ミュージカル「マリー・キュリー」オンライン公開稽古レポート

“キュリー夫人”で知られるノーベル賞科学者マリー・キュリーを題材にした韓国ミュージカル「マリー・キュリー」が3月13日(日)に東京・天王洲 銀河劇場にて日本初上演される。その一部シーンのオンライン公開稽古と取材会が行われた。

本作は、2018年に韓国で初演され、2021年の韓国ミュージカルアワードでは大賞をはじめ5冠を総なめにしたミュージカル。19世紀のヨーロッパ、まだ科学が男性のものだった時代に女性研究者の道を切り拓き、2度のノーベル賞に輝いたマリー・キュリーの情熱と苦悩、そして研究者としての強い信念を、Fact(歴史的事実)とFiction(虚構)を織り交ぜた『Fact×Fiction=ファクション・ミュージカル』で描く。演出を手がけるのは鈴木裕美。主人公マリー・キュリーを演じるのは愛希れいか。そのほか、夫のピエール・キュリーを上山竜治、マリーの親友アンヌを清水くるみ、投資家のルーベンを屋良朝幸が演じる。

この日に公開されたのは3つのシーン。1つ目は20代のマリー(愛希)が大学進学のため乗車したパリ行の汽車で、のちの親友アンヌ(清水)と出会う場面だ。愛希による歌唱(楽曲「すべてのものの地図」)から始まり、行き交う人々の中からあらわれるマリーは希望と瑞々しさに溢れていて、見ているだけで心が弾む。そこにアンヌが加わるとさらに光は増し、テンポのいいメロディと歌声にこの作品が見せてくれるものへの期待が膨んでいった。

2つ目は、投資家ルーベン(屋良)が学生たちに講演を行うシーン。屋良の歌唱(「遠い世界へ」)とダンスは華やかであると同時に、ルーベンのただものでなさが一気に伝わってくる。ルーベンは集まってきた科学者たちの論文に「論文のための論文、薄っぺらい仮説や実験。吐き気がする!」と辛辣な言葉を投げかけるがマリーは食らいつき、周囲の科学者たちに笑われながらも自らの仮説を提示する。「私が誰かではなく、私が何をしたかを見てください」と訴えるマリーの論文にルーベンは興味を持ち、研究を支援することを約束するのだった。

3つ目は、マリーと夫のピエール(上山)が、ラジウムの新たな可能性について仮設を立てているシーン。研究に没頭するマリーをピエールがやさしく支える姿、進歩を二人で無邪気に喜ぶ姿、そしてデュエット曲「予測不能で未知なるもの」から、二人が互いを研究者として尊敬し合い、夫婦としてどんな時間を重ねてきたかを感じられ、心が温かくなる。その後、マリーがルーベンを説得し、新たな資金援助を受ける際のやり取りは、(取材用にシーンを飛ばしているからではあるが)ひとつ前に見た二人のやり取りとはまた違う空気があり、その間の時間を垣間見ることができたのもおもしろい体験だった。

公開稽古後の取材会の内容は以下。

Q:みなさまからご挨拶をお願いします。

愛希 実は私は公開稽古が初めてで、どんな気持ちで挑もうと思っていたのですが、これまでの稽古にはない集中力を感じて(笑)、新鮮でした。そこで発見もあり、やはり本番のような緊張感で生まれるものがあるのだなと思いました。また、普段はマスクをして稽古しているので、初めて相手の方の表情が見えてすごく新鮮でした。

屋良 いま愛希さんもおっしゃったように、マスクなしのみなさんの表情を見て、「かわいらしいな」と思いながら……

一同 (笑)

上山 かわいかった?

屋良 (笑)。みなさんの素敵な表情が見られてよかったです。

上山 僕は愛希さん演じるマリーさんと共同研究をしながら、献身的に支えていく夫ピエール・キュリーを演じます。あとはみなさんと同じ気持ちです!

