ケムリ研究室no.4『ベイジルタウンの女神』|古田新太 インタビュー

人が演じる力にはAIやCGもかなわない

ナイロン100℃を主宰する劇作家/演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチと俳優の緒川たまき。このふたりが2020年に立ち上げた演劇ユニットが、ケムリ研究室(以下、ケムリ)。企画からキャスティングまでを、ふたりの共同作業によっておこなうのが特徴だ。そんなケムリの最新公演は、第一回公演『ベイジルタウンの女神』の再演。そして、同作に、KERAとは旧知の仲である古田新太が出演する。意外にも彼は緒川たまきとの共演が初であり、今から出演を楽しみにしているという。

「ケムリ研究室は観に行っていました。やっぱり緒川たまきちゃんの存在が大きいですよね。たまきちゃんはお芝居が上品。こねくり回さないというか、すごく演技がストレートなんです。だから観やすい。あと、たまきちゃんは、踊って、歌ってって言われた時に素直に、すぐにできるタイプなんだろうなというのが伝わってくる。だから信用できるんです」

舞台の筋立てを紹介しよう。大企業の社長であるマーガレット(緒川たまき)は貧民街のベイジルタウンの開発を目論んでいる。土地の買収交渉で、無一文でベイジルタウンに乗り込むことになるマーガレットだが、そこで暮らす人々との交流を通じて、少しずつ心境が変化していく。そんなベイジルタウンの「王様」役を今回演じるのが古田である。ハートフル・コメディといっても差し支えない心温まる話で、古田の過去の出演作とはやや趣きが異なるのも面白い。

「オイラはあんまりお芝居にいい話を求めていないんです。観るのもやるのも、ひどい話の方が好きなので(笑)。だから、今までKERAとプロデュースでやっていた作品も、なるべくひどい話にしようということで何本かやっているんです。今回、たまきちゃんとKERAに“今度ケムリ研究室に出てくれないかな?”と言われて。“『ベイジルタウン』なんだけど……。いい話なんだよ、ごめん”って。“いい話にオイラを出すの?”って(笑)。で、“スケジュール空いてるならいいよ”って返しました」

格差社会や都市開発、ホームレスの排除など、社会的なモチーフも見え隠れする『ベイジルタウン』だが、古田はあくまでもエンタメとして楽しんでほしいと語る。

「社会的な問題をヴィヴィッドに感じてくれる人もいるだろうし、KERAだからそういう要素もあるんだろうけど、オイラは基本的には演劇というのはエンターテイメントだと思っているんです。だから、どんな形でも楽しめればいいなと思うし、“あー面白かった”って思って帰っていただけるのが一番ありがたいなと思います。見どころとしては、マーガレットと王様の行く末というのが気になるところなんですけど、前半のアニメーションも観ていて楽しいと思います。あと、キャストでは若手の坂東龍汰君と、藤間爽子さんは気になる。彼らとやるのは今から非常に楽しみです」

2025年12月に還暦を迎える古田。俳優としてはベテランの域である。最後に、そんな彼が映画やドラマに出演しながらも、基本的に舞台に軸足を置いている理由を訊いた。

「お芝居は自分でカメラ位置というか、目線を変えられるでしょう。映画やドラマっていうのは監督が目線を決めるから、自分が観たい人が映っていなかったりする。それで言うと、やはりライブは強いなと。それから映像はCGとAIに負ける可能性があるから。AIが声を作れるようになって声優の仕事が無くなるかも、という時代ですよね。そうしたら、オイラたちが信じられるのはライブだけになってしまう。舞台上、目の前で人が演じてるということの力には、CGやAIはかなわないと思っています」

インタビュー・文/土佐有明
Photo /村上宗一郎

※構成/月刊ローチケ編集部 3月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】

古田新太
■フルタ アラタ
劇団☆新感線の看板俳優。舞台以外にも、映画やテレビドラマなど数多く出演。独特な存在感と演技力で幅広い役柄を演じる実力派俳優。