海宝直人 インタビュー|ミュージカル『王家の紋章』

ミュージカル『王家の紋章』が、4年ぶりに上演される。古代エジプトの若き王と現代のアメリカ人少女との時空を超えたロマンスで、1976年より連載を開始し、累計発行部数4000万部を誇る原作を基に、豪華クリエイティブ・キャスト陣によるオリジナルミュージカルとして誕生した。豪華な古代エジプトの世界で、色濃いキャラクターたちが鮮やかに生きる姿が魅力的だ。今年の再演では、多くの新キャストが出演することも楽しみ。主役のメンフィス役には、初演から演じている浦井健治とともに、新キャストとして海宝直人が加わる。

これまでのキャリアでは演じたことがない新しいキャラクターであり、ファラオという現代人の感覚では捉え難いところを、どんな方法でアプローチしているのか、海宝に話を聞いた。初めて歌うというシルヴェスター・リーヴァイの楽曲の魅力や表現方法についても、海宝ならではの視点が興味深い。その卓越した歌声が、リーヴァイの楽曲とどんな化学反応を起こすのか期待が高まる。

 

――『王家の紋章』メンフィス役のオファーを受けて、出演を決めるまで、どんなことを考えましたか?

原作自体は、学生時代に読んでいたこともあって、面白く好きな作品でもありましたが、ミュージカルとして自分が出演するとは、その時は思ってもいませんでした。いざお話をいただいて、どうしようかなと考えたとき、メンフィスという新しいキャラクターであることも含めて、この世界観は自分にとって新しいチャレンジでもあるなと思いました。演出が荻田(浩一)さんだというのもすごく大きくて。ずっとお世話になっていて、自分の成長において、荻田さんから学んだことがとても大きかったんです。荻田さんご自身にとっても転換点というか、帝国劇場での演出という、すごく大きな意味を持つ作品でご一緒させていただくというところで、やってみたいなと思いました。

 

――出演のお話が来た時に、荻田さんと何かお話しましたか?

全然しなかったですね。LINEをしようかしまいかと思ったんですが、「ま、いっか」って(笑)。

 

――――そこは自分の思いだけで決めた?

そうですね。

 

――――決まってからは、荻田さんからご連絡はありましたか?

いいえ。撮影で久し振りにお会いしました。

 

――お互いに思うものがありながらも、特に連絡はしないというのは、信頼しあえばこそで格好いいですね(笑)。

(笑)。

 

――「自分にとって新しいチャレンジ」という部分で、一番新しいと思うところはどこでしょうか?

アプローチの仕方をどうしようかなと、今までとは違う感覚を思っています。まだ稽古が始まっていないですが、漫画をそのまま三次元に持ってくるという意味で、デフォルメした世界ではあります。ある種アニメーションの絵に声を当てていくような、そのスケールに向けて自分の声や動きなどの表現を、カリカチュア的な感じで作っていく要素も、もちろん必要になってくるとは思うんです。今までの感覚よりは、その部分を色濃く生き切らなければいけないところも、これまでにはあまりないアプローチの仕方です。なおかつ、台本を読んでいる中で、メンフィスは、今の感覚ではちょっと言いづらい台詞や、共感しづらいところがあります。他者の命の扱い方などが、今の価値観だと共感しづらくて。でもそれを当時の価値観や死生観、宗教観などから紐解いていくと、意外と当時の感覚からすると飛躍した感覚を持っているキャラクターではないのかもなと感じ始めていて。そういうところから少し掘り下げていくと、お客様に伝わる伝わらないは別として、自分の中に共感出来て納得出来ていくことで、ブレーキをかけずにその世界を生き切れる。そういう積み重ねと、ある種アニメ的なアプローチの仕方みたいなものが共存して作業して、作り上げていくみたいな。そういう感覚は今までにないなと思います。

 

――例えばこれまでご出演されていたディズニー作品ですと、アニメーションがあり、ブロードウェイで出来上がっている作品があって、日本で演じていましたよね。でも、『王家の紋章』のように原作漫画2次元からミュージカルとなると、その距離がかなりあると思うんですが、そこを埋めていく作業を、今伺ったようなことで、されているんですか?

