写真左から)平田敦子、小松和重、久ケ沢徹
写真/ローチケ演劇部
マンガのごとき無茶苦茶な設定の徹底してくだらないギャグ満載、それでいて独特の緩さが漂うのも特長という、唯一無二の集団としてカルトな人気を誇っていたサモ・アリナンズ。彼らが7年ぶりに帰ってくる!そして、これがなんと最後の劇団本公演となってしまうという注目の舞台が『蹂躙さん』だ。この舞台は、1992年の旗揚げ公演『マリーラフォレはもう聞かせないで~熱血暴れ太鼓編』(タイニイ・アリス)、1995年の『夜叉車』(駅前劇場)、1997年の『蹂躙』(本多劇場)と、劇場と題名を毎回変えながら上演を重ねてきた“サモアリ”の代表作でもある“学園番長物語”。今回はザ・スズナリにて2025年版として、最上級にバカバカしくも華々しく、最後の花火を打ち上げる!
原作は旗揚げメンバーである倉森勝利、脚本・演出は小松和重ブラザーズが担当。キャストは主要メンバーの小松和重、平田敦子、久ヶ沢徹はもちろんのこと、家納ジュンコ、佐藤貴史ら劇団員に加え、大人計画の荒川良々、宮藤官九郎らが客演する。33年前の初演時の思い出から、果たして今回はどんな舞台になりそうかのヒントまで、座長・小松と平田、久ヶ沢にたっぷり語ってもらった。
――7年ぶりのサモ・アリナンズですが、劇団としてはこれが最後の本公演になるそうですね。今回をラストにするのは、何かきっかけがあったのですか?
小松 もう、年齢的にみんな動けなくなってきてるし、そろそろ無理じゃないかと思ったんです。
久ヶ沢 今ならギリギリ、まだ面白いことを考えつくかもしれないからね。でも、もしかして考えつかなかったらごめんなさい!
小松 この次、5年後にやるなんて言ったら、老害になるかもと思ったし。
平田 サモアリはパワハラ劇団なんで、このご時世には向いてないんですよ。
一同 (笑)。
小松 お前がな!
平田 私だけなのか?
小松 本当だよ。もう!
久ヶ沢 劇団員、特に佐藤(貴史)に対する当たりが強過ぎる。
平田 パワハラは一切ダメって言われたら、マジで何もできないかもしれない。
小松 昭和のノリだからね。
――でも、そのノリこそがサモアリには…
平田 大事なことなのよ。
久ヶ沢 だから今の時代、もしかすると舞台上でいろんなことが笑えなくなってるかもしれない。
小松 乱暴なツッコミとかしていると、今の若い人はちょっと傷ついちゃうかもしれない。
平田 もう殴っちゃダメなの?
小松 そうなの?
平田 別にいいの?
久ヶ沢 あくまでも殺陣、ということなら。
平田 “頭をはたく”というアクションならいいのか。
小松 だいたい、あんたしか人をビンタする人いないからさ。
平田 それだって、あくまでも演出だから!
小松 旗かなんか立てようか、「これは演出です」って。
一同 (笑)。
――平田さんと久ヶ沢さんは、今回の上演決定を聞いてどう思われたんですか?
平田 「やっと、やるのね」って思いました。
小松 ずっと前から「やれ、やれ」って言われてたんです。
――劇団公演を、早くやれ、と?
平田 だって「またやろう」となっても、劇場が予約できるのは2年後とか3年後じゃないですか。だったら、とりあえず劇場を押さえておけばって言ったんです。もう新年会とか忘年会でしか会わないんで、それも毎年あるわけじゃなく2、3年に1回くらいだから。それで結果的に会うたびに「まず、とにかく劇場を押さえろ」って言ってたの。
久ヶ沢 だから、僕も「ああ、ついにやるんだ」と。「平田敦子の願いが、ついに叶うんだな」と思いました(笑)。
――最後に上演する作品を『蹂躙さん』に決めた理由は?
小松 旗揚げ公演(『マリーラフォレはもう聞かせないで~熱血暴れ太鼓編』1992年)も、タイトルは違いますが同じ題材だったので、制作とも「最後はこの作品にしたいな」と話していたので。あと年齢的に、そろそろこういう作品はできないだろうというのもありました。
久ヶ沢 そう考えると、サモアリの芝居ってどれもできなくなりそうだよね。
小松 結局、どれを選んだって同じなんですけど。その中で、これは一番恥ずかしくないやつかもしれない。
――あっ……?
