ミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』│武田真治インタビュー

武田真治

ミュージカル「スウィーニー・トッド」出演 武田真治「5度目の上演にしてカンパニーは最高到達点に達している!」

宮本亞門演出のもと市村正親、大竹しのぶのゴールデンコンビで2007年に初上演され、再演を重ねてきたミュージカル「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」が、8年ぶりに戻ってくる。初演から青年トバイアス役を続投する武田真治が取材会で思いを語った。

「観客の方の熱いリクエストがないと8年ぶりのキャスト変わらずの再演にはつながらないと思います。8年も経てば別の方に世代交代となるのが演劇の世界だったりするんですが、僕の知りうる限りの市村正親さん、大竹しのぶさんというリビングレジェンドの夢の共演に、また自分も参加できるなんて本当にうれしいです」と冒頭から喜びをにじませる。

今回でトバイアスを演じるのは5度になる

「今から17年前の初演では、僕はまだミュージカル2本目という経歴。そこでこんなに難しい楽曲に出会ってしまって、できない、この壁は超えられないと思ったんです。でも亞門さんに丁寧に演出していただいたおかげで、今だったらX(旧Twitter)ですが、当時は手書きのアンケートに、多くのお客さんが『こんな風にやれるなんて』と感想を書いてくれたんです。それが心の支えになって、ミュージカルは面白いなと思って続けてこられました」と語る。

「スウィーニー・トッド」は、生前に宮本とも親交があったミュージカル界の巨匠スティーヴン・ソンドハイムの代表作の一つ。ソンドハイムといえば不協和音が鳴り響き、それが美しくつらなる、数々の難解な名曲を生み出してきた〝天才〟といわれる作詞・作曲家

武田にとって17年前に初めて聴いたソンドハイムの楽曲は「酔っぱらって書いたんじゃないかと思いました(笑)。こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、無茶苦茶なんですよね。ミュージカルの曲は、シングルカットしても耳なじみのいいポップチューンになりえるものなのに、ソンドハイムさんの曲はシングルカットしても売れないのではと思うぐらい(笑)。物語の中でいうと、必要なカオスなんですけど、どの曲もややこしくて。その中でもトバイアスが歌う『僕がついてる』というナンバーは、キーが高いという難しさがあるんですが、美しくミュージカルファンの中でも評価をいただいた曲です」

武田真治

特に初演の時の本読み(台本の読み合わせ)は忘れられない思い出だと振り返る。

「亞門さんが『今からする本読みは、今までで一番奇妙な時間になるだろう』と言われたぐらい、皆、訳が分からず、ひどかったんですよ(笑)。普通、人と一緒に歌う時って、ハモったりしますよね?僕が参加していない曲なんですけど、皆、別々の歌詞とメロディを歌っていて、まぁその時のお互いのびっくり顔が忘れられないですね(笑)。今回、本読みをやった時にスムーズにいっちゃって、人間はいくつになっても成長するんだなと思いました(笑)」とユーモアを交えて話す。

物語は18世紀末のロンドン。フリート街で妻子と幸せに暮らしていた理髪師のバーカー(市村)は、妻に横恋慕した悪徳判事ターピンに無実の罪を着せられ流刑に。長い年月を経て、フリート街にカムバックしたバーカーは、パイ屋を営むミセス・ラヴェット(大竹)から妻子の悲惨な末路を聞き、復讐を誓う。武田が演じるトバイアスは、ラヴェットを慕う純粋無垢な孤児の青年だ。

「初演では僕はまだ30代前半で、社会の底辺ですべての人におびえるネズミのような役をうまくできなくて。亞門さんが包帯を持ってきて、僕の衣装の靴にグルグル巻いて血糊を付け、『これは馬車か何かにひかれても、病院で診てもらえないはずの少年』と役を演じる足かせを作ってくれたんです。足を引きずるようなキャラクターにしたら、見えてくるものがあるんじゃないと」。それが役作りに生き、功を奏して大反響だった。「僕の一本目のミュージカル作品は『エリザベート』で、トートというギンギンのロックスターのような役だったんです。僕もまだ30代前半で〝アイドル俳優〟的な見方をされていたこともあり、ちょっと頭の弱いトバイアスを演じた時、観た方が『どこに武田が出ているのか分からなかった』と言ってくれました」

2度目の再演では、宮本から好きにやっていいと太鼓判を押されたそうだ。

「足かせがなくてもトバイアスを演じられると。でも3度目以降、また足かせの演出に戻しているんですね。それは、ご存じかと思いますが、僕がずっとやってきた筋トレでドンドンドンドン、健康になっちゃいまして(笑)。元気にワンパクになりすぎて、またちょっと違ってきた。今回もその演出を存分に使わせていただいています。やっぱり効果的ですね」と茶目っ気たっぷりに言う。

どのように効果的なのだろうか?

「僕は2022年に右足を骨折して、道路を渡る時とか、どうしても人の親切に頼らないといけないことが多々あったんです。世の中の見え方が僕自身も変わったし、助けてくれる人もいました。トバイアスを演じる時のための経験になったというか。今まで、痛くもない足をひきずって演じていましたが、ケガ自体は神さまが与えた罰なのかなと受け入れましたし、その経験を生かせているというのも変な感じですが、この役に反映できたのかな」と感慨深そうだ。

武田真治

今回はトバイアス役に加藤諒がダブルキャストとして加わる。

「最低限これをやっておけば幕は開くということを、僕が責任を持って加藤君に伝えたいなと思っています。また、加藤君が楽曲を歌う時、変なタイミングで入ったりしないように頷いたりして、こっそり合図を送っているんですよ。自分もお兄さんになったな(笑)と、成長を感じています。音取りの歌稽古も前回より格段に練習期間が短くなっていますね」と自信を深めている。

先日、稽古場での最終稽古が終わり、カンパニーは和気あいあいとしているようだ。

「市村さんも大竹さんも本当にフランクな方で、意見交換しやすい環境を作ってくださっています。5度目にしてこのカンパニーは最高到達点に達しているかもしれませんね。僕もあっちこっちで感想を言い歩いています。死んでいく時の断末魔はこういう風がいいよと、死ぬ役の人とはだいたいもうしゃべりました(笑)」

ソンドハイムの中でも異色と名高い、サイコスリラーの復讐劇だが、クスクス笑えるブラックユーモアもたっぷりだ。

「ラヴェット夫人とトバイアスが歌う、2幕の最初は平和で楽しい曲で、お客さんが思わず手拍子するようなシーンです。明るい、楽しいトバイアス君です。演じる上で、元気になりすぎないように、間違ってもスクワットや腕立て伏せはしないように(笑)、頑張ります!」と、最後まで取材陣を笑わせ、熱を込めて語ってくれた。

取材&文/米満ゆう子