劇団papercraft第11回公演『昨日の月』名村辰×福田麻由子×海路インタビュー

昨年上演された『檸檬』で第29回劇作家協会新人戯曲賞を受賞した海路(みろ)が主宰を務める、劇団papercraftによる第11回公演『昨日の月』が、2025年1月に彩の国さいたま芸術劇場小ホールにて上演される。

独創的な世界観の中でリアルな人間模様を描きながら、現代社会の問題性をあぶり出すような作品で高い評価を得てきた海路による新作は、「昨日か明日を売ってしまう高校生」の物語が展開される。出来心から「時間の売買」に手を染めてしまう高校生・歩を名村辰、歩に時間を売ることを薦めてしまう同級生・杏を福田麻由子が務める。

海路作品への参加は初となる名村と福田、そして作・演出の海路に話を聞いた。

──まず海路さんに4~5月に上演された前回公演『空夢』についておうかがいします。劇作家協会新人戯曲賞を受賞した直後の公演でしたが、手応えはいかがでしたか。

海路 前回公演まではストーリー性に重きを置いていたというか、物語の推進力というところを意識して作っていたんですけど、今度の公演ではそのあたりを少しゆったりやってみてもいいんじゃないかな、という気持ちが生まれたのは、前回公演から得た大きいところかなと思っています。

──ゆったり、というのは具体的にどのあたりのことを指すのでしょうか。

海路 1人あたりをもう少し丁寧に書いてみよう、という感じでしょうか。今までは、8役あったら8役を均等に描いていくイメージだったんですが、今回は1役の人生を丁寧に描くというイメージです。前回公演までは、人を描きつつ現象として目の前で起きていることを描くみたいな意識があって、今回は現象としてではなく、一個人の主観としての描き方をしてみたいなという感じです。

──本作は「時間」にまつわる物語です。海路さんはご自身が今関心あることを題材に書かれることが多いと思うのですが、今回はそれが「時間」だったのでしょうか。

海路 「時間」に対して思うことはあって、劇団を立ち上げて今5年目で、脚本を書き始めてからは6年半ぐらいなんですけど、体感は1年半ぐらいなんです(笑)。それがなんだか「怖っ」と思って(笑)。本を書いてる時期は、1ヶ月とか2ヶ月とかあっという間に経ってしまうのが、自分の中で本当に恐ろしくて。その感覚を作品に落とし込めたらいいな、というのはありました。あとは主人公の歩が、今まで自分が生きてきた25年間の核みたいなところを反映させたキャラクターなのですが、そこは地元の埼玉での公演だからこそ描きたいな、と思いました。

──出演のお2人にはまず脚本を読んだ感想をお伺いしたいです。

名村 海路さん本人を投影させた役をやらせてもらうので、それがまずすごい緊張しますし、セリフ量が……死ぬほど喋ってるな、と思いました(笑)。

海路 (笑)。

名村 あと、僕は今度28歳になるんですけど、今回は高校生の役なので、高校生って感覚的にはついこの間のような気もするけれど、台本を読んだ時に、もう高校生のときの自分とは全然違う感覚や価値観を持っていると気が付きました。そこを埋め合わせるような作業がこれから必要になるので、ヒリヒリした日々が続きそうだなと思っています。

──歩という役に共感するところ、あるいは逆に反発を覚えるところはありましたか。

名村 「時間を売る」という危険なことに興味はあって、そこに手を伸ばしたいけど伸ばせないみたいな、自分の学生生活にもそんな瞬間はあったんだろうな、ということは思いました。あのときあの人に付いて行ったらやばかっただろうな、みたいな。歩は杏と出会ったことをきっかけに歯車が狂いだすんですけど、本当にたった1個の選択で人生が大きく変わることが、学生時代にはいっぱいあると思うんですよね。なんかそういう記憶と向き合わなければいけないな、と思っています。

──福田さんは、台本を読んでみていかがでしたか。

福田 まずはいろんな意味で高校生頑張らないとな、と思いました(笑)。あとは、「時間を売る」というのが、ちょっと突飛なように思えるところもあるのですが、何度も読んでいるうちに、突飛だと思っている自分の視野が狭い感じがしてきて……。私は何回か読んでそう思ったけれど、お客さんには舞台初見でそこまでグッと入ってきて欲しいので、そうできるようにするのが私たちの役目かな、とは思っています。

