ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』山﨑玲奈インタビュー

――山﨑さん、ホリプロタレントスカウトキャラバンで将来の夢がピーター・パンだということで、決まってどう思われましたか。

スカウトキャラバンを目指したきっかけのひとつに、「ピーター・パンになりたい」という夢があって、私の憧れの女優さんは高畑充希さんなのですが、高畑さんが出演された舞台だということもあって、すごく出たいと思っていたんです。それで、スカウトキャラバンでグランプリをいただいたときに「夢はピーター・パンになること」と紹介されちゃったんですけど、私は「えええ~!?」と思って(笑)。これで出られなかったら恥ずかしいよと思ったんですけど(笑)。だから今回出演が決まったときに、本当にびっくりしました。自分がこの役をできる日が来るんだと思って。うれしさよりも最初に驚きがきました。

 

――高畑さんが演じているところは観たことがありますか?

資料映像は観たことがあるんですけど、すごくかっこいいなと思って。高畑さんに憧れたきっかけがお芝居の素敵さだったので、そのピーター・パンを観たときに「ピーター・パンがそこにいる」と感じさせられました。私も高畑さんみたいに山﨑玲奈オリジナルのピーター・パンで、ここにピーター・パンがいる、いきいきと生きている、というふうに見せられたらなと思いました。

 

――ピーター・パンという役をやるにあたって、なにをしなければいけないとかそういうことは考えられました?

今回から新演出になるのですが、これまではかわいらしさの要素もあったと思うのですが、演出を手がけられる長谷川寧さんに「かっこよさ」だと言われたので、それこそ初代の榊原郁恵さん(※「榊」は正しくは”木へんに神”と表記)のようなかっこよさを求められたので、榊原さんの映像を観たりしています。また、私は行動にも女性の仕草が出そうになることもあるので、そうならないよう父や同級生の男子を見て、「こういうところが違うな」とか日常から学んで取り入れていきたいなと思います。

 

――長谷川さんとはどんなお話をされたのですか?

「今までと全然違うものになる」ということを最初に言われました。寧さんのお話を聞くと、コミカルさとか楽しさとかかわいさというよりは、本当にかっこよさを求めていきたいと。子供たちがちょっと怖く感じるようなシーンがあったり、大人の方も楽しめる作品にしていきたいとおっしゃっていました。子供にウケるポーズとか喋り方のイメージ像があったので、そこを壊して、子供に向けて喋るのではなくて、ピーター・パンのように喋ってほしいというか。自分がネバーランドの一番のリーダーだと思ってほしい、そういうかっこいいピーター・パンになってほしい、というふうに言われました。私自身も、寧さんにお会いする前から「かっこいいピーター・パンを目指している」といろんなところで言わせていただいていたので、そこがマッチしたなと思います。稽古場でも寧さんの考えているピーター・パン、私の考えているピーター・パンを話し合いながら、つくっていけたらいいなと思っています。

 

――山﨑さんはどうしてかっこいいピーター・パンを目指していたのですか?

私はディズニーのピーター・パンが大好きなんです。そのピーター・パンは、かわいい仕草とかはまったくなくて、シンプルにやんちゃな男の子が喋っている。それを見て、私も、ウェンディやティンカーベルが惚れちゃうようなピーター・パンになりたいと思って、「かっこいい」ピーター・パンを演じたいなと思いました。

 

――そのかっこよさってどんなものだと思いますか?

かっこよさは、自分をどれだけかっこいいと思っているかかなと思います。

ピーター・パンって少年で、自分より年下だから、子供っぽさが優先されやすい気がして、かっこよさを忘れちゃってる気がしていて。だから子供っぽさじゃなくて、自分をどれだけ「俺って一番だぜ」と思っているかで変わるのかなと思いました。

 

――例えばどんな風に?

どれだけ自分のことを一番というか、「フック船長なんかただの……プイだぜ!」みたいな(笑)。

 

――(笑)

そんなふうにどれだけ思っているかが大切なのかなと思います。

 

――ピーターはどんな男の子だと感じていますか?

なんでピーターがこんな男の子になったのかというと、孤独だったからかなと思っていて。人間の世界じゃなくてネバーランドで生きていて、お父さんとかお母さんもいなくて平気って言っているけど、本当は寂しい気持ちとか自分で気付いていない孤独感とかもあったりすると思うので。そういうのも頭の中で考えつつ、でもピーター・パンってみんなが惚れるくらいだから「ネバーランドで俺が一番」っていうやんちゃさもあるというか。

 

――やんちゃ!(笑)

(笑)。劇中にロストボーイズっていう子供たちが出てくるんですけど、そのやんちゃグループのリーダーだと思ってと寧さんに言われているんですよ。やんちゃで自信過剰で、キザとまではいわないけど自分のことをかっこいいと思っているような男の子だと思います。

 

――その「やんちゃ」の部分が今回のビジュアルのヘアスタイルにつながっているんですか?

そうですね。そういうところからやんちゃっぽさとかかっこよさをイメージしてもらえるように。ポーズも本当にフック船長を倒しに行くようなものだったりとかイケイケなので、ビジュアルから気合が入りました。

 

――じゃあ、長谷川さんの演出バージョンはこれまでとは大きく変わりそうですね。

はい。歌の歌詞も口調が挑発するような感じになったりとか、一人称が「俺」になったりとか。ピーター・パンだけじゃなくて、ロストボーイズの口調もそうなるので。本当に海賊がいて、モリビトがいて。ロストボーイズがリアルにいたらどうなるんだろうというところを追求されていて。弓矢や鉄砲の弾が飛び交っている中で暮らしている子供たちって、そんなに落ち着いていられないよねっていう話にもなって。

 

――そう見ると、『ピーター・パン』という物語はどういうふうに見えますか?

