コロナ禍の2020年に旗揚げして以来、オンライン公演や番外公演を含め年4回以上というハイペースで公演を行ってきた劇団papercraftによる第9回公演『人二人』が上演される。
独特で突拍子もない世界観の中にリアルな人間模様を繊細に描く、劇団主宰で作・演出の海路と、2022年9~10月に上演された第7回公演『世界が朝を知ろうとも』で初舞台を踏み、2度目の舞台出演で再び劇団papercraftに挑む清田みくりに話を聞いた。
――清田さんは昨年『世界が朝を知ろうとも』で初舞台を踏まれましたが、振り返ってみていかがですか。
清田「すごく楽しかったです。舞台に立つ前は、お客さんがすぐ近くにいたら心が乱されるかなと思っていたのですが、逆にお客さんの存在がエンジンになった感覚があって、それはとても良い発見でした。今回もそうなるといいなと思っています」
――初舞台前のインタビューで、舞台の場合は観客からどう見えているのか、見え方の想像がしづらいとお話しされていました。でも実際に舞台上にいる清田さんを見たときに、いい意味でお客さんの視線を意識していないように見えて、それが自然体の演技にも繋がっているように感じました。
清田「そうですね、確かに「どう見えているか」ということはあまり考えていなかったです。あの作品では客席が3面あったので、どっちに顔を向けなきゃいけない、ということはあまり考えずにやれたところはありましたが、客席に囲まれている分「あ、お客さんが今こっち見てる」というのも感じられました。意識しすぎず、ほどよい意識の仕方だったんじゃないかなと思います」
――海路さんは、なぜ今回再び清田さんをキャスティングしようと思ったのでしょうか。
海路「前回出てもらったときの清田さんのお芝居がすごく好きだったんです。『世界が朝を知ろうとも』は3つのエピソードから構成されていて、清田さんの出演パートは二人芝居だったんですが、精度の高い芝居だったな、という印象でした。あと今回の役柄のイメージに清田さんがピッタリハマるんじゃないかなと思ったので、お声掛けさせていただきました」
――清田さんは前回出演した作品について、3つのエピソードそれぞれに共感するポイントがあるとお話しされていましたが、今回はいかがでしょう。
清田「いやあ、今回は前回とだいぶ違います。共感というより納得、という感じなんですよね。だから役に入るのがすごく難しくて……(苦笑)。共感だったら「わかるわかる」と役に寄り添っていけるのですが、納得だと「なるほどね」と一歩引いてしまうところがあるので難しいです」
――前回は「存在意義を失うと人間はムシになってしまう」という不条理な世界観が作品全体の共通認識として存在していたのですが、今回は「二人で一人の人間として認識される」という世界観を登場人物のほとんどが「そういうもの」として受け入れているけれども、清田さん演じる「女」はそれを受け入れられずに周囲に翻弄されて混乱するという、いわば観客と同じ視点を持った人物として描かれています。
清田「前回はスタートからもう不条理な世界に馴染んでいて、その上でいろんなことを考えるという感じでしたが、今回は不条理な世界が始まったところからのスタートだから、すごく大変というか難しいです。本当に難しいです!」
――2回言うくらい、とにかく難しい、と(笑)。海路さんは、不条理な世界の置き方をこれまでと変えたのはどういった意図があるのでしょうか。
海路「今まで、特に前回公演の『檸檬』がそうだったんですけど、世界観を具体的に作り込もうという意識がすごくあったんです。でも今回は、描くテーマを限定されたくないというか、抽象的な話にしたいという思いがあって、世界に具体性を持たせないことによって、テーマの持つ責任の領域を広げられるんじゃないかなと考えました。でも、抽象的にするとどうしても不条理にならない感覚があって、書いていて結構苦戦しましたね」
――台本を読んだときに、今回はまた違う方向から攻めてきたな、と思いました。
海路「元々、そんな攻めたことをするつもりはなかったんです。むしろ今までやってきたことの総決算じゃないですけど、自分の今できる範囲内で一体どこまでできるのか、というスタンスで書き始めたんです。でも書けば書くほど、考えれば考えるほど「あれ、これやったことないかもしれない」ということが積み重なって、結果的に全然手を出したことがない領域に来ちゃったんですよね。自分で書いておいて「演出大変だな」と思いました(笑)」
――今回の出演者は非常に個性を放っている人たちが集結したな、という印象です。
海路「ほんとですよね。良く集まってくれたなと思います」
清田「最初に本読みしたときからみなさんすごい存在感があって、全然埋もれる人がいないんですよ」
――舞台経験の豊富な方が多いと思いますが、稽古場の雰囲気はどうですか。
清田「ゆるゆるやってます(笑)。一番よくお話しするのは「もう一人の女」役の秋乃ゆにさんです。ゆにさんと私の2人で1人の人間という役なので、って文字で読むとなんのこっちゃ、って感じかもしれませんが(笑)。役柄のことだけじゃなくお芝居の作り方とかも聞いたりして、頼らせてもらっています。みなさん結構穏やかというか……(海路に)ですよね?」
海路「うん、平和な稽古場ですね」
――海路さんの作品に出た方にうかがうと、大体皆さん「穏やかな稽古場だった」とおっしゃいますね。
海路「そうですね。「やるよ~」って感じで、ゆるーくやってます(笑)」
清田「そうそう、「やるよ~」って感じですよね(笑)。でも今はみんな苦戦していて「やばいぜやばいぜ」って言いながらやっています」
海路「みんな「やばいぜ~」ってずっと言ってるよね(笑)」
――「やばいぜ~」となりながらも、稽古場の雰囲気はピリピリしないんですね。
海路「そこは意外と大丈夫ですね」
清田「ユルさは健在です(笑)」
――会場が横浜赤レンガ倉庫ということで、舞台美術もどんな感じになるのか気になるところです。
海路「やっぱり赤レンガ自体の空間が強いから、そこをどう生かすかということを、美術さんと話し合いながら作っているところで、赤レンガの持っている色とか特徴をうまく生かせる美術になっているんじゃないかなと思います」
――では、公演を楽しみにしている皆様へのメッセージをお願いします。
海路「劇団papercraftの本公演は、この公演が終わったら1年ぐらい先になっちゃう予定なので、少しでも興味を持っていただけたら、この機会に見に来ていただきたいです。見る人によって感想が変わるというか、各々の持っている文脈で見ることのできる作品だと思っているので、どういうふうに見てもらえるのか、どういう見え方になるのか、みなさんの感想を楽しみにしながら、横浜でお待ちしております」
清田「絶対に面白い作品なんですけど、清々しい面白さではないと思うんです。その清々しくなさというか、禍々しさというか、そういうものがいろんなところにちりばめられている作品なので、どんなにひねくれた受け取り方をしてもらっても全然大丈夫です。ちょっとでも興味があったらぜひ来ていただきたいなと思います」
取材・文:久田絢子