左から 樫田正剛・飛鳥凛・市川美織
婚活のために伊賀の里から上京してきた忍者の末裔・三四郎(町田慎吾)が、なぜか地下アイドルにハマり、気付けばグレーゾーンなママ・涼風せいら(瀬下尚人/THE CONVOY)や元アイドルヲタクの鳳ランラン(水谷あつし)率いるショーパブの店員として働くことに……。そこで出会う人々と繰り広げるオムニバスストーリーで構成される喜劇が、2017年に上演された『伊賀の花嫁』だ。企画を手掛ける劇団・方南ぐみファンはもちろん、さまざまなアイドルファンたちをも巻き込み熱く共感させて笑わせた、新春を彩るシリーズの第3弾が2019年に上演決定!
今回はシリーズの仕掛け人である脚本・演出担当の樫田正剛、そして主人公の三四郎を取り巻く女たちの中から『仮面ライダーW』などで知られる飛鳥凛、NMB48卒業後は舞台にも意欲的な市川美織による座談会ならぬ作戦会議(?)にお邪魔した。樫田がひも解く“伊賀の花嫁 取扱説明書”、そして若手女優2人の意気込みはいかに!?
――まず樫田さんにうかがいたいのですが、そもそもこういう喜劇をシリーズでやろうと思われたきっかけは?
樫田「この作品は当初、シリーズにするつもりはなかったんです。実は10年ほど前から漫画やドラマでやれないかと温めていた企画で、もったいないので2017年に舞台でやろうということになりました。そのときに想像以上にウケて、調子にのってシリーズにしちゃいましたね(笑)。2018年1月の『その二』の初日に、涼風ママの登場シーンで役名のコールが掛かったんですよ。1年間この作品を待っていてくれたんだ!と、印象深かったですね。僕の作品は再演が多いんですが、シリーズものはやったことがなかったので、挑戦してみたいという気持ちになりました。この10年くらいはストレートプレイを書く機会が多くて、いい話、いい作品といわれることに快感を覚えていたんですが、昔は喜劇を多く書いていたんですよ。実は喜劇を書くのが一番難しいんだということに改めて気付かされたこともあり、初心にかえって挑戦してみようと」
――2017年の初演以降、熱いリピーターの方々がこの作品についた理由をどんな風に捉えていらっしゃいますか?
樫田「僕の現場はわりとシビアなんですよ。たとえ人気者のキャストが参加しても、普通に役者さんとして扱いますし。たとえば40~50代の役者さんって劇団の外に出たらダメ出しをもらうことが少ないと思うんですけど、僕の現場なら全然ありますからね。いい大人が必死に稽古をしている姿を見れば、若いキャストも頑張らなきゃいけないと思うだろうし、だから稽古場も本番もすごく熱気があります。その根っこにあるのが、下世話な言い方かもしれませんけど、チケット代以上のエンターテイメントをお客さんに提供したいという気持ち。僕以上に、振付で参加してくれている夏まゆみさんが厳しい。彼女がいると、いい意味で現場がピリッとしますね。稽古でみんながなんとなく踊れるようになってきても、『ねえ今、何%(の力)で踊ってる? 全然ぐっと来ないんだけど?』なんて言うんですよ」
市川「踊れる人が多いイメージなのに、意外です」
樫田「夏さんはとくに踊れる人に厳しいかもね。ダンス経験が浅い人ならともかく、踊れる人には『これでご飯食べてるんだから、もっとできるでしょ?』という期待感から、そういう風に煽るんだろうと。ご自身が小劇場の役者出身だからというのもあると思いますけど、いいものを届けたいっていう情熱がすごくある人だから」
市川「私は前に夏先生に振付していただいたことがあるんですけど、そのときは優しく接していただいたんです。でもグループの先輩方から、実はすごく厳しい伝説の先生だと聞かされたんで、今回はちょっと震えてます(笑)」
飛鳥「私はほとんどダンスをやったことがなくて……。『笑う吸血鬼』という舞台で社交ダンス風の振りを踊ったことがあるくらいなので、気持ちで頑張ろうと思います!」
――キャストのお二人は、喜劇にどんなイメージを持っていますか?
