写真左から)東啓介、立石俊樹
梅田芸術劇場が英国チャリングクロス劇場と共同で演劇作品を企画・制作・上演し、演出家と演出コンセプトはそのままに「英国キャスト版」と「日本キャスト版」を各国それぞれの劇場で上演したミュージカル『VIOLET』。2020年の日本初演では、コロナ禍での中止を乗り越え3日間限定での上演が実現した。再演の声が多く寄せられていた本作が、主演に三浦透子と屋比久知奈(Wキャスト)を迎え、新たなキャストを加えていよいよ4月に上演される。初演に続き演出を務めるのは、常に話題作を手掛ける気鋭の演出家・藤田俊太郎だ。
稽古が始まったばかりの2月、本作でヴァイオレットと出会う対照的な青年・フリックとモンティを演じる東啓介と立石俊樹にインタビューを敢行。作品への意気込みを語ってもらった。
優しくて不器用なフリック、根は純粋で人間味溢れるモンティ
――お二人は初共演になりますが、お互いの印象についてお聞かせください
東 一昨年の『エリザベート』でルドルフ役を演じられているのを客席で拝見したのが初めてで、とにかく「顔が綺麗で美しい方だな」というのが第一印象でしたね。
立石 ありがとうございます(笑)。僕はミュージカル作品の映像などで拝見していて、以前からミュージカルで活躍されている方なので、勝手に5歳くらい上の先輩だと思っていたんですよ。でも実際は僕の2歳下だったという(笑)。意外と近いんだと知ってうれしかったですね。同世代として一緒に頑張っていきたいなと思いました。
東 ありがとうございます。これから稽古場でご一緒できるのがすごく楽しみです。
――出演のお話を聞いたときの率直なお気持ちはいかがでしたか?
東 うれしかったですね。初演は観れていなかったのですが、出演が決まって周りの方々から「曲がめっちゃいいよ」と教えてもらって、実際に聴いてみたら本当にかっこよくて。僕が演じるフリックのナンバーはソウルフルな歌い回しがすごくかっこいいですし、メロディーも耳に馴染んで印象に残る曲が多くて、演じるのがさらに楽しみになりました。
立石 僕も出演できることがまずうれしかったですね。初演に出ていた知り合いからも、「めっちゃいい作品だよ」って聞いていたので。ただ、人間模様がリアルに描かれるという点では、自分がこれまで携わったことのないタイプの作品になるので、新しい挑戦になるだろうなと思いました。今日も歌稽古で改めて思いましたが、楽曲が素敵で、モンティの曲もドラマティックなメロディーラインがあったりして、これをしっかり表現できたらさらに作品の魅力も増していくんだろうなと感じました。
――台本を読まれて、物語の部分ではどんなところに魅力を感じられましたか?
東 まずはやっぱり、顔の傷というコンプレックスがありながらも、治ると信じて旅をするヴァイオレットの勇気ある行動ですよね。一人で田舎から出てきて、その行動力のすごさはかっこいいなって思いましたし、自分だったらそんな風にできないだろうな、って。だからこそ、フリックもモンティも彼女に惹かれて突き動かされたんじゃないかなと。差別を受けたりする辛い描写も出てきますが、ヴァイオレットは“希望の光”のような存在だなと感じました。
立石 それぞれにコンプレックスがあって、違う価値観を持っている人たちが、ヴァイオレットが始めた旅で出会い、各々違う方向だけれども前に進んでいる様子が終盤でわかったとき、人生の縮図を見ているような気持ちになりました。先ほど啓介くんも言っていましたが、ヴァイオレットが最初の一歩を踏み出さなければ何も始まらなかったと思うので、誰か一人の決断がいろんな人に影響を与えているんだということを、物語を通して改めて感じました。
――人と出会っていくことでしか人は変われない、とも感じさせられる物語ですよね。続いて、お二人が演じられるお役についてお聞かせください。東さんは、ヴァイオレットと出会い心を通わせていく黒人兵士のフリックを演じられます
東 フリックは優しくて繊細な心を持っていて、すごくいいヤツだなって思いますね。周囲の目にも臆せずヴァイオレットと一緒にいたりするのもそうですが、放っておけない人には自然と手を差し伸べる人というか。ちょっと小馬鹿にしながらモンティと3人の関係性を作っていく感じとかも、優しい人なんだろうなって。でも、ふと一人になった時の孤独感や、立ちはだかる差別への苦悩があってもその思いを伝えられない不器用さもあるんですよね。その不器用ながらも成長していく姿が彼の魅力でもあると思います。
――立石さんは、フリックとは対照的な人物である白人兵士のモンティを演じられます
立石 モンティは、フリックと比べたら人間性が欠けているのかな、っていう印象がありますね(笑)。ちょっと危ういところもあって。でも、フリックを庇って差別的な人たちを弾き飛ばしていったりと、性格の良さが見えるところもあるんですよね。一見悪いヤツだと思われるかもしれないですが、ヴァイオレットとの出会いによって、彼自身もようやく真実の愛に気付けたところがあると思うので、根は純粋な人なんだと思います。すごく愛らしい、人間らしいキャラクターとして捉えています。
――ヴァイオレットとの3人の関係性はどのように描いていきたいですか?
