄いところですね。


――舞台での完璧な姿からは意外な気がします。でも、率先して恥をかいてくれるからこそ、他のみなさんもいろいろと稽古で試せるようになるかもしれないですね。

そうなんです。やっぱり、取り繕うお稽古をしていると、舞台に根っこが刺さらないんですね。刺さらない人が1人でもいると、舞台でのリアルが薄れてしまうと思うんです。全員が舞台に根っこを下ろす作品になるということが、舞台のリアルさを上げることなんですよね。ミュージカルって、リアルが表現しにくいから、薄れてしまう傾向にあるんです。そこにミュージカルの好き嫌いが出てしまうと思うんです。そこにリアルさを持たせるには、舞台に根っこを生やす、人物に深みを持たせるしかないんです。そういう意味では、森さんのお芝居からの演出というのが効果があったし、裸になって恥をかいている人を目の前に見て、取り繕うことじゃないんだ、と少しでもチャレンジしていくことが増えていって、舞台に根っこを生やして深みをもたせる作品になっていったんだと思います。


――堀内さん自身が、お稽古で楽しさを感じる部分はどんなときですか?

お稽古でですか?お稽古は苦しいことばかりで…無いんです(笑)。特に森さんのお稽古は苦しいことばかりで、厳しかったです。でも、森さんの言うことは、理解できると思ったんですよ。通じる感じがありました。森さんが他の方にダメ出ししているときも、そうだな、と思うことが多かったんです。なので、森さんのダメ出しにも疑問に思うことは無かったし、なぜダメだしされているのか理解できるから、修正もしやすかったです。分かりやすかったですね。ミュージカルじゃなく、お芝居の方なのに、劇団四季で学んだことから離れていなかったように思うんですよ。言葉を大切にする、言葉の意味を伝えるっていう部分での構築が、劇団四季ととても共通していて、理解できました。そういう点での“わかる、わかる!”っていう感じは楽しかった、かも知れないです。こんなにレジェンドの方がたくさん出ているのに、誰も惑わずにトライしていった姿を見られたことは、本当に楽しかったです。


――違うジャンルでやってきた方と根っこの部分で共有できると、楽しさというか喜びのようなものがあるかも知れませんね。今度はミュージカルのもう一つの魅力、音楽についてもお聞きしたいと思いますが、どんな印象ですか?

とにかく難しい。難しい歌です。まず、メロディも難解ですし、リズムも難解、そして…難しい(笑)。天才が作ったんじゃないか、っていうくらい複雑な音階とかがあるので、初演の時はみんなそこに重点が置かれたと思います。まずはそこをクリアすることに、第一関門があったので。とはいえ、その中で、メロディにとらわれず、森さんがお芝居に引き寄せてくださった。そもそも基本のポテンシャルが高いキャストが揃っているので、稽古を見てても楽しかったですよ(笑)。あんなに難しいのに、できちゃうし、トライできちゃう。なんて素晴らしいんだ!って思っていました。私自身はブランクがあってこの作品に挑戦したので、稽古の時はスキル的には低かったと思います…。再演にあたって、もうちょっと上からのスタートにしていきたいですね。


――再演のお稽古も楽しみですね。より素晴らしい作品を期待しています!

初演で本当に話題にしていただいた作品ですし、新しい方も加わって、さらに作品が良くなるようにしていきたいですね。ゼロからのスタートではないので、そこに甘えず…まぁ全然、森さんは甘やかしてくれませんから(笑)。こんな時代になりましたから、これまで以上に誰も気を抜くことなく、全力でやっていくと思います。本当に楽しみにしていただければと思います!

 

インタビュー・文/宮崎新之
ヘアメイク/多絵
スタイリスト/梶原寛子

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