ミュージカル「あなたの初恋探します」稽古場レポート

たった3人のキャストで贈るロマンチック・コメディ・ミュージカル『あなたの初恋探します』がこの春、東京・浅草九劇で上演される。もともとは韓国で生まれた小劇場ミュージカルで、2010年に映画化もされた人気作。日本ではこれまで3度上演されているが、今回は新訳、新演出で登場。キャストも佐奈宏紀、石井雅登、愛加あゆ、山口乃々華、平野良というフレッシュな顔ぶれになった。3月上旬のある日、この稽古場を取材した。

 

取材日の稽古は、振付の確認稽古から始まった。オープニング、タクシー、インド旅行と、本作を知っている人は「ああ、あのシーン!」とわかるだろう、作品を代表する名場面のオンパレード! ……なのだが、ここは高ぶる気持ちをぐっと抑えて物語の紹介から始めよう。

主人公・ビョンソンは、何をやっても空回り、どうもツイていない青年。ある日とうとう会社をクビになってしまい、一念発起して“初恋を探す会社”を立ち上げる。そこにやってきた第一号の客は、これまた会社を辞めたばかりの女性・ユナ。それなら結婚をしろと父にせっつかれた彼女は「結婚はしたくない、なぜなら忘れられない人がいるから」と打ち明けたところ、だったらその相手を探せと父に連れられビョンソンの初恋探し会社にやってきたのだ。手掛かりはありふれた“キム・ジョンウク”という名前だけ。ビョンソンとユナは、“キム・ジョンウク”を見つけ出すことができるのか……!?

『あなたの初恋探します』をこれまでにも観たことがある人は、上記あらすじを読んで「あれ?」と思われたことだろう。実は本作、韓国では慣例として主人公とヒロインの名前は演じる俳優本人の名前が使われているのだが、 日本では2016年の初演からミニョクとリタという名前で固定されていた。今回は新訳ということで、主人公とヒロインの名前もリニューアル、ビョンソンとユナという名前になっている。ビョンソン役は佐奈、石井のダブルキャスト。佐奈はさながら大型犬の可愛さ。母性本能をくすぐる青年像だ。石井のビョンソンはとにかく優しそう! 優しさゆえに強く出れず、結果頼りない……という方向性か。キャリアも個性もまったく違うふたりなので、すでに稽古場の段階でまったく違うビョンソンが生まれている。一方、ヒロインのユナは愛加、山口のダブルキャスト。愛加はコミカルな演技はチャーミング、さらにある程度のキャリアがあるからこそ素直になれないところや、それでもやっぱり恋に期待している点などがクリアでさすがの役作り。自分の人生のこの先を考え始めているお年頃のワーキングウーマンにはぐさぐさ刺さりそうだ。まだ若い山口は素直な歌声と豊かな表情が武器の、愛らしいユナ。困ったシーンは全力で「困った!」という気持ちが伝わってきて、思わず応援したくなる、新しいヒロイン像だ。それぞれがまったく違う役作りなので、主人公×ヒロインの賭け合わせでも違う魅力が生まれてきそう! 振付もこの段階ではまずは丁寧に作り上げていたが、「この先、芝居で自由に(崩して)やってもいい」というような指示も出ていたので、さらに個性は別れていきそうで楽しみだ。

キム・ジョンウクを探すビョンソンとユナのドタバタ道中で出会っていく様々な人物を一手に引き受けるのは、“マルチマン”と呼ばれるキャラクターだ。20数役を演じる必要があるため、芸達者な俳優が配役されるのだが、今回は平野良が堂々と演じている。稽古場の段階で、シーンを通すたびに様々な手を加え、共演者たちも平野の茶目っ気溢れるマルチマンに笑いが止まらない。演じる20数役は性別も年齢も人種も飛び越え、しかも舞台袖に引っ込んだと思ったらすぐに出てくる大忙しの役だが、平野は生き生きと楽しそうで、どこか余裕すら感じる頼もしさ。稽古場の空気もぐいぐい牽引している平野のマルチマン、期待大だ。

振付稽古に続いての芝居の稽古では、演出の豊田めぐみのちょっとしたアドバイスで、キャラクターたちの“愛らしさ”がどんどん増していく。まだ稽古も半ばなので台詞間違いなどもあるのだが、間違えた人が悔しがり、その悔しそうな叫び声でみんなが笑い……と、カンパニーの雰囲気も、非常に前向きで明るい。この楽しい空気の中で、ロマンチックもコメディも増幅していくに違いない。フレッシュで“kawaii”がいっぱい詰まったものになりそうな新生『あなたの初恋探します』に乞うご期待!

公演は3月26日(土)から4月17日(日)まで。チケットは発売中。

 

取材・文:平野祥恵
撮影:岩田えり