新妻聖子インタビュー|ミュージカル『ボディガード』

2020年春に、コロナ禍の影響で政府からの要請に基づき、大阪公演5回のみの上演となり、幻の上演となっていたミュージカル『ボディガード』がいよいよ再演される。初演に続いてレイチェル役を演じる新妻聖子のインタビューをお届けする(柚希礼音、May J.とトリプルキャスト)。イントロだけで胸が沸き立つ、グラミー賞受賞曲「I Will Always Love You」など、ホイットニー・ヒューストンのヒット曲の数々で綴られた大型ミュージカル。1992年にケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストン主演で世界中で大ヒットを遂げた映画『ボディガード』の舞台化作品で、「英国ローレンス・オリヴィエ賞」で、最優秀作品賞を含む4部門にノミネートされ、18か月の英国&アイルランドツアーは完売しウェストエンドへ凱旋。オランダ、ドイツ、韓国、カナダ、イタリア、オーストラリア、スペイン、フランス、オーストリア、米国等世界中で上演され、日本では、2019年9月に本場英国キャストによる初の来日公演を果たした。

 

――前回は初演の『ボディガード』はどんな印象が残っていますか?

仕上がりとして、すごく楽しい作品になったなと思いました!ホイットニー・ヒューストンのヒット曲を用いたカタログミュージカルに近い形式のものですが、稽古場ではとにかく“ポップスの歌詞”として浸透しているものを、いかに“芝居の台詞”に落とし込むかにすごく時間を費やしましたね。訳詞の(森)雪之丞さんを筆頭に、翻訳の(阿部)のぞみさん、そして役者チームでいろいろとアイデアを出し合って、そのときベストだと思った状態で初演を迎えました。洋楽のヒット曲で綴られた楽しさはそのままに、日本独自の演出で生まれ変わって、より物語に入りやすい音作りを重視して、みんなで作り上げた“ザ・エンターテイメント”な作品だったような気がします。

 

――あのヒット曲たちを日本語で歌うのはいかがでしたか?

ホイットニー・ヒューストンの歌詞ありきで脚本が組み立てられていますから、そのままの英語詞で歌われる来日公演を拝見したときは、どうしてもオリジナルの歌が頭をよぎってしまって、キャラクターの心情に寄り添って観るというよりは、正直、名曲のカバー・ライブを楽しむような印象だったんですね。その時から、これを日本キャストでやるのならば、訳詞が鍵になるだろうと思っていました。あくまで芝居であり演劇であるということを大切に、歌詞の意味をセリフに落とし込んで、そして元々の洋楽のグルーブも決して取りこぼさないように、自分なりに工夫して取り組んでいました。難しかったですが、とてもやりがいのある作業でした。初演の現場というのはいついかなるときも、時間がないんです。やはり1、2ヶ月の稽古では詰めきれないものがある中で、みんなが「時間がない」という危機感を持ちながら、ものすごい集中力で作り上げた初演でしたね。これからもっと良くなるだろうというタイミングで中止になってしまったので、早くまたあの世界に戻りたいです!

 

――再演に向けての想いはいかがでしょうか?

私たち関係者にとっては、止まっていた時計が動き出す瞬間になると思います。公演が中止になった時は全員自宅待機中だったので、会わないままバイバイになってしまったカンパニーなんですよ。ちゃんと終わりの‟丸”をつけられていないから、本当に途中で離れ離れになってしまった感覚で、稽古場で皆に再会したら嬉しくて泣いちゃうかも(笑)。再演ではありますが、空白の2年間を経て、また新たにそれぞれの感性を持ち寄って、今でしか作れない「ボディガード」の舞台になったらいいなと思っています。

ミュージカル『ボディガード』(2020年)
撮影:岸隆子(Studio Elenish)

 

――その中で演じたレイチェル役の魅力については、いかがですか?

