福岡純度100%!福岡ゆかりの演劇人たちがコラボする3都市ツアー『見上げんな!』 川口大樹(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)×松居大悟(ゴジゲン)インタビュー

左:川口大樹(撮影 あだな)、右:松居大悟(撮影 関信行)

福岡で出会って20年以上が経つ。
仲間としてライバルとして10代・20代・30代と創作をつづけてきた同世代3人が、初めてともに創作をすることになった。

脚本は、福岡を拠点に活動する川口大樹(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)。演出は、福岡市育ちの松居大悟(ゴジゲン)。音楽は、福岡市在住のミュージシャン小山田壮平。作品は、3月に開館する福岡市民ホールの中ホール初回公演として開幕し、その後、大阪・東京で上演される。

故郷・福岡に数年ぶりに戻ってきた三月(みづき)を中心にしたこの群像劇には、さまざまな「福岡」が詰まっている。福岡ゆかりのメンバーたちは、どのような作品を生み出すのか。YouTubeガラパ劇場では、作り手側のインサイドストーリーも連続配信されている。

今回は、脚本の川口と演出の松居にインタビューし、稽古がはじまる直前のわくわくと嬉しさと楽しみと、そしてすこしの不安が入り混じった思いについて、率直に話してもらった。

今の福岡でこそ実現するコラボ企画

──福岡のいろいろが詰まった企画です!なにが一番楽しみですか?

川口 もう全部楽しみなんですけど、今年はガラパが20周年で、さらに福岡市民ホールが開館するという福岡の演劇界にとって大きなタイミングなんです。以前から「この節目になにか大きなことがやれたらいいよね」という話をしていたこともあり、新しい福岡の劇場で、福岡の出身の松居と小山田壮平と一緒にスタートを切れるというのはわくわくしますね。自分の書いたものを松居が演出してくれるのもすごく楽しみです。どんなふうになるんだろう……わからないから胸がときめくというか。

松居  僕も近いです。一番はやっぱり「福岡でものを作る」ということ。自分の故郷だし、帰る場所でもある。そこでものを作るのは初めてだからどういう感じなのか……。福岡で稽古をするのも、開幕するのもドキドキです。そもそも同世代で福岡で頑張っているガラパをお客さんとしてずっと観てきたから、その人たちと一緒に作ることも楽しみですね。さらにそこにゴジゲンのメンバーも入って、ヨーロッパ企画の酒井(善史)さんもいる。場所・人・団体の全部がどうなっていくのか。不安を遥かに凌駕する楽しみがあります。

──不安もあります?

松居 川口くんが身を削って書いたことがわかるから、きっと川口くんに寄り添わない方が良い気がしていて。だから自分が福岡から出て学んだことを詰め込みたいなと思いつつ、果たしてできるのだろうかと。みんな芝居の出身が違うので、かなり濃密な稽古期間になるだろうな……。劇団公演でもなければ、プロデュース公演でもない。 全く稽古の雰囲気が想像できないので、わくわくとドキドキですね。

──一緒に作るのはまったくの初めてですか?

松居 そうなんです。昔から福岡に帰った時に飲んだりはしていたけど、一緒にものを作ったことはないですね。椎木(樹人)くんに僕の映画に出てもらったことはありました。僕は初めましての人は多いけれど、今回は椎木がキャスティングしているから役者同士はそれぞれ繋がりがあるかもしれません。

川口 「一緒にやりたいね」とはずっと言ってたけど、やっぱり東京と福岡という距離があったしね。今回はいろんな条件がうまく重なって実現しました。しかも、劇団だけのコラボじゃなくて小山田壮平というアーティストが加わり福岡市民ホールに集まることで、劇団に限らずお芝居にかかわる人や福岡の人、東京の人まで巻き込んでいくことにすごく夢がある。それがガラパ20周年の年だということに縁を感じています。

開館記念だけど、哀愁のある作品に

──題材はどうやって決めていきましたか?

