舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』 平岡祐太 インタビュー

「ハリー・ポッターが次に自分が進むステージだと感じた」

総観客数110万人を突破、通算公演1100回を達成し、ロングラン4年目に突入した舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。2025年7月からは、新ハリー・ポッター役として、稲垣吾郎と平岡祐太の出演が決定。そして約10カ月ぶりに大貫勇輔のカムバックも発表されている。ハリーに挑む平岡祐太に、「ハリー・ポッター」シリーズへの想いや役作りについて話を聞いた。

――最初に、平岡さんと「ハリー・ポッター」シリーズの出会いを教えてください

「ハリー・ポッター」シリーズが世界中で大ヒットした頃に当たり前のように観ていた作品です。なので、特別なものというよりは、普段の生活の中でどこにでも見かけるような、そんな存在でした。こうして自分がハリーを演じることになるとは思ってもいませんでした。

――「ハリー・ポッター」シリーズで特に注目していたキャラクターはいますか?

もちろんハリーも好きですが、スネイプ先生も大好きです。当時、僕はロックが好きでギターを弾いていたのですが、スネイプ先生ってロックバンドにいそうですよね?(笑)。「ハリー・ポッター」シリーズが持つダークさがスネイプ先生の雰囲気をより濃厚に作り上げているイメージがあります。スネイプ先生の影のある空気感が好きです。

――ハリー役はオーディションで射止めたと聞いています。オーディションを受けようと思われたきっかけは?

「ハリー・ポッターと呪いの子」を観劇させていただいて、すごく感動したことがきっかけでした。ロングラン公演ならば、まだ自分にもハリー・ポッターを演じるチャンスがあるかもしれないと思い、「オーディションはやっていないんですか?」と聞いたら、運よくやっていると聞き、受けさせていただきました。

――それほどの感動を覚えたのですね

全く前情報がない状態で観劇したんですよ。19年後の物語だということすら知らずに行ったんです。なので、ハリーが父親になっていて、しかもかなり気難しい父親だったことに衝撃を受けました(笑)。それから、映画につながる伏線が多く、緻密な物語にも感動を覚えました。あの映画の裏で実はこんなことが起きていたんだと、改めて思わせてくれる舞台でした。ストーリー展開の巧妙さに全く飽きることなく、どうなっていくんだろうと引き込まれるものがありましたし、「ハリー・ポッター」の世界観がそのまま舞台上で再現されていて、完成度もすばらしい。魔法の数々にも本当にドキドキしました。僕の内なる声が「これだ!」と叫んでいたんです。その声に突き動かされて、どうしても演じたいと思いました。

――観劇したことでハリー役への思いが強くなった?

そうですね。おこがましいですが、ハリー・ポッターが次に自分が進むステージだと感じました。もちろんハリーを演じるのはすごく大変なことだと思いますし、大きな挑戦です。ですが、今の自分はそうした大きなことに挑戦しなくてはいけないと思ったんです。しかも、普段、映像をメインに活動している僕にとって、舞台の世界で信頼を獲得していくのは本当に大変なことだと思いますし、そのフィールドに飛び込んでいくことで得られるものがあると思います。

――オーディションはいかがでしたか?オーディションで印象に残っている出来事を教えてください

当然ですが、観るよりも演じる方が大変だなと感じました(笑)。観劇後にオーディションを受けたのでシーンのイメージはできていたのですが、こんなにも難しいことをやっていたんだなと。海外作品だからか、セリフの言い回しも変則的で、リズムも難しい。観ていると違和感を感じないのですが、やってみると全く違いました。

――確かに、息つく間もなくセリフを話すシーンも多いですし、独特なところはあるかもしれません

僕もそういう印象がありましたし、オーディションの時も「言葉をどんどん走らせて次にいってください」という演出もありました。脳内が2倍速で流れているような感覚になったのを覚えています。僕はこれまで2回、劇場で観劇したのですが、2回目に観たときの方がよりセリフのテンポが早く感じました。ただ同時に、きちんと伝わるように話す場面も必要で、抑揚をつけて話さなくてはいけないと思っています。

――2回目の観劇は、ハリー役に出演が決まってからご覧になったのですか?

そうです。なので、1回目とは全く違う目線で観ました。ハリーはどんなワードをお客さまに届けるべきなのかなど、演じるという視点で観たので、より具体的に考えられるようになりました。

――今、平岡さんは舞台版のハリーをどのように演じたいと考えていますか?

