2020年7月に無観客配信として上演された『TOHO MUSICAL LAB.』の第二弾が、11月22、23日に東京・シアタークリエにて上演される。
『TOHO MUSICAL LAB.』は、2020 年 7 月という緊急事態宣言があけたばかりの時期に、舞台上演が途絶えたシアタークリエに俳優とクリエイターが集まり、演劇ファンが劇場で観劇する楽しみを思い出せるような、そして初めて演劇を観る観客にも楽しんでもらえるような、前向きな“実験(=LAB)”として2本の短編新作ミュージカルを無観客配信した企画。約3年ぶりの再始動となる今回は、東宝ミュージカル初参加となる高羽彩(タカハ劇団)と池田亮(ゆうめい)が脚本・演出を担当し、できたてほやほやの新作2編を上演する。
高羽と有澤、池田と東が出席した合同取材会の模様をお届けする。
2本でひとつの作品になることを意識して書いた(高羽)
高羽さんも僕も絶対に新しい発見がある(池田)
――まずは意気込みをお聞かせください。
高羽 私は普段はストレートプレイの作・演出をしていますが、実は大きな野望として「ミュージカルをつくりたいな」と思っていました。それで自分の中に、これをミュージカルにしたらめちゃめちゃおもろいぞって作品をずっと抱えていました。ただ、今の日本の演劇界で国産のオリジナル新作ミュージカルはなかなかチャレンジできません。しかも私が持ってるタカハ劇団のような、小劇場をメインに活動しているユニットだとより難しい。だからこれはチャンスだぞ、と思っています。これからの自分にとっても大きな勉強の場になりますし、こうやってオリジナルの新作が上演される場があること自体が日本のミュージカル界にとってとても意義があることだなって。今回上演する『わたしを、褒めて』は、初日を迎える直前の舞台裏をドタバタコメディで描くバックステージものです。舞台のスタッフが普段どんなことをしているのか、お客様に伝わる機会はなかなかないと思うのですが、「スタッフのみなさんのプロフェッショナルな仕事があって初めて作品がお客様のもとに届く」ということをお客様にわかってほしい、という気持ちが私にはありまして。これを知ると、お芝居を観るのがもっと楽しくなると思いますし、好きになっていただけるんじゃないかなと思うので。と同時に、客席にいるみなさまも、毎日いろんな思いをして、悔しい気持ちを飲みこんだり、悲しい気持ちを乗り越えたりしながらお仕事に向かわれている方がほとんどだと思いますから、そこへのエールも届けたい。そこで、生々しいけど楽しいフィクションのバックステージものをやりたいなと思いました。
有澤 『TOHO MUSICAL LAB.』に参加できることがとても楽しみですし、高羽さんとは一度ご一緒したことがあるので、またこうやってものづくりができることも楽しみです。脚本を読んで、「高羽さんが書くホンだな」とか「高羽さんがやりたかったことなんだ」というのがわかったような感じがしました。僕は“実験(LAB)”というワードが大好きなので、いろんなことにチャレンジしながら、高羽さんがつくってくださるものに僕も想いを乗せて、みなさんに届けたいなと思っています。
池田 “LAB”ということは、実験、開発、研究するところだなと思っています。今回、僕にとって初めての新作オリジナルミュージカル(『DESK』)をつくるということで、今までにないミュージカルをつくりたいと思いました。と同時に、いろんな仕事をしている人の“声”みたいなものを歌にしてみたいなとも思いました。それを合わせて、現代で働いている人たちの“声”を歌にしたら、そのパワーはすさまじいものがあるだろうと思うので、新しいミュージカルになれるんじゃないかと考えた所存です。今回、短い期間ですが、素晴らしいキャスト、スタッフの方が揃ってくださったので、自分にとって贅沢な時間、滅多にない機会です。新しいものを、観客の方々も含めたみなさんで見つけられたらいいなと思っています。
東 『TOHO MUSICAL LAB.』に出演できることを光栄に思います。この試みが素敵です。こういう実験をたくさんすることによって、ミュージカルを好きになってくださる方が増えたり、これを観て違う作品も観てみたいと思ってくださる方が出てきたりして、活気が生まれたらいいなとすごく思います。この作品によって、ミュージカルって重苦しくないんだなとか、素敵な楽曲があるなとか、勇気づけられたとか、自分もこういう職業をやってみたいとか、観劇して人生が少し豊かになったとか、苦しんでいたことが花開いたとか、なにかに気付けたとか、そんな重く考えなくていいかもと思えたとか、みんなも同じ気持ちなんだとか、なにか打ち明けられるきっかけになったとか、そんなこともあると思うので、ぜひ観ていただけたらうれしいです。
――高羽さんと池田さんは普段はストレートプレイ畑でいらっしゃいますが、ミュージカルの魅力をどう感じていらっしゃいますか?
