ミュージカル『マリー・アントワネット』古川雄大 インタビュー

2006年に日本で初演され、その後ドイツや韓国などを回り好評を博したミュージカル『マリー・アントワネット』が新演出版として生まれ変わり、現在、東京で開幕中だ。同作は、遠藤周作の小説『王妃マリー・アントワネット』を原作に、『エリザベート』『モーツァルト!』を生み出したミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)&シルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)のコンビが手掛けている。物語の舞台は18世紀のフランスで、飢えと貧困に苦しむ民衆をものともせず、王妃マリー・アントワネットは豪奢な生活を送り、愛人のフェルセン伯爵との逢瀬を重ねている。ある日、貧しい生まれの娘マルグリット・アルノーが舞踏会に紛れ込み、アントワネットに現状を訴える。同作でフェルセンを演じるのは、今年『モーツァルト!』でタイトルロールを演じ、抜群の歌唱力と美しいルックスでミュージカルファンに大人気の古川雄大。その古川が来阪し会見を開いた。

 

――現在、『マリー・アントワネット』は東京で公演中ですが、手ごたえはいかがですか。

古川「この公演は博多座で本初日を迎えましたが、そこでは自分なりに初日を目指して作っていったものを披露できたかなと思っています。また演出家、音楽家がより良いものを目指していて、東京公演の舞台稽古で変化したところもたくさんあります。それに対応しながら、今までやってきてつかんだものを組み合わせて、東京公演に挑んでいる最中です。変わった部分というのは特に歌です。シルヴェスター・リーヴァイさんが『よりドラマティックで豪華に』と考えられていて、本番直前に変わることもあります。長期の公演中、僕もスタッフの皆さんと同じ気持ちで頑張ろうと思っています」


――歌が変わったというのは?

古川「音程だったり、ロングトーンを延ばす歌詞が変わったりしました。そんなに変化することは初めてだったのでびっくりしました。僕だけではなく、メインキャストの歌が大きく変化しています。公演が始まってから大きく変わるということはあまり経験したことがないので、舞台特有の瞬発力が必要だと感じました。僕なりに頑張っていますが、まだ苦戦しているところもあります」


――今回、古川さんが演じているスウェーデンの貴族フェルセンは、『ベルサイユのばら』を知っている人にはおなじみのキャラクターです。古川さんが彼の存在を知ったのはいつごろですか。

古川「いつの間にか知っていました。どの作品というのはないんですが、有名な人なので、自然と知っていました。以前、『1789 -バスティーユの恋人たち』に出演したときに、僕は別の役でしたが、フェルセンも登場しているので、そこで改めてどういうことをした人物なのか少し理解しましたし、今回演じるにあたって、改めて学び直しました」


――実際に演じてみてどうですか。

古川「かわいそうな人だと思いました。この作品の中では報われないキャラクターの中の一人だと思っています。フェルセンはマリーへの愛情を抑えながら、自分がやらなきゃいけないことをやっていくんですけれど、それもうまくいかず、最終的には愛する人が処刑されてしまう。どう見てもかわいそうで、悲しいキャラクターなんですけど、彼の中の正義やマリーを救い出そうという思いは最後まで貫く。そこはフェルセンらしいかなと思います」


――『1789』でも、フェルセンとアントワネットの関係が描かれていますが、今作とどう違うと感じられますか。

古川「『1789』ではあまり多くは描かれていませんが、今回、作品自体が初演とは違って、生々しさと人間味あふれるマリーを描こうとしているんです。演出家のロバート・ヨハンソンさんが顔合わせのときに、『仕方なくというより、周りの人の陰謀でマリーが処刑されることになってしまった部分を描きたい』と話されていて。マリーは王室の中だけで生活し外の世界を見られない。庶民がどんな状況で、どういう暮らしをしているのか全く知るよしもないんです。マリーが言ったという有名な『パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない』というセリフは、親切心で言っているんだと思うんです。今作では、この有名なセリフはマリーが言ったのではなく、マリーの取り巻きが言ったことになっています。でも、マリーは(民衆の暮らしの状況を聞いて)親切心から『もうワインは飲まない』と言うんです。フェルセンとの関係は、あまりいいものではないと思うんですが、今まで多くの人が思い描いていたマリー・アントワネット像とは印象が変わってくる作品になるのではと思います」――ロバートさんは『本当のマリー・アントワネット像を観客に伝えたい』とおっしゃったそうですね。

古川「実はマリーは、行き違いで処刑されてしまったというか…。オルレアン公や周りの人の陰謀や、勘違いのせいで、ああいう人生を歩んで処刑されてしまったのではないかと思うんです。マリーが一人の人間として、母親として成長していく中で、周りの人間が彼女を理解できなかったのではないですかね」