最初に感じたのは、世界観がすごく重要だということです。僕は吉沢(悠)さんと平方(元基)さんのハリーを拝見したのですが、演じる人によって全く雰囲気が変わると思います。なので、僕の目指すところは、お客さまから「ハリー・ポッターがステージの上にいる」と思っていただけるようなハリーです。舞台は、細部まで「ハリー・ポッター」の世界観が表現されているので、その魔法の世界にお客さまを引き込むためにも、原作の世界観を踏襲することが大事なのかなと思います。魅力的なキャラクターばかりで、それぞれにファンがいて、ファンの方の思いが強い作品です。役者が自我を出すよりも、ハリーに寄り添いながら演技できたらいいなと思いました。

――なるほど。小説や映画で作り上げられているハリーを継承するようなイメージで役作りをしているのですね

今はそう考えています。もちろん、稽古が始まったら演出によって変わってくると思いますが。

――ちなみに、平岡さんご自身とハリーの共通点や似ているところ、または真逆だなと感じるところはありますか?

自分で言うのもなんですが、ハリーはある意味では、意思が強くて頑固者。そういうところは似ているのかなと思います。僕も突っ走ってしまって、思い込んだら曲げないところがあるんです。思い込みが激しいんですよ。なので、今回も突っ走ってオーディションを受けたけれども、合格した後に「これは大変なことになったな」と頭を抱え込んでしまって(笑)。それくらいハリーを演じるということは重みのあることだと思います。僕自身が「ハリー・ポッター」に対しての期待感がすごく高いので、お客さまも同じように感じているのではないかと。なので、その期待感に応えられるのか、楽しんでいただけるのかというプレッシャーは今も大きいです。

――この作品について、例えばこれまでの出演者の方とお話をしたことはあったのですか?

ドラコ・マルフォイ役の姜暢雄くんとは、プライベートでプレイしているサッカーで同じチームなので、よく会うのですが、その時に1度話しました。「ハリー、大変だね」とおっしゃっていました(笑)。

――魔法もありますしね

そうですね、魔法を使うにはトレーニングが必要なので(笑)!まずは体幹を鍛えようと日々頑張っています。

――すでに衣裳のフィッティングも済んでいると聞いています。実際に衣裳を着用した感想は?

イギリスから衣裳さんがいらっしゃって、スーツの採寸をしてくださいました。実際に着た後にミリ単位で細かいところまで調整してくださって、5時間くらいかかりました。英国ならではのスーツ感というものが存在しているんだろうと思います。その数ミリの違いが「ハリー・ポッター」の世界を作っているだなと。舞台上での立ち姿にも影響してくると思うので、そのフォルムの作り方はイギリスならではの感覚で、それがハリーにも入っているんだなと思います。

――平岡さんは映像作品でもご活躍されていらっしゃいますが、舞台でのお芝居ではどんなことを特に意識されているのですか?

最近、いろいろな舞台を観に行っているのですが、そこで吸収できるものを吸収していこうと思っているところです。例えば、ただセリフを読んでいるのではなく、その人物が本当に心から話しているようなセリフにしたいと思いました。今回も作り込まれたハリーというよりは、人間としてハリーが話しているセリフ回しができたらいいなと思います。
それから、今回は資料がたくさんありますので、そうしたものを観ながら作っていきたいと思います。僕は映画版のDVDを持っているのですが、その特典映像にダニエル・ラドクリフさんのインタビュー集が収録されているんですよ。ダニエルさんがどうやってハリーを作っていったのかという質問に答えているのですが、「ハリー・ポッターを作り込むというよりは、ハリー・ポッターを取り巻く状況を詳しく調べることで、ハリー・ポッターが浮き立ってくる」ということを話していました。そうしたアプローチの方法を試してみてもいいのかなと思うので、今、小説を全巻読もうと頑張っています。小説の中には、映画では伝えられてない細かなニュアンスもたくさん含まれているので、ハリーを形成する上ではすごくいい情報だと思います。準備期間がたくさんあるので、隅々まできちんと意識が通っているような作り方ができたらいいなと思っています。

――最後に読者へのメッセージをお願いします

ぜひ劇場に来ていただき、感動していただけたら嬉しいです。まだご覧になっていない方もたくさんいらっしゃると思いますので、ぜひこの機会に来ていただけたらと思います。

インタビュー・文/嶋田真己
写真提供/ホリプロ 撮影/番正しおり