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佐野大樹が*pnish*の過去作を通して、舞台や役、人との“つながり”を作る企画「minish*」。第三弾となる『モンスターボックス』には、広井雄士、井尻翼馬、中三川歳輝、御堂耕平、吉澤翼、今井俊斗、山縣悠己、竹迫祐貴、佐藤祐吾が参加する。開幕まで約2週間のタイミングで稽古場取材とキャストインタビューを行った。
<稽古場レポート>
取材のタイミングでは、本作のラスボス・シオン(佐藤祐吾)が強さを見せつける物語中盤とラストシーンが進められていた。
妖怪マニアの川嶋(山縣悠己)に連れられてやってきた山奥で妖怪たちの戦いに巻き込まれた数馬(広井雄士)や悟(今井俊斗)、妖怪と戦うために修行を重ねてきた結界師の暁(井尻翼馬)。封印を解かれた妖怪・斬鬼丸(吉澤翼)と斬鬼丸を慕う刹那(竹迫祐貴)、斬鬼丸に勝負を挑む一つ目(中三川歳輝)と、あまり乗り気ではないが、一つ目と行動を共にしている毘沙焔(御堂耕平)……と、人間・妖怪ともに様々な思惑が入り乱れて、緊張感のある物語が展開される。
各陣営が錯綜する複雑なシーンだが、演出を手がける佐野が動線や演出効果についてキャスト陣に説明すると同時に脚本の流れやセリフを確認し、より自然に伝わるように修正を入れていく。初演も踏まえてキャラクターの心の動きを語る佐野の言葉を受けたキャスト陣がブラッシュアップし、短い時間でどんどん良くなっていった。
それぞれのキャラクターがシリアスなドラマを背負っているが、随所に笑えるシーンがあるのも大きな魅力。コミカルな掛け合いや、恐ろしい妖怪たちがふとした時に見せるお茶目な表情に惹きつけられる。特に物語の中心を担う数馬と斬鬼丸のイキイキとしたやり取りや生き様は、まだ稽古の段階ながらグッときた。
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そして、本作の大きな見どころが華やかなアクションの多さ。人間同士・妖怪同士の間にも軋轢があったり、状況に応じて敵対していた相手と手を組んだりと、王道でありつつ意外性もあるバトルが次々に繰り広げられる。
大きな動きとバトル中でもどこか愛嬌のあるキャラクターで目を引く斬鬼丸、決して派手ではないが存在感を見せつけるシオン、様々な術を駆使して妖怪たちと渡り合う暁をはじめ、戦い方もそれぞれ。素手や刀による戦いはスピード感や重さにリアリティを持たせ、妖怪たちが能力を発揮するシーンはカンパニー全員で力を合わせて不思議な光景を作っていた。丁寧に積み上げていく様子に、完成系が楽しみになる。
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また、稽古はいい緊張感の中でスピーディーに進んでいくが、ピリピリした雰囲気はない。佐野がキャスト陣に混ざって動きながらキャラクターらしさを作っていったり、キャスト陣から「このシーン、こうしてみてもいいですか?」と提案があったり、カンパニーが一丸となって作品に向き合っていることが感じられる。中三川と御堂がコンテンポラリーダンスのような動きで妖術を表現したり、吉澤が作中には登場しないヒロインのセリフをアテレコしたりと、稽古の中で生まれたアドリブに笑いが起きる場面も多く、自由にアイデアを出し合っている様子が印象的だった。ここからの稽古とブラッシュアップを経て、カンパニーがどこまで進化するのか期待が高まる。
<キャストインタビュー>
稽古の後、広井雄士、井尻翼馬、今井俊斗、佐藤祐吾に話を聞いた。
――公式Xでそれぞれのキャラクター紹介がされていますが、演じていて感じる役の魅力・楽しさを教えてください
広井 数馬は運動神経抜群な人気者と書かれていますが、稽古をやってみると運動神経でどうにかなる敵じゃない(笑)。キャラ設定に縛られすぎず、皆さんとディスカッションしながら作っています。稽古を重ねるごとに深まっている気がするので、見てくださる方に伝えられたら嬉しいです。
今井 楽しいところは悟の幅の広さです。詳しく話すとネタバレになってしまうので伏せますが、どれだけ振り幅を作れるかは自分の技量にかかってくる。頭を使うので難しいけど楽しいです。
佐藤 シオンはラスボスの立場で、物語を動かしていくキャラクター。ラストのバトルもボリュームがあって楽しみです。バリバリ動いて肉弾戦も妖術もするタイプなので、強さをしっかり見せられたらと思います。
井尻 暁は立ち回りがすごく多く、人間だけど妖怪に太刀打ちできる強さを持っています。いろいろな対戦相手との立ち回りがあるし、どっしり構えているけどボルテージが上がるところもあるキャラクターです。僕としてもここまでアクションが多いキャラクターは初めてなので、注目していただけたら嬉しいです。