久ヶ沢 今のリアルな「あっ?」ていう反応はどういうこと?(笑)。「えっ、それが?」って意味?「あ、あれが恥ずかしくないと?どれを選んでも恥ずかしいんじゃないの?」ってことだよね。
小松 だってさ、これまでいろいろな衣裳を着てきたけど……。
――どう違うんですか?(笑)
小松 違いは……ないかもしれない(笑)。
久ヶ沢 でもまあ、最初にやった作品だからね。
小松 これで終わろう、という気持ちになったんだよ。
平田 ま、サモアリの舞台って、パターンはそんなにないんで。
小松 選択肢としては二つか三つになるかな。
平田 “ガッツ団”シリーズか、これか、どっちかしかないでしょ。
久ヶ沢 だから納得、ではあったかも。
平田 ま、なんでもいいんですけど。
小松 「公演をやれ」って焚きつけてたところで、気持ち的には終わってたんでしょ。
平田 そうね、「やれ、やれ」って言ってる時のほうが熱かったかも。本当にやることになったら、終わっちゃうんだ~って気持ちになるじゃないですか。
久ヶ沢 それも複雑な女心だね(笑)。
――『蹂躙さん』の作品に関して、きっと初めてご覧になる方もいらっしゃるでしょうから、もう少しヒントをいただけますか。旗揚げの時の思い出とか、何か印象深いエピソードなどは?
小松 旗揚げの思い出かぁ。お客さんが、意外と大勢入ったんですよ。いろんな手段で人を騙したおかげ、でもあったんだけど。
久ヶ沢 一つ例をあげれば、当時とても人気が高かったキャラメルボックスのチラシを作っている方にお願いして。
小松 いかにもキャラメル風な、可愛いチラシを作っていただいたんです。そこでまず、キャラメルファンの心をつかんで。あと、久ヶ沢さんがその頃はまだ夢の遊眠社に在籍していたから、遊眠社の公演にもその可愛いチラシを大量に折り込みました。さらに声優の皆口裕子さんに客演として出ていただいたりもして、あの手この手を使ったら動員が1,000人超えたんです。それで、これはイケるな!って思っていたら……。
平田 第2回公演ですごく減ったんだよね。
久ヶ沢 まず2回目で100人くらいは減り、その公演が大失敗したせいで、その次に激減して。
小松 一気に500人以下になっちゃった(笑)。
平田 2回目、ちょっとふざけすぎたんだよ。
小松 僕と倉森さんとで、酔った勢いで適当な台本を書いちゃったもんだから。
平田 みんな、競馬の馬の役だった。
小松 舐めてましたね……。
――なんだか反省会みたいになってますが(笑)
平田 あ、あと合宿をしました。
小松 そう、当時は仲が良かったんです。
久ヶ沢 みんなで山梨まで行ってね。
小松 合宿といっても、別にたいした稽古もせず。
平田 2泊して、帰る日の朝に1回くらいは本読みしたよ。
久ヶ沢 あと宣伝用の写真だけは撮りに行ったけど、夜はだいたいツイスターゲームで盛り上がってた。
小松 酒を飲んで、ただひたすらゲラゲラ笑ってました。
平田 車2台で行ったんだけど、あの頃はスマホも携帯もないからトランシーバーを久ヶ沢さんが借りてきてて。それで「次のパーキングに入ろう!」とか連絡を取り合ったりして、「すげえな、トランシーバー!」って思ったのを覚えてる。
小松 いかにも昭和な思い出だよ。
久ヶ沢 単にトランシーバーの話だけかよ。
小松 「すげえトランシーバー!」っていいね、なんかのタイトルみたい。
――別に、小道具で出てくるわけでもないんですね(笑)
小松 全然出てこない。まったく使わない。
久ヶ沢 この人の感想だけです。合宿と言いつつみんな、単に楽しい旅行したかっただけなんですよ。
平田 久ヶ沢さんがカレーを作ってくれて。
小松 そうだった。
平田 あれから、平田家のカレーは久ヶ沢レシピだもん。
久ヶ沢 あ、最後にバナナを擦って入れるヤツね。
平田 小松家はあのレシピ、嫌いみたいだけど。
久ヶ沢 ……って、なんの話なんだよ。もう、脱線してばっかりだな(笑)。
――今回は客演陣も豪華なようですが…