――フェルセンは命を懸けてアントワネットを守ろうとします。そこまで彼女に惹かれた理由は何でしょうか。

古川「フェルセンはオペラの舞踏会で仮面を付けた彼女に会って惹かれるんです。仮面を取ったマリーを見て、最初はそのルックスに惹かれた部分もあったと思いますが、マリーに接して、周りの噂とは違うそのギャップにも惹かれたんだと思います。人間としてかわいらしい部分を持っていたり、尊敬できたりするところもあったんじゃないでしょうか」


――今回、ダブルキャストで、花總まりさん、笹本玲奈さんがマリーを演じられます。フェルセンとして接し方の違いはありますか。

古川「そうですね。花總さんは今まで何作もご一緒させていただいています。『1789』でもマリー・アントワネットを演じられていますが、そのときとはまた違う印象です。今作ではフェルセンといるときは恋に生きている少女で、すごく引き込まれます。その後、一人の母親、女性として成長していって、フェルセンとしては距離を感じて切なくなる。最後は一人の母親と接しているみたいな感覚になり、『私たちは泣かない』という曲でフェルセンはマリーに諭されるんです。笹本さんは、初めて共演させていただいています。見るからに輝いている方で、マリーの華がぞんぶんに出ていて、そこに引き込まれます。歌もパワーに満ち溢れているので、歌で引っ張っていただいている部分もあります」


――マルグリット・アルノー役のソニンさん、昆夏美さんはいかがですか。

古川「僕は当初、ソニンさんのほうがガッと強さがあって、昆さんのほうが秘める感じだと思っていたんです。それが逆で、昆さんのほうが強く気持ちを押し出してくるマルグリットで、ソニンさんは内に秘めているという印象ですね。フェルセンに対してどう思っているかもありますが、ソニンさんはフェルセンに好意を持っているのかなという印象ですね」


――二人のMA(マリー・アントワネットとマルグリット・アルノー)を描くという物語の構成も面白いですね。マルグリットがいることで、よりマリー像が浮き彫りになるのでしょうか。

古川「登場人物の中でマルグリットだけが架空の人物ですが、彼女にお客さんが一番、感情移入するのではないかと思っています。最終的にマルグリットもマリーへの見方が変わり、彼女自身も変わっていき、その彼女を通してマリー像がより明確に理解できるのではないかと思います」


――フランス革命時の歴史についてはどう思いますか。

古川「現在にも通じるところがあると思います。こんなに派手な出来事や面白い時代はなかなかないと思うので、物語にしやすいのかなと思います。歴史的に魅力的な人物も揃っていますね――今作は衣装も豪華です。

古川「今回の衣装チームは『レディ・ベス』『1789』でもお世話になっています。いつも情熱を込めて衣装を作ってくださるので、今回、仮縫いの衣装合わせで直しを3、4回ぐらい、細部まで確認しました。それを経て出来た衣装は本当に素敵なんです」


――田代万里生さんが「ミュージカル『モーツァルト!』でヴォルフガング・モーツァルト役を経た雄大君は何かが違う」と今作のパンフレットの記事でおっしゃっていました。大きく成長されたという意味だと思いますが、いかがですか。

古川「あまりそうは感じていないです(一同笑)。ステージの真ん中で自分の発するものが変わり、大きく成長したように見えたのかなと思います。僕自身は何かが変わったとは特に感じてないですね」


――話は変わりますが、大阪の印象はいかがでしょうか。

古川「とてもにぎやかな街ですね(笑)。滞在中は街を散策したりもします。美味しいものがたくさんあることと、人が温かいという印象を受けています。舞台の反応はもちろん、タクシーに乗っても運転手さんが話しかけてくれたりするので、そう感じます」


――大阪で好きな食べ物は?

古川「シンプルにたこ焼きが好きです(笑)」


――名古屋と大阪公演では、フェルセン役は古川さんのみのシングルキャストです(博多、東京は田代万里生とのダブルキャスト)。そういった意味で意気込みに変化はありますか。

古川「そうですね。名古屋、大阪とシングルキャストになるんですが、体力的には問題ないです。でも、皆そうですが、精神的に大変な作品だと思うので、舞台がない時間はリセットして頑張りたいです。マリー役のお二人は特に大変だと思いますし、それを守る側としても何かリフレッシュの方法を見つけたいですね」


――先ほど、フェルセンのことをかわいそうな人だとおっしゃっていましたが、気持ちを引きずる部分がありますか。

古川「舞台が終わってからはないですが、作品の中ではつらい思いをしています。冒頭はフェルセンの回想シーンから始まり、最後に再びそこへ戻るので、そこに向けて様々な場面で当時の様子をよく見ているのですが、その時、その時で気持ちが違ってくるんです。そういった部分で、より重く感じてしまいます」


――大阪公演は元日に初日を迎えます。

古川「大晦日も稽古なんだろうな(笑)。大団円という作品ではないですが、新年の初日をお客様とこの作品で共有できるのはありがたいことですし、幸せです」取材・文:米満ゆうこ
ヘアメイク:サトウアツキ、スタイリスト:吉野誠