ミュージカル『DEVIL』X-White役 中川晃教 インタビュー


――ビジュアル撮影を終えての感想は。

とてもいい環境で撮影することができました。衣裳、照明含め、モノクロでスタイリッシュな世界観。仕上がりが楽しみですし、通常なら日本で撮影するのでしょうが、今回は日韓の俳優の共演で上演するということで、僕が韓国の地に行きました。それも『DEVIL』という作品が持つ力なのかな。導かれるような感覚で、撮影に参加しました。とても楽しかったです。


――韓国の滞在は楽しめましたか。

はい。色々なミュージカルも観ました。僕、韓国作品を、韓国オリジナルのバージョンで観るのは初めてだったんです。韓国作品はとにかく食い入るように集中して観ることができます。音楽の魅力に加え、演出、美術、照明、そして俳優の演技のバランスがすごくいい。音楽を軸に総合力で魅せているから、言葉がわからなくてもエンターテインメントとして味わえるようになっているんだなと感じました。


――X-Whiteを中川さんとダブルキャストで演じるマイケル・K・リーさん、X-Black役のハン・ジサンさん、イ・チュンジュさんと一緒の撮影もありました。まずマイケルさんとは、すでに共演経験もあります(『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート 2021』2021年)。どういう方ですか?

マイケルさんとはその後もたまにSNSでコンタクトを取り合ったりはしていたのですが、実際にお会いするのはそのコンサートぶりです。とても素晴らしい方。ブロードウェイと韓国で大活躍されているという、僕からすると憧れる部分がたくさんあるのに、とても謙虚だし、温かく優しい。コンサートで共演した時も「なぜこんなに受け入れてくださるのだろう」と思うくらいオープンマインドで、まずその人間性に惹かれました。そしてさらに、歌唱力、表現力の素晴らしさ。しかも、これまで演じてきた作品が僕ら、けっこう重なるんです。例えば『THE WHO’S TOMMY』のトミーとか、作品としては『キャンディード』『サムシング・ロッテン!』も。そしてもちろん『DEVIL』ですよね。僕、前回の日本プレビューコンサートの時点では、マイケルさんがオリジナルキャストだとは知らず、あとから「マイケルさんがやっていたんだ!」と知りました。そういった不思議な共通項があります。今回、同じ役ですので共演できないのは残念ですが、でもこの作品を、そしてマイケルさんのX-Whiteを観ることができるというのはとても楽しみです。


――X-Black役のハン・ジサンさん、イ・チュンジュさんとは初対面でしたが、どういう印象でしたか。

ジサンさんは別の舞台を終えてから『DEVIL』の稽古に合流するそうで、とてもお忙しい方。でも不安よりも、日韓でともに何かを作り上げようとしているこのプロジェクトにエキサイトしているのが伝わってきました。韓国の作品を日本で上演することに対しすごくやる気になっていらっしゃるというのを感じ嬉しく思いましたし、それもまた『DEVIL』という作品が導いてくれるものだという思いがあるみたい。そこは僕もジサンさんと繋がる感覚だなと思いました。あと、僕と同い年だそうです!
チュンジュさんは37歳だそうで、僕のことを韓国語の「お兄さん」……「ヒョン」と呼んでくださいました。僕、まさに『THE WHO’S TOMMY』の時にお父さん役だったパク・トンハさんを「ヒョン」と呼んでいたんですよね。今度は僕がヒョンと呼ばれる立場になったのか、というのは感慨深い(笑)。またチュンジュさんご自身、弟的魅力といいますか、愛嬌があってつい構いたくなる距離感をお持ちです。また日本語の勉強をちゃんとされていて、今韓国で日本語の発音の先生に習いにいっているそうで、ご自身の役割を精いっぱい果たそうと努力されいる姿に、今回の出演への意気込みも伝わってきました。彼らと、私たち日本のキャストがこれからどう科学反応を起こしていくのかも、楽しみです。


――X-Whiteという役について、マイケルさんと何かお話されましたか。

プレビューコンサートの稽古中、最初にX-Whiteは天使だというヒントをもらったのですが、やっていくうちにどうやらこれは天使ではないのでは、神なのではと感じていったんです。X-WhiteとX-Blackを神と悪魔と捉えたら理解しやすいと。そんな話を先ほどマイケルさんにしたところ「確かに天使という見方もできるけれど、でも序列でいったら天使より神の方が上。だから色々な解釈はできるけれど、僕も神ではないかと思っている」とおっしゃって。それだけでも聞けてよかったなと思っています。マイケルさんはわからないことを聞いたら何でも教えてくださるので、逆に僕も質問されたら答えられるようにしないと。さっきもジサンさんに「日本語のイントネーションを教えてほしい」と言われて、「もちろんです!」と答えたのですが……むしろ僕の日本語、大丈夫かな(笑)?


