中川晃教、坂元健児、上口耕平 インタビュー|「SCORE!! ~Musical High School~」

ミュージカルの名曲を解説しながらその魅力について学んでいく「SCORE!! ~Musical High School~」。中川晃教がアメリカン・ハイスクールの先生に扮し、個性豊かな特別講師や生徒らとともに、誰もが耳にしたことのある楽曲や音楽の素晴らしさを伝えていくという。明治座のオリジナル演出によるスペシャルなステージはどのようなものになるのだろうか。中川と、特別講師役の坂元健児、学級委員役の上口耕平の3人に話を聞いた。

 

――早速なんですけど、今回のステージはミュージカルなんでしょうか? それともコンサート?

中川 いい質問ですね(笑)。これは、どちらでも無いんじゃないですか? どちらも含む、的な。1部はしっかりとシナリオがあって、そのシナリオにそれぞれの個性がプラスアルファされて、演出家の先生のもと稽古をしていきます。私が先生役、そのほかのキャストの方が講師役や生徒役になっていただいて、授業を行いながら歌ってミュージカルの面白さをお届けします。2部は、一変してコンサート、ショータイムです。そしてある意味、1部で学んだことを2部で回収したりもするし、それぞれの方が持っている素晴らしさが存分に伝わるような構成にしているつもりです。

 

――では1部のミュージカル部分も、ガチガチにセリフが決まっているというよりは、あるていど自由な部分も多い感じでしょうか。

中川 シナリオやセリフが決まっている部分もなんとなくありますが、すでにいただいた台本から自分のセリフを手書きで書き加えて稽古に来ている方もいらっしゃいます。流れをしっかり頭に入れてきていますよね?

坂元 いやもう、僕はセリフを忠実にやるタイプですから(笑)

中川 (笑)。僕も先生役ということで、ノートになんとなくの流れを書いたものを用意して、それを持ちながらやっていこうかと思っています。

 

――中川さんが先生役、坂元さんが講師役、そして上口さんは学級委員とのことですが、坂元さんと上口さんはそれぞれ役柄がしっくり来ていますか?

坂元 僕は特別講師という感じになっているんですけど、役割としてはお客さんを巻き込むこと。お客さんも生徒のようにして、ミュージカルを観に来ているという感覚だけじゃなくて、一緒になってその教室で勉強しているような感じの橋渡し的な役割になっています。なので、厳しく、ビシバシと! 理不尽なこともバンバンやって(笑)、そこに生徒さんたちがツッコんでくるような感じになるんじゃないかと。昔、ドリフターズのコントで教室みたいなやつがあったじゃないですか。そこまでコメディとかじゃないんだけど、大まかにはミュージカル俳優たちが楽しみながら勉強していくという作品になっています。なので、楽しく、厳しくやろうと思います。

上口 僕はもともと、学級委員とかをやっていたようなタイプなので、ありがたい役どころですね。今回は先生と講師のお2人が、気付いたら宇宙に行ってしまっているみたいな瞬間もありますので(笑)、そんな時は学級委員としてツッコんでいけたらと思います。

 

――このキャスティングは、中川さんの発案なんだとか?

中川 近年、ミュージカル界は大変混みあっています(笑)。劇団四季や宝塚、東宝などはもちろんのこと、声優の方々や2.5次元の方、芸人さんなど、幅広くいろいろな方がミュージカル界を盛り上げてくださっています。今回ですと、おばたのお兄さんのような芸人の方とか、僕のように歌手から出てきたとか、本当にエンターテインメントの集大成ともいえるものがミュージカルシーンで、今一番、熱いんじゃないかと思っています。そんな中で、まず坂元さんはこの前ご一緒した時に、すごく体を張っているなと思ったんです。誰でもできるようなところだけではなくて、しっかりと実績を積まれてきた坂元さんだからこそ、思わず微笑んでしまう、大声をあげたくなってしまう、そういうギャップを感じていて、もし「SCORE!!~」に来てくれたなら、僕が一番嬉しいなと思ったところがスタートでした。

坂元 嬉しかったですね。最初、お話を頂いた時はまだ漠然としていて、どういうものかは分からない状態だったんですけど、アッキーと一緒にやれるというのが嬉しかった。昔は、「キャンディード」とか「OUR HOUSE」とか、一緒にやらせてもらってたけど、しばらくやっていなかったんでね。

中川 この間、坂元さんから「先生、よろしくね」って言われて、一瞬何の話?って思ったんです(笑)。やっぱり僕は、先輩として尊敬しているんですが、今回は恐れ多くも先生と講師という対等な立場。そのあたりは、稽古をしながらも内心ビクビクしているんですけど、すごくお優しいのでまたご一緒できてうれしいんです。

 

 

――上口さんについてはいかがですか?

