新国立劇場の演劇 『消えていくなら朝』|蓬莱竜太×大谷亮介×関口アナン インタビュー

新国立劇場のフルオーディション企画第7弾として、蓬莱竜太作・演出による『消えていくなら朝』が上演される。2018年に蓬莱が新国立劇場に書き下ろし、当時の新国立劇場演劇芸術監督・宮田慶子の演出により上演され、第6回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞を受賞した話題作を、今回は蓬莱自らが演出を手掛ける。蓬莱が自身の家族を題材に描いた、家族と距離を置いていた劇作家の「僕」とその家族を巡る一晩の物語にフルオーディションで選ばれた6人が挑む本作について、作・演出の蓬莱と、父役の大谷亮介、蓬莱自身を投影した人物でもある「僕」役の関口アナンに話を聞いた。

──まずはフルオーディション企画について、どのようなお気持ちで臨まれたのか教えてください。

蓬莱 以前から「興味深い企画だな」と思っていました。役者さんたちにとって様々なチャンスがある場所ですし、こちらもいろんな役者さんにオーディションを通じて出会える場所ですから、喜びもありますし、逆に選ぶことの難しさ、今回は2000人以上の人が応募してくださったので、ものすごく苦労した思い出があります。

──やはり選ぶ難しさというのがあるのですね。

蓬莱 最終的に家族のバランスで選んだという形になりましたから、すごくいい芝居をされていても、バランス的なことでご一緒するのは次の機会になるのかな、というようなこともあったりして、そういう心苦しさみたいなものもありましたし、決める難しさはすごく感じました。

──俳優の立場としてはどのような思いで参加されたのでしょうか。

大谷 僕は、事務所に言われて参加しました(笑)。フルオーディション企画のことは前から知っていましたし、やってみたいな、という思いはあって、そうしたら事務所の舞台担当の人が応募してくれていて「行ってきてください」ということで参加しました。オーディションの過程では、これから先、共演しない限りお目にかかる機会がなさそうな俳優さんとも一緒にやったりして、こういう方もいらっしゃるんだ、こういうふうにやってる人がいるんだ、と知ることができてよかったです。

関口 僕はフルオーディション企画に参加するのが3回目で、過去2回は途中で落ちました。今回は、元々蓬莱さんの作品が好きというのもあって絶対に受けようと思いましたが、まずは書類が通らないと意味がないので、書類の最後の1文に「この書類を出したあと、神社にお参りに行ってきます」と書いて(笑)。そこから一次審査、二次審査とあったのですが、毎回セリフは覚えて来なくて大丈夫です、と言ってくださるんです。でも僕はちょっと根が曲がってるのか、「そんなわけない」と思っていて(笑)。影響しないわけがない、と思ってしまうし、単純に僕自身が覚えていた方がやりやすい、というのもあるので、なるべく覚えていくようにしていました。

──セリフは覚えていかなくていいというのは、本当にそうなんですか。

蓬莱 覚えてる人の方が有利とかそういうのはないです。そこを見ているわけではないので。関口くんが言うように、覚えてる方が演技しやすいという人もいるだろうし、という感じです。

──蓬莱さんご自身を投影した「僕」役に関口さんが選ばれた決め手は何だったのでしょうか。

蓬莱 作家、劇作家であるという匂い、っていうんですかね。この役は30代後半から40代の役者さんが演じることになるのですが、その年代の役者さんって、役者なんだから当たり前なんですけど、やっぱり作家っぽくないというか……なんかエネルギーがあるんですよね。もう少し作家って元気じゃないというか……

関口 (笑)。

蓬莱 いや、アナンくんが元気じゃない、というわけじゃないんですけど(笑)。どこか斜めってる感じというんですかね。斜めりながらも、反骨してるわけじゃない、みたいな匂いがすごく大事な役だと思いながらオーディションに臨んでいたのですが、だんだんと「そんな役者、本当にいるんだろうか」と思い始めて、考え方を変えてオーディションしなきゃいけないのかもな、と思ったんですね。そんなときに、ひょっこり彼が現れて、「あ、いた」と思ったことをすごく覚えてます。だから「やっぱりいるよな」とホッとしたというか、それが決め手ですかね。

関口 今の話、僕は初めて聞きました。受かった直後に、蓬莱さんの劇団の方とかから、「アナンって若いときの蓬莱に顔似てるよね」みたいなことを言われて、「え、あ、そういうこと?」と思ってたんですけど(笑)。それを蓬莱さんに言ったら「いや、そういうことじゃないよ」と言ってくださって、「じゃあなんだったんだろうな、でも僕から聞くのも野暮だし…」と思っていたのですが、今それを聞くことができてよかったです。そんな匂いが出てるのかどうかは自分ではわからないですが、でもさっき話した、意地でも台本を覚えるみたいなところは通じるものがあるんですかね。

──父役の大谷さんについてはいかがでしょうか。

蓬莱 この家族は父親が軸に全て動いてる、というのがあって、ある意味家族の中では少しカリスマ性も発揮していて、それぞれの家族と父親との距離が大事なキーポイントになっているんですけど、とにかく吸引力を持っていることが大事で、ただ重厚なだけでもないし、清濁併せ持っている魅力みたいなものが必要な役で、大谷さんは「まだ男でもある」という匂いがあるんです。普通に話せば、おばちゃんみたいな人なんですけど(笑)。

大谷 (笑)。

蓬莱 自分の哲学を持っていたり、演劇に対するとらえ方とかも自分の中にいろいろ持っていたり、やっぱりその時代を生きた俳優さんだからこそなんだろうなと思うので、大谷さんの持ってるものの力を借りたい、というのがすごくありました。

