ミュージカル『アルジャーノンに花束を』|浦井健治 インタビュー

ミュージカル版の初代・チャーリイ役、浦井健治が9年ぶりに難役に挑む!

世界中で読まれ続けているダニエル・キイスの傑作小説を原作に、2006年に日本でミュージカル化された『アルジャーノンに花束を』。その後再演を重ね、2023年春、5回目の上演が実現する。

32歳にして幼児並みの知能しかないパン屋の店員、チャーリイ・ゴードン。「大学の偉い先生が頭を良くしてくれる」という夢のような話に飛びついたチャーリイは、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に連日さまざまな検査を受ける。やがて、ある手術によりチャーリイは天才に変貌するのだが……。

主人公・チャーリイには、記念すべき初演と2014年の再演時に同役を演じた浦井健治がみたび挑むことになった。
「初演でゼロから作る過程に携わった作品に、時を経て改めて参加させていただけるなんて、この上ない幸せを感じています」

と、浦井は作品への深い思い入れを語る。初演時には、このチャーリイという難役に向き合うために個人的に施設へ足を運んだのだとか。

「その施設では見学すること自体にも面接があり、いかに大切に一人ひとりと対峙されているかをまず痛感させられました。それと同時に、エンタメとしてこの作品をやらせていただくのなら決して失礼のないよう、誤解を生まないようにリアリズムの体現の中に敬意を払い、ずっと十字架を背負いながらやろうと覚悟して臨みました。あの時に出会った“こどもたち”と呼ばれていた方々の綺麗で透き通る眼差し、無垢で屈託のない笑顔、そして驚異的な集中力とずば抜けたひとつのことへのスキルの高さ、正確さ……。そこは今回も丁寧に思い返しながら、表現させていただきたいと思っています」

そして演出・振付で新たに上島雪夫が参加することにも注目。

「初演時から荻田浩一さんと作り上げてきた作品ではあるので、その流れをリスペクトしながらも、初演や再演をなぞるのではなく、上島さんと今回のカンパニーのみんなとで純粋に作ることを大切にしたい。それに今回の顔ぶれならば、稽古が始まれば和気藹々となるであろうことは確信できます。というのはまず、上島さんがとにかく明るいので。そしてこの作品の持つエネルギーは、涙の中に必ず生きることへの讃歌や明日への願いがこもっているからこそ、みんなが同じ方向を見て笑顔で歩める気がするんです」

またこの作品はミュージカル化したことで展開がスピーディになり、チャーリイの視点からの一人称ではなく登場人物たち全員の群像劇としたことで、原作小説とは違う魅力を纏うことにも成功している。斉藤恒芳による楽曲も、チャーリイの真意を含め、周囲の人々の感情などが観客の胸にダイレクトに伝わる効果を倍増させている。

「このメンバーならではの2023年versionとして、初演再演へのリスペクトはもちろん、3回目と4回目の矢田悠祐くんのチャーリイにも敬意を表して、5度目としてまたゼロから全員で意見を出し合い作っていけたら幸せだなと思っています。自分たちが戯曲から感じることを正直に、真っ直ぐに、創作する喜びを噛みしめながら進んでいきたいです」

物語の展開に思い切り泣かされつつも、温かい気持ちに包まれることは間違いなし。劇場には、どうぞハンカチをお忘れなく。

インタビュー&文/田中里津子

※構成/月刊ローチケ編集部 12月15日号より転載

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【プロフィール】
浦井健治
■ウライ ケンジ
’04年にミュージカル『エリザベート』でルドルフ皇太子役を務める。以後、ミュージカルやストレートプレイ、映像作品と幅広く活躍。