『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演 │ spiインタビュー 自身と役との意外な共通点とは?

『シュレック・ザ・ミュージカル』のトライアウト公演が、2022年8月に上演される。原作映画『シュレック』は2001年にドリームワークスが制作、公開から20年以上経っても世界中の子どもと大人に愛され続けるアドベンチャーコメディの金字塔だ。絆や愛といった普遍的なテーマを大胆に描いた傑作コメディは、どんなミュージカルに生まれ変わるのだろうか? 主人公・シュレックを演じるspiに、見どころや稽古の様子、作品への思いなどを聞いた。


――spiさんから見た『シュレック・ザ・ミュージカル』の見どころは?

「まず1つめが、シュレックというキャラクターの魅力です。世の中になじめず孤独を選んだオーガの彼が、冒険の中で友達をつくり、夢を見つけ、ときには厳しい現実に直面しながら自分の立ち位置を探っていく。そんなシュレックの姿に共感する人は多いはずです。2つめが、実力派揃いのキャストが奏でるお芝居の妙。たとえばファークアード卿(演・泉見洋平)は稽古の段階ですでにめちゃくちゃ面白いし、Wキャストのヤングフィオナたち(演・小金花奈/矢山花)は本当に可愛くて最高です。『シュレック』という作品は、ある意味絵本のようにシンプルなコメディですが、だからこそ要求されるレベルが物凄く高いと言えます。ここは大味にしたほうがいい、ここは細かくやったほうがいい、というように無数のセンスが問われる作品なのですが、どのキャラクター(役者)もそこを見事にクリアしていっています。メインキャストだけでなく、脇を固める俳優たちも一人ひとり抜群のセンスで役に向き合っているので、ぜひ全員に注目していただきたいです。そして3つめの見どころは、おならとゲップ(笑)。原作にあるおならとゲップのシーンにもしっかりチャレンジする予定です。大人も子どももぜひご注目ください!」


――応募数が1300通を超える激戦のオーディションだったとのこと。オーディションで手応えを感じた瞬間はありましたか?

「今回のオーディションでは、課題曲を歌っている最中、ただ音楽を楽しむことだけに集中できた瞬間がありました。上手に歌おうとか、役に近い自分をアピールしようとか、そういったことを全部忘れて“楽しんじゃえばいいや!”と良い意味で開き直れた瞬間です。今振り返れば、変なチャンネル入っちゃったな~と照れくさくなる気持ちもありますが(笑)、その瞬間パーンと何かが弾けたように心から笑って歌って踊りまくって、自分の殻を破れました。僕自身だけでなく、演出家の方もそれを見て良い手応えを感じてくださったようです」


――キャスト発表時のコメントで、spiさんはご自身を指して「王子様系ミュージカル俳優でもなく、トレンディ俳優でもない、モンスター系ミュージカルモンスター俳優」とおっしゃっています。これはどんな理由からでしょうか?

「今の日本演劇界でとくに人気を得ているのは、細身で顔立ちも歌声も中性的な美しさを持つ、王子様系の男性像ですよね。一方で僕はご覧のとおり、ガタイが良くてイカツイし、コワモテで、声もでかい。そういう意味で、僕はメインストリームとはかけ離れた立ち位置にいるのかもしれない。でも逆に、シュレックのような役は僕にしかできないという自負があります。シュレックは、いわば中年男性の悲哀を煮詰めたようなキャラクターです。たとえば、コンビニで気に入って買い続けていた食べ物が(世間的には売れなくて)いつのまにか消えてしまった……というような小さな絶望。これってあるあるだと思いません? そういう、自分と世間のギャップを感じる出来事に出会って、“ああ、俺って……”とガッカリした経験を持つ人って結構多いと思うんです。シュレックの場合はそのギャップがもっと顕著で、自分が好きなもの、美しい・かわいいと感じるものは、世間的に汚い・醜いとされているものだったりする。その違いのせいで社会から距離を置いて生活せざるを得ないという、悲哀の塊みたいなキャラクターです。でも共感できる人にとっては、そこが彼の大きな魅力にもなります」


――そんなシュレックをspiさんが演じると発表されたとき、周囲からどんな反響がありましたか?

「ありがたいことに、ポジティブかつ爆発的な反響をいただきました。ファンの方々も喜んでくださっていましたが、役者仲間や業界の方々からも“シュレック役をspiがやるなら一度見ておきたい”という声を本当にたくさんいただきました。発表時に出演していた作品の楽屋で共演者やスタッフさんが声をかけてくれたり、役者仲間から電話で連絡が来たりと、色々な反応をいただけて嬉しかったです」


――『シュレック』という作品では、さまざまな描き方で多様性が肯定されます。spiさんが感じているご自身の多様性、つまり個性や強みはどんなことですか?

「多様性という言葉についてまず語ると、僕は個人的に“人間はみんな根っこは一つで、もともと同じ資質を持っているんじゃないか”と思っています。どの資質が色濃く出るかが違うだけで、その色の濃淡が個性と呼ばれるものである、という感覚です。“じつはみんな同じなんだ”と考えることが、究極的に多様性を認めることに繋がるんじゃないかと、僕は思っています。だから多様性や個性という言葉については、なかなか一言では回答できない部分があります。ちょっと難しい話になっちゃってごめんなさい。できるだけシンプルな答え方をすると、僕自身が持っている強みは“声”かな、と思います。歌声でもセリフでも、自分の声は楽器として特殊な音や魔力のようなものを持っていると信じています」


――役作りをする上で「こうしていきたい」というプランはありますか?