そうですね。自分の中で飛躍していかなければ言いにくい台詞みたいなものも、意外と両方からのアプローチをしていくことで、自分の中で落とし込んで言うことが出来るのかなと思っています。今、エジプトを題材にした作品などをいろいろと見ていく中で、ファラオという存在自体にとっては、メンフィスというキャラクターは、特別飛躍した“オレオレキャラ”ではないのかもな、と。

 

――当時の時代設定を考えると、オレオレキャラではないんですね。

“神”ですからね。他者の命の扱いなども、当時の死生観から考えると、魂は次の時代に引き継がれる価値観もあるわけですから。命の捉え方というのも、全然違うんだろうなと。

 

――参考に調べているなかで、何か面白かったものはありますか?

最近見たものだと、2015年の『TUT』というツタンカーメンの生涯を描いたアメリカのドラマです。ツタンカーメンは、父親が早くに亡くなって、幼少期に王にならなければいけないんですが、その父親から世を継ぐ末期の状態になったときに、ファラオである父親を暗殺しようとしていた、罪人と家族を処刑するシーンから始まるんです。ツタンカーメンはそれを見せられるんですね。その後で、玉座の部屋に入った時に、父親は罪人の息子を部屋に入れて、まだ幼いツタンカーメンにナイフを持たせて「殺せ」と。すごくたじろぐんですが、父親は「臆病者!」と言う。当時の宰相が彼の手を握って、罪人の息子の少年の心臓を貫いて殺して、「これがファラオです」と。こういうことをしていかなければならない、と。

 

――教育の一環ですね。

当時の帝王学ですよね。そういうものを背負って生きていかなければならないところで育っていくのがファラオだから、非情でなければならないし、必要な時には躊躇なく人を殺さなければならない。それが当たり前で、ちょっとでも弱みを見せたら足元をすくわれる。漫画の『王家の紋章』に、「敵ばかりの状況の中で、姉と弟で手を携えてここまで生き抜いてきた」というアイシスの台詞があるんですが、本当にその通りで、『TUT』の中にもツタンカーメンは「信用出来る者は、宮廷内に誰ひとりいない」と。いつ自分が毒殺されるかもしれない、いつ世継ぎが殺されるかも分からない、自分の立場を守るためには、ある意味でものすごく強くなければならないし、裏切り者や、そういう可能性のある者を躊躇なく殺せなければ、自分が生き延びられない状況の中で育って生きてきているキャラクターがある。そういう意味で、反情も含めて強くなければいけないし、ある意味激しさを持っていなければ生きていられない、極限の中で生きているから、現代人の考える感覚とやっぱり違うんですよね。そう考えると、彼の気性の激しさというのは、当時を考えたら、特別飛躍した感覚ではないと思うんです。

 

――理解出来るかなというところまで来たんですね。これからメンフィスを作っていくに当たって、さらに肉付けしていく時に、どんな手法を取りますか?

今回は特にビジュアル面がすごく大きいですね。まずは、ヘアメイクや衣装が手助けになると思っています。スチール撮影の時も、やっぱり飾っていただくことで、自分の中のスイッチが入る感覚みたいなものは感じたので、そこは手助けしていただく。なおかつ、自分自身がファラオの感覚になっていく意味で、肉体作りや身のこなし、マントなど、肉体表現で説得力を出す必要性がすごく高い作品だなと思います。

 

――音楽についても伺わせてください。海宝さんはリーヴァイさんの曲を歌われてきた印象がないです。

そうかもしれないですね。初めて歌わせていただきます。

 

――実際に歌ってみて、リーヴァイさんの曲はいかがですか?

『王家の紋章』の楽曲に関しては、とてもポップだなと思います。メロディーも聴いている分には耳馴染みがよくて親しみやすいなと、まず自分の曲を練習していて感じることです。ただ、歌うと結構息継ぎをするところがなくて、体力を使う印象ですね。体に落とし込んで、どこでブレスするのがいいのか、どういう風に組み立てて構築して、最後の盛り上がりまで持って行ったらいいのか、自分の中で結構しっかり落とし込まないといけない。つらつらっと歌ってしまうと、なかなかキャラクターの心情などを浮き立たせていけないかなと。今、荻田さんと歌稽古していますが、1番と2番とまったくメロディーは同じですが、AメロBメロCメロというところで、キャラクターとしての感情の変化、意識の変化を、自分の中で作り上げていくことが求められてくるな、と感じています。

 

――ありとあらゆる音楽に触れてこられて、リーヴァイさんの魅力をどう思いましたか?

特にこの作品に関しては、すごくエジプト感というか、そういうものの散りばめられ方が「粋だな」という感じですね。「ああ、ここ、エジプト的音階だな」とか。

 

――ちなみにどこですか?