市川「私は大のお笑い好きなんですけど、お笑いは劇場に生で観に行くに限る!という譲れないこだわりがあるんです。個人的に泣かせる演技より笑わせる演技にずっと興味があったので、今はすごくコントをやりたくって。だから今回、こういう喜劇に出させてもらえるのがうれしいです」
飛鳥「私はいわゆる喜劇に出たことはないんですが、ある作品で同じ座組に芸人さんがいたことがあって、要所要所にアドリブシーンがあったんですね。お客さんの反応の中でも笑い声は一番大きく返ってくるから楽しかったし、日によって笑いが生まれる“間”も変わってくる難しさも感じました。私は大阪出身なので吉本新喜劇を見て育ってますし、今回そういう作品に自分も出られるというのがすごく楽しみです」
――さて、今回はどんなお話になるんでしょうか。
樫田「大まかに言うと3つのストーリーのオムニバスになります。1つは経営状態の良くない小さなやくざ事務所が舞台で、そこに借金漬けの女が売られてくるという話。もう1つがバスガイドさんたちの裏話的なストーリーで、女同士のバチバチなんかもありますね。そして今回の軸になるのが、三四郎くんたちの職場であるショーパブ『ヅカ』を舞台にしたオーディションの話。前提として経営者の涼風ママは三四郎が好きでしょうがないんですが、どんなに好きでもノンケの彼が振り向くわけはなく、それならば、店に新しい男の子を入れようとオーディションをするわけです。そのオーディションをめぐって『ママは自分の男探しをしてるだけなんじゃないか?』と、スタッフたちがざわつき始める。この3つの、一見接点のない話をつなぐキャストとして、謎の刑事2人がちょこちょこ登場します。そして最終的にはなぜかこの3チームの話が交差して、それぞれの悩みが解決していくという」
――飛鳥さん、市川さんがどんな役をやるのかは、まだ内緒ですか?
樫田「今は最後の最後を書いているところなので、そうですね。僕は書いているときにはドMになりたいというか、もっと自分を追い込みたいと思うほうなんですよ。新人の頃は脚本を書くこと自体が難しかったけれども、歳を取ってくると、普通のお芝居やドラマはなんとなく書けるようになってきて。そういう意味では、お客さんが簡単に想像できないような構成の『伊賀の花嫁』が、一番書くのが難しいかもしれない。いろんなお話が重なっていく中で、飛鳥さんと市川さん、もう1人の若手の加護(亜依)さんの3人が演じる女性たちにも接点が生まれてくると思います」
――この3人の女性は恋のライバルになるんでしょうか?
樫田「三四郎は毎回必ず好きになる女性がいるんですけど、この3人が恋のライバルになるのか、ならないのか。でもみんな『ズルい女』なんです」
飛鳥「それぞれに違うズルさがあるってことですか?」
樫田「人間って、みんなそうじゃないかな」
市川「確かに、そういう部分がないと生きていけないところもありますよね……」
――女性陣は『ズルい女』から、どういう女性を連想しますか?
市川「甘え上手な人。女性からしたら嫌ですけど、男性はそこにコロッとやられるんだと思います。いい意味でも悪い意味でもズルいなって。でもちょっと、うらやましいかな(笑)」
飛鳥「“無意識に八方美人”な人。その人は意識していないんですけど、客観的にみると天然な感じの人が結局一番ズルいんじゃないかなって」
市川「計算じゃなくてそういう風にふるまえる人って、無敵ですもんね」
――話が脱線しましたが、おなじみのショーパブ「ヅカ」の面々を中心に、初顔合わせのキャストの方もたくさん登場しますね。
樫田「そうですね、このお二人もそうですけど、10人近くがはじめましての役者さんです。僕の台本はあて書きをすることが多いので、初めましての役者とは稽古に入る前に食事や飲みに行って話をしながら、可能な限りその方のステキなところを引き出したいと思っています。加護さんとも10何年ぶりの仕事になりますから、どんな演技を見せてくれるか楽しみですね。
僕がいろんな現場でよく言うのが、『芸能界で一番かっこいいのは役者さん』ということなんですよ。歌えて、踊れて、かつお芝居でお客さんを笑わせて、ホロリとさせて……いろんなことを短い上演時間の中ですべてできる役者さんが、たぶん一番かっこいい仕事なので、だからこそ頑張ってくださいと。『伊賀の花嫁』ではタップダンスができる人にはがっつりタップも踊ってもらいますし、アクションにも力を入れていたりして……」
飛鳥「アクションもあるんですか!私、今ボクシングをやってるんですよ。お芝居しながらしっかり動けるように、体幹を鍛えようとボクシングを始めたんですけど」
樫田「いい情報をありがとう。そういった、各キャストならではの見せ場を楽しんでもらえると思いますね」
――ストーリー以外の見どころも多そうですね。今回は町田さんとMusical Academyで同期だった米花剛史さんが出演されたり、公演のサブタイトルがシャ乱Qのヒット曲と同じ『ズルい女』で、ハロプロ出身の加護さんが出演されるというのも気になります。
樫田「『ヅカ』のスタッフはつんくさんを崇拝してるっていう設定なんですよ。そこに加護さんが加わるわけなので、盛り上がらないはずがないですよね(笑)。エンディングにはキャスト全員でのダンスがあるんですが、前作の『その二』ではお客さんがカーテンコール前に総立ちになりましたから」
飛鳥「美織ちゃん、ダンス教えてね?」
市川「でも私も、グループ卒業してからはほとんど踊ってないんですよ。だから頑張らないと!」
――懸案のダンスシーンを含め、アイドルファンの方が共感できる内容になっているのも特徴的ですよね。
樫田「たとえば水谷さん演じる鳳ランランはTO(トップヲタ=アイドルとヲタクたちが認めたトップヲタクの意味)という設定なんですけど、ヲタクの矜持を語るシーンがあったり、50代にしてヲタ芸を全力でやったりするわけですよ。この作品の登場人物に関しては、以前につんくさん、夏まゆみさんと組んでモーニング娘。の舞台の仕事をやらせてもらっていたころに劇場で見たファンの人たちの姿がヒントになっていますね。今アイドル文化が成立しているのは彼らの真摯な応援があるからですし、この作品がそういうファンの人たちの気持ちを代弁している部分もあると思います」
――なるほど。現時点で明かせる『その三』の見どころは……?