一同 (笑)

清水 私もやっぱりマスクをつけずにお稽古したことが久々だったので、みなさんこんな表情をされているんだなと知ることができて、とてもいい経験になりました。

鈴木 稽古はみんなですごくディスカッションや意見交換を頻繁にして、順調に進んでいます。やっぱりマスクがないと相手役からもらえるものが多くなりますから、本番では更に豊かな表現になると思うので、どうぞご期待ください。

Q:ご自身の役どころについてお聞かせください。

愛希 (上山に)役の話はここでしたね。

上山 ここでした。僕だけ早かったな。

一同 (笑)

愛希 みなさんご存知だと思いますが、キュリー夫人です。私も小学生の頃に伝記を読んだことがあるので、最初にお話をいただいた時にはそこでのイメージが強かったのですが、この作品は『ファクション・ミュージカル』で、みなさんご存知の“キュリー夫人”にプラスして、とても人間らしい部分があると思っています。私自身、すごく共感できたり、心を寄せられる部分が多いです。

屋良 僕が演じるルーベンは、作品の中でとても不思議と言いますか、異質なキャラクターとして存在しています。自分の目的を果たすためにマリーを利用している人間としての部分、お客様と同じ気持ちでシーンを見ている部分、そしてもうひとつ、僕の勝手な感覚ですが、あるシーンで牛耳っていたりもするような部分もあって。自分の中ではいろんな角度からルーベンを演じています。ダンスでの表現もあって、演じていてすごくおもしろい存在です。今まで演じたことがないキャラクターで、新しい引き出しを見させてもらっている感覚がすごく楽しいです。

上山 愛希さん演じるマリー・キュリーと共同研究をする……

鈴木 もう一回言うんだ(笑)。

一同 (笑)

上山 夫のピエール・キュリーです。でも彼は、自分史上一番やさしい役かもしれないです。

愛希 へえ~! そうなんですね。

上山 革命家とかテロリストの役とかやってきたのでね(笑)。だから温かい気持ちでやらせてもらっているのが、すごく新鮮です。

清水 私は架空の人物で、マリーの友人であり、影響を与える存在です。裕美さんが稽古中に言ってくださった言葉を借りるなら、「マリーが“静”ならアンヌは“動”」「マリーが“クラスで勉強が一番できる人”だったらアンヌは“運動が一番できる人”」みたいな、すごく対照的な役です。

Q:お稽古場はどんな様子ですか?

愛希 どうですか?

上山 やっぱ頭をすごく使うよね。

愛希 そうですよね。

上山 ずっとラムネ食べてるもん。ブドウ糖だから。

一同 (笑)

上山 屋良さんも隣の席で食べてる。

屋良 上山くんがずっと食べてるから影響されちゃって(笑)。

清水 屋良さんと上山さん、いつもおかしの交換されてますよね。

一同 (笑)

鈴木 科学用語とか難しいからね。頭を使うっていうのはよくわかる。

愛希 (屋良は)すごい長台詞もあったりするし、集中力がいりますよね。

屋良 いやいやいや。

愛希 やっぱり難しいし、大変だけど、楽しく充実した時間を過ごせているなと思っています。竜治さんは前作『エリザベート』から一緒で、また全然違った役として。

上山 前回は(命を)狙う役で、今回は守る役ですからね。

愛希 そういう意味でもとても新鮮ですし、私が思いつかないようなアプローチをしてくださるのでおもしろいです。普段もおもしろいですけど(笑)。

上山 普段はおもしろくしているつもりはないですけどね(笑)。

愛希 屋良さんとはこれが初めましてで、マスクをされていても目力がすごいので。

上山 ね、すごいよね。

愛希 その目力にやられそうになるから、「どうしよう!」って。がんばって立っていなきゃ!って思います。あと振り覚えがものすごく早いんですよ。驚きの集中力。

屋良 そこはジャニーズの経験かもしれない。

鈴木 「15分休憩します」って言って休憩終わったら一曲振りがつき終わってたからね。

愛希 それも簡単な振りではなかったので、「え、これを? あの時間で!?」という集中力に驚きました。

清水 しかも休憩時間に!

愛希 そうなんです。そのストイックさに「勉強させてもらいます!」って気持ちでいます。そしてくるみはね?

清水 はい(笑)。

愛希 席が隣で話し合いながら、あーだこーだ言いながら、本当に親友みたいに作らせてもらっていて、楽しいです。

Q:鈴木さんからご覧になった皆さんはいかがですか?