高羽 私は普段はストレートプレイがメインなのですが、ミュージカルはストレートプレイと違い、ある種強制的にお客さんの心の扉をバコッと開いちゃうようなところが、音楽の力としてあると思うんです。だから、こんこんとメッセージを伝えるストレートプレイよりもっとダイレクトにおりゃー!みたいな感じで……
東 文面で伝わるかな(笑)
有澤 擬音がすごい(笑)
高羽 おりゃーって感じで、お客さんの心に直接触れてグイッてするみたいな。
一同 (笑)
高羽 そんな感じのことは、ミュージカルだからこそできるなと思いました。そのうえで、ある種“非日常”であるミュージカルの空間と、「お仕事もの」というすごく“日常”に即したテーマが重なったとき、お客さんの日常の中に非日常を届けるというような、素敵なことができるんじゃないかなと思っていて。まるでその人たちの毎日にもこういう楽曲が溢れているみたいに、明日電車に乗る時に自分の中でテーマソングがかかるようなことができるんじゃないかなと思っていて。だから敢えてバックステージものをミュージカルで、と思った次第です。
池田 僕もミュージカルというと、グツグツグツみたいな擬音が出てきます。僕が初めて観たミュージカルは市民の方々がつくるというものだったんですけど、初めてだったしボーっと観ていたんです。でもいきなり、なんかわからないけど、出演者が歌った瞬間にものすごく感動して。自分でもよくわからない、ぐつぐつ沸き上がるものというか、言葉にできないものを感じてしまいました。それで「なんだろう、これ」とずっと悩んでいたのですが、なんか自分が疲れたときにイヤホンで全然知らない歌を聴いて感動したりすると、ミュージカルは「いきなり歌うもの」だと思っていたけど、すごくリアリティのあるものなんじゃないかと思いました。登場人物の歌は、自分の心のどこかに引っかかるリアリティを持っているんじゃないかって。そういったものが今回のバックステージものに繋がって(脚本を)書いたんだなと、自分で改めて思います。
――今作ではどんな音楽をイメージされていますか?
池田 脚本を読んだ感じで暗いのかなって思うかもしれないのですが、意外と明るいと思います。
東 超楽しみ!
池田 めちゃくちゃ疲れてるときに変なテンションになるじゃないですか。ああいうものができたらなと思います。あと生演奏なので。生演奏、めちゃくちゃ楽しみです。
高羽 私はミュージカルを観るんなら、なるべく長い時間音楽が流れていてほしい、なるべく長い時間歌っていてほしいと思うので、今回は台詞もあるお話ですが、基本的にはなにか常に音が出ているようなものにしたいと思っています。あとどこまで実現できるかわからないけど、劇場のバックステージが舞台なので、ちょっとバンドのメンバーさんもバックステージにいるというていで現れて、なにか音を出してもらうということもできたらなと考えています。短編でもちゃんと起承転結を感じるような、テーマソングがあって、激しめの曲があったらバラードがあって、最後はフィナーレで大団円でまたテーマソングに戻ってくるっていうような、王道のミュージカルのプレイリストみたいなものが、ミニマムだけど感じられるような楽曲にしていきたいなといです。
――出演者のおふたりに共演者の方の印象をうかがいたいです。(※この時点では、山崎大輝さんの出演は未発表でした)
東 壮一帆さんはミュージカル『マリーゴールド』(’18年)でご一緒して以来ですし、豊原江理佳さんは事務所の後輩で、彼女が初めてヒロインを演じたRock Musical『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』(’18年)や、今年もミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』で一緒でした。ミュージカルでは「また一緒だね」ってことがよくあるんですけど、親交が深ければ深いほどやりやすいことも出てきますし、その時々でお芝居の感じが変わっていたりするので楽しみです。もちろん、初めましては初めましてでおもしろかったりするんですけどね。
有澤 美弥(るりか)さんと屋比久(知奈)ちゃんは以前共演したことがあるんですけど、ふたりともすっごいすっっっっっごい人たちです。エリアンナさんは初めましてなんですけど、当然舞台で拝見したことはあり、歌うまい3人に囲まれる……。めっちゃ楽しみですし、変にかしこまっちゃわず、のびのびとできたらいいなと思います。
――高羽さんもお出になられるんですよね。
高羽 はい(笑)。バックステージものなので、入れ子構造というか、「この作品をつくった作・演出です」みたいな感じで出てきて、スタッフのことを紹介する、ナビゲーターみたいな感じです。高羽彩役として出ます。
有澤 (唐突に?)高羽さんとは前の舞台でリモートで打ち上げしたぶりなので……。
高羽 なぜこの流れでそんな話を?(笑)
一同 (笑)
有澤 あと美弥さんとはプライベートでも親交があるのですが、僕と「真剣な芝居なんかできない」って言われました(笑)。だから相手役だったらどうしようかと思ったら、そうではなかったのでちょっとほっとしました(笑)。
――最後になにか言い残したことはありますか?
東 僕、ちょっと気になっていることがあって……オムニバス形式の作品はあまりやったことがないので聞いてみたいんですけど、作・演出のおふたりは、同時上演することで意識しちゃったりすることってあるんですか?
池田 自分の意識では、「バトル」じゃなくて「対バン」のようなイメージです。普段はオムニバスだと「他の作品よりおもしろくしたい」と思ったりもするのですが、今回に関してはそういう感じはなく、高羽さんも僕も絶対に新しい発見がある、”もりだくさん”というイメージがあって。だからお客さんにも、テレビ番組の『有吉の壁』や『千鳥のクセがスゴいネタGP』を観るような感覚で観てもらいたいです。もちろん作品を比べてもらっていいんですけどね。でも自分としてはバラエティ豊かなものとして観ていただければなという気持ちでいっぱいです。
高羽 私の作品は、初日直前でみんなが一番きりきり舞いしているタイミングを描いているので、なんとなく……どっちが先に上演するかはまだ決まっていないんですけど、なんとなく、池田さんの作品にバトンを渡すような感じになるといいなと思っています。私の「これから本番が始まるよ。そこにはいろんな人が関わっているよ」というお芝居を観て、池田さんの作品を観ることで、さっきの作品に出ていたようなスタッフたちが池田さんの作品の背後に浮かび上がってくる、そういう構造になったらいいなと思っています。でもそうじゃなくても、2本でひとつの作品というふうになったら素敵だなと意識して書いていました。
取材・文/中川實穗