【左】古田新太【右】福原充則
“汚いミュージカル”で描かれるカッコいい悪者たち
欲望と狂気と笑いのミュージカル『衛生』の企画がスタートしたのは、2015年のこと。舞台『いやおうなしに』に出演した古田新太と、脚本を手掛けた福原充則の「汚いミュージカルをやりたい」という構想から話は動き始めた。
古田「嫌いな言葉に『コンプライアンス』というものがあって(笑)。敢えて“それはエンターテインメントの題材として良くない”みたいな作品をつくれないかなと思って、福ちゃんに『何か悪いモノをつくれないかな』と話したんです」
福原「引き受けない理由はないし、楽しそうだなと。いたずら心が湧くというか、抑えているものを抑えなくていいのかなという気持ちがあって、やりたいなと思いました」
本作は、排泄物を肥料として扱う業者一家の悪行三昧を、ポップかつグロテスクに、それでもどこかあっけらかんと、音楽に乗せて描いていく異色のミュージカル。古田とともにダブル主演を務めるのは、歌舞伎俳優であり、唄い手として清元栄寿太夫を襲名した尾上右近。二人は汲み取り業を契機に、飲み屋、パチンコ屋と事業を拡大する「諸星衛生」の経営者親子を演じる。
古田「オイラと尾上右近君の親子が汲み取り業で富を得るんだけど、意外にいろんな妨害があったり、支援があったりというのが物語の核。利権、それから男女、だいたいすべての時代における悪いことの要素がふんだんに糞尿に混ざっている(笑)。『うんち』とか『おしっこ』とか、汚いものかもしれないけど、『なんだそりゃあ』でいいので、朗らかに見てほしい」
福原「共感はなくてもいいのですが、共感を得ないまま突き進む登場人物を憧れの目で見てほしいです。あとは糞尿をいかにポップに、爽やかに見てもらうかということを含めてメインテーマは、いきものがかりの水野良樹さんにお願いしました」
ミュージカルにとって音楽は大事な要素。音楽はいきものがかりの水野良樹と、アレンジャーとして数多くのアーティストの作品に携わってきた益田トッシュに決定。透明感のある旋律が、悪行を積み重ねる家族の横暴ぶりといかに重なり合っていくのか、期待が高まる。
「悪いモノをつくりたい」という当初の構想通り、本作品に登場するのは、悪事に手を染める諸星一家をはじめ、その周囲の人間も悪者だらけ。そんな悪者だけの世界でどんなドラマが展開されていくのか?
福原「悪い親子が金や恋愛のドロドロに巻き込まれつつ、そこで四苦八苦するというよりは、その出来事をバッタバッタと軽く投げ飛ばしていくような気持ちで、今回は書いています。昔は悪い人もカッコ良かったと思っているのですが、今は悪い人がカッコ悪い時代。だからこそ、カッコいい悪人を描きたい」
古田「今はコンプライアンスだといって、“これは言ってはいけない”とか言うけど、本来は愛情さえあれば言ってはいけない言葉なんてないと思うんです。今回の作品では、親子や夫婦のドロドロしたところや、利権におけるグループ同士の戦いというのが出てくるけど、それは別に不愉快なことではなくて、普通にあること。そうした中にも、オイラは愛情というものは確実にあると思うので、それを感じてもらえれば、見終わった後に、糞尿の話なのに、爽やかな気持ちになれるんじゃないかなと思っています」
※構成/月刊ローチケ編集部 5月15日号より転載
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【プロフィール】
古田新太
■フルタ アラタ 劇団☆新感線の看板俳優。『獣道一直線』『いやおうなしに』など多数出演。映画『ヒノマルソウル』『空白』の公開が控えている。
福原充則
■フクハラ ミツノリ 脚本・演出家。’02年、ピチチ5(クインテット)旗揚げ。『あたらしいエクスプロージョン』で第62回岸田國士戯曲賞を受賞し、代表作多数。映像作品でも数々の実績を残し、『愛を語れば変態ですか』(’15年)で映画初監督。社会現象となった大ヒットドラマ『あなたの番です』(’19年)では、脚本全20話を執筆、12月に劇場版の公開を控える。