『ファッション・フリーク・ショー』│ジャンポール・ゴルチエ 取材会レポート

数々の伝説を作ったファッション界の鬼才ジャンポール・ゴルチエが、自らの半生をモチーフにした新感覚のエンターテインメント『ファッション・フリーク・ショー』の開幕に合わせて来日!公演会場となる東京・東急シアターオーブのロビーにて取材会を行い、今回のショーに関することだけでなく、ファッションとの出会いや想いなど、たっぷりと語ってくれた。

まずは集まった記者たちを前に、デザイナーとして活動をし始めた初期に日本の企業・オンワード樫山とライセンス契約を結ぶなどして古くから繋がりを持っていた日本には思い入れがあることを語り、さらには自らが影響を受けた日本人が数多く存在したことや、そのために若い頃から日本の文化に興味を持っていたことなどのエピソードも交えつつ、笑顔で挨拶。その後は、次から次へと寄せられる記者たちからの質問に、気さくに応じた。

――ゴルチエさんがプレタポルテ、そしてオートクチュールから引退されたのは「忙し過ぎるから」、とのことでしたが

プレタポルテは半世紀、オートクチュールも20年近くやってきましたが、とにかくその時期、タイミングに合わせて発表し続けなければいけないというのは本当に忙しかったんです。ですので、その当時からファッションはそういった決められたタイミングで披露するのではなく、違った見せ方で披露してみたいと思っていたんですね。その違った見せ方のひとつが、今回のエンターテインメントだということです。でもエンターテインメントといってもファッションショーとの共通点はありまして。ファッションというのは他にはない、目新しいファッション、トレンドを生み出してそれを紹介するというのが目的で、コミュニケーションの一環でもあります。表現の仕方、なんですね。その表現の仕方という意味ではファッションショーだけでなく、こういったミュージカル、エンターテインメントとしてもできるのでは、と思い、実現したのが今回の『ファッション・フリーク・ショー』です。これは、ずっと前からの夢でもありました。

ファッションショーのインスピレーションとなるのは、私の場合は映画から得ることが多かったです。映画を観たことをきっかけに「将来デザイナーになりたいな」とも思いましたしね。その映画の中のシーンにあったのが、キャットウォークでモデルさんが綺麗な服を着て歩いていた姿。だから「ショーをやるだけでなく、ミュージカルのように音をつけてエンターテインメントにしたら面白いかもしれない」ということは、最初から思っていました。そんなこともあって、これまでファッションでやってきたことを、その延長線上として今はエンターテインメントのショーとして行っています。

――ファッションデザインにおいて、一番大事にしていることは何ですか?

ファッションで大事なことは、まずその時代の社会に合わせること、そしてみなさんが何を求めているか、そのニーズに応えることだと思います。どんなに良いものを作ったとしても、タイミングが合わなかったらまったく評価されません。そういう意味でも、ファッションは社会を反映しているものだと思います。その時代に合ったものを作らなければいけませんからね。みなさんが何を求めているかを理解しながらクリエーションをしていくことが、デザイナーとしてとても大事だと思っています。

――今はランウェイで、多様なモデルが歩いています。ゴルチエさんは初期からいろいろな国の、様々な体型のモデルを起用されてきましたね

以前はファッションモデルというと、ある一定の美を保つために決まった体型でなければいけない、美しくなくてはいけないとされていましたが、でも私にとっての美はそうやって決められたひとつの形ではないんです。あらゆるものを美しく表現したいと思っているので、ある一定のタイプや体型の女性に限らず、あるいはその人種だけでもなく、また男女、ジェンダーも関係なく、すべての人を通してファッションを見てもらうことが大事だったんです。それから、ファッションの“傾向”という言葉がありますよね。今年のファッションの傾向は、たとえばスカートでは膝上ですとか、パンツでは幅広ですとか。そういうことは、私にはまったく考えられなくて。だってそれが今は一番ファッショナブルだとしても、その傾向が終わればもうそれはファッショナブルではなくなるというわけですよね。本当の美というものはそうではなく、その人に合った、その人がずっと楽しめる洋服なんですよ。

――今回の『ファッション・フリーク・ショー』では、自らの半世紀にわたるキャリアをモチーフに描かれています。このショーで、どんなことを伝えたいですか?