川口 「福岡を舞台にした作品をしよう」という話には自然となっていました。関わる人のほとんどは福岡の人なので。あとは松居が「自分は福岡の人間だけど、東京で活動しているからちょっと目線が違う感じがする」ということを言っていてなるほどなと思ったので「じゃあ東京に行った人が福岡に戻ってくることにしよう」と。そこに「せっかく小山田壮平が入るので音楽を絡めた話にしたいね」ということで、松居がMVを撮っていることもあり、バンドの話もでてきます。ほかにも「僕らの年代である40代ぐらいが頑張る話がいいよね」といったことから軸が固まっていきました。

──身近なことがたくさん詰まっているんですね。

川口 そうですね。そんなことを壮平と飲んだ時に話したら、「なんとなくわかった気がする」と言ってわりとすぐ弾き語りの曲を作ってくれたんですよ。その曲のフレーズがすごく良かった。もらった歌詞に沿っていくようにまた話を書いていって今の台本にたどり着きました。みんなで話していたらいろんなパーツがどんどん集まってきて、それをどんどん形にしていった……本当にそんな感じです。

松居 印象的だったのは「せっかくの福岡市民ホールの開館記念ではあるけど、もう俺たちおじさんだし若い話じゃなくていいよね」という話をしたんですよね。「前向きなだけじゃなくって、なんかこう、終わりゆくものと始まろうとしているものが混ざっていった方がいいよね」「開館記念だけどあえて哀愁はありたいよね」って。そういうこともあって川口くんが『見上げる』という言葉をテーマに掲げてくれたんじゃないのかな。

川口 ああ、そんな話をしたね。

松居  僕らは好き勝手に話してたけど川口くんはコーラ飲みながら、ちゃんとボイスレコーダー回してて、性格がでてるなって思った(笑)

──そうしてできた台本を手渡されて、いかがですか?

松居 ここからはバトンを受け取った気持ちではあるんです。もう手元に面白い台本があるので、この面白さがちゃんとみんなに伝わるように稽古ができたらいいですね。川口くんの書く登場人物は全員に愛嬌があって必要がない人がいない。だからキャラがより魅力的になったらいいなと思っています。

──川口さんは、松居さんが演出されることについてどうですか?

川口 いろいろ楽しみですけど、音の使い方や照明の伝え方、あと、ガラパの役者がどんなふうに演出されるんだろうなというのは興味があります。やっぱり自分で書いていると「ガラパの役者はきっとこうやるだろうな」っていうイメージが自分の中にある。それが松居の目線で見ると、彼らの新しい面白さが出るんじゃないかな。「なるほど、こういうアプローチでやると別の面が出るんだな」ということもあるんじゃないかなと思うので、すごく楽しみです。どんなふうになるんだろう。

松居 川口くんが言うように、役者さんやキャラクターをどう見せていくかは悩むだろうな。川口くんと僕の一番の違いはたぶん「キャラクターをどう見せていくか」ということ。川口くんの作品ではキャラが振り切っていることもあるけれど、僕は覗き見をしているように見せるのが好きだから。どうしようかな。

川口 あんまり考えずに書いちゃった。「ここどうやって転換するんやろうな」とか「衣装どうすんのかな」と思いながら。

松居 (笑)

川口 自分が演出しないから好きに書きました(笑)。松居に対して全幅の信頼があるんですよね。だから書くときに「松居がやりにくいだろうな」「松居はこうだから」というストレスは一切なかったです。

松居 むしろ稽古場で困りたいというか。この作品は川口くんからみんなへのラブレターだと思っているから、それにどう返事を書くかなって考えています。

──おふたりは信頼するライバルなんだなと感じました。公式サイトの最後に椎木さんのコメントでも「仲間でもありライバル」と書かれていましたね。

松居 そうなんですよね。活動拠点は違うけど、福岡で育った同世代だし、どちらもコメディだし、わりとワンシチュエーションだし、音楽が好きだし。あと、スタート地点がヨーロッパ企画だというのも一緒ですね。

