『シュレック・ザ・ミュージカル』シュレック役:spiインタビュー

ドリームワークスが手掛けた大ヒットアニメ映画「シュレック」を基に、ブロードウェイにてミュージカル化された「シュレック・ザ・ミュージカル」。2022年8月に90分の短縮バージョンがトライアウト公演として日本上演され、大好評を博した本作が満を持してフルバージョン公演を上演することになった。前回に引き続きシュレック役を務めるspiは、どのような想いで作品に臨むのだろうか。話を聞いた。

 

―昨年のトライアウト公演を経て、待ちに待ったフルバージョン公演となります。今のご心境はいかがでしょうか。

トライアウト公演が大好評で、フルバージョン公演ができることになりました。本当に嬉しく思っております。公演中から、お客さんが喜んでくださっているのは手に取るように分かったんですよ。特に、お子さんの笑い声が会場に響いて、すごく温かくて雰囲気がいい空間に劇場がなっていたのがとても印象的でした。シュレックは物語の中で、結構ツッコミ役なんですよね。誰しも、ちょっと周りとは違う趣向をもっているとか、周りに馴染めないとか…それがすごく小さなことでも、残念だなって思ってしまうような経験ってあると思うんです。そこを共感してもらえるように、どんどんお客さんにセリフを投げかけていきましたね。作品の方向性をディスカッションしていく中で、みんなで投げかけていったらどうだろう、っていう話も出ていましたから。


――メンバーとしっかりディスカッションをして作りあげた作品だったんですね。カンパニーの雰囲気はいかがでしたか?

すごくよかったですよ。作品自体もすごく分かりやすいお話だし、コメディですからね。基本的に、誰も傷つかない作りになっていますし、キャラクターも割と個性強めで作り込んでいるので、笑いの多い現場でした。演出家の方も、俳優の力を伸ばすサポートを、段階を踏みながら進めてくださったので、本当に空気がよかったです。セリフも本当に素直にお届けできるものばかりだったので、シンプルにやっていきました。でも、一周回ってそのシンプルさが難しくて。単純に、素直に、元気よく!ってやっていると、何度も続けているうちにねじれてきちゃうんですよ。何か新しいことをやってみようとか、ちょっと複雑にしてみようとか、技量がある俳優であればあるほど、踏み込みたくなってしまうんです。言わば、3段オチの3段目をちょっとズラしたりしてみて、ちょっとひねった笑いにしちゃうみたいな。その方向に持って行かずに、3段オチはきちんと3段目で落として、シンプル・イズ・ベストで!ってやっていくのが、意外と難しいところでした。お芝居として、そういう外しが重要なこともあるけど、子どもたちにもわかりやすい作品にするには、シンプルが一番だよね、というのはカンパニーで共有していたように思います。


――「シュレック」という作品の魅力はどのようなところにあると思いますか。

いろんなお話をシニカルにパロディしているところがやっぱり魅力的ですよね。”これ、どこかで見たことあるな”っていうものが、すごくいろんなところにあるんです。ちょっと偏屈というか、皮肉っぽくやっている感じが面白いですよね。それにキャラクターもみんなカワイイんですよ。ファークワード卿もフィオナ姫もドンキーも、みんなすごくいい。ピノキオや赤ずきんを食べちゃうオオカミとかもカワイイし、個人的には特にピーターパンがカワイイ! いわゆるピーターパン的な動きをしているんですけど、お前34歳でヒゲも剃ってないじゃねぇか!とか言われちゃう(笑)。

 


――確かに、キャラクターたちがちょっぴりヘンに見えても「僕ってこうなんだよ!」って言い続けているのは面白くもあり、胸を張って自分のことを言えていて、共感してしまいます。では、演じられているシュレックのキャラクターとしての魅力はどのように考えていらっしゃいますか。

誰でも「1人のほうが楽だな」って思うことや、誰かに心を開くことに後ろ向きになる気持ちってあると思うんです。シュレックは作品の中では誰からも裏切られていないし、被害も無いんだけど、きっと傷ついた経験があって。それは、きっとみんなにもあるんだと思います。シュレックはそういう部分を大きく見せているだけなので、きっとそこに共感してくれる人は多いんじゃないかな。言わば、自分がなりたいものになれないという現実との闘いですよね。例えば、僕は身長が186㎝あるんですけど、どんなに憧れても絶対に身長は低くならないんです。そんな、憧れているけどもどうしようもない境遇を、自分だけだと思っていたら、実はみんなそういう面を持って生きているんだよ、っていう曲が1幕の終わりにあって、そこにはすごくシンパシーを感じました。憧れた姿にはなれないと認めるのはしんどいけど、そうやって生きていくんだよね、わかるわかる…っていう気持ちです。