小松 平田さんと久ヶ沢さんに声をかけたあと、ほかに誰を呼ぼうかって話になり、僕は荒川良々くんがいいなと言っていたらちょうど荒川くんが酔っぱらって僕に動画を送ってきてくれたんです。「サモアリやるんだって?じゃあ俺も出ますから~」って。ただ酔っぱらって言ってただけなんだけど、オファーしてみたら本当に出てくれることになって。だったら、絶対断られるだろうけどダメ元で宮藤くんも呼んでみようよってお願いしてみたら、出てくれるというんで「マジか!本当に?」って思いましたよ。
久ヶ沢 宮藤くんの中できっと、長年のわだかまりがあったんじゃないかな。サモアリには何回か客演してもらってたんだけど、打ち上げで飲んでる時に「僕も、そこそこになってきてるはずなのにサモアリに出るとなんかイマイチなんですよねー」ってボヤいてたから。
小松 そうそう、サモアリに出るとなぜか必ず奥さんに怒られるんだって。「アンタ、全然ダメだったよ」って(笑)。
久ヶ沢 あの時の、リベンジをしに来るんじゃないかな。
――そういうことなんですね
久ヶ沢 ありがたいね。ありがたいけど、返り討ちにしてやろうぜ!(笑)。
――もう少し、この『蹂躙さん』という作品を具体的にアピールしておきたいのですが
小松 勧善懲悪の学園番長モノで、サモアリってこういう芝居をやってるんだってことが、とにかくわかりやすいと思います。
久ヶ沢 元になったマンガのタイトル、なんだったっけ。
小松 『Let’sダチ公』。この間、宮藤くん脚本のドラマ『不適切にもほどがある!』でもチラッと出てきてたんで、「待ってくれよ、俺らのほうが先なんだぞ~」って悔しかったよ。
久ヶ沢 こっちが偉そうに言えるこっちゃないけど(笑)。
小松 初めて『蹂躙さん』を観た若いお客さんに「あ、宮藤さんのドラマからパクったんだな」と思われるかもしれないじゃん。
――それは間違いだぞ、と(笑)。そして、みなさんが初演時と同じ役を演じる、というのも見どころかと思いますのでそれぞれ、役名と役どころを紹介してください
小松 <夜叉車蹂躙(やしゃぐるまじゅうりん)>、関東の総番長です。関東一、強い人です。
――どんなキャラクターなんですか?
小松 キャラ?キャラって特に考えたことがないなあ。ただ、何か起こるたびにワーワー騒いでる番長ですよ。
久ヶ沢 薄くて、すいません(笑)。
小松 そして女性を愛する、愛に生きてる男ですね。
――平田さんは?
平田 <比久尼巴(びくにどもえ)>。
小松 よく覚えてたね。
平田 蹂躙さんの彼女です。彼女って何ていうんだっけ?マブか。じゃ、蹂躙のマブです。
小松 なんだか暗号みたいになってるな(笑)。
平田 金髪がトレードマークだったんですけど、今回はこの年齢で金髪に染めたら全部抜けちゃいそうだから、もう無理です。
小松 最初にやった時、毛が溶けちゃうって言ってたもんね。
平田 3回くらいブリーチしたら、お人形のナイロンの髪の毛みたいになっちゃって。あの頃、カツラで出てたのは久ヶ沢さんだけで、あとはみんな地毛で変な頭にしていたんですよ。
小松 最初の芝居で俺が長ランに、適当なヅラを使ってリーゼントにしてたら、倉森さんに「ダメだよそれじゃ!」って言われたんで「じゃあ、地毛で角刈りにするよ」ってことに。そこからみんな地毛でやろう、ってなったんだよね。だけど久ヶ沢さんのカツラだけは面白かったから。
久ヶ沢 あれも、たまたま見つけたんだけどね。
平田 他の芝居でもお皿の部分を剃ってカッパみたいな頭にしたり、丸坊主にしたり。
小松 パンチパーマもやりましたね。でももう、地毛ではやれない。
平田 もうできないよ。どうすればいいかな、髪の毛。
小松 そのままでいいよ。金髪のヅラでもいいし。
――久ヶ沢さんの役は?
久ヶ沢 <火達磨媒染(ひだるまばいせん)>。一体、どういう意味なんだか(笑)。
――役回りは?
久ヶ沢 「悪」、ですね!
小松 わかりやすい!番長と、悪と、マブですね。
久ヶ沢 明快な悪なんだけど、ただ実家はものすごく金持ち。
――実家が金持ちの悪の象徴(笑)
久ヶ沢 これまでの、あまたある悪を蹴散らすような、悪です。
小松 これだけで、わかってもらえる芝居だと思います(笑)。
――改めて、サモアリの舞台でしか得られない楽しさ、面白さとはどんなことですか?
小松 僕は、その場の会話が一番楽しめる舞台だと思ってます。
――その日、その日の…
小松 体調にもよるけど。
久ヶ沢 となると、楽しめない時もあるってことか。
――それはそれで?