──海路さんは本作でお2人のどういったところに期待しているのか、教えてください。

海路 今回、高校生の役ではあるけど、俳優は20代後半くらいの方が多くて。

福田 同年代が多いですよね。

海路 キャスティングを考える中で、役の年齢に近い人よりも、失った時間の大切さを知っている、しかもそれはもう戻ってこない時間であるということを知っている人の方が面白いんじゃないのかな、と思ったんです。そういう人たちと一緒に作る方が、稽古場で話し合っていく中でより良いものが出てくるんじゃないかな、と。だから皆さんといろんなことをディスカッションしていけることをすごく楽しみにしています。

──お2人は海路さんとご一緒するのは初めてということで、何か事前に海路さんについて知っていたことはありましたか。

名村 僕は北千住のBUoYという劇場で、papercraftの第6回公演『Momotaro』(2022年)を見ました。フィクション感と日常の会話劇の融合みたいなところが面白いなと思って、「世界を見せたい」というのもあるけれど、それ以上に「人を見せたい」というのがすごく伝わってきて、そこが素敵だなと思いました。今回の本を読んでも、「昨日か明日を売る」という世界とかその発想を見せたいんじゃなくて、そこで生きる人やそれに囚われてしまう人を描きたい、というのがすごく素敵だなと思っています。

福田 私は、今回オファーをいただいたときに、前回公演の『空夢』を映像で見せていただきました。3回見たんですけど……

海路 え、そんなに見たの?

名村 すごい!

福田 1回だと理解しきれないところもあったし、海路さんとお会いしたときにちゃんと話せるようにしなきゃ、と思って結局3回見ました(笑)。いい意味で、すごく不思議な気持ちになる作品でした。役者さんとか演出のこういうとこがよかった、みたいな感想ではなくて、もっと全体の印象とか雰囲気とかが心に強く残る感じがしました。

──名村さんはご自分でも作・演出をされていますが、作・演出家という立場から海路さんの作品をどのようにご覧になっていますか。

名村 いやいや、作・演出といっても僕は今年から始めたばかりですし、海路さんだけでなく誰のこともそんな立場では見たことがないです(笑)。でも今回、人生で初めて自分より年下の演出家さんとやるので、楽しみです。どうやって俳優を導くんだろうとか、どう世界を捉えてるか、どこを大事にしているかとか、たくさん吸収していろんなものを盗みたいなと思っています。

海路 逆に自分も出演者の中に演出家がいるのは初めてです。

名村 僕、演出家じゃないです! やったことがあるだけだから。海路さんだって役者やってたんですよね?

海路 いや、コソコソやったことはある、って感じで。

名村 それです、一緒です。

──福田さんは子役時代から長くこの業界でお仕事をされていらっしゃいますが、舞台のお仕事に対するお気持ち、感じている面白さや難しさをぜひお聞かせください。

福田 舞台の経験は、映像に比べると少ないんですよ。だから「難しいな」とは思うけれど、何が難しいのかまだあまりよくわかってない、という感じですね。なんか、舞台の上に立ってみんなちょっと大きな声で喋るでしょう?

名村 いや、そりゃそうだよね(笑)。

福田 そう、でもそれが何かすごい不思議だなって思っちゃう(笑)。舞台はある意味リアルではないけれど、ある部分では映像よりもリアルなものが届く可能性があるという、そこのバランスをまだあまりうまく意識して乗りこなせていない感じがしています。正直、舞台に対して苦手意識もちょっとあるんですけど、一番挑戦したい場所ではある、という感じですかね。だからこういう機会をいただけて、とても嬉しいです。

──本作のオファーが来たときは、お受けするかどうか悩まれたのでしょうか。

福田 個人的な話なんですが、今年の夏にずっと所属していた事務所を辞めてフリーになったんです。そうしたら、その2日後ぐらいに連絡をいただいて。

海路 そんなすぐでしたっけ(笑)。

福田 そうなんです、本当に辞めてすぐでした。よほどのことがない限り、フリーになって初めて声をかけていただいたお仕事はとりあえずやってみよう、と思っていたので、そういう意味で勝手にご縁を感じていて、私にとっては少し特別な作品だったりもします。

