『鎌塚氏、震えあがる』倉持裕&三宅弘城インタビュー

写真左から)倉持裕、三宅弘城

〈完璧なる執事〉を描いて公演のたびに人気を集めるコメディ「鎌塚氏シリーズ」。その最新作『鎌塚氏、震えあがる』が3月30日(日)からの世田谷パブリックシアターをはじめ、島根、大阪、新潟、愛知と全国で上演される。2011年から始まった今シリーズ、第7弾となる今作はどんな作品になるのか、作・演出の倉持裕と主演の三宅弘城に話を聞いた。

天海祐希の『出たい!』は本当だった

──前作から2年半ぶりの第7弾『鎌塚氏、震えあがる』では、「女主人」として天海祐希さんが登場されますね

倉持 これはもう、天海さんと三宅さんのご縁ですね。

三宅 以前から観に来てくれていて、「『鎌塚氏』に出たい」「いつ出してくれるの」と言ってくださってたんですよ。

倉持 出演したいと言ってくださる方はたくさんいましたけど、これまで警戒心を持ってやって来た身としては、全部鵜呑みにするわけにはいかないと思っていて。天海さんの声もずっと半信半疑でいたんですが、「どうやら本当らしいぞ」ということがわかって(笑)、今回の出演が実現しました。

三宅 天海さんとは『修羅天魔 髑髏城の七人〜Season極』(2019)で共演しただけなんですけど、同級生ということもあって仲良くさせてもらって。天海さん、清水くるみちゃん、振付の川崎悦子先生の4人でごはんを食べる「三宅会」というのができまして。

──役者としての天海さんの魅力をどう感じていますか?

三宅 いやもう、華がすごい。華のかたまりじゃないですか。冷静に考えて、(公演チラシの出演者部分を指さし)「三宅弘城 天海祐希」という順番自体おかしいじゃないですか(笑)。先日もこのチラシの撮影で天海さんと僕と二人で撮る時間があったんですけど、見ていた倉持さんがもうずっと笑ってて。

倉持 いや、衣装をつけたお二人が並んでいるのを見たら、アカシがすごく出世したように見えたんですよ。「完璧なる執事」とか言われてきたし、これまで仕えてきたご主人たちもすごかったけど、とうとうここまできたかと登り詰めた感じがして。

──天海さんはどんな主人になりそうですか?

倉持 面白いことをやってもらおうとしなくても、天海さんがやり過ぎなぐらい仰々しく登場するだけでもうコメディになるんじゃないかな、と。だから今は、登場だけでト書きをすごくいっぱい書いています。どう思われるかなとドキドキしていて、ご本人の意向も聞きながら作っていけたらと思っているんですけどね。

──他にも魅力的なキャストが揃っていますね

倉持 藤井さんは僕が新国立劇場に書き下ろした『イロアセル』(2011)に主演で出ていただいて。そこできっと笑いをとろうとすればとれるのに、すごくストイックにシリアスな作品に取り組んでくださった。だからこそ余計、今回は笑いを取りに行けるところは行っちゃってください!という思いでキャスティングしました。

三宅 藤井さんは『大パルコ人④マジロックオペラ 愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』(2021)でご一緒したんですけど、僕が演奏したり芝居したりで汗だくになっていたらすっとお水を持ってきてくれるような優しい人で。池谷のぶえさんは、前作の『鎌塚氏、羽を伸ばす』を名古屋まで観に来てくれたほどで、今回ご一緒できるのは嬉しいですね。

「三宅色」が強くなってきた鎌塚氏

──今回はホラー・コメディだそうですが、なぜホラーという題材に?

倉持 今度は船にしようとか雪山にしようとかシチュエーションから決める場合もありますし、『鎌塚氏、腹におさめる』(2017)のように探偵ものにしようとジャンルから決めるときもあるんですけど。今回はこれまでやっていないジャンルを探す中で、たまたま映像の仕事でホラーが続いたこともあって「ホラーって面白いな」と思ったんです。緊張と緩和で作られているから、コメディになる。そのとき観ていたティム・バートン監督の『ウェンズデー』のような世界観が天海さんに似合うんじゃないかとも思って、ホラー・コメディを選びました。

三宅 今回もシチュエーションの変化でくると思っていたので、意外でした。船も電車もやったから、次は飛行機かな、なんて思っていたんですけど。でも今こうしてお話を聞いていると、たしかにホラーとコメディって相性よさそうですよね。

倉持 今回、いつもやっていた本多劇場ではなくて世田谷パブリックシアターなんですよ。ちょっと広くなる分、ある程度大きな仕掛けもやりたいなと。たとえばみんな超常現象で壁にはりつくところで、三宅さんだけ自力ではりついたり(笑)。

三宅 これまでも『鎌塚氏』で何度か壁にははりついてるので、任せてください(笑)。

──オリジナルのストレートプレイで、7作品も重ねるシリーズはかなり稀有だと思います。改めて、『鎌塚氏』の魅力はどこにあるのでしょう?

倉持 台本を書いていても、三宅さんと、ともさかりえさん、玉置孝匡さんのセリフは、面白いかどうかはさておき、すらすらといくらでも書けるんです。他の人のシーンだと、その役柄がどんな人かを知る作業が必要だからそこまでスムーズにはいかない。けれどこの3人のことは、もう知り尽くしている。だから何を話すか、どんな反応をするかが、考えなくてもわかるんですよね。この感覚は、他の作品ではちょっと感じることがないですね。

三宅 過去6回、二階堂ふみちゃんは2回ありましたけど、基本的には仕える方が変わりますからね。そうなるとやっぱり、アカシも変わっていくという面白さがあります。あと……、バカになっていくというか、客観性がなくなっていっている感じもあるんですよね。第1弾の『鎌塚氏、放り投げる』のときはもっと「完璧なる執事」の雰囲気があったはずなんですが、回を重ねていくにつれて玉置さん演じる宇佐と取っ組み合いのケンカをしたりするようになって。だから……、どんどん僕に寄っている気がするんですよね。

──三宅さん本人に

三宅 そう。回を増すごとに三宅色が強くなってきた。

倉持 それ、僕も最近気をつけはじめたんです。確かに「三宅さんはこうやるだろうな」というのを先回りして書いちゃっている部分が増えたかもしれないなと。アカシは4歳くらいから使用人をやっている、お屋敷という上流階級しか知らない庶民という特殊な生い立ちの人。だから僕はあくまでも特殊な、冷徹とも取れる人として描いて、それを三宅さんが演じることで、隠そうとしても体温や人間味がそこに出てしまうという形で二人の共同作業をやっていくべきなんだろうと、第1弾の脚本を読み返したときに改めて思ったんですよね。それは、他の作品では抱かない贅沢な悩みではあるんですが。

三宅 ただやっぱり、口調とか佇まいが僕自身とは違うので、稽古に入ると「そうそう、アカシってこうだった」と感じるし、全然飽きない、毎回楽しい作品ですね。

──これだけシリーズが重なっていくと、この先も続くことをつい期待してしまいますが、

倉持 三宅さん的にはどうですか?初演から14年経ちますけど、その頃から比べて……。

三宅 僕、動けなくなったら武器が1つなくなったようなものだから、なんとか抗っていきたいなとは思っていますけど。だから、ちょっとずつ走ったり、筋トレしたりしてます。ただ、執事って歳をとってもできる役だから、この先もやっていけるんじゃないかなと思っています。

取材・文/釣木文恵
写真/ローチケ演劇部