舞台『チ。ー地球の運動についてー』|成河 インタビュー

地動説を巡る人々の信念と葛藤を描いた
人気漫画が待望の舞台化!

「この公演は僕にとってはご褒美のようなもので、本当に嬉しいです。演出のアブシャロム・ポラックさんとは2015年の『100万回生きたねこ』で出会いました。インバル・ピントさんと2人で演出で、役者としてすごく大きな影響を受けました。転機を与えてくれたんです。アブシャロムという人をまた日本の観客に紹介できることを、光栄にも誇りにも思っています」

魚豊による人気漫画を原作とする舞台『チ。-地球の運動について-』に出演する成河は、アブシャロムとの再会をご褒美だと、こう語った。本作は地動説が異端思想として禁忌とされていた時代に、命を賭して真理を詳らかにしようとする人々を描いた物語で、脚本を長塚圭史が手掛ける。

「漫画を初めて読んだ時は、ひっくり返りましたね。魚豊さんにハマってしまって、他の作品も読みました。1ページごとに何かを伝えようとしているのをビシバシと感じて、そのエネルギーに突き動かされて、また読まされていく。僕の想像でしかないけど、魚豊さんは伝えようとすることに躊躇がないんですよ。なぜ現代人である僕らにこんなに響くのかを考えた時、〝疑う覚悟〟という言葉が浮かびました。現代を生きる僕たちも、何かを疑わなければいけないことはわかっているのに、一歩を踏み出せないし、口にも出せない。誰しもが、疑うことに敏感になっていると思うんです。そのモヤモヤはとても共感できる部分だし、その力を喚起するためには演劇がその仕事を果たすべきではないかと思えてきました。この物語が持っている力や覚悟を、演じている人間も観ている人間も一緒に考えられるような場所を作れたらいいですね」

成河が演じるバデーニは、知を追求する修道士。豊富な知識と卓越した計算力を持ち、地動説の研究に没頭していく。

「魚豊さんが描かれている登場人物って、なんとなくすべて描き込まれている気がするんですよ。別の空想や妄想の余地がないと言うか。バデーニも、いろんな矛盾や葛藤、理性と本能の揺らぎがものすごく精緻にしっかり描き込まれているので、何度も何度も読んでインストールしたいです。孤高の存在ですよね」

作中では地動説の研究をめぐり、時には運命的に、時には巻き込まれるように、さまざまな登場人物が歩みをともにし、仲間とも絆とも形容しがたい関係性を築いていく。

「物語ではその都度、ソウルメイトのような人が現れてはまた消えていって…忘れることはないでしょうけど、一生寄り添うわけでもない。こういう微妙な関係性って、役者稼業ではよくわかる関係性なんです。プロデュース公演なんかだと、2、3カ月単位で共演者とかが変わるわけですから。けれど、その都度その関係性は大事で、それは僕にとっても、あなたにとっても大事なこと。じゃあ、一緒に歩こうか、という状態。それってすごく大事なことなのかな、とも思うし、それぐらいの距離感でなければ、なかなか人と一緒には生きていけないのかもしれないですね」

信念を貫いていく骨太なストーリーだけでなく、視覚的な面白さ、美しさにも注目してほしいと話す。

「すごく広いアートシーンに訴えかける力がアブシャロムの演出にはあるので、ぜひいろんな方に観ていただきたい。個人的には、芸術に興味がある大学生とかにも観ていただきたいですね。いろんな興味が開いている時期だと思うので。視覚的な美術センスがすごく優れている舞台になるはずなので、そういう部分にもぜひ注目して楽しんでいただきたいです」

インタビュー・文/宮崎新之
Photo/中田智章

※構成/月刊ローチケ編集部 7月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】

成河
■ソンハ
舞台、映画、テレビドラマと幅広く出演。近作はミュージカル「イリュージョニスト」「W3 ワンダースリー」など。