――綺麗な日本語ですよ! さて『DEVIL』は日本ではプレビューコンサートという形で2021年に上演されました。中川さんが思うこの作品の魅力は。

マイケルさんが「この作品はRockだ」とおっしゃったんです。確かにサウンドがロックのテイストなのですが、反骨精神という意味でのRockだとも思います。一人の人間の、人生に対してのRock。あるいは神と悪魔の存在に対してのRock。様々な登場人物の内面にあるRock、それがこの作品の個性なのかもしれない、とマイケルさんの言葉を聞いて思ったところです。


――ちなみにプレビューコンサートのお客さまの反応は覚えていらっしゃいますか。小さい劇場ですごいものがやっているぞと、お客さまもじわじわと熱狂していった印象がありますが。

村井良大君が演じたジョンと、雅原慶ちゃんが演じたグレッチェンがすごい勢いで話を進めていって、そこに色気のある小西遼生君のX-Blackが謎めいた存在で立ちはばかり、僕のX-Whiteが対峙する。それをシアターウエストの密な空間でお客さまが目撃する……とても贅沢な時間を皆さんには味わっていただけたかと思います。……なんだけど、ちょっと皆さんの頭上にクエスチョンマークが浮かんでいる気もした(笑)。確かに「to be continued」という感じはありましたよね。「本編、観たい!」という感情が皆さまから伝わってきました(笑)。
韓国の大学路でも、オフ・ブロードウェイでも、ミュージカルを志す若者が小さい劇場で作品を作り、それを何度も繰り返し上演し、作品をどんどん育てていきます。この『DEVIL』はその感覚があります。この作品がこの先どうなっていくかはわからないけれど、プレビュー公演からまずはお客さまを巻き込む、楽しんでいただく。日本における、大学路やオフ・ブロードウェイタイプの作り方のロールモデルになるんじゃないかな。シアターイーストでプレビューコンサートをやり終えた意義は大きく、同時に次がすごく重要になってくる。期待していただきたいです。


――今回、新たに作り上げる『DEVIL』はどうなりそうですか?

プレビューコンサートでは、オリジナルの持つロックのサウンドを大事にしながらも、どのように日本版として深めるかというところにチャレンジし、クラシックの要素、アコースティックの要素も大事にした“ロックオペラ”というところで日本版として提示しました。元々作曲家が二人いらっしゃるというのも作品の特徴ですが、神と悪魔、ジョンとグレッチェン、それぞれの芝居の要素が二人の作曲家の違い……ロック的な部分、アカデミックな部分から紐解けますし、音楽性によって芝居が、作品が変化すると思う。今回は弦楽器のカルテットも入り9人編成で演奏されるそうです。今回作品がどう変化するかも、音楽が一つの鍵になってくると思います。
また言語も、日本語と英語が入り混じります。X-Whiteは僕は日本語で演じ、マイケルさんは英語で演じる形になりますが、人間ではないものを人間が演じるにあたって、言語が異なるというのは、何か超越した存在感を提示できるのではないかと期待しています。実際、神というものはそこに存在しているだけで、声も聞こえなければ姿も見えない。形とか音とかそういったものではない存在を表現するにあたっては、究極のことを言えばビジュアルや音といった情報はいらない。「余計なものを排除していって残ったものが真実である」というようなことをお伝えできるカンパニーなのではないでしょうか。


――楽しみにしています! 最後にお客さまへのメッセージを。

『DEVIL』は韓国で生まれた作品ですが、物語の舞台は韓国ではなく、全世界、全人類に共通する物語。その部分をまず楽しんでほしいです。そしてこの作品の価値は、ただ音楽がカッコイイとか、ただ美しいというところではなく、作品の根底に流れていると思っている。それは言葉にすると「出会っていること」「繋がり」といった感じかな。この作品と出会っている、この人と出会っている、その奇跡やタイミング、人生の必然性。今まで出会ったすべての人たち、すべての経験が、この作品には必要なんじゃないかなと思っています。例えば神と悪魔という存在をとっても、それをどう自分の中で咀嚼するかなのですが、それは言い換えれば“真理”。人は幸せな時はまったく気付かないけれど、不幸せになった時に気付くことがある。生きているということはそれだけで素晴らしいことなのに、人生の暗い道を歩き始めた瞬間、葛藤や迷いが生じる。そういう意味でこの作品は、観る人の人生とリンクすることで、エンターテインメントの可能性が広がっていくものになると思うんだけれど……どうやったらそうなるかは、僕ら作る側にもかかっています。かなりやりがいがあるなと意気込んでいますので、ぜひ楽しみにしていてください!

 

取材・文/平野祥恵