ソロ楽曲の裏でなっている楽器のセンテンスや流れが、いわゆるエジプトの音階だなと。結構散りばめられていたりするんです。

 

――エジプトの音階というのがあるんですね。

いわゆる中東系というんですか、そういう音階があるんですよ。

 

――舞台で聴いた時に、歌だけじゃなくて背景の音を拾うと、聴くほうもすごく面白いんじゃないかと?

面白いと思うので、ぜひ聴いてみてください。今はピアノで稽古していますが、やっぱりオーケストレーションになると、がらっと印象が変わるなと、公演の映像を見ていて思うところですね。

 

――ご自分の声という意味では、リーヴァイさんの歌だと、新しい部分はありますか?

今のところの自分の課題としては、このメンフィスというキャラクターを、どう歌の中の声色で表現していくのかを、これから稽古で見つけていかなければと思うんですよね。比較的まっすぐ歌うことは出来るんですが、コンサートっぽくなってしまう危険性がすごくあるなと思っています。本当にメロディーが美しいですし、ポップだからこそ、自分の感覚だけで歌ってしまうと、演劇としてはちょっと成立出来ないというか。キャラクターの発声、キャラクターの歌声、キャラクターの心情というものをしっかり構築していかないといけないなと。それは意外と繊細で難しい作業だなと、歌稽古しながら感じています。ポップなところがある曲で、ミュージカル、演劇っぽく歌いすぎると、それはそれで合わない曲というのもあるんですよ。むしろメロディーや音楽、ロックなテイストに乗っかって、音楽のグルーヴで歌ったほうがいい曲もあったり。そういうところの作り込み方や落とし込み方が、やり甲斐のある作品だなと思います。

 

――今回は主要な役がダブルキャストなので、組み合わせも楽しみです。

全然違うでしょうね。

 

――キャストが変わるのは影響しますか?

影響するでしょうね。受けるものが全然変わってくると、芝居のやり取りも絶対的に変わってきます。ぜひ楽しみにしてください。

 

――帝国劇場初主演になりますが、思いはいかがでしょうか。

あまりないんです。もちろん帝国劇場は思い出深い劇場ですし、立てることはものすごく嬉しいですし、主演させていただくのはとても光栄だなと思っています。ただ、帝国劇場だから、主演だからということで、自分の意識が変わることはあまりないんです。やるべきことはどの作品であろうと、どの規模であろうと、どういうサイズの劇場であろうと、変わらないと思っていますので。本当に今まで通り、自分自身のやるべきこと、作品とキャラクターと向きあって誠実に積み上げていく作業でしかないので、そこはあまり意識せずに作品と向きあっていくだけだなと思います。

 

――全く違う質問になるのですが、ローソンの思い出を伺わせてください。

僕はずっとコンビニでバイトはしていましたが、残念ながらローソンではなかったんですね。でも、からあげクンが好きなんですよ。からあげクンのレッドが本当に好きで。今もたまにUber Eatsを頼むんです。

 

――からあげクンを Uber Eatsで!?

夜に無性に食べたくなったりして(笑)。Lチキも美味しいですけど、やっぱりからあげクンのレッドがとても好きですね。あれは傑作ですよね。たまに1個増量してるじゃないですか。ずっと増量して欲しいです。

 

――そのご意見で、増量が定番になるかもしれないですね(笑)。

(笑)。

 

――2021年も半年が過ぎました。今年の思いも含めて、8月に開幕する『王家の紋章』に向けて、最後にお聞かせください。

本当に大変な中で皆さん生活していますが、知らず知らずのうちにストレスも溜まっているし、僕自身もそうですが、自分も気付かないうちにいろんなものが溜まってしんどくなっていたりしますよね。そんな中で、本当にこの作品は、音楽も、衣装も、装置も、とてもエンタメしているなと思うんです。やっぱりこういう世界で、日常を忘れて、非日常の中で想像力を働かせる時間はとても必要なこと、大事なことで、そういう意味で、すごく楽しんでもらえる機会になるのは、価値のあることだと思います。僕たち俳優も、何か出来ないかと思いながら日々生活していますし、その中でこの作品を上演出来ることが、とても幸せなことで、何よりもこの状況でお客様が劇場に来てくださることが、本当にありがたいです。音楽と世界観と、ロマンチックな、ダイナミックな世界と、日常を忘れられるようなキャラクターたちの熱い恋や思いに触れて、ちょっとでも楽しめる時間や元気を受け取ってもらえたらいいなと思いながら、これから稽古に臨んでいきますので、ぜひぜひ楽しみに来ていただけたら嬉しいです。

 

取材・文・写真:岩村美佳