レイチェルは、「妹」や「母親」である前に、まず「歌手」なんですよね。パフォーマーとしての生き方が彼女の天命であって、そういう風にしか生きられない辛さもある。でも、息子に注ぐ愛は本物だし、母親という役割からも逃れられない。もちろんセレブなので育児をサポートしてくれる人はたくさんいるでしょうけど、フレッチャーのママは彼女だけだから。その心の繋がりというか、愛おしい息子の存在を確かめながら、それが歌の表現へと昇華されていくシーンなんかは、私もとても共感しながら演じていました。初演では2回という少ない機会でしたが、実際に舞台で演じてみて、自分自身が今まで舞台上で培ってきた経験や佇まいが、全て出てしまう役なんだなと思いました。歌手のレイチェル・マロンとしてエンターテイメントを提供するプロの時間と、プライベートのレイチェルとして人生を過ごすオフの時間。それが瞬時に入れ替わりながら展開していくストーリーなのですが、ショーの最中は「お客さまを楽しませる」という純粋な目標にフォーカスしていると、やはり普段の自分の色が出てくる。コンサートシーンをやりながら、レイチェルと新妻聖子が重なるみたいな瞬間がいくつかあって、非常におもしろい役だなと思いました。

 

――コンサートシーンは見どころのひとつですね。

そうですね。ダンサーの皆さんがめちゃくちゃカッコイイですし、とにかく良い曲ばかりで生演奏で聴くとすごく楽しいと思います。キャロル・キングの『ビューティフル』やフォー・シーズンズの『ジャージー・ボーイズ』のように、実在するアーティストのヒット曲で作るカタログミュージカル系ではありますが、大きな違いは、これは“ホイットニー・ヒューストン物語”ではないという点。ホイットニー・ヒューストンという実在するスターの、世界中の心を掴んだ珠玉のヒット曲を使いながら、脚本はフィクションで最大級にエンタメに仕上げているのが、このミュージカルの一番のポイントなのだと思います。そういう手応えや瞬間を何度も感じました。お客さまがすごく楽しんでいらっしゃるのを感じて、演じていても幸せな気持ちになりましたね。

 

――レイチェルはトリプルキャストになりますね。

世界中どのプロダクションでもそうだと思うのですが、レイチェル役を誰が演じるかによって、同じ楽曲でもまったく違うショーを見せられているような感覚になる作品です。日本版レイチェルのキャスティングはそれぞれの個性が明確なので、普段ソロのステージでどんなものをお客さまにお渡ししているのか、お客さまが何を求めているのかも全然違う。キャストによって客層がガラッと変わるんだろうなぁと思っています。

 

――新妻さんの個性は何だと思いますか?

私はやはり歌う事が大好きですし、ミュージカルの舞台で育ててもらったので、役の心をお届けできるような歌を、というのは常に意識しています。今作では誰もが知る「エンダー!」という名曲がありますが(笑)、あの「I Will Always Love You」を最後にレイチェルが歌った時に、お客さまがレイチェルのセリフとして聴いてくださったなら、それが私が求める『ボディガード』の終わり方です。

 

――その手応えは初演でも感じましたか?

んーそれはご覧になったお客さまに私も聞いてみたい(笑)!でも稽古場で苦しんだ分、初日にはレイチェルの心に寄り添って生きることができましたし、わずか2回の公演ではありましたが、初演は初演として、完成していんたんだと思います。今回は、その続きの3回目をやるというつもりはなくて、今の私が感じる新しいインスピレーションを、どうレイチェル役としてアウトプットできるかということに集中したいですね。ショーの要素が強い作品なので、お客さまが入るとやはり舞台も変わりますし。まだ客席では声を出せない状況が続くと思いますが、お客さまが没頭して見てくださっている空気感や、拍手の熱量は伝わるので、そういうお客さまとの気のキャッチボールみたいなもので深めていけるのも、すごく楽しみにしています。

ミュージカル『ボディガード』(2020年)
撮影:岸隆子(Studio Elenish)

 

――レイチェルが母親であるというのは、新妻さんご自身の生活にもリンクすると思います。SNSを拝見していても、息子さんが可愛く登場されたりしていますが、息子さんがいらっしゃるというのは、役づくりが変わるものですか?

SNS見ていただいてありがとうございます(笑)。うちの息子はまだ3歳なので、フレッチャーくらい大きなお子さんとの接し方は私にとっても未知ですね。レイチェルとフレッチャーの関係性は稽古場で相手と作り上げていくものですし、基本的に、実生活での子どもの有無で、芝居に母親らしさが出るかどうかは別の話だと思っています。

 

――どんなふうにレイチェルを作っていくのでしょうか?

