ミュージカル『スリル・ミー』 成河×福士誠治 インタビュー

“私”と“彼”、たった二人の俳優と1台のピアノだけで繰り広げられる究極のミュージカル『スリル・ミー』が、更なる進化を遂げ、約2年ぶりに上演される。
本作品は実際に起きた殺人事件をもとにアメリカで製作され、2005年、ニューヨーク・オフ・ブロードウェイで開幕以降、世界中で上演され続けている人気作だ。
日本では2011年に初演を迎え、幕を開けるやいなやたちまち話題となり、以来、実力派キャストによりさまざまなペアで再演を重ねてきた。
日本初演から記念すべき10周年となる今回は、田代万里生×新納慎也、成河×福士誠治、松岡広大×山崎大輝の3組での上演となる。
インタビュー第二弾は、前回の公演で新たな風を吹き込み話題となった、成河と福士誠治のペアに「再演」への想いを聞いた。

 

――再演のお話を聞いたときは、どのように思われましたか?

福士:僕、実は人生で「再演」というものが初めて。今回は流れるように決まりましたが、相手がソンちゃん(成河)だった、というのが大きいですね。彼とじゃなかったらできないと思います。

成河:そうだね。キャストを変えて一からやるとまた違うことだし。(唐突に)ヤバい、僕、こういうインタビュー受けるのすっごい久しぶりだ!(笑)

一同:(笑)

成河:ごめん、すごい時間かかっちゃうかも。まとめづらいかもしれないけど、しゃべりますね(笑)日頃から、再演したいという気持ちはありましたが、日本での「再演」に対する考え方は、海外に比べるとだいぶ特殊なんです。一か月稽古をした後、一か月公演をしておしまい、と公演単位で流れていきますが、これは健全な形ではないんですよね。本来なら年単位で作り、公演していくものだから。海外ではその都度稽古をして、5年間毎年上演したりするわけですよ。5年間通して作品を作り続ける、という感覚が常識的にあるんです。キャストを変えたら一からなので、それだと僕は全然興味が湧かなくて。前回のあの一か月で作品が終わったとはとても思えなかったので、続きをやる意味があると思っています。

福士:これは燃え尽き症候群タイプと芸術追及タイプの違いですね(笑)。僕は「やったー!終わったー!!」となる燃え尽き症候群タイプなのですが、(今の話を聞いて)もしかしたら、自分の中では実は終わっていなかったのかな……。

成河:もちろん僕もその都度燃え尽きながらやりますけど、期間が経って俯瞰して見たときに、自分の描いた絵とみんなが描いた絵の見方が変わってくることってあるじゃないですか。

福士:再演の場合は、邪魔だったもの、無駄だったものをそぎ落として研磨していけますよね。今度は何をしようか、と足すイメージがあるかもしれないけれど、本当は削りたい。

成河:時間が経たないとわからないことがほとんどですから。日本の公演サイクルはとにかく早いので、本当はしなければいけない作業をしないまま、興行として上演を続けなければいけない面がある。そのために再演…いや、「リ・クリエイション」って言おうぜ、みんな!(笑)。リ・クリエイションだから、一からやったらダメなんですよね、僕の中では。彼とでなかったら意味がないですし、誠治くんと一緒に作ったものの「続き」をやれれば、と思っています。とくにこの作品は二人だけで作るものなので、よりそう思いますね。

福士:まずは作品に向けて心と体の持っていき方を取り戻したいです。でも、実は歌が思い出せないんですよ(笑)

成河:今日一日、二人で一生懸命歌を思い出そうとしてるんだけど、思い出せないんだよね(笑)

福士:『スリル・ミー』の体に一回しないと、呼吸も合わないし、まずはそこからですね。

成河:そうだね。あと、二年前と今では別人ですから。今の自分たちで同じセリフを言ったら、関係性はまた変わってくると思います。そういうものを映し鏡にするから、創作はおもしろいんだろうな。変化を開き直って出せたらいいですね。

――二人芝居ならではのおもしろさや難しさはどう感じられますか?

成河:二人芝居が一番難しいですね。二人芝居は第三者がいないので。気をつけなきゃいけないこと、やらなきゃいけないことが多いと思います。


――気をつけなきゃいけないこととは?

成河:自分に対しても相手に対しても、客観的でなければいけないところでしょうか。3人いれば誰かが客観的に見て、夢中になっているときに邪魔してくれますが、二人だとそのまま入れ込んでいってしまうので。お互いがブレーキを掛け合う必要がありますよね。

福士:相手の台詞の後にくるのは絶対自分だからね。相手から受けたエネルギーを返すのは自分しかいないから。

成河:「格闘技」そのものですよね。でも、ルールも何も決まっていないものをお客様に見せなきゃいけないので、とても冷静な格闘技だと思います。


――お互いに信頼関係がある、というのも大事なポイントでしょうか。

成河:それが一番ですよね。お互いに慣れてしまってはしょうがないので。


――前回はお二人でたくさんコミュニケーションを取られたんですか?

成河:いっぱい旅行行きましたよ。


――おお、そうなんですね。どこに行ったんですか?

