
GRe4N BOYZのグループ誕生秘話を描く舞台「それってキセキ」が、東京・シアター1010にて上演される。顔も本名も出さずに活動する異色ボーカルグループGRe4N BOYZ。本作は彼らのグループ結成からメジャーデビューまでの軌跡をストレートプレイでたどる物語で、ノンフィクション作家・小松成美の独自取材による内容を原案に、菅野臣太朗の脚本・演出で舞台化していく。
日差しも強まる7月某日の午後、通し稽古が行われると聞きつけて都内某所の稽古場へと足を運んだ。稽古場に入ると、GRe4N BOYZの楽曲が流れており、キャストが振りの確認をしているところだった。顔を見合わせながら笑顔で踊っており、時折笑い声も聞こえてきて、稽古ながらとても楽しそう。とてもいい雰囲気で稽古が進められていることがうかがえた。
メンバーを演じるのは、北川尚弥(HIDE役)、藤本洸大(navi役)、丸山龍星(92役)、佐藤匠(SOH役)の4人。物語は彼らが出会う前の少年時代も含めて、丁寧に描かれていく。


HIDEの父は医師。日々、人の生死に向き合っているからこその厳しさが感じられ、母はHIDEにも医師になってほしいと話す。だが、医学部の大学受験には3回失敗。4度目の受験で合格したのは、医学部ではなく歯学部だった。父は、人に尽くすことは変わりない、とHIDEの背中を押し、福島にある歯科大学へと入学した。
大学の入学式でHIDEは、東京の予備校で同級生だったnaviと再会。やがて譜面を読めてピアノも弾けるというnaviのアパートの部屋で、一緒に音楽をやるようになる。
2人で始まった音楽活動は、やがて大学でも話題に。そんな中、HIDEは大学でのSOHのファッションが目に留まり、やがてカラオケにいくような仲になる。


SOHの両親は歯医者。当然のようにSOHも歯医者になることを求められ、英才教育の中で育っていた。
そんな親のレールの上を走るだけの暮らしをしていたSOHに、HIDEは「一緒に音楽をやらないか」と誘う。そんな思いもよらない誘いにSOHは…。
そしてもう1人、HIDEには大学で気になる存在がいた。カラオケ大会にもよく参加し、バスケ部でも活躍している92だ。HIDEは92をライブに誘い、交流を深めたところで「入らない?」と誘った。
HIDEの突然の誘いに、バスケも続けられる範囲なら、とその言葉に応える92。こうして4人が揃いグリーンとして活動するようになる。
4人の少年時代はそれぞれの母親の言葉でつづられ、親の目線だからこそ4人のパーソナルな部分がくっきりと映し出される。それぞれに少年時代ならではの葛藤を抱え、決してずっと優等生ではなかった姿も見えてきて、華々しい活躍をしてきた彼らでも、悩みや迷いがたくさんあったのだと思い知らされる。


北川尚弥は、HIDEの持っている天真爛漫さと周りを巻き込んでいくパワフルな力を軽やかに演じており、自然と話題の中心になってしまうような主人公力のようなパワーを感じられた。藤本洸大は、naviの繊細な優しさや包み込むような柔らかさを、爽やかな笑顔で好演。最初は葛藤がありながらも、メンバーを絆で繋いでいく鎹のような存在感を示していた。佐藤匠は迷える若者から、やりがいを見つけてイキイキとしていくSOHの成長をさわやかに熱演し、SOHは音楽へのやりがいがあったからこそ歯科医師への熱意も増しているように感じさせられた。そして、92を演じた丸山龍星は、バスケでも活躍し、普通にしていても注目を集めるような92のスター感を存分に披露。そして音楽にワクワクしている高揚も、92が誰よりも大きく感じているように見えた。
作中ではもちろん、GRe4N BOYZの楽曲が使われる場面がいくつかあり、中にはライブさながらの盛り上がりとなるシーンも。パフォーマンスをしているキャストらも、自然と笑顔が溢れており、楽曲の素晴らしさとパワーをヒシヒシと感じられた。

4人が揃った後も、物語は学生との両立に悩む姿や事務所への所属、メジャーデビューのオファーに対して彼らが出した前代未聞の条件など、まさに彼らの奇跡のような軌跡を目の当たりにすることができる。彼らがどのような想いで音楽に向き合い、どんな選択をして、私たちのところへ音楽を届けてくれたのか。その物語に触れれば、きっと楽曲への感動もより大きくなるはず。ますますGRe4N BOYZのことを好きになれる、そんな作品になると確信できる稽古だった。

通し稽古が終わって各々が休憩している中、サプライズでバースデーケーキが登場! この日は、丸山龍星と高橋光(和久真弓役)の誕生日直後で、バースデーソングとともに「おめでとう!」2人を祝う声が稽古場に響いた。最後には全員集合しての記念撮影も行なわれた。キャストらの仲の良さがとても微笑ましく、やはりこの物語を紡いでいくにはGRe4N BOYZの愛ある楽曲のように、こんなふうに愛があふれる稽古場でなければ、と思わされた現場だった。
舞台「それってキセキ」7月31日(木)から8月4日(月)まで、東京・シアター1010にて上演される。
取材・撮影・文/宮崎新之