ショーの内容としては、まず私の幼少期からぬいぐるみのクマに、どういう衣裳が合うかなと絵を描いていたところから始まり、それからファッションのものづくりに対して興味が生まれ、ピエール・カルダンで修業をし、デザイナーとして一人立ちしてからの50年のキャリアがストーリーの軸となっています。どんなメッセージが込められているかというと、ファッションは一体何かということ。美というのはそれぞれみなさんの感覚、感情によっても違ってきます。自分にとっては美しいと思っても、他の人には美しくないかもしれない。さらに、どういうものが面白いかと考えると、サプライズですよね。こういうファッションもあるんだと、驚かせたいんです。そうやって驚かせることはファッションショーのランウェイでモデルさんに服を着せることでお見せすることもできますが、今回のショーでは自分が興味を持っていた映画の表現、そしてミュージカル的な表現に、そういったメッセージを合わせてみなさんに楽しんでもらいたいと思っているんです。

――ちなみにその大切にされていたテディベアは今、どうしていますか?

実は、靴箱に入れて今も保管しているんですよ(笑)。靴箱の中に新聞紙で包んで入れてあります。子供の頃に、そのクマにアイシャドウやチークでお化粧をしたりもしていたので、ぬいぐるみの状態としてはあまり良くないんですけどね。今回のショーの中で、現在のクマの写真も出て来ますよ。自分にとっては一番大事な、宝物です。確か3歳の時に、おじさんからクリスマスプレゼントでもらったものだったと思います。本当はお人形さんが欲しかったんですが、私は男の子だったのでクマさんになってしまいました(笑)。

子供の頃の記憶ということでは、5歳くらいの時にテレビで手芸の番組があって、女性が布地をハサミで切ってスカートを作っていたんですね。それを見て、スカートというのはこうやって布地を丸く切って真ん中に穴を開ければスポッと着られるんだと理解し、テーブルクロスを切ってスカートを作り、クマに着せたりしていました。また、やはりテレビで見た女性ダンサーの頭についていた大きな羽を真似て、家にあった掃除用の羽をあのクマの頭につけたりもしていましたね。振り返ると子供の時から、エンターテインメント、人にものを見せることに興味があったんです。むしろファッションよりも先に。それがこの、『ファッション・フリーク・ショー』にも繋がっているように思います。

――ゴルチエさんご自身がとても気に入っているシーンは?

この、自分の半生を描いているショーで私自身が最も印象的だった場面は、私のパートナーでもあったフランシス・メニューがAIDSで他界してしまっているのですが、彼とのことが描かれた部分です。やはり私にとって非常に心に残っているのがフランシスと出会いで、彼と二人でブランドを立ち上げていったわけですからね。ゴルチエというとボーダーのTシャツでも有名ですが、二人分の大きなボーダーTシャツの中に一緒に入ってダンスをするシーンもとてもロマンチックですし、若い時の出会いの瞬間がうまくそこで表現できていたと思います。その彼との別れの表現も、今回のストーリーとして最も大事な場面となっています。

――選曲にも関わっていらっしゃったんですか?

もちろんです。プレタのショーでも、バックでかかるサウンドはいつも自分で選んでいましたので。今回も今までのファッションショーと同じように各場面の音楽は自分で選んでいますが、特にフィーチャーしたのはナイル・ロジャースです。70年代後半から80年代は非常に印象深い時代でしたし、あの時代のディスコ音楽は楽しくて、テンポが良く、リズミカルで、ダンスにとても向いていると思うんですよ。今はネオダンスといって、若い人たちも80年代の音楽に非常に興味を持っていますから、自分が楽しかったあの時代の音楽を、現代の若い人たちにもぜひ楽しんでもらいたいと思っています。

また、今回の日本公演では特に、ファッションとミュージカルの融合したところを強調したいと思っていまして。最後のほうでステージにモデルやダンサーたちを集めて、ファッションショーのようにポージングをしてもらう場面があるのですが、これは日本公演で初めて披露する場面となっています。

コロナの影響もありましたが、ようやくこの『ファッション・フリーク・ショー』の日本公演の上演を実現することができました。非常に嬉しく思っています。ありがとうございました。

取材・文/田中里津子