福士:行ってないですよ(笑)。心の旅行はいっぱいしましたけど。

成河:だってわかるでしょ?こんなにおしゃべりな二人だけど、めちゃめちゃ照れ屋でナイーブだから(笑)

福士:ソンちゃんとはずっとしゃべっていられる。話題が尽きないよね。

成河:距離感がとてもいいんですよ。好きなものも嫌いなものも全然違うんですけど、いろんなものに対する距離感が似ているなと感じていて。入れ込みすぎないところや、クールで客観的に物事を見ているところとか。でも、「一緒にたのしめる人」でもある。

福士:僕、現場がたのしくないとダメなタイプ。

成河:それは僕も一緒。別に好き嫌いはどうだっていいもんね(笑)。

福士:クリエイティブができるという歓びを今年は改めて感じました。お金をいただいてプロとしてやっていますが、「おもしろいね、それやってみようよ」っていう想いが根本にあったほうが魅力的ですよね、人間として。「どうせやるんだったら、たのしんでやりたいよね」っていうスタンスがソンちゃんとは近いと感じています。上演終了後にディベートできることもたのしいですし、そういうことが一緒にできる人ですね。

成河:初演のときも散々言いましたけど、彼はいろんなジャンルに垣根がない人なんです。この前なんてアイススケートもやってたでしょ?(笑)ある一つのことを極めたり、語れることは大事ですが、俳優ってそんなに単純なものではないと思うんですよね。彼みたいに、真ん中に何があるのか誰にもわからない、オールラウンダーなところがすごく共感できて、僕もそうありたいと思っています。だから「旅人」ってずっと呼んでいるんです(笑)。

福士:「僕たちは旅人なんだ、ゴールのない」(名言風に)。50人の劇場で見せる芝居と、横浜アリーナでスケート滑りながらやる芝居は当然違いますよね。

成河:でも、どっちもできる人だから、すごくおもしろい。プライベートでは大っ嫌いですけどね!(笑)

福士:なにそれ、すごい垣根があるじゃん!(笑)でも、バンドを組んだり、年々やることが増えている気がします。

成河:いろんな場所に足をつっこんでみてたのしめるというのは、大いなる才能だなと思いますね。

福士:『スリル・ミー』はその中でも研磨された場所だと感じます。ストイックな現場だな、と。歌もあるし、自由の中に自由すぎてはいけない抑圧されたものが多い。そういった制約があるからこそ、自分の成長や変化を感じられる場所ですね。

――前回の公演で、演出の栗山民也さんから言われて印象に残っている言葉があれば教えてください。

成河:「資本主義の病」というワードを出していただいたことが、僕はすごく腑に落ちましたね。いろんな言い方ができるから、この演目は人気があるんだと思います。「究極の愛」というのもその中のひとつですよね。ただ、それだけでは語れないのがこの作品のおもしろさで。「究極の愛」でいいの?という問いに対して、向こう岸に「資本主義の病」という言葉を栗山さんが用意してくださったときに、とてもしっくりきました。僕は、この二人の関係を「究極の愛」という箱の中に入れるのは抵抗があったので。本人たちはこんなに純粋なのに、周りの大人たちが悪いんだ、という話にしてはいけない。現実に起きた事件ですし、あの二人の愚かしい行いを見て、何と思うのか――。「資本主義の病」という視点で見ると、作品がみんなのものになると思います。

福士:勉強になるなあ。

成河:でしょ?考えたよ~初演のときはいろいろ。こういう演目が他人事になって額縁に入れられたら“終わり”ですよ。演じる人間、観る人間、作る人間にとっても「教訓」にならないと。

福士:現実に起きた事実を舞台化したときに、「そんな事件があったんだ、へぇー。」で終わってしまったら意味がないですし、事実だけを知るのであれば、新聞でいいじゃないですか。そこに、人の気持ちや資本主義が渦巻く社会の中で、この二人はある意味被害者なのか、それともやっぱり加害者なのか、誰が一番かわいそうなのか――、そういうことを考えることができる作品だと思います。

成河:(事件当時の)100年前から「資本主義の病」は始まっていました、という風に捉えたら、100年後の僕たちは今、どう思いますか?よりどっぷりだったりしませんか?それに気づいていない恐ろしさがありませんか?っていうのが栗山さんからのひとつのメッセージですよね。人間は承認欲求や自己実現を抜きにした“きれいごとの世界”では生きられないので、そういったところを描いているのもこの作品の魅力だと思います。

――最後に、公演へ向けての意気込みをお願いします。

福士:きっちり決められたことが多い中で、「1ミリでもいいから、この作品の“先”へ行きたい」と前回の公演のときもよく言っていたのですが、今回の再演にあたって、改めて「前のように」という意識はどこかで排除する時間を作らないといけないな、と思います。

成河:やっぱり、「リアル」にやりたいですね。「リアリズム」ではなくて。ファンタジックではなく、観るに堪えないものを……。

福士:なんでこの劇場入っちゃったんだろう?って思うような。

成河:(ここから)出してあげませ~~ん!ってね(笑)。でも、最後は「大丈夫ですよ、全部嘘ですからね」って言えるのが演劇の素敵なところですから。ぜひ劇場に足をお運びいただきたいなと思います。

 

インタビュー・文・写真/古内かほ