樫田「ある人に言われたんですが『たいがい続編というのは一作目を上回れないんだけど、「伊賀の花嫁」のその二は完璧に上回ったね。内容はまったくわかんないけど、とにかく笑った!』って。そんな感じで、この作品に関してはお客さんに『何の話だったっけ? でも楽しかったね!』と言ってもらえるのが、一番のお褒めの言葉なんです。上演時期の2月は旧暦なら1月ですから正月公演とこじつけて、新年らしく喜んでもらいましょう、楽しんでもらいましょう、というのがテーマです。なので、僕らは笑って劇場をあとにして頂けることだけに全力投球します!あとさっき言ったように、なんでもできる役者さんのかっこよさを見せたいという裏テーマもありますね」
――1作目、2作目とも違う三越劇場に進出されるということで楽しみです。
樫田「昔ながらの建物で天井が低めなので、『その一』『その二』とはセットの組み方も変わってくると思います。伝統ある劇場でこんな下世話な舞台やって大丈夫かな?という気持ちは振り切って、平成最後に三越劇場を汚しに行きます!」
――キャストのお二人にも、現時点での意気込みをうかがいたいです。
市川「今はもうアイドルじゃないので(笑)、この作品では確実にアイドル時代には見せなかった私をお見せすることになると思います。周りの方には、出たら絶対ためになる作品だと言われたので、勉強させてもらえたらと」
飛鳥「一緒に頑張ろうね。エンディングのダンスシーンを含めて、新年らしく華やかで盛りだくさんな内容になりそうですし。いろんな先輩たちに教えていただきながら私も頑張るので、ぜひ観ていただきたいです」
樫田「キャストの平均年齢が40オーバーなんですが、ほかの現場ならベテランの域の方々を含めて、みんな真剣に作品に取り組んでますから。お二人にとっては、そういう姿を見るだけでも財産になる部分が大きいと思います。楽しんで、たくさん乱れてください」
飛鳥&市川「乱れます!」
【プロフィール】
樫田正剛
■カシダ ショウゴ 北海道出身。ラジオ・テレビの放送作家を経て脚本家となり、1990年『世にも奇妙な物語 -パパは犯罪者- 』でドラマデビュー。1992年劇団方南ぐみを旗揚げ。編集プロダクション方南ぐみと劇団方南ぐみの主宰者を務める。『あたっくNo.1』『THE 面接』など、現在も再演を重ねる数々の名作を生み出している。EXILEのシングル「道」(2007年)の作詞など、多岐にわたる活動を展開中。
飛鳥凛
■アスカ リン 1991年生まれ。大阪府出身。2007年の映画『天使がくれたもの』でデビューし、翌年『口裂け女2』で初主演を果たす。2009年の『仮面ライダーW』では、敵役ヒロインで人気アイドルでもある園咲若菜を演じブレイク。以降も映像や舞台などさまざまな作品で活躍中。主な舞台出演に『BIOHAZARD THE STAGE』(2015年)、怪奇幻想歌劇『笑う吸血鬼』(2018年)、『クジラの歌』(2018年)などがある。
市川美織
■イチカワ ミオリ 1994年生まれ。埼玉県出身。2010年に、『AKB48 第10期研究生オーディション』に合格、同年AKB48劇場デビューを果たす。2013年よりNMB48との兼任メンバーとして活動し、2014年にNMB48へ移籍。2018年5月にNMB48メンバーとしての活動を終了。グループ卒業後は『ダンガンロンパ3 THE STAGE 2018~The end of 希望ヶ峰学園』(同年7月)、『若様組まいる』(同年10月)など、舞台にも精力的に出演している。
取材・文/古知屋ジュン