森雪之丞が作・作詞・音楽プロデュース、岸谷五朗が演出を手がけるオリジナル・ミュージカル『SONG WRITERS』が11月から12月にかけて上演される。
本作は、1976年のアメリカを舞台に、いつか自分たちが作ったミュージカルがブロードウェイで上演されることを夢見る自信過剰な作詞家エディと気弱な作曲家ピーターが、自分たちの作るミュージカルの世界に迷い込み――という物語を描くオリジナル・ミュージカル。2013年に東京・シアタークリエにて初演、2015年に再演され、約10年ぶりの上演となる今回は、初演オリジナルメンバーである屋良朝幸、中川晃教、武田真治、コング桑田に加え、新たに実咲凜音、相葉裕樹、青野紗穂、蒼木陣、東島京が出演する。また中川は、KO-ICHIRO(Skoop On Somebody)、さかいゆう、杉本雄治、福田裕彦と共に作曲にも参加している。
自信過剰な作詞家エディ・レイクを演じる屋良朝幸と、気弱な作曲家ピーター・フォックスを演じる中川晃教に話を聞いた。
「誰が僕たちの名前を挙げてくれたんだろうねって」
――約10年ぶりに『SONG WRITERS』を上演されることになって、今はどんなふうに思われていますか?
屋良 今日は一緒に撮影をしたのですが、その時の僕らが答えでしたね。
中川 そうですねぇ。
――どんな雰囲気だったのですか?
屋良 イチャイチャしてるから。
中川 (笑)
屋良 距離近くない?っていう(笑)。
中川 それに屋良っち(屋良)は、もしかしたらこれが最後の作品になるかもしれない、ぐらいの思いで出演されるということで。
――……え! そうなんですか?
屋良 そうなんです。一回演劇と離れることも考えてみる、ということで(所属事務所から)独立したので。この作品だけはやらせてもらうんですけど。
――そこでこの作品には出演しようと思われたのは。
屋良 それはやっぱりアッキー(中川)とだから、ということもある。
――大切な関係なのですね。
中川 この作品は初演が2013年なんですけど、僕たちはその時に出会って、当時はお互い30歳で、そこから40代になるまでの時間をこの演劇業界、ミュージカル業界、エンターテインメント業界で共に歩ませてもらってきました。そういう存在は僕にとっては特別です。屋良っちからすると別に「いっぱいいるんだよ、そんな奴は」って感じかもしれないですけど……。
屋良 あっはっは! いや俺もそうですよ。この作品をやるまで俺は、(舞台で)同世代に会っていないんです。もちろん事務所の中にはいるんだけど。ポジションがちょっと特殊だったから意外と仲間っていなくて。割と個でやってきてた中で同年代のアッキー(中川)と会えて、初めて「仲間」と思えた。
中川 うれしい。
屋良 それがめちゃくちゃでかくて。アッキーはクリエイターでもありますからね。同年代のそういう存在はすごく大きかった。それに生きてきた道が違うから、自分にない感覚があって、そこに憧れもあったりとか。
中川 僕は初演の時にこのお話をいただいて、バディを組ませてもらえる相手はこういう人だよって聞いて、舞台『Endless SHOCK』を観に行ったんです。その時に「すごい」と思ったんですよ。そしてほんとに楽しみになった。やっぱ類は“類”を呼ぶ……
屋良 “友”ね(笑)。
中川 (笑)。そういうことがあるのかなと思いました。まったく違う出自だけれども同い年でね。誰が僕たちの名前を挙げてくれたんだろうねって話してたんですよ。
屋良 そうだよね。
中川 同世代で、それぞれが歩んできた道の中にはあまりいなかったような、こうやって共になにかをつくっていきたいねと思える仲間と、ここで出会えたんですよね。
「自分の歌はこの作品がスタートなんです」(屋良)
――作品についてはどのように思われていますか?
屋良 ダンスもアクションもある作品だけど、俺は音楽の力が大きいなと感じています。アッキーと二人で歌うところもあって、その中でもアッキーが作ってくれた楽曲(『現実の国で夢見る人』)が自分の中では一番印象に残ってる。
中川 うれしい。
屋良 『現実の国で夢見る人』は初演の時にすごく苦労したんですよ。アッキーとハーモニーを作っていくという技量が俺にはなかったから。でもそこでアッキーがひとつひとつ教えてくれて。そういう時間も含めて、すごく思い入れのある好きなナンバーです。歌で、ハーモニーで、伝えていく。これがミュージカルだということを初演の時に痛感しました。だから自分の歌はこの作品がスタートなんです。
――でもそれまでの屋良さんもできなかったわけじゃないですよね。
屋良 ある意味器用貧乏だったから、なんとなくできちゃう部分はいっぱいあったけど、「うわ、打ちのめされた」と思ったのがこの作品でした。初めて。
中川 それ信じられないんだよね。現場でそんなふうには全く感じなかった。
屋良 ううん。めちゃくちゃ打ちのめされた。だから自分の中でもうひとつ上にいけたというのもある。そこにはもちろんアッキーの存在があるし、(演出の岸谷)五朗さんもそうだし。
中川 いま急に思い出した。再演の年に『CHESS』(2015年)というミュージカルに出演したんですけど、
屋良 観に行ったよ。
中川 そうだよね。客席を練り歩いて歌う時に、屋良っちを見つけてロックオンした記憶がある。
屋良 はははは! その作品だけじゃないからね、まじで。投げキッスとかしてくるから、この人。
――ええ?(笑)
屋良 そしたらお客さんが一斉にこっちを見て(笑)。俺も投げキッスを返したけど。あれは『ジャージー・ボーイズ』だったかな。
中川 そう、最後の最後だよね(笑)。
屋良 そうだよ!
