ミュージカル『フランケンシュタイン』中川晃教&小林亮太インタビュー

ミュージカル『フランケンシュタイン』が4月から5月にかけて東京、愛知、水戸、神戸で上演される。

ミュージカル『フランケンシュタイン』は、ゴシックロマンの名著「フランケンシュタイン」を原作にブランドン・リーが音楽、ワン・ヨンボムが脚本・歌詞を手掛け、大胆なストーリー解釈と流麗かつメロディアスな音楽によって韓国でミュージカル化された作品。日本では潤色・演出を板垣恭一、訳詞を森雪之丞が手掛け、2017年に初演。2020年の再演を経て今回が3度目の上演となる。初演から出演する中川晃教、加藤和樹、鈴木壮麻に加え、ビクター・フランケンシュタイン/ジャック役を小林亮太、アンリ・デュプレ/怪物役を島太星、ジュリア/カトリーヌ役を花乃まりあ、ステファン/フェルナンド役を松村雄基、エレン/エヴァ役を朝夏まなとが新たに演じる。

ビクター・フランケンシュタイン/ジャックをWキャストで演じる中川晃教と小林亮太に話を聞いた。

このチャンスを逃してはいけないと思った(小林)

――中川さんは本作の日本初演から3度目のご出演、小林さんは初参加で、約2年ぶりと少し久しぶりの舞台出演でもあります。ご自身にとって今回のミュージカル『フランケンシュタイン』はどんなチャレンジになりそうですか?

小林 僕は演劇が大好きなのですが、一度自分の中でお芝居というものを見つめ直したいという思いがあり、しばらく演劇から離れていたんです。そういう時間の先でどんな演劇作品に取り組むことができるだろうかと考えていたところに今回のお話をいただきまして。最初は信じられませんでしたし、「自分でいいんだろうか」とも考えました。日本初演と再演には中川さんと柿澤(勇人)さん、(加藤)和樹さんと、小西(遼生)さんがご出演されていたので、「そこに僕が!」という驚きがあって。と同時に、このチャンスを逃してはいけないと思いました。もし神様がいるとしたら、越えられない壁は与えないだろう、つまり越えろってことだと考え、「ぜひやらせてください」と言いました。

――この2年はドラマや映画に多く出演されていましたが、演劇にはあまり触れずにいたのでしょうか?

小林 いえ、いろんな公演を観に行かせてもらいました。その中で演劇やミュージカルの解像度も深まった感じもしています。約2年ぶりの舞台なので、大事に努めたいです。

中川 いまの話を聞いて気になったんだけど、しばらく演劇から離れるという中でどうして小林さんに白羽の矢が立ったんだろう?

小林 『キングアーサー』(’21年)の制作が『フランケンシュタイン』を手がけていらっしゃる、というのはあるかもしれないです。

中川 ああ! じゃあきっと『キングアーサー』の時に目に留まったんだね。制作に「小林くんはできるかもしれない」と思わせたってことだから、それは実力だ。すごいことだよ。

なぜ今この作品が再演されるのかを考える(中川)

――中川さんはこれが3度目の『フランケンシュタイン』となりますが、今どんなことを考えていらっしゃいますか?

中川 前回の再演は2020年の1月から2月という時期に上演されたのですが、新型コロナウィルスが話題になり始めたタイミングだったんですよ。

――1月に国内で初めての感染者が出て、4月に緊急事態宣言が出た、そのちょうど中間ですね。

中川 そこから5年経って、なぜ今この作品が再演されるのか、というのはひとつ考えることかなと思います。この作品は音楽も素晴らしいし、エンタテインメント性もあるし、観て楽しいものだと思うんだけど、「生命を創造する」ということが描かれているから、タイミングによっては辛くなるような内容になるのではないか、とか。逆に今は、「生命創造」がリアルに感じられる未来が近づいていて、それは私たちにとってどんなことなのかということも考えさせてくれる。そしてそこから生まれる人間の業と言いましょうか、人間の持つ残酷な面、決して美しいとは言えない面も、エンタテインメントとなってあますことなく表現されていますから。だから5年経った今改めてこの作品と向き合うと、前回とは確実に違う自分を感じます。あとはやっぱり前回の劇場での景色というか、あの時間がこの再演に繋がっているんだと思うと、大きいですよね。

――小林さんはその公演をご覧になって、Xでも「この物語に触れた日の震えと衝撃が今でも鮮明に残っています」とポストされていましたね。

小林 ビクターとアンリの出会いから急落下していく角度、そしてそこに寄り添う音楽に、“ミュージカルで表現できるもの”の大きさを感じて、初めて観た時は衝撃で震えました。いまも鮮明に思い出せます。

中川 心が震えたんだ。

小林 はい。そしてそこには「この役、やりたい!」という震えもあったと思います。そういう直感といいますか。二幕最後の歌の最後にビクターが「俺はフランケンシュタイン!」と叫ぶのですが、僕は「これ、どういう気持ちなんだろう」と思ったんです。中川さんが会見でもお話されていましたが、僕もこれはなかなか(普通の会話では)言うことのないフレーズだと思います。だけどあの瞬間って魂の叫びだと思うから、どこに辿り着いたらそういうふうになるんだろう、と。想像もつかなかったし、だからこそそこに挑んでみたいと思いました。そういう武者震いみたいなものがありました。

中川 そうね、演じる側の気持ちで観ないときっとそこには引っかからないもんね。普通に観てたら自然に受け止めると思うから。

小林 はい、そうだと思います。

小林さんが余裕を持てるようなWキャストの相手になれたら(中川)

――『フランケンシュタイン』の先輩である中川さんに、小林さんから聞いてみたいことはありますか?

小林 これまでの稽古場や公演で印象的だったことはありますか?

中川 Wキャストの柿澤さんがね、気持ちよくぶっとんでくれるんです。そして小西さんも気持ちよくぶっとんでくれる。だから二人が絡み合うと僕は「二人とも破滅し合うんじゃないか」って思ってた。そのくらい泥沼の中の彼方へと……。

小林 泥沼の中の彼方(笑)。

中川 (笑)。でもビクターとアンリってそのくらい密になる役だからね。僕はあまりそういうのは得意じゃなくてズブズブ“風”が好きなんですけど、でも二人がああやって気持ちいいくらい役に溶け込んでいくのを見ていると、芝居ってこういうところから生まれてくるものがあるんだな、それは客席にいる自分にはどんなふうに映るんだろうと思ってた。自分にないものをたくさん見せてもらえたなって思います。真似できないことだと思ったし、アプローチにただただ「なんでそんなふうに思ったんだろう」と思ってた。

小林 Wキャストだと、自分がチョイスできないことを見られたり、そこにあるトライ&エラーを知ることができるという“濃さ”があるなと感じます。僕も今回、稽古場でいろいろ盗ませていただきたいです。そして僕と(島)太星くんは新キャストなので、新鮮さも大事にしながら、若き博士としての良い“等身大”ができたらいいなと思っています。

中川 僕はこれが3回目でちょっとだけ余裕があるから、もちろん小林さんにはこれまでの素晴らしい経験もあるんだけど、この『フランケンシュタイン』には初参加となる小林さんが余裕を持てるようなWキャストの相手になれたらいいなと思っています。

小林 ありがとうございます。

中川 さっき話してくれた、この作品になにかを感じた、フランケンシュタイン役をやりたいと思ったってことが聞けて、いいペアを組ませてもらえたなって思ったよ。

小林 こちらこそです。

中川 あとは、これからの時間の中で僕たちがどうやってものにしていくかですね!

小林 はい! よろしくお願いします。

取材・文:中川實穗