大竹しのぶインタビュー│Musical『GYPSY』

『ピアフ』で第44回菊田一夫演劇賞を、『フェードル』で第52回紀伊國屋演劇賞を受賞するなど、名実ともに日本を代表する大女優の大竹しのぶが、4月9日(日)より上演されるMusical『GYPSY』でショービジネスの世界に取りつかれた母親役を演じる。
実在のストリッパー、ジプシー・ローズ・リーの回顧録を元に、“究極のショー・ビジネス・マザー”の代名詞となった母ローズに焦点を当て、舞台で活躍する2人の娘を育てたローズの夢と努力を追うとともに、ショービジネスの苦難を愛情たっぷりに描いた本作。ローズの上の娘であり、のちに“バーレスクの女王”と称されるようになるルイーズを生田絵梨花、パフォーマンス力の高いルイーズの妹・ジューンを熊谷彩春が演じる。大竹に、本作への意気込みやミュージカルに出演することへの想いなどを聞いた。


――出演が決まる以前から、大好きな作品だったそうですね。

劇中で歌われる「Some People」という歌がすごく素敵で印象に残っていたんです。それを聞いたのは25年くらい前だったと思いますが、その曲がきっかけで『GYPSY』という作品を知りました。(その後に)映画で観て、面白いな、いつかやれたらいいなと思っていたので、それが今回叶いました。


――公演決定時のコメントには「いくつになっても何かに挑戦できるということは、とても幸せなこと」とありましたが、本作のどんなところが挑戦になりますか?

歌です。自分でも、本当に歌えるのかなと思っています(苦笑)。芝居で歌うということは技術がないとできないことですし、特にこの作品の楽曲はその要素が強い楽曲ばかりだと思うので、きちんとクリアしていかなければいけないと思います。私はミュージカルをそれほどたくさんやってきたわけではないので、この作品は私にとって挑戦です。


――こうした「挑戦」をいくつになっても続けていくのは、とても大変なことだと思います。

(オファーを受けた時は)怖いとか、大変だとか、あまり考えてないのかもしれません。ただ、やりたいからやると言ってしまう。だから、言ってしまってから「しまった」みたいなこともあるんですよ(笑)。でも、挑戦ができるって、すごく幸せなことだなと思います。

 


――今回、大竹さんが演じるローズについても教えてください。ローズは歌もセリフも多い役どころで、難しい役ですね。

これまでの海外での公演を観ると、ローズは全ての楽曲を芝居で歌っているんです。私もミュージカルは“芝居”だと思うので、その芝居をするためには、技術を身につける必要がある。公演まで、一生懸命レッスンをして、芝居で思うとおりに歌えるようになりたいですね。


――なるほど。音楽の技術があった上で芝居があるものなんですね。

「わー」と叫んだ声が、たまたま音に乗っているというのができたらいいなと思います。心がこの音になったという“セリフ”が歌になっているのがミュージカルなので、セリフで歌いたいんです。


――今作は、大竹さんのミュージカル初主演作『スウィーニー・トッド』の作詞・作曲を手がけたスティーヴン・ソンドハイムさんの作詞です。ソンドハイムさんの楽曲、作詞についてはどう感じていますか?

ソンドハイムさんと出会えて本当によかったと思っています。彼の音の世界は、その音である理由が全ての音にあるんです。彼の楽譜に並ぶ音符を見ていると、宇宙の広がりを感じられて、その音が世界の全てを作っているように思いました。改めて、彼は天才なんだなと。その世界に入れるということは、とてもすごい体験だと思います。変拍子があったり、オーケストラが出していない音を歌で歌ったり、とても難しい楽曲が多いのですが、だからこそ、その音がピタッとハマると気持ちいい。それを最初に味わえてよかったなと思います。


――今回演じるローズのどんなところに魅力を感じていますか?

ローズは、エネルギーの塊みたいな人です。彼女のエネルギーとユーモア、それからバイタリティと生活感に惹かれます。


――ローズは、ステージママとして娘をスターにすることに情熱を傾ける女性ですが、大竹さんから見て彼女はどんな母親ですか?

すごく勝手な人だと思います。本当は自分がやりたかったことを娘に押し付けて、しかも、妹の方ばかりかわいがって、姉はないがしろにしてきた。妹が出て行ってしまったら、今度は「あなたがスター」と言って姉をスターにしようとする。ひどい親だと思いますが、最後にローズが「私の人生は一体何?」と気づく歌が面白いんですよ。それに、そのローズの身勝手さが楽しい楽曲になっているので、その勝手なところもかわいく見えてくると思います。


――そんなローズに共感できるところはありますか?

夢や目標に向かって突き進むところは、すごくいいな、かわいいなと思います。私がこの作品を知るきっかけにもなった「Some People」という楽曲は、「私には夢がある」と歌っているのですが、いくつになっても夢を持って、自分の生き方を貫いている姿は魅力的だと思います。そんな彼女なので、全部の楽曲がエネルギーに溢れているんですよ。だから、彼女を演じるために体力つけなくちゃと思っています(笑)。


――ローズを演じる上で、ポイントとなるのはエネルギー?

私、エネルギーはあるんです。彼女の気持ちも分かる。ただ、それをちゃんと歌に乗せるのが難しい。それが私の大きな目標です。今回、共演者の皆さん、歌がうまい方ばかりなので、しっかり練習したいと思います。

 


――ローズの2人の娘を演じる、生田さんと熊谷さんの印象は?

熊谷さんとはまだお会いできていないので分からないですが、絵梨花ちゃんとはこの間、ドラマで一緒でした。アイドルとしてずっと第一線で活躍してきたのに、すごく普通の感覚を持っている方だったので、今回もご一緒できるのが楽しみです。でも、絵梨花ちゃんも熊谷さんも歌がとてもお上手なので、私が一番の劣等生(苦笑)。頑張らないといけないなと思います。


――では、ローズは夢に向かって生きる女性ということにちなんで、大竹さんの夢を教えてください。

夢か…現実は厳しいから、 夢とか持てないです(笑)。1日1日生きるのが精一杯で。今、ドラマの撮影で吉岡秀隆さんとご一緒しているのですが、彼ものんびりしている方でボーッとしているのが好きなので、「仕事がないとダメ人間だよね」と話しているくらいです(笑)。できるならダラダラしていたい人間なんですよ。目標を持ってコツコツ何かをするというのが苦手なんです。旅行に行きたいとか、温泉に行きたいとか、そんな小さな夢しかないです。でも、息子には結婚してほしい! それが今の気がかりです(笑)。


――最後に、改めて公演への意気込みを。

私たちのエネルギーで劇場が包まれればいいなと思っています。血が駆け巡る感覚を味わえるのは劇場の良さだと思うので、それを感じていただけたらと思います。今、こうしたご時世で、何でも“一人”ですることが多くなっていますが、みんなで歌を歌ったり、エネルギーを発散させるという、芝居の基本的な喜びを伝えられたら嬉しいです。1人でいることが当たり前というのはやっぱりすごく寂しい。一緒に何かを作る、人間のエネルギーを知ってほしいと思います。

 

取材・文/嶋田真己