2018年に韓国で生まれ、コロナ禍まっただなかの2020年7月、日本初演の幕をあけたミュージカル『BLUE RAIN』が、キャストも新たに早くも再演される。ルキペール家の主人ジョンを殺したのは誰か。12年前に家を飛び出した長男テオか。弁護士となった次男ルークか。ジョンの愛人になっていたことが判明したテオの恋人ヘイドンか。あるいは家政婦のエマ、使用人のサイラスか……。ミステリー仕立ての中に、家族間での猜疑心や愛憎の葛藤、神と悪魔の存在についての問い、傷を負った人間たちの孤独などを複層的に描き出す物語。初演に続いての出演となるルーク役の東山光明とエマ役の池田有希子、そして今回初参加となるテオ役の大沢健に話を聞いた。
――東山さんと池田さんは初演に続いてのご出演で、大沢さんは、今回が初参加ですね。まず、それぞれの演じる役柄について教えてください。
東山 僕の演じるルークは、ルキペール家の次男です。父のジョンが専制君主みたいな人で、ルークは幼い頃に父から虐待を受けていて、その反動で「絶対のし上がるぞ」というエネルギーを持ってNYに旅立ち、弁護士として名をあげてルキペール家に帰ってくる。そこから事件に巻き込まれ、その事件を解決しようと奔走する役柄です。
大沢 僕はその兄、テオを演じます。同じく父ジョンの虐待を受け、テオの方は反抗して家を出て行ってしまった。親の愛情に飢えて育ってきた人間特有の、もの悲しいオーラが出たらいいなと思い、そういうところを大事に作っていきたいと思っています。その瞬間は明るく笑っていても、あとに残る悲しさみたいなものを丁寧に作りたいです。テオという役は僕にとってはちょっと珍しいタイプの役です。でも自分と離れているからこそ、飛べることもある。今回はそういう挑戦をさせてもらっています。
池田 私はルキペール家に長く勤めている家政婦のエマです。住み込みの召使いですね。テオとルークのことは幼いころから見ていて、ふたりが大変な子ども時代を過ごしているのはもちろんわかっているし、自分自身もジョンの暴力の被害者でもある。でもやっぱり暴君の下で育たなければいけない子どもに救いを与えてあげたい、自分が暴力の傘になってあげたいと思うんだけれど……そこまでの力がないという、悩ましい役です。
――初参加の大沢さん、この『BLUE RAIN』という作品の印象は?
大沢 やはりコロナ禍に生まれた作品だというところにグッときました。何が印象的だったと聞かれ、まず浮かぶのは、舞台のセット。ビニールやパーテーションがセットに組み込まれ、しかもそれが物語に合っているんですよね。人間同士の隔たりや、関係性を断ち切る、そういう表現としてこのセットが活きている。一方で、普段の演劇作品にはなかなかないものが舞台上にあるというのは、役者にとっては負荷がかかるものでもあります。その負荷を、なんとか懸命に生きていこうというエネルギーに転換できればいいなと思って、稽古に励んでいます。
――東山さん、池田さんは初演にもご出演されていました。初演は2020年7月、コロナ禍で一番演劇界が混乱していた時期の上演でした。どんな思い出がありますか。
池田 一番最初の緊急事態宣言が開け、それでも一度止まった演劇界がなかなか動き出せない。その中でミュージカルとしてはかなり最初に動き出した作品のひとつでした。この経験は一生忘れないと思いました。まだコロナの状況は続き、「役者ってなんだろう」「私のこの仕事は必要なのだろうか」と今も考え続けていますが、そう考えた最初のきっかけは『BLUE RAIN』でした。
東山 そうですね。『BLUE RAIN』も幕が開くのかわからない状況で動き出し、初めてZoomでの本読みなども経験し……。エンタメ業界、どうなるんだろうと不安のある中での上演でした。本当に僕にとって思い入れがある、役者人生の節目にもなった作品です。その作品がこんなに早く再演できるのは喜びですし、初演とはまた違う形でいいものにしていきたいです。
――大沢さんは秋の『HOPE』に続いてのミュージカル出演ですね。いかがですか、ミュージカルは。
大沢 ミュージカルはまだ数作目なので、歌で迷惑をかけないようにしないと……。
池田 いやいや、歌が上手くてびっくりしました。
東山 本当に、声も素敵ですし。
大沢 やはりストレートプレイとは別の神経を使いますよね。歌と芝居と振付など、同時に進めていかなければいけないものがたくさんある。僕は今まで演劇においてそういう作り方をしてこなかったので、それこそそういう負荷が心地いい。自分の苦手なものを発見できるし、試されている感覚もあって。でもミュージカルの基本である感情が高ぶった先に歌があるというのは、お二方を見ていると本当に勉強になります。
池田 本当に素敵だから、ずるずると“ミュージカルの世界”に引きずり込みたい!