ネバーランドに行けるしあわせというのももちろんあると思います。ウェンディやジョンやマイケルが「行きたい!」と思うところなので、しあわせなところだと思うんですけど、表向きにはしあわせに見えるところなんだけど、その裏側には抗争があるし、フック船長という敵がいて本当に倒したいと思っているというか。自分が読んでいてもハラハラするような台本になっているので、私もワクワクしています。どんな稽古をしていくのか。

 

――最後に受け取るものは変わると思いますか?

でも基本的には一緒で、最終的には今までと同じくハッピーエンドだと思うんですけど、より一層考えさせられる作品になるのかなと思います。フック船長が負けたことは果たして幸せなのか、ピーター・パンはヒーローのように描かれるけど悪役の可能性はないかとか、いろんな意見が生まれる作品になるんじゃないかなと思います。

 

――長く上演され続けてきたもののまた新たな見え方をつくるって大変なことですよね。

はい。いくらそう考えていても、それを台詞で言うことはできないので、そこを感じてもらえるようなお芝居をしなければいけないのだと思います。仕草とかで伝えられたらおもしろいんだろうなと思って考えています。

 

――なにか参考にしていますか?

原作とか、『ピーター・パン』が生まれるまでのストーリーとか、そういうものを読んでいます。そうすると、自分の中から新しい視点が生まれてくるというか。ミュージカルとかディズニーとはまた違うイメージができるので、これまで当たり前のように思っていたものがまた違う視点で見えます。ただそうやって読んでいくと、『ピーター・パン』を今まで思っていた「しあわせな楽しい物語」とハッキリ言えなくなった自分もいたので。今回そういうものをいかに出していけるかが大事だなと思いました。

 

――そういう話を長谷川さんとも共有されているのですか?

はい。今回の上演台本、ブロードウェイ上演時の台本、原作、というのを全部見て、「これはこういう意図なんじゃないか」というのを一緒に一言一句調べていったりもして。すごく楽しい時間です。

 

――そういう時間の中で心に残っているやり取りはありますか?

一番驚いたのは、「ピーターは果たしてヒーローなのか」と聞かれたことです。私は完全にヒーローだと思っていたので、「違うんですか?」みたいになって。原作を読んだときに、寂しさを埋めるためにつくりあげた世界なんじゃないかとか、ネバーランドは子供しかいられないって言うけどフック船長は大人。それってフック船長は大人になろうとしてるんだけど、ピーターがそれを止めるために倒そうとしているんじゃないかとか考えられて。あれ?本当にピーターってヒーローなのかなと思う瞬間があって、びっくりしました。

 

――それを踏まえて演じるピーター・パンと、スカウトキャラバンでなりたいと思っていたピーター・パンってちょっとギャップがあるのではないですか?

ギャップがあります。考えることが増えました。みんなに楽しんでもらえたらと思っていた最初の自分と、今は、いかにピーター・パンって悪役?ヒーロー?って大人も考えるようなものにするにはどうしたらいいかなとか考えるようになって、深いストーリーにしたいなと個人的には思っています。

 

――フック船長役の小野田龍之介さんとはミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』で共演されていますが、フック船長の姿を見ていかがでしたか?

すっごく似合っていて、「かっこいー!」と思いました。でも私もそれに負けないようにしないとと思いました(笑)。かっこよさで負けちゃいけないっていう気持ちで撮影しました。オーラとか表情も素敵で。一緒にお話ししていたら本当におもしろいので、今日もたくさん笑わせてもらっていて。二人の掛け合いのシーンをつくるのは今から楽しみです。

 

――ウェンディ役の岡部麟さんはどんな印象ですか?

岡部さんはお芝居で共演したことがないんですけど、以前、同じイベントに出演したときにおしゃべりさせてもらいました。「『ピーター・パン』の稽古楽しみだね」っていう話のほかにもすごく日常の話をしてくださって。昨年もウェンディを経験されているので、すごく楽しみにされていました。私が言うのもなんですが、すごくかわいらしいので、ウェンディにピッタリな方だなと思いました。私が惚れちゃいそうなので(笑)。小野田さんも岡部さんもやさしいので、安心してお芝居できるなって思っています。

 

――たくさん喋ってくださってうれしいです。もしかしたら緊張されてるかなと思ったんですけど。

(笑)。緊張はしてるんですけど、お話しするのが大好きなんです。すみません、おしゃべりで。

 

――山﨑さんは『アニー』から、中止にはなりましたが『スクールオブロック』、『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』と経て今作となりますが、舞台に立つおもしろみみたいなものは感じていらっしゃいますか?

舞台に立つのは本当におもしろいです。これを味わうために私は舞台に立っているんだなと思うくらい好きなことが、生でお客様に拍手してもらうとか、おもしろいシーンで笑ってもらうとか本当にうれしくて。私にとっての舞台ってかけがえのないものだなって。生でお伝えできることが本当にすごいことで。私は観るのも大好きなんですけど、生でしか味わえない迫力とかリアル感は素晴らしいものなので。やる側としても生の掛け合いは「一人でやっているんじゃないんだな」という安心感が得られて、みんなでつくっている感じが大好きです。

 

取材・文:中川實穗