ガラパとゴジゲン。福岡と東京で交差してきた15年

──スタートがヨーロッパ企画!そもそもおふたりが知り合われたのは……

松居 それこそヨーロッパ企画に紹介してもらったんです。 2008年に僕がヨーロッパ企画の『あんなに優しかったゴーレム』の文芸助手をしていて、その福岡公演に連れて行ってもらったら、ガラパのみんなが手伝っていました。「福岡で劇団やってる同世代でしょ」と紹介してもらったのが最初ですね。

川口 そうそうそう。

松居 それからゴジゲンが旗揚げして、ガラパが東京公演に来るときは、僕がアフターイベントの生コメンタリーに参加するようになって。

川口 一緒に作ったことはないけどなんとなくお互いを知ってるし、共通点もあるので、良い刺激をもらえる特別な関係です。東京と福岡で距離があるというのもいいんですよね。「東京でゴジゲンが次また公演やるんだ、俺らも頑張ろうぜ」って素直に応援できるし、嬉しい刺激を受ける。お互いのことを好きでいることになんの曇りもない。

松居 そうだね。とても居心地の良い関係です。

──そんなお互いの劇団や作風について、どんな印象を抱いていますか?

松居 ガラパは一貫してキャラクター全員に愛嬌があって可愛い。設定やシチュエーションがぶっとんでいるなかで愛せるキャラクターたちによるちょっと切ないコメディって感じです。会話がめちゃめちゃポップなのに、時折刺してくる。最近は哀愁や切なさも感じられるし、川口くんの死生観も反映されている。役者の世代に幅もでてきて、より立体的になってきている印象があります。

川口 そうだなぁ、やっぱり作風は違うよね。ゴジゲンを観ていると思い切りがすごくよくて、「このままこっちに振り切るんだ!僕だったらしないな」と思う。破綻を恐れない感じがすごく気持ちいいんだよね。
僕はわりとパズル的に「これがこうなってこう繋がってこうなる」みたいなロジックで組み立てていくのが好きなので、整合性とバランスを取りがちなんです。でも松居の作品は「自分だったらはみ出せない」という言動やストーリーが展開されていく。自分がそうできないから余計にその破綻が気持ちいいんだろうな。

──ちょっと憧れのような気持ちかもしれないですね。

川口 その破綻の仕方もちょっとずつ変わってきていますけどね。昔はもっと破滅的というか……最後のシーンで「もう破壊してやろう!」みたいなすごいエネルギーだったんですよ。でも最近は破壊衝動みたいなものがもっと具体的になって的が絞られてきていると感じています。

松居 もしかしたら今回は、川口くんのきちんと積み上げていくところと、僕の積み上げている途中でワーッと放り出しちゃうところが混ざり合うのかも。

川口 だね。僕は「もうどうとでもして」という感じなので、松居くんがどうするのか楽しみにしてる。自分の作品を演出してもらえるって芝居をやる上で幅が広がりそうだしね。

演劇から音楽の道へ……20年ぶりの舞台創作

──もうひとつの重要なコラボである音楽の小山田さんについてもお伺いしたいです。

松居 もともと壮平くんのことはプロのアーティストとして知っていて、「andymoriって福岡の歌を歌ってるし、なんだかいいバンドだなぁ」と思っていたんです。知り合ったあとで壮平くんとガラパが同じ高校の演劇部だったってことを知って「そこ繋がるんだ!」って驚きました。壮平くんの作ってくれた歌が、福岡の風景や学生時代の景色を歌っているような気がするから、この劇を作る中で、みんなの歩んできた道を知っていくことがわくわくします。

川口 僕にとっては壮平は単純に「演劇部の後輩」って感じなので、ずっと不思議な感覚です。演劇部で一緒に馬鹿なことをやってた頃の延長線上にいるような、ノリも関係性も変わっていないような、そんな気持ちで一緒にお芝居を作れる。初めてコラボするのに懐かしくもあるんです。お互いの関係性はそのままで、作品の感想を伝えあったりできていることが嬉しいですね。

──小山田さんの作った歌を聞いてみていかがでしたか?