大沢 たまに家に帰って不思議な気分になるんですよ、「なんで僕、歌を歌っているのだろう……」と。
東山・池田 (笑)。
――先ほどの大沢さんのお話にもありましたが、初演は舞台セットにビニールシートやパーテーションを組み込み、俳優同士の接触を極力避けた、withコロナらしい演出が際立ちましたが、その中でも演出の荻田浩一さんらしい、“荻田ワールド”になっていましたね。
池田 荻田さんは、雲の上を行く高さの芸術性をお持ちなのに、なんだかお茶の間でみかんを食べながら話しているような、客観性があって。その両極がクセになります。もう、ずっと面白い(笑)。
大沢 比喩が多いですよね。
東山 みんなにわかるように、色々な喩えで説明してくださる。
池田 この前なんて「そこ、スクールウォーズ!」って言ってました(笑)。
東山 でも今日、彩乃(かなみ)さんが「おぎちゃんの喩え、わからない!」って言ってました(笑)。ちょっと心の声が出ちゃってた。
池田 本当に面白いです。
大沢 僕は今年の春、『Same Time, Next Year』で荻田さんと初めてご一緒したのですが、僕が台詞を言っていたら、荻田さんも台本を見ながら同じ動きをしていて(笑)。あれ、一緒に演じている、と思って。
東山 その人の気持ちになって動いていますよね、荻田さん。
池田 振付もしてくれて、踊ったりもしている(笑)。おぎちゃんって、病みつきになる魅力がある。
――最後に、今回、ご自身で「ここが挑戦だな」と思うところを教えてください。
池田 今回は初演では(感染症対策で)できなかったことが少し緩和されています。初演は直接触れ合えない、確かめ合えないという演出で、もどかしさが際立つ演出でした。そのもどかしさの表現も演劇的で良かったのですが、今回はそのコミュニケーションが密になる分、掘り下げられるものも多くあると思います。感情も心情も、深めたいです。
大沢 僕はまずは歌なのですが、理想は音符を意識せず、芝居の延長線上で歌えたらいいなと。そのためには、そこへ気持ちを持っていくテクニックが必要になります。まだ僕はミュージカル経験が浅いのでいきなりはできませんが、その目指すもののひとかけらだけでも習得できるように、そこを目指して頑張ります。
東山 同じです。意識せずとも(芝居で自然に)歌いたい。まだ頭で考えちゃうんですよね……。それに加え、今回僕はルークのもう少し弱い部分を出したいと思っています。自分のプライドで隠していた部分がちょっとずつ漏れて見えてしまう瞬間があったりしてもいいかなと。あとは逆に、父ジョンの悪い部分がしみついて、無意識に出ちゃうとか。原作『カラマーゾフの兄弟』のテーマでもある“血”の濃い部分をもっと深めていきたいと思います。
【取材こぼれ話】
今回、作品に出演される染谷洸太さんが写真撮影をしてくれました!
取材後には、一緒にオフショットもパシャリ!!
取材・文:平野祥恵
撮影:染谷洸太