――お稽古中も和気あいあいとした雰囲気でしたが、稽古場エピソードがあったら教えてください
広井 僕は斬鬼丸と関わることが多いんですが、台本を読んだ時と翼くんが演じているのを見た時で印象が違いました。キャラクターに翼くん自身が乗ってイキイキと動いていて、魅力的だと感じています。
井尻 誰かがリアクションする場面で、演出の(佐野)大樹さんがやって見せてくれるんですが、それが一番面白い(笑)。そこからインスピレーションを受けることも多々ありますね。
佐藤 シオン自体ずっと出ているわけではないので、2週間の稽古で僕はまだ3時間くらいしか出ていないんです。でも、殺陣についてアイデアを出すと大樹さんが一緒に考えてくれて、みんなで作っている感覚があります。和気あいあいとしている中で団結力もある。minish*に参加するのは初めてですが、ものづくりが楽しい現場です。
今井 僕も初めてのminish*さんですが、みんなで同じ方向を向いて一丸となって進んでいく感覚があります。和気あいあいとしつつみんなで試行錯誤できるので楽しいです。
――作品全体の魅力、おすすめポイントはどこでしょう
今井 一回見て、「わー!」と思うことがたくさんあるけど、二回目を見た時の新たな発見もすごく多いと思います。二度、三度と見てもらいたいですね。悩んでいる方がいたら、信じてチケットを取ってほしいです。
佐藤 最初から最後まで役者だけで、アナログで作っていく。ストレートと2.5次元舞台を組み合わせた独特な雰囲気があります。ストレートを好きな方にもぜひ見ていただきたいです。
広井 毎度のことながら、衣装や武器の作りが素晴らしいです。今回もパワーアップしていて、妖怪が妖怪だと一目でわかる。お客様も見ていて楽しいと思います。
井尻 この作品は、僕ら役者が演じることで妖怪にも人間味を感じられる。少しでも興味を持っていただき、一度足を運んでいただいたら、間違いなく追いチケしちゃうと思います。ローソンチケットですから、からあげクン片手に……。
広井 劇場で飲食物はダメだよ(笑)。
井尻 発券した時にぜひ!
――人間・妖怪ともに個性的なキャラクター揃いですが、お気に入りのキャラクターはいますか?
井尻 一つ目と毘沙焔のコンビは見せ場の一つだと思います。
佐藤 見に来ないとわからない要素だよね。宣伝のビジュアルや設定はかっこいいけど、作中では意外な面白さがある。
広井 その二人にも面白さだけじゃなく妖怪らしいゾッとする一面もある。その差が見事だよね。
井尻 一瞬「これ何の作品?」となるようなコントラストを二人がうまく出してくれる。
広井 僕は川嶋かな。普段は周りをよく見ているのに、「妖怪」というワードが出ると我を忘れて暴走する(笑)。その暴れっぷりを楽しみにしていてほしいです。
今井 僕は刹那。妖怪だけど人間臭さもある性格で、「好きだなあ」と思いますね。かっこいいしちょっと可愛い。推しです。
佐藤 斬鬼丸ですかね。翼とは同年代でデビューからずっと一緒だったんです。今回はお互い妖怪で、でも正反対のところにいて。台本がコメディですでに面白いので、芝居で面白くするって難しい。でも翼のおもしろさがさらに乗っかって、役を自分のものにしている。上手いなと思いますし好きですね。
――最後に、皆さんへのメッセージをお願いします
井尻 (凛々しく)ローチケ演劇宣言をご覧の皆様!
一同 (笑)。
佐藤 ボイスは流れないから(笑)。
井尻 (笑)。インタビューでも伝わったと思いますが、和気あいあいとした中でも、締めるところは締めて、大樹さんと一緒に一生懸命稽古しています。祐吾くんもいったように、2.5次元舞台とストレート舞台のいいところを攻めている、役者力が試される作品でもあります。少しでも気になった方はぜひチェックしてください。
佐藤 僕は初minish*さんなので、僕を応援してくださる方からは「初めて行きます」という声もいただきました。「次の作品も気になる」と思っていただけるくらい、自信を持って届けられるように頑張ります!
今井 先ほどお話ししたように、見にきて損はしません。同世代の役者たちが本当に熱いものをお届けします。楽しむ準備だけして劇場に足をお運びください。
広井 祐吾くんもおっしゃっていましたが、お芝居が好きな人にぜひ見てほしい作品です。戦いなどの泥臭い部分もたくさんある中に、意外と繊細なテーマが描かれている。みんなで楽しく作り上げているので、多くの方にぜひ一度見ていただけたら嬉しいです!
本作は2月23日(日)~2月28日(金)まで東京・Mixalive TOKYO Theater Mixaで上演される。
取材・文・写真/吉田 沙奈