「今回は役を作りこむというよりも、自分の中にあるシュレックに共感できる部分のボリュームを上げるイメージで稽古しています。今でこそ僕は、こんな恵まれた体格の男前としてやってますけども(笑)、幼少期はコンプレックスの塊でした。周りと見た目が違うことが気になって仕方ない、でも子どもだから、どうして違うのかはよく分からない。漠然と“みんなと一緒が良かったな”と思っていた時期もあったし、童話『みにくいアヒルの子』の主人公みたいな気持ちを抱えていたんです。シュレックにもそういう、“みんなと違う”コンプレックスがありますよね。でも彼はオーガの生まれで、どうすることもできない。だからあえて世間と離れて生きているんだけど、作中でドンキーが言うように、誰も一人きりじゃ生きていけないんですよ。生きていくには絶対誰かが必要なんです。それが分かっていながらも“一人でいい”って強がっているあの姿、もうすごく共感できるなあと思います。そんな共感できる部分を僕の中から前面に引き出す感覚で、お芝居を作っています」


――シュレックとドンキーの関係を一言でいうと、どんなものだと思いますか?

「因果というか、“腐れ縁”ですかね。なるべくしてなった仲という気がします。シュレックは、自分は一人で生きていくんだ、それでいいんだって強がっているけれど、ドンキーは超ポジティブにそのラインをぴょんと飛び越えてくる。シュレックの陰湿さ、卑屈さ、ひねくれている感じと、ドンキーのシンプルなポジティブさ、その凸凹がぴったりハマるあの感じは、やっぱり必然の出会いだったのでしょうね」


――映画『シュレック』に出てくるキャラクターで一番好きなのは?

「やっぱりシュレックですね。とくに好きなシーンは、フィオナに対する恋心が芽生えるシーン。そんな可愛いところもあるんだ!と、意外性に驚きました。キャラクターも良いですが、声を演じる俳優さんも良いですよね。僕、映画でシュレックを演じたマイク・マイヤーズさんが昔から大好きなんです。マイヤーズさんが脚本・演出も手掛けている出演作『オースティン・パワーズ』を、子どもの頃から夢中になって見ていました。それにドンキー役のエディ・マーフィさんも、コメディアンとしても俳優としてもずっと大好きで。他にもロビン・ウィリアムズさんやジョニー・デップさんなど、コメディのできる俳優さんに感銘を受け、お芝居っていいなという思いを大人になるまで育んできました」


――『シュレック・ザ・ミュージカル』で初めて演劇に触れるお子さんもたくさんいらっしゃるかと思います。作品を通じてどんなことを感じてほしいですか?

「お子さんたちには、とにかく楽しんでほしいです。何しろ、ビジュアルのインパクトは強いですし、変な人たちはいっぱい出てくるし、素敵な歌もたくさんあっておならもゲップも出てくる。面白さてんこ盛りの上に、ヒーローやドラゴン、お姫様が登場する冒険譚ですから、子どもたちは何があっても絶対楽しめるはずです。その一方で、大人たちはちょっと感動してしまうんじゃないかと思います。シンプルで面白おかしいストーリーの中に、多様性だったり、コンプレックスの問題だったり、根深いテーマが織り込まれている。“子ども向けの絵本を読んだら大人のほうが感動してしまった”という話をよく聞きますが、それと同じ現象がこの作品の観劇でも起きるんじゃないかなと。そういう意味で、大人も子どもも楽しめるミュージカルになっていると思います」


――spiさんは2.5次元作品でも大活躍されています。2.5次元での経験が今作に役立っている部分はありますか?

「2.5次元で学んだ度胸とメンタルの強さ、それと観客の心へ芝居を届けるやり方は、今作にも生きると思います。2.5次元というジャンルには独特の厳しさ、大変さがあります。ウィッグや衣装による制限もあるし、限られた時間内でこなさなくてはならないタスクも多い。その中でお芝居をしている役者は、みんな本当に強いんです。何があってもへこたれないし、飲み込みも速くて、自身や役の魅力をいかに観客へ届けるかという見せ方も熟知している。もちろんどんな分野にも学びはあると思いますが、そうした度胸、強さ、観客の心へ手を伸ばす方法というものは、僕は2.5次元から学びました」


――『シュレック』では、「仲間との絆」や「真実の愛」、「困難に立ち向かう」といったテーマが描かれています。そこで伺いたいのですが、spiさんご自身がいつも意識されている、困難の乗り越え方は?

「困難からは、とにかく逃げます!……というか僕は、大変なことでも困難と認識していないことが多いかもしれません。自分としては楽しんで挑戦している状態だけど、周りから見たら困難に立ち向かっている、みたいに見えているケースが結構あります。ただ、本当に大きなストレスがかかること、これは絶対やりたくないと思うこと、そういった意味での“困難”に対しては、逃げます。絶対やりません。たとえ困難のほうが追いかけてきても、しっかり逃げ切ります」


――シュレックというキャラクターや作品に影響を受けて、生活に表れた変化はありますか?

「ちょっと言葉遣いが雑になりました(笑)。友達と喋っているときに、ちょっとこう、“いいだろがー!”みたいな雑な口調が出てしまって、“あ、おれ今シュレックっぽかったな”と感じることがあります」


――今回はトライアウト公演ということですが、座長として目指す理想の形は?

「まずは、トライアウトとはいえひとつの完成された作品を作りたいです。トライアウトということでカットされているシーンもありますが、かなり計算されているので、それと分からないくらい完成度の高い一作になっていると思います。トライアウトということを忘れてしまうくらい、たっぷりと楽しんでいただいて、“本公演も絶対に観たい”と思っていただけるような作品に仕上げたいです」

 

取材・文/豊島オリカ