ミュージカル『るろうに剣心 京都編』が絶賛上演中だ。
本作は、和月伸宏の剣劇漫画「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」を原作にした新作ミュージカル。脚本・演出を手掛けるのは小池修一郎、描かれるのは原作でも特に人気の高い“京都編”、劇場は客席が360°回転するIHIステージアラウンド東京、音楽を手掛けるのは太田健と和田俊輔、主人公・緋村剣心を演じるのは小池徹平と、あらゆる面で注目の作品だ。
ローチケでは、本作の出演者たちに直撃取材を敢行。その第五弾は、幕末に新撰組三番隊組長として剣心と戦い、今回の「京都編」では明治新政府の警官として登場する斎藤一役・山口馬木也のインタビューをお届けする。
※本インタビューは稽古序盤に実施
――ミュージカル『るろうに剣心 京都編』に出演することになって、どう感じられていますか?
「楽しみです。ただ、原作が大人気作なので、ファンの方々の熱い思いがあることも意識しています。あとは、僕はIHIステージアラウンド東京に立つのが3度目になるので」
――新感線☆RS 『メタルマクベス』 disc1(’18年)と『WEST SIDE STORY』Season2(’20年)にご出演されました。
「まだ後まで通していないですが、すでに『身体、大丈夫かな』という気持ちにはなっています(笑)。初めてあの舞台に立った時は、開幕してから7キロ痩せましたから」
――7キロ……。そんなに大変だとご存知でもこの作品への出演を決めたのはどうしてですか?
「それはやっぱり、面白い作品だったらやりたくなるっていうは性ですからね。それでもいざ稽古が始まると、俺の身体……大丈夫か?って(笑)」
――山口さんが演じる斎藤一は実在の人物ではありますが、作中の斎藤一に関してはどんな人だと思われていますか?
「僕の印象ですが、自分の欲求に素直な人であり、未来を冷静沈着に見つめている人だなと思います。自分の信念を貫いている、というイメージです。ただ、信念を持ってやっている人って、誤解されることもあるじゃないですか。それって、目の前のことよりもその先を見て行動しているから、誤解を生むんだと思うんですね。そういう行動がダークに見えたり、ヒールに見えたりして。この人は典型的なそのタイプなのかなと思います。先の先を見つめているがゆえに、というイメージですね」
――剣心のことはどんなふうに見ているんだと思われますか?
「剣心と斎藤さんって、見つめる先のものは同じだけど、方法論がちょっと違うんですよね。だから、どこかを緩めてしまうといい友達になれてしまう間柄だと思うんです。でもそこで一線引くことで、バランスのいい関係になっているのかなと思います。そういった意味では気を抜かないようにしなくちゃいけない。無条件で剣心のことを尊敬であったりとか友情であったりの目で見てしまうと、芯がブレちゃうのかなって」
――ふたりの間にはなにがあるんですかね。
「それは、はっきりしたものを発見せずとも、なんとなく感じられていればいいのかなと思っています。そういうものが、徹ちゃん(小池徹平)とやってるときに出てきたらっていうのは、楽しみなところではありますね」
――小池(徹平)さんのこと徹ちゃんって呼ばれてるんですか。
「そうです(笑)。でももう“小池さん”ですよね、本当に。俺は彼のことを“山椒は小粒でもぴりりと辛い”系の人だねっていうふうによく言うんです。本当に剣心みたいですよね。ふにゃっとした印象があるんだけど、中身はすごく男っぽいし、責任感も強い。だからこの作品で『緋村剣心役は小池徹平』って聞いた時、めちゃくちゃピッタリじゃん!と思いました」
――小池徹平さんも、斎藤一の必殺技「牙突(がとつ)」を楽しみにされていました。
「(笑)。それがね、牙突が大変なんですよ。刀で(斬るのではなく)突く技じゃないですか。この“突き”っていうのがすごく難しい。しかも特殊な刀の持ち方をするし、左手でやるんですけど、“突き”って(自身の利き手である)右手でやっても剣先がブレちゃうくらいなので。いまは剣先が止まる練習をしているところです」
――そういう難しさがあるんですね。
「はい。でも稽古場で練習していると、子役の皆さんが『牙突!』って真似するんですよ。それに、リアルタイムで『るろうに剣心』を読んでいた世代の俳優さんたちも、子供の頃に牙突をやったって言うし。影響力あるな……と思って(笑)。舞台でどんなふうに印象的にできるかな、というところは、手探りでやっていかないといけないなと思っています」
――小池修一郎先生の演出はどんな印象ですか?
「『こういう人が演出家になるんだな』って思うくらい、すごく真摯で、すごく真っすぐな方です。なんて言うんですかね……ねこまっしぐらな感じ……」
――一気にかわいい感じに(笑)。
「(笑)。集中して突き詰めていかれるので。先生の頭の中に『こう』っていうのがハッキリしているのですが、素直にそこに乗っかっていこうと思える演出家さんです。あと僕、ずっと勝手に思っていたことがあって。IHIステージアラウンド東京と宝塚歌劇団のパフォーマンスって相性いいんじゃないかな、と。小池先生はまさに宝塚歌劇団の方なので、そこも楽しみ。また新たな劇場の使い方をされるんじゃないかなと期待しています」
――ちなみにこの「京都編」というお話そのものにはどんな風に思われていますか?
「正直に言うと、今の(ウクライナに軍事侵攻が続いている)状況の中では考えてしまうことも出てきます。舞台の中でそれを表現するとかは全く考えていないですし、そもそもできることもないのですが、この状況下で自分が感じたことは念頭に置いておこうという気持ちもありますね。どこか祈るような思いもありながらできたらって」
――そうですね。お客様の中にもきっとそういう方はいると思います。
「そうですよね。演劇の空間ってそこだけの時間が流れるわけですが、やはり日常と密着していくものなので。普段はそんなこと思わないんですけど、今回に関してはそんなふうに感じています」
――2度もIHIステージアラウンド東京での公演を経験している山口さんにうかがいたいことがあって、あの劇場に立つ大変さはよく聞きますが、面白さってどういう部分ですか?
「ああ~なんですかね。でも、最後にお客さんの拍手をいただくまでわからないんだよな。やってるときは死に物狂いなんですよ。だからその最中に楽しさを感じることは、正直僕はないかも。苦しい。だけどそのぶん、お客さんの拍手で『あ、楽しんでくれてたんだ』ってことが分かったときに全部が報われた気持ちになって、じゃあもう一発やったろか!って気になります。あの劇場は、毎回『この一回で終わる覚悟』で挑まないとダメだった気がします。本当はそれじゃダメなんですけどね、明日も公演はあるわけだから。ただそのくらい、毎回高めてやっていました。でもまあ一人でやってるんじゃないのでね。みんなでやれるので。なんとか最後まで辿りつけるんじゃないかなと思っています。まあ不安は不安ですけど(笑)」
――今作にはどんな楽しみがありますか?
「僕はいつも、いざ劇場に立ってみて、お客様が入ってみて、そこで感じる何かっていうのがあるんです。そしてそれが自分の役に反映されたり、相手の役に反映されたりする。そうすると、自分の頭で考えていても絶対にできなかったことが、急にポンとできたりするんですね。その瞬間、全部が繋がった感じがします。お客様とか、相手役とか、セットとか、衣裳とか……。これを一体感というのかもしれないですけどね。あれは何にも代えがたい感覚です。奇跡みたいなものですが、だけど今回もそれを楽しみにしています」
インタビュー・文/中川實穗
写真/山口真由子