川口 やっぱりなんか高校時代をね、思い出すんですよ。原風景を感じます。そもそも物語のなかに壮平と過ごした母校の大濠高校や、近くの大濠公園が出てくるから、歌を聞きながら台本を書いたんですが、どうしたって高校の演劇部時代のことが浮かぶんですよね。意識しなくても、当時のことが頭から離れなくなる。壮平の曲を受けて、僕がお話を作ったので、それをまた壮平が見たらどういうふうに思うのかは気になりますね。

松居 実は僕も大濠高校に行く予定だったんですよ。結果的には久留米の高校に行くんですけど……。でも大濠幼稚園だったし、あの辺りにずっと住んでいたので、僕にも大濠の思い出がある。それを川口くんたちの大濠の景色とすり合わせるのも楽しみです。歌については、物語のなかでどういう印象になるのか、出演者の人たちにどう響くのか、そして、あらためて壮平くんの曲として聞いたときにどういう変化があるのか、同じ歌でも違って聞こえてくるだろうことが楽しみです。

節目、そして、あらたな福岡のスタートへ

──あらためて福岡市民ホールの開館にぴったりな企画だなと思いました。新しくスタートするこの劇場についてはどういう思いですか?

松居 川口くんは劇場の中を見たんでしょ?

川口 うん。使いやすそうだった。客席も近いし、会場の高さもあるし。この先きっといろんな舞台が東京とかから来たりするんだろうなって思う場所でした。そういう場所で僕らが一発目にやるのは感慨深いものがあるね。

松居 僕も学生時代には近くにある福岡市民会館(※2025年3月閉館)でお芝居を観て、心を揺さぶられた経験が何度もあるから、これから福岡市民ホールでいろんな劇が上演されて、心揺さぶれられる人がいるんだと思う。そうなるだろう場所で一番に公演ができるのは嬉しいですね。なんかもう悪いことできないなっていうか(笑)。勝手に看板を背負わせてもらえたような気がして。椎木がずっと言っているけど、「福岡で頑張っている団体で、福岡で作って、開館記念をさせてもらえる」ことが嬉しい。川口くんが書いた福岡純度マックスの物語や、福岡の方言が詰まっていて、これをさらに大阪と東京に持っていったらどういう反応になるんだろうというのもわくわくします。 福岡出身者による博多弁バリバリの芝居ってそんなにないですしね。

──稽古はこれからですね。稽古直前の今の率直な気持ちをお願いします。

松居 焦ったり意気込み過ぎたりしてしまいそうだけど、肩の力を抜いてみんなの魅力が出るように、福岡の魅力が伝わるようにしたいです。面白いものを作るために健康に頑張ろうと思っています。今回の企画って、縁とか時間とかタイミングといったすべてが奇跡的に噛み合って実現したと感じているので、今、同時代を生きてこの対談を読めている人は「これはタイミングだ!」と思ってぜひ観に来てもらいたいです。一期一会の機会を大切に、劇場で出会えたらなと。

川口 そうですね。こんな要素がそろうことはもう二度とないかもしれないから。劇団の公演とも匂いが違うし、商業的な公演ともまた違った匂いがする。その中間ぐらいの、好きなことが共通しているやつらが集まってワイワイ好きなことをやって形にしていくような、わくわくするような匂いのある作品になるんじゃないかな。いいとこどりの、プロフェッショナルでありつつ遊び心もたくさんある演劇になる気がしてるんです。 だから、劇場に遊びに来る気持ちで足を運んでくれたらいいね。とくに福岡の人には初めての劇場だから、誰も座ったことのない椅子に座る体験も一緒に付いてきます!お祭りのように楽しさを味わってもらえたら。そして東京と大阪のみなさんには、福岡だからこそ生まれた空気をぜひ体感していただけたら嬉しいです。

松居 壮平くんのミニライブとか、生コメンタリーがある回もありますよ。

川口 生コメンタリー、いいね!

松居 気軽に楽しんでください。鑑賞サポートや託児の回もあります。ぜひ。

──いろんな側面からお話を聞かせてくださりありがとうございました!

取材・文:河野桃子