――ミュージカル作品として、楽曲面での魅力についてもお聞かせください。

ミュージカルになっていることで、アニメーション作品よりもより心の表現が増えているんですよ。音楽が加わることで、より共感しやすくなっていると思います。作曲のジニーン・テソーリは先日も「キンバリー・アキンボ」でトニー賞のミュージカル最優秀作曲賞を受賞していますし、過去に2度同賞を受賞している方なんですよ。だから、そもそもメロディラインにセンスがあって、とにかく楽曲がめちゃくちゃいいんです。今回、フルバージョン公演となったことで、それぞれのソロが1曲ずつくらい増えている感じです。お姫様はタップをするし、ドンキーも結構歌うし、ファークワード卿は彼がどうしてそうなったのかを説明してくれるような楽曲も増えますね。


――キャラクターのバックグラウンドがより見えてくるようになりそうですね。特にお気に入りの楽曲はありますか?

やっぱり、1幕ラストの曲ですね。シュレック、フィオナ姫、ドンキーの3人の声が合わさって、他の作品ではあまり感じたことのない感覚になりました。3人の鳴りが合っているのかも知れないですけど、声が合わさったときにすごくキレイだと思いますね。

 


――これから稽古も大変かと思いますが、忙しい中でも大切にしているルーティンや時間はありますか?

ゲームと筋トレしかしてないです(笑)。ゲームはオープンワールドのRPGが好きですね。ちょっと没入できる感じが楽しいです。筋トレはもう習慣みたいな感じですね。1~2年くらいやってるんですけど、筋トレをやらないともはや自尊心に関わってきちゃいます。体のどこかが痛くないと、生きている感じがしないですね(笑)


――筋トレの痛みは、自分の努力の証を実感できる瞬間ですもんね。最近、こだわっている体の部分とかはありますか?

すごくいい感じに言い換えてくれた(笑)。最近は、背中を鍛えるのにハマってます。男の背中は大事だと思いますから。世界も視野に入れて、背中で語れる男になるために頑張ってます。


――それ以外にもこだわっていることはありますか?

本当に近々だと、3日前からオートファジーを始めてみました。今のところ、すごく体が軽いです。砂糖も抜いているので、それでちょっと頭痛がしてるんですけど、体はすごく動きやすいので、こんなに軽くなるんだ!と驚いています。本当はシュレックっていう役だったら暴飲暴食したりして大きくしたりしてもいいのかも知れないんですけど、いろいろ撮影もあるので、今はどうしようかと悩み中です(笑)。いつも、ストイックじゃなくてもいい役の時はめちゃくちゃ食いますし、ストイックな役の時はストイックな生活になりますね。


――今後、役者として挑戦したいことは?

まずは、海外の作品に出演しようと動いていますね。日本の活動では、ミュージカル映画やドラマを日本語で作りたいです。ただ、日本ならではのローカライズの面で難しさも感じています。日本は余白の美しさがあるので、わざわざ歌わなくても、と感じてしまうことも多いと思うんです。沈黙で雄弁に語る国民性ですから。日本は音楽とお芝居がしっかり分かれていて、演技の後ろでBGMとして音楽が流れていて、観ている側がリンクさせるようなことは受け入れられるんだけど、本人が歌いだすとちょっと引いてしまうようなところがあるんですよ。その点、海外は歌って表現して発散するような部分がありますよね。そこをシームレスに表現できるように、今は考えているところです。


――最後に、今回のミュージカルを楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

昨年の舞台をご覧いただいた方ももちろん楽しめると思いますし、初めてご覧になる方もいろいろなお話のパロディがたくさんあって、お楽しみいただけると思っています。舞台そのものに対して、ちょっと敷居が高いとか、小難しいとかのイメージがあって、ご覧になったことのない方もいらっしゃるかもしれませんが、このミュージカルはそういうイメージの真逆を行くものなので、ぜひ来ていただきたいです! 初めて舞台を観る、初めてお子さんに観せる、久しぶりに舞台を観るという方にもぴったりな作品だと思いますので、ぜひ劇場にお越しください!

 

 

インタビュー・文/宮崎新之