小松 周りが盛り上げてくれたな、ありがとうって気持ちになるし。そういう気持ちになることも唯一許される場所で、ものすごく自由だけど、一番緊張する場所でもある。
平田 確かに、緊張はしますね。個人個人で、この場で遊んでるみたいな感覚だというか。内輪受けともまた違うんだけど。
小松 舞台上だけで、楽しんでる感じがする。
平田 その楽しさは伝えたいんですけど、うちらは高卒の集まりなんで。
小松 なんだよ、それ(笑)。
平田 他の劇団って、みんな大学内でできた劇団だったり、大学が違っても横のつながりで入った演劇サークルがもとになっていたりするじゃない。私、その大学に入らないとサークルには入部できないんだと思いこんでいたんだけど、別の大学の学生でもサークルには入れるんだってね。そうやって、横のつながりがすごくあるものなんだけど、なにしろうちらは高卒だから横のつながりが全然なくて。仲の良い劇団も特になかったから、うちらだけで遊ぶしかなかった。
小松 だけどさ、サモアリ独特のヒヤヒヤ感ってあるよね。誰と絡んでる時も「あ、これはあまりウケてないな」って時のヒヤヒヤを、お互いにすっごい探り合うというか。その時間が俺は長く感じるんですよ。早く何とかしたいから、互いにがんばるんだけど、それが空まわりするのもまた恐怖で。そこがサモアリの一番緊張するところでもあり、他では味わえない経験でもあり、僕としては楽しくて好きなところでもある。
久ヶ沢 普通は、そんなリスキーなことしませんから。怖ろしい話ですよ、そんなことで探り合ってたら演出家とか、いろんな人から怒られるからね。「何やってるんだ!」って。
小松 それがうちはOKだったんで、
平田 でも結局、最終的には笑かさなきゃいけない。もちろん笑ってもらったほうが面白くなるわけだし、とはいえ、ちょっとした笑いは笑いじゃない。サモアリではクスクスじゃなく、ドッカンと笑ってほしくて。だけど実は、笑ってるのを黙らせる、というのもすごく面白い。
久ヶ沢 そうなんだよね。
平田 笑ってるお客さんに、でっかい声を出して一瞬でシーンとさせるのもすごく面白いんです。でも、そのためには一回ドカーンと笑かさないといけないんで。
――落差が必要なんですね
平田 でももうそんなこと、何年もやってないから。よそではそういうことできないんで。またできるかどうか、笑かせるかどうか、わかんない。
久ヶ沢 怖いよね。僕の場合は、小松くんと初めて出会って共演した時に気づいたのが、この人ってリアルに舞台上で「つまんない」という意思表示をするんだってことで。
一同 (笑)。
――芝居している、本番中に?
久ヶ沢 日によって、反応が違うんです。「うわ、怖え~」と思いましたね!だけど、それってお客さんに伝えてもいいんだ、今、舞台上で面白くないってことを演者が伝えることもあるんだと知って。今、こうして口で説明してますけど、そんなこともできない、役者としてキャリアが低い時にものすごい恐怖感を味わったので強烈でした(笑)。その後、サモアリをやり始めて、その普通じゃない面白さが徐々にわかってきたけど、その時の緊張感となんとなく感じていた不安は、もしかしたら今もたぶんあるものだと思う。
平田 つまんないと、溜息ついたりするよね。
小松 誰が?
平田 小松が、だよ!こっちが何か言ったことがつまんないと「ハァ……」って。
小松 しないよ、俺、そんなこと。
久ヶ沢 舌打ちとか、するよね。
小松 しない!それって、めちゃめちゃ感じ悪いじゃん。
平田 ま、昔の話ですよ。
――ではせっかくなので、最後にお客さんに向けて一言ずつメッセージをいただけますか
平田 昔、観たことがある人も初めての人も、過度な期待はしないで緩めな気持ちで来てください。
小松 そうだね。
平田 やっぱり、昔とは違って上演中にスマホとか鳴らしたら怒る?
小松 いや、怒んない。
久ヶ沢 昔は舞台上から「その電話、俺が出る!」って言うことで笑いをとってたけど、今だと逆に本当に出ちゃうかもね。「すみません、本番中なんで!」って。
平田 ま、とにかく「すっごい面白いんだって?」とか「昔、面白かったよなー」とか、あまり思わないで。
久ヶ沢 あと、吹聴もしないでほしいね。「昔は面白かったんだよ」とか。
平田 それから、万が一面白くなかった場合に、そのことをSNSに書かないで。
久ヶ沢 もし、そう書いてあったとしても判断はみなさんにお任せしますから、必ず自分の目で確かめるように、ということで。あと、酒飲んで陽気になる人はちょっと飲んでから来たほうがいいかもしれない(笑)。肩の力を抜いて、観ていただきたいです。
小松 でも本当に、とにかく楽しんで帰ってくれればいいかなっていうだけなんで。あとは、好みの問題です。
久ヶ沢 温かい目で見ていただければ。実際、そろそろ介護が必要な我々ですからね。
小松 そうね、ぜひ優しい目で見てほしいね!(笑)。
インタビュー・文/田中里津子