中川 実は共演は初めてなんです。でも以前、上口さんが歌を一生懸命練習されているときに「歌のコツってないですか?」と聞いてくれたことがあって。それで、こうすると声が出やすいよ、と教えたことがあったんです。もちろん、上口さんもプロですからできていて、僕が教えるなんておこがましいんですけどね。もう5年くらいになるのかな、今やミュージカル界の若手ホープです。そうなる少し前から、普段は代役とかなさらないと思いますが、その時は作品のために来て下さったり、主演舞台の裏側で会ったりとかしていたんですね。「SCORE!!~」って、キャストの方が普段の舞台では表現できないような、あるいはお話したくてもなかなか機会がなかったような、そういうものがにじみ出てくるのが魅力だと思っているんです。これからさらに羽ばたこうとしている上口さんと、「SCORE!!~」のそういう部分が重なるんじゃないかと思ってお願いしました。

上口 ずっとご一緒したかったですし、目の前で歌声を聴くことができますし、いろいろな想いが重なって、すごく嬉しかったですね。教えていただいた時間のこともすごく鮮明に覚えていて、今、先生として対峙した時も、こうやって教えてもらったな…とその当時の気持ちがリアルに浮かんでくるんです。それに、坂元さんにも教えていただいたことがあって、それも鮮明に覚えています。

坂元 俺、教えたこと無いよ?(笑)

上口 いやいや、あります! とても熱く語ってくださったことがあって、だからお2人からすごく教わっているので、関係性がとてもリアルなんです。なので、学級委員としても「聞けよ、みんな!」って自信を持って言えるので、すごくピッタリな役どころだと思っています。

坂元 昔から知っていて、コンビになる役をやったこともあるんだけど、誰かが落としたところをかばってくれる、確実に拾ってくれるので、頼もしい学級委員になると思いますよ。

上口 ありがとうございます!

 

――今回の作品の“特別なところ”はどのような部分にあると思いますか?

坂元 アッキーは本当に唯一無二の声を持っているじゃないですか。今回は教室という形だからこそ、そういう声がバンバン出てくると思うんです。ミュージカルの中では味わえないような個性のものが見られるんじゃないかな。それは、声優さん、宝塚の方、芸人さん、それぞれにそういう部分があるはず。

中川 レッスンが大きく分かれていて、レッスン1はそれぞれの自己紹介をしてもらうもの。レッスン2は、それを踏まえてエチュード的な即興劇であったり、アドリブであったりで自分をアピールしていくんです。それは、ひとりひとりをすごく観察して、リアルにその場で出たものを拾って表現することになる。特に坂元さんは講師としてそれを一番やらなければいけないので、もしかしたら公演が終わったらものすごく歌が上手くなっていたり、どなたかから影響を受けて変化したりしているかも? 稽古場でも芸人さんと念入りに打ち合わせをされていましたからね。

坂元 もちろん僕は芸人ではないんですけど(笑)、芸人さんがいらっしゃることで触発されたりすることや、そのほかの方に影響されることもそれぞれにある。そういうのはやっていて勉強になるし、面白いですね。今回、アッキーの歌声は盗みたいです。

中川 それをどこまで舞台上でレクチャーするのか、みたいなところも委ねられていますからね。今回、初めましての方も多いんですが、役割を台本に書かれているままにやってしまうと、役割を演じるだけで終わってしまう。でも、稽古は始まったばかりですが、そうじゃないことを感じています。ミュージカルになぜ興味を持ったのか、なぜミュージカルが好きなのか、そういうものがあってみなさん入学しているはず。だから、今答えたものは台本に書かれていたから?それとも本心?という感じで、自分に重なってくる。そこが新しい形の企画になってくるのかな、と僕は思っています。