東 ヴァイオレットはダブルキャストというのもあり、それぞれの組み合わせで変わると思うので、それはすごく楽しみなところですね。中盤では言葉で相手を馬鹿にし合うようなコミュニケーションの描写もありますが、そういったシーンが盛り上がって、3人の関係性が上手く出せていけたらいいなと思います。
立石 組み合わせによってどう変わっていくのかは本当に楽しみですね。
――ヴァイオレット役の三浦透子さんと屋比久知奈さんの印象はいかがですか?
東 屋比久さんとは『カウントダウン ミュージカルコンサート』でご一緒したり、『ミス・サイゴン』でキムを演じられているのを拝見していますが、歌声のパワフルさから、生きる活力や力強さを感じるヴァイオレットになりそうだなと感じますね。
三浦さんとは初めてご一緒しますが、ポスターのビジュアルからも儚さやアンニュイな雰囲気を感じて、ふと見たときに「今何考えているんだろう?」って思うような、ちょっと吸い込まれそうな感じのヴァイオレットになるのかな、って想像しています。
立石 僕も同じようなイメージを持っていますね。まだお二人ともお会いできていないのですが、これから稽古を通して知っていくのが今から楽しみです。
――他にも魅力的なキャストの方々が揃っていますが、共演を楽しみにされている方はいますか?
東 原田(優一)さんは何度か舞台で拝見していて、面白い方だなあと思っていたので、今回ご一緒できるのが楽しみですね。歌も素晴らしいですし、舞台上で空間を支配するような存在感があって引き込まれるんですよね。舞台の演出もされたりと、何でもできる方だと思いますので、いろいろお話を聞いてみたいです。
立石 どの方も楽しみではありますが、spiさんとは以前『テレビ演劇 サクセス荘3』というドラマでご一緒したことがあって、今回ミュージカルで共演するのは初めてなので楽しみにしています。歌もお芝居も素敵なんですよね。spiさんは前回も父親役で出られていて、その評判も周りから聞いていたので、さらにパワーアップした姿を拝見できるのが楽しみです。
――演出は初演に続き藤田俊太郎さんです。東さんはこれまでも『ジャージー・ボーイズ』『ラグタイム』などでご一緒されていますが、藤田さんとのクリエイションにはどんなところに魅力を感じていますか?
東 藤田さんは、まず資料をたくさん用意してくださるんですよ。時代背景がわかるものや、参考になる映画なども見せてくれて。稽古場でも、「一回やってみましょう」とやってみた上で選択してくださるので、自分がやってみたいことをしっかり試すことができるんです。あと、みんなでディスカッションする時間があるのもありがたいですね。役や関係性を自分一人で理解するのは難しいところもあるので。そういった時間があると、「じゃあ今回の役は自分はこういう感じでいこうかな」と気付けることも多いですし、立ち稽古の時にも入っていきやすく、そのおかげで遊べる部分が出てきたりもするので、すごく楽しいですね。
――皆さんで一緒に作り上げていくような稽古場なんですね。立石さんは藤田さんの演出は初めてになりますが、藤田さんにはどのような印象をお持ちですか?