──大谷さんと関口さんの、お互いの印象を教えてください。

関口 もちろん大谷さんのことは存じ上げていたのですが、共演だったりちゃんとお話ししたりするのは今回が初めてでした。

大谷 それから何回かね、芝居を見に行った先でバッタリ会ったりとか、出演しているお芝居を拝見したりとか、ちょっとずつ息子っぽくなってきてますかね(笑)。

関口 僕が出てる芝居を見に、しれっと来てるんですよ(笑)。いや、もちろんありがたいし嬉しいんですけど、来てくださっていることを僕は当日知る、という(笑)。初めてお会いしたときに、ちょっとみんなで飲んだんですけど、大谷さんの、なんていうんですかね、もう皆さんわかってらっしゃるこの……

蓬莱 この感じね(笑)。

関口 そうなんですよね(笑)。この感じでお酒を飲まれてるから、何かいつの間にか大谷さんのペースになってるっていう、この軽妙な感じと、でも厳かな雰囲気もあるので、最初はすごい怖い人なのかなと思ってたんです。

蓬莱 確かに、もしかするとそういう印象あるかもしれないね。

大谷 ええ、そうかな?

蓬莱 一緒に飲めば違うってわかるけどね。

関口 お芝居と見た目のイメージで、ちょっと背筋を伸ばしていないといけないかもな、と緊張していたのですが、ものすごいチャーミングな人なんだ、ということがその日にわかりました。

大谷 威厳は大切にしないといけませんね 、父親として(笑)。

関口 大谷さんは僕らからすると、とっつきやすいんですよね。突っ込みどころも多いですし(笑)。

大谷 そのうち怒られたりしてね(笑)。「何度言ったらわかるんですか!」とか。

蓬莱 なる(笑)。なるよ、なる。

関口 (笑)。なので、大谷さんをはじめ、他のメンバーもまだ数回しか会っていないですがコミュニケーションの取りやすい人たちだな、という印象なので、お互い変な気遣いとかなく、いい家族、そしていい作品を作っていけるんじゃないかなと思っています。

──蓬莱さんには、前回宮田さんが演出された作品を見たときの印象をぜひお聞きしたいです。

蓬莱 本番を見たときに、「想像以上に笑われるんだな、うちの家族」っていうふうに思いました(笑)。それは救いでもあったんです。僕としては他の家族の身になって書いてみると、自分自身のことも客観的に見ることになって、それを実際文字にしてみると精神的に疲弊することもありました。でも本番を見たら、それは傍から見ると笑えるようなものにすぎないかもしれないな、と思えて、自分の中ではどこか浄化される感覚もあったんです。それは宮田さんの演出が、ある種滑稽な家族という匂いを立たせてくれていたからだと思います。今回、自分が演出するときにどういうふうにしていこうかな、というのは考えなきゃいけないところではありますが、バランスを自分の中で取りながら、改めて自分の家族を見ることにもなると思うし、今回のこのメンツと「家族」っていうものを新たに作るということが大事なのかな、と思っています。

──今回の座組のメンバーを見たときに、前回とは印象が違うと感じました。蓬莱さんが今回、座組のイメージとして重視されていたものがあれば教えてください。

蓬莱 やっぱりまずは、父親と「僕」という役がどういう匂いを放っているか、ということが軸になっていて、だからもしかして初演よりも自分の家族に近い匂いがあるのかもしれないですね。初演と今回とでは、選び方が違うという面白さはあるかな、と思ってます。僕自身は、この戯曲が持っている家族の距離感とバランスと、それぞれが家族の中で勝手に決まっていってしまった役割に近い物を持っている役者さんを選んだ気がします。

──本作のここを見て欲しい、というところを教えてください。

蓬莱 本作が温かい話なのか怖い話なのかはわからなくて、それは見た人によると思うんです。でも、少なくとも家族の話ってどこかスリリングだと思っていて、それは本音を言っているのか言っていないのかとか、虚勢を張ってるのか張っていないのかとか、家族の中でもいろんな駆け引きがある。そういう意味ではこの作品でスリリングな体験をしてもらうことはできると思いますので、そこは楽しみにしていただければと思っています。

関口 とても人間的なお話だと思うし、家族という誰しもが共感しやすい入口を持つ作品です。見終わった後に手放しで面白かった、ということではないのかもしれませんが、観劇後に考えながらうっかり1駅乗り過ごしちゃうぐらいの作品にしたいと思いますので、ぜひ期待していただけたらなと思います。

大谷 やっぱり僕としては、共演者たちが僕のことを父親だと思ってお芝居できるように頑張りたいなと思いますね。僕が小さい頃なんかは、親戚のうちに遊びに行くことがよくあって、家族とか親戚の繋がりがとても大切にされていたな、と思うんですけど……そういうことは今もあるんですかね?

蓬莱 多分、家にもよりますよね。でも、そういうのを大事にしたいって思ってるお父さんはいるかもしれないよね。

大谷 うん、絶対いると思う。

蓬莱 でも、そういうのどっちでもいい、と思う人も増えてきてるだろうしね。

大谷 そうそうそうそう。そうだね。このお父さんはそういうのを大事に考えてる人だよね。登山用品の会社で働いていてさ……

蓬莱 あの、大谷さん、これシメなんですよ(笑)。ここで広げたら終わらないから!

大谷 (笑)。まあでも、おそらく奥さんには耐えられないようなことがあったんだなと思うんですよね。だからご主人の気持ちもよくわかるけど、僕の人生を振り返ってみると、奥さんも気の毒だという……

蓬莱 何の話なんですか(笑)。自分のことだよね。

大谷 そう。でも、そういう自分のことを考えないとね!

蓬莱 もちろんそうです。

大谷 はい。ということです!

一同 (笑)。

──(笑)。ありがとうございました!

取材・文:久田絢子
撮影:引地信彦