──お2人から見ると、海路さんは年下です。演出家が自分より年下というケースはあまり多くないと思いますが、そのあたりいかがでしょうか。

名村 まあでも、「そういえば年下だな」ぐらいな感じですね。普段はそんなに意識していないというか。

福田 私も、普段は別に年下とかあまり感じないんですけど、自分より若い世代の方とはなるべく積極的に仕事したいな、という思いは個人的にあります。

──それは何か理由があるのでしょうか。

福田 若い人といると「へぇ~!」と思うことが多いんですよね。考え方が柔軟だったり、自分にはない新たな発想だったり、そういうのに触れると「いいね!」と思います。だから今回も、自分と同世代や若い世代の方とご一緒できるのはすごく嬉しいです。

──海路さんは自分より年上の方に演出をつけることが多いと思いますが、そのあたり年齢的なものは意識されるのでしょうか。

海路 いやあ……意識した方がいいとは思うんですけどね。

名村 意識してない?

海路 年齢差があることが作品にとって大切になってくるのであれば意識するけど、作品にとって別に必要でないのであれば、意識せずにフラットに接しているかな、と思います。もちろん皆さんのことをリスペクトした上で同じ目線に立って、作品のために必要なことは年齢とか関係なしに言う、という感じです。

──今回、彩の国さいたま芸術劇場(以下、さい芸)小ホールでの公演となります。

海路 劇団を立ち上げるちょっと前、2020年2月に加藤拓也さんの「劇団た組」が『誰にも知られず死ぬ朝』という作品をさい芸小ホールで上演していて、それを見に行ったんです。その2ヶ月後にpapercraftの旗揚げ公演をやる予定だったのですが(※新型コロナウイルスの影響で公演は中止)、すごく空間が素敵な劇場なので「いつかここで公演をやりたいな」なんて思いながら見ていました。あの頃は今ほど舞台を見ていなかったんですけど、でもその後いろいろな舞台を見ても、やっぱりさい芸のあの空間は改めて特異というか、他にない唯一無二の空間だなと思いますし、憧れの存在の加藤さんがやった場所だし、ずっと目標にしていた劇場だったので、ついにここに来られたか、という感じです。

──個人的には私が勝手に提唱している「papercraftは駅からちょっと離れている劇場がいい」説を踏襲してくださって嬉しいです(笑)。

海路 いろんな人から「歩かされる劇団」みたいに言われています(笑)。

──海路さんの作品は見終えた後、駅まで歩きながらいろいろ考える時間が欲しいな、と思うんです。

名村 確かに! 劇場から駅までの距離が近いと、舞台の余韻がすぐにリセットされちゃう感じあるかもしれませんね。そういえば北千住のBUoYにpapercraftを見に行った帰りも、駅からちょっと離れていたので、その間いろいろ考えながら歩いてました。

──最後に、この作品を楽しみにされてるお客様へメッセージをお願いします!

名村 まだ稽古が始まったばかりで未知数ですが……スタイリッシュな空間になるんじゃないかな、という予想はしつつ、若いメンバーが多いので、がむしゃらでエネルギッシュな空間にもできたらいいなと思っています。2025年一発目ですし、楽しい演劇になり……楽しいのかな、これ?!

海路・福田 (笑)。

名村 ハッピーな気持ちで劇場を後にできるかどうかはお客様に委ねますけど、新年一発目のお祭りとしてぜひ劇場に来ていただけたら嬉しいなと思います。素敵な帰り道にしたいです(笑)。稽古頑張ります!

福田 演劇の醍醐味って人によって全然違うと思いますが、でも「演劇ってこういうのがいいよね」というものが詰まったような作品になるんじゃないかなと思っています。皆さんが劇場に足を運んでくれる理由を何かしら作れる作品だと思うので、ぜひ観に来てください。

海路 今回の作品は今までと作り方をだいぶ変えていて、自分の生きてきた25年間での色々な気持ちを反映させながら作った作品なので、そういう意味ではpapercraft初期の作品にちょっと近いイメージです。最近見始めてくださった方には新しい感じがするかもしれないですし、逆に昔から見てくださってる方には、初期の頃の雰囲気があるな、と思ってもらえたら嬉しいです。ぜひ楽しみにしてもらいたいですし、ぜひ僕の地元の埼玉にいらしてください!

取材・文:久田絢子
撮影:ローチケ演劇部