立石 啓介くんも言っていた通り、今日も新しい資料を持ってきて「見て見て」ってすごくラフに接してくださっていて、そういう姿がやはり印象的ですね。一緒に舞台上に居て、側で支えてくれるような感じがあると言いますか。「一緒にトライ&エラーしようよ」って寄り添って導いてくださるような雰囲気があって、だからこそ自分もしっかり期待に応えていきたいという気持ちになりますね。
ミュージカルは「生きがいと呼べる場所」(立石)
「ずっと挑戦し続けられる場所」(東)
――現在お二人はミュージカル界で目覚ましいご活躍ぶりですが、今、ご自身にとって「ミュージカル」はどんな場所になっていますか?
立石 僕は“生きがい”ですね。元々歌をやりたくてこの世界に入ったので、ミュージカルの世界を目指していたわけではなかったのですが、ミュージカルと出会って、「もっとやっていきたい」って純粋に思ったんです。舞台上で生きている時間は特別なものに感じていますね。旅の途中でまさかこんな出会いがあるとは、という意味では『VIOLET』に通じるところがあるかもしれませんが、僕もそういう感じで、ある日突然ミュージカルに出会って、そこで新たな価値観が作られていった感覚があるので、僕の中ではすごく革命的な出来事でした。
――ご自身の中で「ミュージカルをもっとやっていきたい」という気持ちが高まったきっかけのようなものはありましたか?
立石 『モーツァルト!』を観た時ですね。
東 めちゃめちゃ似合いそう!
立石 ほんとに?(笑)。劇場で観た時に「今までなんで知らなかったんだろう。いつかこういう作品に出てみたい」という気持ちが湧き上がって。ミュージカルという分野の魅力を感じ、感銘を受けた作品の一つになっています。
――東さんはいかがですか?
東 僕にとっても、「ずっとこの場所にいたいな」って思う世界ですね。作品に出会うたびに、さまざまなジャンルの音楽を知る歓びがありますし、新たに出会った楽曲を習得できた時の快感は他では味わえないなと思います。また、ミュージカルを通して自分の歌声が如実に変化していることも実感しています。手応えを感じていくにつれて、「もっと上手くなりたい。上手い人たちにたくさん出会って、いろんなことを吸収して自分のものにしていきたい」という思いも高まっていくので、ずっと挑戦し続けられる場所だなと感じています。
――お二人の舞台上の姿に、客席でたくさんの方が勇気やパワーを貰っていると思います。また、お二人とも錚々たるミュージカル俳優の先輩方と共演されていますが、先輩の姿から学んだことはありますか?
立石 人間力のすごさに毎回感銘を受けていますね。ミュージカルでずっと活躍されている方々は、人としての魅力に溢れている方がとても多くて。技術の面では、楽屋で聞こえてくる歌声を聞いているだけでも毎回勉強になります。自分で声を録音して、「この人っぽく歌ってみよう」とチャレンジすることもあるんですが、先輩方の素晴らしいところを盗んで、学ぶだけではなく、肩を並べて信頼してもらえる存在になっていけたらと思っています。
東 ミュージカルでトップを走られている皆さまって、「なんでこんなに優しいんだろう」ってよく感じますね。もちろん厳しさもありますけど、余裕があってドンと構えてくださるので、「かっこいい背中だな」と思って見ています。みんなが付いて行きたくなるような雰囲気や、何気なく掛けてくださる言葉に頑張ろうという気持ちになりますし、自分が年を重ねた時にも、そんな風になれたらいいなって思いますね。
立石 ほんとに優しい方が多いよね。
東 ほんとに。「大丈夫だよ」ってまず先に言ってくれるのがありがたくて。そういうあたたかさにも救われますね。
――今後もさまざまな作品でご活躍される姿を、皆さん楽しみにされていると思います
二人 頑張ります!
――それでは最後に、お客さまへメッセージをお願いします
立石 ご覧になられた方それぞれの感じ方や解釈の仕方があり、考えさせられる作品だと思います。再演となり、新しいメンバーとしてこの作品に参加させていただきますが、また素敵な形で皆さまに作品を届けられるように頑張りたいと思いますので、ぜひ僕たちの“旅”に一緒に付いて来てください。
東 今回、大胆で面白い舞台セットになっています。お客さまも“旅の一員”として舞台上に居られる席もあり、おそらくそこに座ったら緊張すると思いますが(笑)、皆さまがその場にいることによってこの作品は完成するので、『VIOLET』の一員として一緒に世界を作り上げていってもらえたらうれしいです。そして、物語のテーマの大きさと音楽の素晴らしさをぜひ劇場で味わっていただけたらと思います。
取材・文/古内かほ