上口 まさに、みなさんそれぞれルーツが違う。そんなみなさんが、ミュージカルと言う1つのものに向かうというところが面白いと思っていて、ミュージカルの可能性が広がるんじゃないかと感じています。いろんな可能性がミュージカルに秘められていることを実感できる。僕自身、昔はミュージカルって遠い存在に感じていました。でもやっていくうちに、ダンスがすごく活きるんだ、歌も、声も活かせられるんだって。いろんなことが活かされるのがミュージカルだから、幅広い方にミュージカルに興味を持っていただきたいですし、ミュージカルに挑戦してみようと思う人が居たら最高ですね。

中川 さすが学級委員、まとめてくれたね。

 

――披露される選曲についてもお聞かせください。

中川 それぞれの代表曲はもちろん聴けるんですけど、そこに縛ってはいないですね。1部では、アンドリュー・ロイド・ウェバーという作曲家にスポットを当てて、彼の作った作品とスコアを紐解いていきます。あともう一つは、ロジャース&ハマースタイン。「サウンド・オブ・ミュージック」などにスポットを当てていきます。2部は、それぞれの代表作のナンバーから近年のミュージカル・ナンバーまで、いいとこどりでお届けしていくショーステージになっています。

坂元 僕に関しては、自分がやったことのある曲は1つも無いかな。「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」と「スターズ」で、たぶんバランスで決めてくださったのかな? 一番年上だから、どしっとした歌をね。

中川 もう、何でも来いって感じですね(笑)

上口 僕は今回、夢咲ねねさんと「ウエストサイド・ストーリー」の「トゥナイト」を歌うんです。「ウエストサイド・ストーリー」には、僕はリフとして、夢咲さんはアニータとしてキャスティングされていたことがあるんですが、それが今回はトニーとマリアになります。奇跡の瞬間ですよね。袖や稽古場で聴いていた曲ですから、自分の中ですごく面白いなと思っています。ソロでは「魔法にかけられて」の「ソー・クローズ」などを歌わせていただく予定です。

中川 僕は「南太平洋」の中から「魅惑の宵」を歌います。あれをいつか歌いたいと思っていて、今回、自分から言いました。そのほか、「レント」「グレイテスト・ショーマン」「アナと雪の女王」など、みんなでいろいろ歌いますよ。もちろん、「ジーザス・クライスト・スーパースター」も。みなさんそれぞれに、ご自身が歌いたい歌、歌っていただきたい歌がセットリストに入っている印象です。全体を通してみると、バラエティに富んでいて、でもミュージカルという一貫したものもある。それが「SCORE!!~」かな、と思います。あと、今回のテーマ曲というか、コンセプトになるような内容の曲を今、書いているところです。それを聴いていただければ、「SCORE!!~」がどういう時間なのか、分かっていただけるはず。それはお客様にとっても、出演していただける方にとってもそうなると思うので、それを先生として歌わせていただきます。

 

 

――どんな楽曲か、楽しみです! まだ稽古ははじまったばかりとのことですが、雰囲気はいかがですか?

中川 この間、「ウエストサイド・ストーリー」の「クール」を上口くんがおばたのお兄さんや徳永ゆうきさん、東京力車のみなさんにレクチャーしていたよね。このメンバーで「クール」!?ってなると思うんですけど(笑)、必死に、すごくクールに教えていました。かっこよかったですね。

上口 あれ、突然言われたんですよ。後ろに曲も何もなくて「クールってどんな感じ? やってみてよ」みたいな。親戚に教える感じかな、と思うくらい(笑)。なかなかシビれましたね。徳永さんが指パッチンが得意で、すごい勢いでパチパチパチ!ってやっていて「それは違う、違うよ」ってなったり(笑)。でも、そうやって突発的に何かが生まれて、採用されていく稽古場。これからもどんどん発展があると思うので、何が生まれてくるか楽しみにしています。

坂元 今回は、お客さんと一緒にリズムを作ったり、即興で歌ったりとか、参加している空気になれたらいいな、と思っているんです。台本も、その通りに言ってくださいというような本ではないので、流れでいろいろ付け足したりするもの。なので、1回目、2回目、3回目で変わってきていますから、これからもどんどんく変わっていくんじゃないかな。想像していないことがいっぱい起きると思います。

中川 巻き込み役を買って出てくださっていますからね。坂元さんから見て、おっ!と思った方はいます?

