ミュージカル「Dear my パパ」観劇レポート

ミュージカル「Dear my パパ」が、9月3日から東京・シアター1010にて開幕した。

本作は2019年にストレートプレイで上演された同名作品をミュージカル化。脚本を亀田真二郎、原案・共同脚本・演出・アクションを初演のプロデューサー・演出の冨田昌則が手掛けた。またミュージカル化に伴い、作詞・脚色を声優の三ツ矢雄二、音楽を坂部剛、振付を當間里美が担当している。

物語の舞台は、とある場所にある男だけが暮らすシェアハウス。ある日、シェアハウスの裏口に赤ちゃんが置き去りにされていた。巷では赤ちゃんの誘拐事件が発生しており、通りがかった警官に犯人に疑われていると思った彼らは、とっさにシェアハウスの住人の1人が父親だと嘘をついてしまう。かくして個性的なシェアハウスの面々が協力しながら、赤ちゃんを育てていくことになるが――。

W主演を務めるのは、神永圭佑と佐奈宏紀。神永は警官を前にとっさに父親にされてしまった売れない劇団員・平野を演じる。平野は冒頭から電話で彼女に軽薄な態度をとってフラれており、役者としての仕事もほとんどない様子。父親役をしぶしぶ引き受けたのも、シェアハウスの家賃をタダにしてくれるから。おおよそ父親らしくない平野だが、赤ちゃんを育てるうちに心に変化が訪れる。ともすれば頼りないダメ男になってしまいそうだが、神永演じる平野からは、決めたことはやり通そうとする決意の固さなどが見え、人間的で魅力あるキャラクターに仕上げていた。

佐奈が演じるのは、今が楽しければOKというスタンスの若者・風斗。仲間とYouTubeチャンネルを運営しており、街中で撮影して不良に絡まれてしまうことも…。そして、ややストーカーめいた元カノからのメッセージで置き去りにされた赤ちゃんの父親かもしれないことが発覚。今の自由を失いたくない風斗は、そのことをひた隠しにしてしまう。暖簾に腕押しのつかみどころのない若者を、佐奈は実にチャーミングに表現。だからこそ、迷いの中から決意を固めていく後半の流れがぐっと際立って見えた。

そのほかのシェアハウスの面々も、40歳手前で酒を片手にフラフラしている森口(川﨑優作)や、風斗とともにYouTubeをやっていて風斗の部屋に入り浸っているお調子者の矢部(福島海太)と気の優しい日野(皆木一舞)と、赤ちゃんとは無縁の人々ばかり。オーナーのきみちゃん(鎌苅健太)は、みんなを包むような優しさはあるもののやや気弱な性格で、最初は全員、突然の赤ちゃんに戸惑うばかり。だが、だんだんと赤ちゃんの可愛さにメロメロになっていく――。

本作では映像もたくさん使われており、特に赤ちゃんが夜泣きで寝てくれないシーンでは、トランスやユーロビートに乗せて思わずクスっと笑ってしまうような映像を投影。どうしていいかわからないパニック状態の深刻さをしっかりと表現しながらも、実にコミカルに描かれていた。

また、場面によっては赤ちゃん目線の映像をリアルタイムで投影。顔を近づけてのぞき込む様子や、抱っこをしているときの優しい顔などがアップで映し出され、キャストの表情をたっぷりと楽しむことができる。

またミュージカルになったことで、歌やダンスでの表現がたっぷりと加わり、ストーリーの大きな流れはほとんど音楽で語られる。ソロでのそれぞれの見せ場はもちろん、ユニゾンでの声の厚さ、ハーモニーで魅せる華やかさからは、キャストらの確かな歌唱力を感じられた。

特に物語後半で正体を現す謎の男・観音寺(藤重政孝)のソロ歌唱は圧巻。子どもを育てる際に感じる苦悩、迷い、焦燥などネガティブな要素を一手に引き受け、問いかけのように”本音”を歌声に乗せて語りかけてくる。ヒールではあるが、その言葉にはある種の真実もはらんでおり、耳を傾けざるを得ない迫力を見せてくれた。

赤ちゃんを通じて悩み、葛藤して成長していく男たちの姿からは、親のありがたさや家族の絆のあたたかさを感じさせてくれるはず。果たして、シェアハウスの面々はこのまま赤ちゃんを育てていくことができるのか――。思いもよらない事件に巻き込まれ、命と人生の重みを実感せざるを得ないその結末を、ぜひその目で確かめてみてほしい。

ミュージカル「Dear my パパ」は、東京・シアター1010にて9月10日(土)まで上演される。

取材・文:宮崎新之