鈴木 愛希さんは今回初めてご一緒させていただいて、ストイックな方なんだろうなと思っていたのですが、実際すごくストイックです。やっぱりマリー・キュリーが猪突猛進なところというのは、ご本人も似てると思っているんじゃないかなと思います。

愛希 そうですね(笑)。

鈴木 屋良さんは以前から存じ上げてはいたんだけど、ご一緒するのは初めてで、何本も作品は拝見しています。その中でも今回はちょっと不思議な役で、私が言うのもなんだけど、似合っていると思う、すごく。

屋良 うれしい。

鈴木 ご本人がそうだとは思わないけど、役のサイコパス気味な感じも似合ってますよね。ダンスに関しても、アニメーションという技法があるんですが、そのダンスで歌うっていうこともやっていただきます。これは本邦初じゃないかな。屋良さんとは、そういうアイデアを出し合うのが楽しいです。「ここに(ダンスを)入れてみて、好きに」と言って、おまかせしているところがたくさんあります。竜治は今まで何度もご一緒している方で、時々謎の和みタイムを作ってくれるんだけど(笑)、ものすごくオリジナルな発想があったり、その感情にそこまで沸点を上げられるのかというような部分に救われることがとてもあります。稽古していて非常に愉快です。根がやさしいので、彼も非常に役に合っているなと思います。くるみちゃんもお芝居でご一緒するのは2回目なのですが、食事をご一緒することも多い中で、彼女は正直者だと思うんです。そこがちょっとアンヌと似ているというか。「いやいや、これ正しいよ」と思うことを口にするような部分で、ご本人と非常に似ている。もちろんみんな似ていないところもあると思うんですけど、そんなふうに似ている部分があるというのは、演じていておもしろいんじゃないかなと思うし、観ているお客様も違和感なく観ていただけるんじゃないかなと思っているところです。

Q:日本初上演となりますが、オススメのシーンは?

清水 ミュージカルなんですけど、裕美さんの演出によって「演劇を観ている」という感覚になるのが、日本ならではなんじゃないかなと思います。こちらも「ミュージカルだけど演劇だ」と思いながら演じているので、観てくださる方にもおもしろいんじゃないかなって。そして屋良さんが踊りますから。

屋良 (笑)。じゃあ僕からも。裕美さんがさっきアニメーションダンスのお話をされていたんですけど、今回キャストにさまざまなダンスのコンテストで賞をとっている聖司朗くんがいて、異質な空間をつくってくれています。それはミュージカルというジャンルの中では新しい表現だなと思っています。僕も聖司朗くんと二人で踊らせていただくナンバーがあるんですけど、見たことないですよね。

鈴木 うん、そうね。

屋良 アニメーションダンスをしながら歌うっていう、自分的には新しいチャレンジなのでめちゃくちゃ楽しいです。聖司朗くんを推したいです!

上山 この作品は本当に群像劇のようで、一人ひとりが個性豊かで素晴らしいキャストの皆さんなので楽しいです。コンテンポラリーダンスの要素とか、「これぞ鈴木裕美演出」というような部分がすごく取り入れられた、日本ならではの解釈でつくっていて。想像をかきたてられる作品になっているので、2回くらい観ていただきたいです。

愛希 裕美さんはすべて見逃さないというか、全部見てくださって、細かく演出をつけてくださるから。全員が気が抜けないぞっていう感じです。

鈴木 今回、『ファクション・ミュージカル』という歴史的事実と虚構が織り交ざっているミュージカルなのですが、事実に大胆な虚構をいれることによって、非常に劇的なうねりを生み出しているなと思います。そして曲がすごくいいです。

一同 うん、うん。本当に。

鈴木 ずーっと頭の中に流れますよね。素晴らしい楽曲だなと思っています。そしてこれは、韓国の演劇やミュージカルのファンの方に期待されるところなんじゃないかなと思いますが、非常にエモーショナルです。感情がほとばしるシーンがあるし、それをちゃんと支えてくれる楽曲がある。ミュージカルとして楽しいし、マリーという人が、外国人であったり女性であったりすることで科学をやる者として認められていない中で、どうやって生きていくのかというところを、史実ではないですが、楽しんでいただけると思います。

Q:最後に愛希さんからお客様にメッセージをお願いします。

愛希 日本初上演ということで、やらなければいけないこと、わからないことも多いですし、みんなでアイデアを出し合いながら、力を合わせながら、お稽古をしています。やはりマリー・キュリーというと、ノーベル賞を受賞した科学者というところから「難しい作品なのではないか」と思われると思うのですが、人間ドラマのある、みんなの熱量が高い、エネルギッシュな舞台になっていますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらうれしいです。お待ちしております。

取材・文:中川實穗
撮影:平野祥恵