レイチェルはシングルマザーで、世界的スーパースターで、大豪邸にSP付きで住んでいるので、ほぼほぼ想像力で補うしかないのですが、登場した瞬間から「こういうセレブいるよね」とお客さまに思ってもらえるように、まずはヘアメイクさんと衣装さん、そしてピンスポットを当ててくださる照明さんが頑張ってくださいます(笑)。プライベートなシーンはともかくとして、ショーのシーンで、きちんとレイチェルらしい輝きが出ていたら良いのかなと思っていますね。基本的には、気持ちや感情の部分から、嘘のないレイチェル像を追及していきたいです。ニッキーとの姉妹関係やフレッチャーとの親子関係、フランクに感じる衝動的な男女の惹かれ合いなど、人間らしい部分をきちんと組み立てていきたいなと思っています。

 

――今回のカンパニーの推しどころは?

基本的には箱推しですが(笑)、敢えてお名前を挙げるとしたら、ビル・デヴァニー役の内場勝則さん。ギャップ萌えなので(笑)。内場さんといえば吉本新喜劇のイメージが強いと思うのですが、普段はめちゃくちゃダンディで、寡黙で、私服が超オシャレ!雑誌『LEON』で特集してほしいくらいのイケオジです(笑)。役としては、内場さん演じるマネージャーのビルは、レイチェルにとってきっと親代わりのような人で。甘えられる存在なので、ワガママを言ったり当たりも強いんです。彼の発言が、ピリッと張り詰めた場の空気を柔軟剤のように和ませてくれたりと、ビルは役柄としても癒しですね。

 

――作品とは違う質問になりますが、ローソンの思い出はありますか?

ローソンにはうちの息子が大好きなヨーグルトがあります!上にグラノーラやドライフルーツが乗っていて、自分でヨーグルトに混ぜて食べるやつです。あれをいつも買ってと言われるんです。あとは、帝国劇場の地下にナチュラルローソンが入っていて本当にお世話になっているので、ミュージカル俳優はローソンさんに足を向けて寝られないと思います(笑)。稽古の休憩時間とかにダッシュで食べ物を買いに行けるのはあそこしかないので、帝劇で稽古をしているときは、みんなナチュラルローソンに生かされているんですよ(笑)。「王家の紋章」中に買ったうずらの卵もおいしかったなぁ。ナチュラルローソンには、「そんなもの置いてあるんだ」というものがいろいろありますね。日比谷界隈ってナチュラルローソン多くないですか?千代田線の日比谷駅を降りたところにもありますし。

 

――シアターオーブも、下の階にはローソンがありますね。

あーたしかに!先日シアターオーブに『オリバー!』を観に行った時も、幕間にローソン行きましたもん(笑)。演劇とローソンは切っても切れないですね。ローソンのカフェラテやロイヤルミルクティーも美味しくて好きですよ。

 

――最後に、お客さまへメッセージをお願いします。

この記事を最後まで読んでくださっている方は、きっとミュージカルがお好きな方だと思うので(笑)、どんなメッセージがいいかなぁ。演劇には色んなタイプの作品がありますが、『ボディガード』のようなエンタメって、なかなかないと思うんです。まず、全曲どこかで聞いたことのあるヒット曲ばかりというのが大きい。既存のヒット曲を使ってはいるけど、アーティストの伝記ではないという構造は、『マンマ・ミーア!』に近いですね(注:『マンマ・ミーア!』はABBAのヒット曲で綴られた物語だがABBAの物語ではない)。音楽が好きな方はとにかく飽きないはずですし、元ネタが有名な映画なので、ストーリにも入り込みやすい。コロナ禍で長らく自粛していたから久々にエンタメを観てスカッとしたい!という方の、「観劇リハビリ」にもピッタリだと思います。

 

――やはり音楽は大きいですね。

はい、バンドの生演奏がまたカッコイイんですよ!そしてダンスシーンもすごく見応えがあります。ダンサーは少数精鋭で本当にレベルが高いです。技術的にただ踊りが上手いというよりは、一人一人が舞台上にポーンと出されても場を埋められるガッツと、表現力と、スキルを持っていて、みんな華があります。洋楽のグルーブ感を踊りで表現できる、一流ダンサーたちの群舞は必見です。テンションの上がるホイットニー・ヒューストンの名曲の生演奏、生歌、ダンサーたちの華やかなショーシーン。キュンとするラブ・ストーリーに、スリルやサスペンスも加わって、エンタメの美味しいエッセンスをギュギュッと詰め込んだような舞台です。ぜひ、お好みのレイチェルを選んで観にいらしてください!

 

取材・文/岩村美佳