坂元 おっ!というか、ちょっと客観的な立場から観ている側からすると、それぞれが、それぞれでいいな、と思っている感じはあります。例えば、夢咲ねねさんは、ちょっと不安らしいんですよ。即興のところとか。でも、そんなに難しく考えないで、不安なところは不安なまま、恥ずかしがっているところは恥ずかしがったままやれば大丈夫だから、と。なので、そのままやればいいかな、と思っています。あとは、周りがフォローすればいいですからね。佐藤友祐くんとかは、まだ緊張している感じだけど、それをほぐしていってどうなるか。まぁ、いきなり若い子がこういう場に飛び込んできてアドリブやって、って言ってもなかなか難しいですから。

中川 そういう意味では、ミュージカル界も込み合ってきていて、下からどんどん出て来ますが、そういうことについてはどう思っています?

坂元 …もう、早く潰したい(笑)

上口 それ、めちゃくちゃ覚えてます! 7~8年前かな、取材でご一緒させていただいたことがあったんですけど、その時にもあっさり言ってらっしゃいました。「こういう若い子は早く潰したいんだよね」って。今、すごいフラッシュバックしました(笑)

坂元 若いのが出てくるから、俺らの仕事がどんどんなくなるんだからさ(笑)。なんかあったら踏みつぶしてやろうと…

中川 (笑)。だからこそ熱が入るわけですよ。そんな甘ったるい考えで来られちゃ困る!ってね。厳しいですから、僕も油断できません(笑)。でも重要ですよね。ミュージカルって、本気だから。即興をやるにしてもね。先ほど、ねねさんが不安に思っていらっしゃるというお話がありましたが、やっぱり即興のテンポの中に入っていくのが大変なんですね。でも、一生懸命に入ろうとしているその姿も、役らしいし、ねねさんらしい。すごくちゃんと考えていらして、貰った台本から昇華して、ブラッシュアップされているんです。それぞれにやることへの欲があって、求められているのはこういうことなんだ、求められていることに応えようとするメラメラしたものが生まれてきているんだと思います。

上口 でも、僕が稽古場でのお2人がスゴイと思うのは、ところどころで“無”になっているんですよ。ふと気づくと、ボーっとしてらっしゃるときもあって、緩急がすごいというか。抜くときは抜くんです。

坂元 あれは、まだ流れが頭に入ってなくて、次の展開がわからなかったりするからちょっとボーっとしてるんだよ(笑)

上口 でも、爆発するときはドーン!と行けるじゃないですか。それが秘訣じゃないかと思うんですよね。ちょっとリラックスしている部分をずっと持っているというか。ナチュラルな部分を持っていて、いつでもニュートラルに戻れる落ち着き。その上でドーン!と行ける。

坂元 本番でそれは無いからね(笑)。稽古中だからできることだから。

中川 さすが学級委員長、見てますね。

坂元 でもアッキー先生は大変。いろいろ解説もしなきゃいけないから…。でも、いろいろ新しい情報もあって、勉強になりますね。

 

――観客も、ミュージカルの知識が広がっていくのが楽しそうです。

上口 ミュージカルの起源について触れられているんですけど、僕はそこが特に面白かったですね。もともと、即興で音楽に言葉を乗せたことから始まっているそうなんです。僕にとっては、ミュージカルは緻密に作り込まれているイメージだったので、もともとは即興から、お客さんにアピールするためにはじまったことだと知った時に、感情から生まれたパッションが大事だったんだ、と思ったし、先輩方のパッションを見て感じたことも正しかったんだと思いましたね。

中川 でも、知識とかの部分は今はインターネットでも調べられるじゃないですか。一番大事なので、それを体現している私たち。僕は話す内容はあくまできっかけでしかなくて、それを踏まえて歌ってみよう、自分の経歴をミュージカルで表現して、そこに個性と意外性をプラスしてみよう、ということなんです。多分、出てくださる方は、最初は詐欺にあったんじゃないかと思われたかも(笑)。でも、起源をたどっていくとルーツの中にやっぱり何かヒントがあるんじゃないかと思っていて。それは過去の素晴らしいことを語り継いでいこう、歌い継いでいこうということだけが目的じゃない。ミュージカルの魅力について、今回の授業というきっかけを踏まえて、自分なりに届けていく。そこが“ミュージカルって何?”への最大の答えなんだと思います。

 

――ミュージカルの魅力をよく知っている人も、これからの人も、あたらしい発見ができそうですね。公演を楽しみにしています!

 

ライター:宮崎新之