中川 だから最後にかっさらっていくんですよ、屋良っちが。
屋良 いやいや(笑)。そそくさと客席から帰りましたよ。
中川 そう考えると長いね、やっぱり。
――再演から約10年ですから。
中川 この作品がなぜ10年ぶりに再演されるかっていうのも、2021年にシアタークリエでコンサートをした時に(『中川晃教 20th ANNIVERSARY CONCERT @シアタークリエ』)、シークレットゲストで屋良っちが出てくれたんです。そこでこの『SONG WRITERS』の楽曲を歌わせていただいたのを今作のプロデューサーである今村(眞治)さんが客席で観てくれていて、「この感動を届けたい」ということで今回の上演に繋がったんです。
屋良 あの時、お客さんが盛り上がってくれたもんね。
「あの時の大きな、いい意味での挫折」(中川)
――10年ぶりの「共演」で楽しみなのはどんなところですか?
屋良 まず稽古場よね。稽古場でどこまでアプローチできるか。初演はまだ遠慮があった、初めてだから。再演は深まって、自分たちでつくったシーンもあったりして。でも今日の取材みたいな感じでやっていけたらいいんじゃないかなって思う。
中川 そうだね。いい意味でもうけっこうリセットされているし。
屋良 ほんとゼロからの可能性はあるよね。再演というよりは、新しいものをつくろう、みたいな。
中川 それがおもしろいって思える感じです。
――歌唱の話はありましたが、ダンスはどうですか?
中川 僕はできてるつもりの振付も、「できてない」って言われるんですよ。
屋良 ははは! 俺が言えるのはダンスだけだから(笑)。
――中川さんもけっこう踊りますもんね。
中川 はい。しかもすぐ踊れる人(=屋良)と対で踊らなければいけないっていう。
屋良 前回、どうしてもアッキーができないステップがあって。
中川 考えれば考えるほどできないんですよ。もしかしたら考えないほうができるのかもしれない。「え、どうなってるの、その足!?」ってところに入り込んじゃって。
屋良 だからステージ上で「今日は踊れるか!」みたいなこと言ってたよね(笑)。「今日は」とか言ってる時点で(作品としては)ダメなんだけど、よく音声オンのままでいてくれたな。
中川 でもそういうところも含めてのこの作品だよね。
――歌もダンスもお互い助け合いながらやられてたんですね。
中川 今でも覚えてるんですけど、屋良朝幸さんはすごい激しい踊りを踊って歌っても息ひとつ上がってなくて、スッと次にいけるんです。
屋良 いやいやいや!
中川 したとしても1、2回呼吸するくらいでもういくんですよ。それも「呼吸を整えた」という感じはなく、芝居でやってるのかなくらいの余裕があるんです。でも僕はハケたら滝の汗。当時それが悔しくて。こんなに違うんだ、と思いました。あの時の大きな、いい意味での挫折。
屋良 ほんと?
中川 うん。だから僕は毎日本番終わった後に、
屋良 水泳でしょ?
中川 そう。
屋良 稽古中から行ってたでしょ。
中川 行ってた。稽古前も行ってた。
屋良 当時はそういう人なんだなと思ってたけど、そうじゃないんだね。
中川 うん。屋良っちの無限の体力を見ていたから。劇中に、曲芸みたいなシーンもあったじゃん。
屋良 トランポリンを使ったシーンね。
中川 コントロールをちょっと間違ったら客席に落ちちゃうような動きなので、すごく神経を使うと思うんです。それも劇場で毎朝ちゃんと練習しているのを見てたから。すごいなと思ってた。だから今回、僕はもう水泳を始めています。だけどやっぱり(屋良のレベルは)無理だなって思うんだよね。身体とはどう向き合ってるの? 初演、再演の時は全力投球に見えた。だから「追い越せない」って思ったし、それが役とハマったからよかったんだけど。そういうところが(年齢を重ねて)今回どうなるのかなって。変わらずキレキレでいくのか、いい意味で抜いて表現するのか、個性を入れ始めるとかもあるかなとか。
屋良 いい意味での抜き方はわかってきたから、歌と連動できるのかなと思ってる。最近、ダンスと歌が連動するようになってきたし。
中川 ということはやっぱりあの当時はまだ抜くってことを知らずにやってた?
屋良 割とフルアウトもあったと思うけど、バランスは取ろうとしてたよね。でも、抜けてたほうがっていうか力を入れないほうが、ダンスって大きく見えるから。多分、歌も同じじゃない?
中川 余計な力は入れないほうがいいって言うね。
屋良 ダンスの場合は抜いたほうが可動域が広がるからよけい派手に見えて歌えるんだと思う。
中川 いかに力を抜くか。
――全力でやることとの違いってどういうものですか?
屋良 全力でいったらがんばってるとしか伝わらないから。でもがんばってるのは当たり前なんですよね。だから後輩とかにも言います。「がんばってるのはわかってるから、がんばるのはもういい」って。じゃなくて表現のほうに持っていかないと。そして、そうするには抜かなきゃいけない。もちろん若い頃はがむしゃらにやったほうがよく見えることも多いんですけどね。
――ここまでお話をうかがってきて、おふたりが培ってきた関係が今回役に投影されるんだろうなって思いました。
二人 ああ~。そうだね~。
――(笑)
屋良 それが吉と出るか凶と出るか。
中川 それは吉でしょう!?(笑)
屋良 お客さんが「演じてるの?どうなの?」ってなったらおもしろいよね。むしろそこを狙いたい。
中川 そうですよ。それにこの作品は、“ソングライターズ”の「次」はなんだってお話ですから。
屋良 なるほど、そうだ。
取材・文:中川實穗