劇団5454の新作SF長編『ねもはも』が、11月22日に開幕し、11月24日まで北海道・ターミナルプラザことにパトス、12月4日から8日まで東京・赤坂RED/THEATERにて上演される。
作・演出を春陽漁介が手掛け、劇団員の高品雄基、岸田百波、森島縁、榊木並、窪田道聡、及川詩乃、客演の神田莉緒香(ストロボミュージック)、榊原美鳳、佐野剛、谷本ちひろ、万行翔馬が出演する本作は、現代の「噂」を劇団5454ならではの視点で描く新作となる。
その稽古を取材した。(※以下、ネタバレが含まれますのでご注意ください)
稽古場レポート
まず気になったのは、ちょっと不思議な舞台のカタチ。聞くと、札幌では両サイドに客席が並べられるという(東京では一方)。さらに客席のない面にはキャスト用の椅子がステージ向きに並べられ、キャストは上演中は基本的にハケずにそこで出番を待つという。つまり札幌では四面すべてに人の視線が存在することになるが、今作のテーマが「噂」ということを考えれば、その視線の存在には怖さとワクッとした気持ちが芽生える。東京はまた別の構成になるということで、そちらも楽しみだ。
その日の稽古は冒頭シーンから始まった。佐野演じる春崎が独特なムードを漂わせながら、「噂」というものについて語り始める。佐野の語りによってスルスルと不穏な空気が舞台上を覆い始める中、噂の的となる松葉(高品)の日常生活が始まっていく。松葉が働くオフィスでは誰もがテキパキと動き、松葉自身もスムーズに仕事を進めている。スタッフ同士の仲も悪くなさそうだ。そんな日常が伝わるくらい、芝居がスッキリとしていてわかりやすく、テンポも心地いい。
その中で作・演出の春陽は、「台詞のこの一言を取ろう。変にキャラが立っちゃった」と削ったり、「この台詞の言い方が浮いて聞こえる」と調整したり、丁寧に見極めながら演出をつけていく。そこにシーンの大小は関係なく、例えば居酒屋のオーダーシーンでは、「もうちょっとだけ、メニューにない“プチトマトの豚バラ巻”が頼めるかも?という感じを出したい」など直接展開に関わるわけではないようなやり取りも細かく細かく詰める。それを見ていると、なるほどこの積み重ねがあの劇団5454の滑らかな波を作り出しているのだなと感じた。また春陽のオーダーに対してキャスト、特に劇団員の反応は早く、ちょっとした変化で途端に笑えるシーンになったりするのは魔法のようだった。
物語は、松葉が高校時代の友達との飲み会に、卒業以来初めて顔を出すことで動き出す。そこで松葉が語った近況に尾ひれがつき、噂が噂を呼び、いつの間にか友人たちの間では「松葉くんが結婚するらしい」ということになっている。稽古では、その根も葉もない話がどんどん広がっていく様子が形づくられていった。ママ友の会で、電車の中で、美容室で、パート先で、あちこちで噂が始まり独り歩きしていく。その様を演劇で伝えるため春陽は、立ち位置や動きに加え、噂の盛り上がり方をグラフのようにして説明し、そのための台詞のテンポや動作をリクエストする。キャストたちはそれを受け止め、咀嚼し、芝居に反映させていく。すると、火のないところに立った煙が舞台上をグルグルと回りながらどんどん姿が具体的になっていく様子が立ち上がった。演劇のおもしろさがそこにギュッと詰まっている。
煙は松葉を飲みこもうとし、松葉は必死で抵抗する。そこからの展開は、思いもしないほうに転がりながら勢いを増して進んでいく。その結末は果たして、笑えるのか、ホッとするのか、背筋が凍るのか――。劇団5454ならではの、物語そのものと演劇そのもののおもしろさの両方を堪能できる作品になっていると感じた。ぜひ劇場で体験してほしい!
上演時間は約1時間40分を予定。また一部公演は、6歳以上(小学生)18歳以下向けに無料招待枠があり、同伴する保護者は前売り価格の半額で予約が可能(お子様の人数に対する保護者の人数制限あり)。
文=中川實穂